試乗レポート

GRヤリスのラリーチューンモデル「GRMNヤリス ラリーパッケージ」をグラベル試乗

GRMNヤリス ラリーパッケージにグラベルで試乗

特別のボティと特別のエンジンを装備したGRMNヤリス ラリーパッケージ

 もはや名機と呼んでもいい存在になった「GRヤリス」に搭載された直列3気筒 1.6リッター直噴ターボのG16E-GTS型エンジン。この3気筒1.6リッターターボエンジンに軽量な4WDシステムと組み合わせ、GRヤリスをベースとしたワイドボディに搭載してあらゆるモータースポーツフィールドで戦う、そんなマシンが今年の東京オートサロンでデビューしたGRMNヤリスで、いよいよこの夏に発売される。

 GRMNヤリスの概要を簡単にまとめると、GRヤリスのボディをベースにスポット溶接の打点を545点増し、さらに構造用接着剤の長さを12m増やして剛性アップを図っている。特にスポット溶接増しなどはメーカーでなければできない作業で、軽量の上に高い剛性アップが望める。

GRヤリスのフルチューンモデル「GRMNヤリス」。そのGRMNヤリスのオプション「ラリーパッケージ」装着車に今回試乗した。ラリーパッケージの主な追加装備としてはGRショックアブソーバー&ショートスタビリンクセット、GRアンダーガードセット、GRロールバー(サイドバー有)などがあり、パッケージで用意される部品を全て装着した車両価格は837万8764円。今回ダート走行用にタイヤとホイールは別のものを装着
シャシー保護の板も取り付けられていた
レイズ製の鍛造ホイール

 エンジンはGRヤリスでもピストンなどにぜいたくなバランス取りが行なわれているが、GRMNではさらにバランスの取られた中でも軽量なピストンを組み合わせる細かい作業が行なわれ、エンジンの回転フィールとピックアップ向上を狙っている。またエンジンマネジメントを変えて最大トルクは370Nmから390Nmにアップした。

 トランスミッションも歯車が強化された上、ギヤ比もファイナルドライブと1速と3速ギヤレシオを変えてクロスレシオ化が図られた。これもレースとラリーから得た知見だ。

 デビュー時にGRヤリスにラリーキットを組み込んだ試乗車をダートで走らせてもらったが、その時の刺激はいまだに体に染みついている。あれから約2年を経過し再びグラベルコースでGRMNヤリスのハンドルを握る。GRMNヤリスのRally package(ラリーパッケージ)だ。すでにGRヤリスは全日本ラリー選手権などで活躍しており、そのノウハウがフィードバックされたラリーキットを組み込んでいる。

 コ・ドライバー用の装備品を付ければそのままラリーに出場できそうな装備。タイヤはダンロップのディレッツァ 88R、つまりグラベル競技用でサイズは205/65 R15を履く。

 ロールケージをまたいでフルバケットシートに乗り込み5点式シートベルトを締める。久々のグラベルにワクワクする。シートポジションは気持ち前にしてハンドルを自在に回せるようにしておく。クラッチ踏力は少し重め、ミートポイントは強化クラッチとしては広めだが、メタル特有のポンとつながる感触がある。

直列3気筒 1.6リッター直噴ターボのG16E-GTS型エンジン。最高出力は200kW(272PS)でGRヤリスと変わらないが、最大トルクは390Nmに引き上げられている
カーボンボンネット
ボンネット裏の導風ボックスの形状はラリーの現場からフィードバック
カーボンバーツも綾織りになっている

 エンジンは3気筒特有の小気味よいエキゾーストノートを上げて力強く回る。GRヤリスよりもさらに回転フィールは軽く、そしてトルクバンドが広い。200kW(272PS)の出力は変わらないがトルクは370Nmから390Nmに上がっており、感覚的には全域にトルクがあふれている感じだ。

コクピット全景
メーター類も専用のものに
ステアリングまわり
シフトノブも専用デザイン
シートはレカロ製のフルバケット
特別なシートレールやロールバー

ファイナルを下げ、力強い加速でクルマは前へ

 トランスミッションのギヤ比は1速と3速のギヤ比がGRヤリスよりクロスになっており、さらにファイナルも3.941から4.250にローギヤード化されているため、全体にクロスレシオ化している。

 特設のグラベルコースをスタートさせてみると、短いストレートでたちまち3速に入りGRヤリスよりも加速力がかなり高い。広がったトルクバンドにクロスしたギヤレシオ、さらにファイナルギヤの変更で大きくなった駆動力でコーナーはあっという間に迫る。

 しかしラリー用のサスペンションは実戦を経て鍛えられ、さらに進化しているためリアのグリップは高く、タイト気味のS字もリアが暴れずに少しテールアウトの姿勢を保ちながら高い速度を維持したままクリアする。

グラベル試乗ということで、フル装備で参加してみました

 しかもクルマは前へ前へと出ようとするので、油断しているとオーバースピードで次のコーナーに入りそうになる。フロントのグリップ感覚をつかみにくいところがあるもののコーナリング速度は明らかに上がっている。

 続くパイロンコースのリズミカルなS字ではGRMNヤリスの独壇場だ。トラクションが絶妙に掛かりハンドルの修正だけで駆け抜けていく。ボディ剛性の高さは駆動トルクをしっかり受け止め、挙動に無駄な動きがない。そのためドライバーのアクションに対して応答遅れをほとんど感じず快感である。

 次に右の円旋回が待ち受ける。中途半端なアクセルワークだとコーナーの深いところでアンダー気味となってしまった。3速では少しパワーバンドから外れてしまった。トルクをフルに使って最初からリアを振り出したほうがGRMNヤリスはきちんと応えてくれそうだ。

 次のラップでは最初から姿勢を作って2速で吹け切りそうになりながら旋回する。コーナーの奥深いところではサイドブレーキをチョンチョンと引いて姿勢を修正。GRヤリス同様にサイドブレーキを引くと後ろの駆動は切り離されるので操作は極めて簡単だ。サイドブレーキは低μ(ミュー)路では必須のアイテムである。

 テールアウトの姿勢のままきれいに旋回できた。ちなみに4WDのモードは前後トルク配が45:55のTRUCKを選定。前に進もうとする力が強く姿勢を作りやすかった。

 ブレーキタッチはグラベルでの微妙なタッチも受け入れ、しっかりと速度コントロールが可能だったのはありがたい。

トラクションを重視したセッティングのGRMNヤリス ラリーパッケージ

トラクションを重視したセッティングだった

 GRMNヤリス ラリーパッケージは、最初のGRヤリス ラリー仕様からは実戦向けの設定となっており、トラクションを重視しながらドライバーのアクション次第で姿勢コントロールが行なえるというセッティングになっている。

 ハンドリングを厳密に見るとコーナーによってスイートスポットにはまるところとフロントの動きが安定しない部分があるのは事実。しかしどうやってそのクセをねじ伏せられるかも面白いところだ。

 前後LSDはトルセンではなく機械式が取り付けられている。LSDの仕様もラリー車の性格に大きな影響を与える。強すぎても弱すぎても運転しにくいし、タイムも出ない。今回のラリーパッケージでは少し弱めぐらいのちょうど乗りやすいところを狙っているようだった。

 そして実践のラリーでは一定の路面はありえず、そんな中でドライバーが高い妥協点を見つけて臨機応変に対応する。それがラリーの面白さであり、GRMNヤリス ラリーパッケージのコントロール性が武器になるゆえんだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛