試乗レポート
トヨタ「GRスープラ」6速MT初試乗、ショートストロークでガッチリした感触が気持ちいい
2022年6月24日 00:05
トヨタ「GRスープラ」は進化し続けている
3.0リッター直列6気筒ターボを搭載したRZは、まさにスープラの伝統を受け継いだスポーツカーだ。レース仕様に開発された「GT4」もデビュー半年で50台が販売されるなど、サーキットでもその数を増やしている。日本国内のスーパー耐久レースには、3チームがスープラGT4を走らせており、その数は徐々に増えそうだ。
今回お伝えするのは、2019年の5月に発売以来、ブラッシュアップを重ねてきた今のスープラに、新たに設定された6速MTだ。
6速MTはスープラ発売当初から要望の強かったモデル。このトランスミッションはAT同様にZF製の6速MTを採用しており、クラッチもスープラ用に開発されている。スープラの6気筒ターボは低回転でもトルクが大きく、6速MTはハイギヤード&クロスレシオの設定だが、低速で高いギヤでも粘り強く走れる。レッドゾーンは6500rpmからとなるが、2000rpmも回っていれば粛々と走ってくれる。
いつものように、低い位置にあるシートに身体を潜り込ませるようにお尻を落とす。スーッと手足を伸ばしてドライビングポジションをとる。ペダルレイアウトは右にオフセットされているので、最初は戸惑ったが一旦ポジションが決まれば慣れてしまう。もちろんペダル操作には不便は一切ない。
もともとスープラは前後重量配分を改善するために、80スープラ以来エンジンとトランスミッションを後方にずらし、前後重量配分が50:50付近になるように開発されている。そのためにトランスミッションハウジングが運転席側に張り出し、ペダルも右にオフセットされることになった。とはいえ、クラッチ位置を確認したのは最初だけだった。
また、6速MT化の恩恵も大きい。トランスミッションの重量はATに比べて17kgも軽く、前後重量配分は空車時で50:50になっているという。ちなみにATでは、ドライバーが乗って50:50となる設定だ。
クラッチ踏力は少し重め程度。大トルクのMTにしては妥当な重さだと思う。ミートポイントは比較的手前に設定されており、しっかり踏み込もうと身構えていた自分としてはあっけなくつながり、拍子抜けだった。
シフトはサクサク入るタイプではなく、ストロークは短いけれどガッチリした感触。レース用で有名だった頑丈なゲトラグ製に似た感触で頼りがいがある。とはいえ、一般的なH型パターンの6速なので、左右方向のゲートがもう少しカッチリしていると操作しやすいと感じた。実際にコーナーに入ってからの3速→2速は入れにくいシチュエーションもあった。恐らくシフトチェンジを急いでいたため、肩に余分な力が入っているのだろう、直線でのシフトは全く問題ないのがその証だ。
とにもかくにも、スープラは相変わらず速い。袖ケ浦フォレストレースウェイの最終コーナーを立ち上がり、短いストレートでシフトアップしていくと、あっという間に170km/hを超えた。全域トルクバンドのエンジンと、クロスレシオのギヤ比はいつの間にか速度が乗っている。球形のシフトノブも掌によくなじんで気持ちよい。
この6速MTは、変速時にクラッチを踏むとエンジン回転を合わせる「iMT」を搭載している。ベテランドライバーが使うダブルクラッチを自動で行なってくれるシステムだ。また、シャシーも進化していた。初期にパワーアップされた時、制御が少し変更になったが、スプリングレートは前後とも当初より変わっていない。
最新モデルでは、スタビライザーブッシュの変更で摺動抵抗を減らし、スタビライザーが効果的に動くように変わっていたが、可変制御ショックアブソーバーの制御も変更され、減衰力を下げる方向になっていたようだ。おそらく目指すところはサスペンションの接地性を上げることだろう。
また、シャシー系の制御も変わっていた。コーナリング初期に内側フロントのブレーキを僅かにつまんでノーズが入りやすいようにして、きっかけを作るとすぐに離して旋回に入るようになっていた。初期モデルではこの制御のメリハリが強かったが、効果を穏かにすることで自然なフィーリングとなっていた。ウェット路面では少しマイルドな味になりそうだ。
スープラの軽快なフットワークにはフロント9J、リア10Jの剛性の高い鍛造性19インチホイールも貢献度大だ。一輪で1.2kgも軽量になり、4輪で4.8kgのバネ下軽量の効果は大きい。意匠も他のGR車両との近似性があるデザインとなっていた。装着タイヤはミシュランの「パイロットスーパースポーツ」で、サイズはフロントが255/35 ZR19、リアが275/35 ZR19を履く。
進化したスープラは、これまでの限界域でのややピーキーな動きが穏やかになり、コーナーでの姿勢変化や、旋回する時のバネ上の動きも落ち着いていた。上下動の収束もゆったりしたものになったということは、日常での使いやすさが向上したことにつながるだろう。その反面、サーキットでは、もっとメリハリがあった方がスポーツカーとして分かりやすいと感じたのも事実。つくづくと欲が深いと思った。
スープラの進化は止むことはない。次はどんなテイストを楽しませてくれるのだろう。そして間もなく日産のフェアレディZも登場する。この時期に日本を代表する2台のスポーツカーが存在するのは幸せだと思う。