試乗レポート

マイチェンしたフォルクスワーゲン「ポロ」、車体剛性の高さはそのままに“しっとりした乗り味”を手に入れて登場

6月23日に発売されたマイナーチェンジ版「ポロ」に試乗

マイチェンでどう進化した?

 フォルスクスワーゲンのBセグメントを担う「ポロ」。その第6世代にあたる現行モデルにマイナーチェンジが施されたのは2021年だが、いよいよこれが日本にも導入される運びとなった。

 ポロと言えば「ゴルフ」の弟分であり、そのサイズ感やコストパフォーマンスの高さから、誰もが認めるベーシックカーとして長らく愛され続けている名車だ。世界累計2060万台以上(派生モデル含む)という数字には思わずポカンとしてしまうが、輸入車イコール高級車というイメージが未だにある日本でさえ、1996年・第3世代から始まったその累計販売台数が30万台に及ぶといえば、その愛され具合も察しが付くことだろう。

 ただ筆者はこの6代目に限っては、登場時から少なからず疑問を持っていた。率直に言えばその乗り味を“硬くて薄っぺらい”と感じていた。そしてこの原因を筆者なりに考えた結論は、燃費性能の追求とコストの抑制である。

 モデルチェンジにはつきものの、衝突安全性の向上。これに加えて昨今は、先進安全装備の搭載によってまともにやれば車両重量がどんどんかさむ方向になっている。だからメーカー側としてはボディに高張力鋼板を効果的に組み合わせ、素材を軽く(薄く)して、コストと車重と燃費を抑えながら、同時に車体強度を確保する。

 そのせめぎ合いの中で、6代目ポロの乗り味は変わった。素朴ながらもドイツ車らしいどっしり感を併せ持った、質実剛健さが失われてしまったと、筆者は感じていた。

 それがどうだ。マイナーチェンジしたポロは、しゃっきりとした車体剛性の高さはそのままに、しっとりした乗り味をも手に入れて戻ってきたのである。その変貌ぶりを語る前に、ひとまず今回のマイナーチェンジ内容をお知らせしておこう。

 グレード構成は現行フォルクスワーゲンの流儀に則り、従来のベーシックグレードとなる「トレンドライン」が「アクティブベーシック」、「コンフォートライン」が「アクティブ」、「ハイライン」が「スタイル」になった。また、スポーティグレードとなる「Rライン」は継続されるものの、そのエンジンは他グレードと同じ直列3気筒1.0リッターターボ「EA211evo」(95PS/175Nm)に統一された。トランスミッションは7速DSGだ。

 エクステリアではLEDヘッドライトからラジエターグリルに沿ってLEDストリップが施され、なおかつヘッドライト下にもう1本LEDラインを施すことで、新世代の顔つきへと足並みを揃えた。ちなみにバンパー形状の変更からその全長が10~25mmほど伸びた4085mmとなったが、全幅1750mm、全高1450mm、ホイールベース2550mmに変更はない。

今回発表された新型ポロではエクステリアデザインを刷新し、全長は10~25mm伸びて4085mmを実現。新デザインのフロントバンパーとリアバンパーにより、力強くスポーティな印象に仕上げた。写真は「TSI R-Line」で価格は329万9000円
フロントまわりではLEDマトリックスヘッドライト“IQ.LIGHT”を採用し、LEDヘッドライトとデイタイムランニングライトそれぞれのLEDストリップがヘッドライトの下縁に沿って縁取られることでユニークなシグネチャーを形成。リアでは立体的な新デザインのLEDテールランプを採用している

 インテリアも、若干だが装備を今風に改めてきた。インパネまわりは前期型を踏襲するため、ゴルフのような完全新世代のインターフェイスにはなっていない。シフトノブやサイドブレーキも電動化はされておらず、大きなレバー式のまま。

 しかしながらメーターはアナログ式が廃止となり、全車デジタルに。アクティブ/スタイル/Rラインには、“Digital Cockpit Pro”が標準装備となった。そしてセンターモニターも、アクティブ・ベーシック以外は純正インフォテインメントシステム“Discover Pro”をオプションで選べるようになった。エアコンもタッチパネル式へと進化した。

インテリアでは9.2インチの大型モニターを搭載した純正インフォテイメントシステム”DiscoverPro“を搭載したほか、デジタルメータークラスターやタッチコントロール式エアコンディショナーパネルを採用

 先進安全装備としては、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とトラベル・アシスト(同一車線内全車速運転支援システム:いわゆるレーンキープアシスト)をスタイルとRラインに標準装備。アクティブ用にはこれに駐車支援やキーレスアクセスを加えた「テクノロジーパッケージ」がオプション設定された(ベーシックは設定なし)。

 また、高速走行時のレーンチェンジをアシストする「サイド・アシスト・プラス」や、後退出庫時の警告・衝突軽減ブレーキ機能である「リヤトラフィックアラート」を、レスオプション(スタイル/Rライン)することが今回から可能となった。

Rラインのキャラクターをより鮮明化

 まず最初にステアリングを握ったのは、スポーティモデルであるRラインだ。最大のトピックはエンジンがこれまでの直列4気筒1.5リッターターボ(150PS/250Nm)から、前述した直列3気筒1.0リッターターボ(95PS/175Nm)へとダウンサイジングされたことだろうが、筆者はそれ以上に乗り味の変わりっぷりに驚いた。

 ステアリングを切ったときの応答性は相変わらず素早いのだが、そのあとダンパー&スプリングがしっかり、もっちりとロールを支える。ダンパー追従性が向上したせいだろう。路面からの入力もうまく角が丸められ、かつてのように薄っぺらい鉄のボディが共振するような安っぽさが消え去った。

 もっとも当日はかなりの雨量だったため、ドライ路面と比較してロードノイズが低減されたり、乗り心地をよく感じる側面は確かにあっただろう。しかしそれにしても、2019年初頭に試乗したあの足まわりの硬さ、振動透過性の高さが、今度は抑えらているように思えた。

 具体的な足まわり変更のアナウンスはなされていないようだが、そもそもエンジンが4気筒から3気筒へと変わっているわけだから、それに合わせてバランスが取られていると考えてもおかしくはない。

 となれば気になるのは動力性能だが、これがまた素晴らしかった。絶対的なパワーは確かに低くなった。しかしこのクラスに可変ジオメトリータービンを投入した恩恵は大きく、まずその加速に車格的な意味で不満を全く感じない。EA211evoユニットは文字通り先代ユニットのエボリューション仕様だが、今回ミラーサイクルエンジンの制御を突き詰めることでその排気温度を下げることが可能となり、可変ジオメトリータービンを採用できたのだという。

 低速域ではタービンベーンの幅を狭めて排気流速を早めることで、滑らかな過給圧制御と共に十分な実用トルクを確保。そのままアクセル開度を深めればベーンが開いて、伸びやかな加速を実現する。7速DSGの細かいステップ比によってショートシフトしてもトルクは落ち込まず、踏み込んでもエンジンをきっちりと高回転までまわし切ることができる。クラッチをいたわるためか、乗り味をよくするためか、DSGの変速がやや緩慢なことを除けば、その仕上がりはとてもよくまとまっている。ちなみにこのエンジン、本国ではさらに80PSと110PS仕様の3本立てとなっている。

直列3気筒DOHC 1.0リッターターボ「EA211evo」エンジンは最高出力70kW(95PS)/5000-5500rpm、最大トルク175Nm(17.9kgfm)/1600-3500rpmを発生

“グーン”と小熊が唸るような直列3気筒エンジンの独特なビートを体で感じながら、クイックかつ粘り腰のサスペンションでコーナリングするポロ Rラインの走りは、等身大で楽しい。モア・スピードが必要ならば「GTI」があるわけで、今回の1.0リッター化は環境性能への対応や内燃機関ユニットの整理というだけでなく、ポロ Rラインのキャラクターをより鮮明化してくれたのではないかと思う。

輪を掛けてしなやかなスタイル

「TSI Style」(324万5000円)

 Rラインの足さばきのこなれっぷりに驚いたあと乗り継いだスタイルは、さらに輪を掛けてしなやかな乗り味を呈して、筆者を2度驚かせた。その足下にはRラインより1サイズ小さな16インチタイヤを履き、ダンパー&スプリングもこれに合わせてソフトにしつらえられているコンフォート仕様なのだから、乗り心地がよくて当然だとは言える。

 しかし初期型ポロは、Rラインほどとは言わずとも、やはりその足まわりが硬かった。それは運動性能の向上というより燃費性能の追求が理由で、可能な限り加速時のピッチングによるエネルギーロスを減らそうと、その足まわりを突っ張らせていたのではないかと筆者は推測している。

 これが現行型では、きちんとロールを伴って曲がるようになった。Rラインのような初期レスポンスの俊敏さがない代わりに、操舵に対し上質な反応をもって、忠実に曲がる操作性を得た。結果として、乗り心地もよくなった。

スタイルは16インチタイヤを装着

 そこには新型エンジンの燃費性能向上も効いているのだろうか。ちなみにWLTCモード総合では先代16.8km/Lから17.1km/Lに向上。そのアドバンテージは主に郊外から高速道路にかけての性能向上で、われわれが常用する市街地モードは13.3km/Lから12.9km/Lへと若干落ちているのだが、ともあれ燃費に対する余裕ができたことで、その乗り味にもヒステリック感がなくなったのではないかと推測する。

 ドライ路面で再び精査しないと断言できないが、少なくとも高い安全性が求められる雨の中で走らせた新型ポロは、ドイツ車らしさを取り戻しながらも、Bセグらしからぬ上質さをも併せ持つコンパクトカーへと成長を遂げていた。

 今後の進化としてはゴルフ同様のマイルドハイブリッド化が予測できるが、そうなればピュアEV化も視野に入り、インフォテインメントだってアップデートしたくなる。よってポロの電動化は、次回のフルモデルチェンジが妥当と言えるだろうか。

 となればピュア・ガソリン最後のポロとして、現行型の熟成具合を手にするのはわるくない。前期型よりもグレードによって20万円~40万円ほど上がってしまったようだが、その価値がある仕上がりっぷりだと筆者は感じた。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:安田 剛