試乗レポート

「GRMNヤリス サーキットパッケージ」はモータースポーツで鍛え上げた戦うスポーツカー

GRMNヤリスは限定500台、そのうち限定50台に写真のボディカラーである特別色マットスティールが設定される

モータースポーツで鍛え上げた戦うスポーツカー「GRMNヤリス」

「GRMNヤリス」はモータースポーツで鍛え上げた戦うスポーツカーだ。サーキットやラリーの現場で上がってきた問題点を素早く解決し、ドライバーが走りやすいクルマに仕上げていくというプロセスを経てユーザーに届けられる。

 簡単におさらいしておくと、GRMNヤリスは500台限定でこの夏からGR Garageで発売されるが、すでに1万台以上のオーダーがあり、抽選で割り当てられるという。

 ラリーパッケージの稿でもお伝えしたように、ボディ溶接のスポット増し545点や構造用接着剤12m延長など、メーカーでしかできない気の遠くなるような作業が施された軽量ボディは2シーターとしたことも含めてRZ High performanceから20kgの軽量化が施されている。

 ルーフはGRヤリスと同じカーボン素材だが、GRMNではさらに軽量高剛性の綾織CFRPを採用し、ボンネットにはエアアウトレットまでもが用意されている。

 強化歯車を使ったクロスレシオトランスミッションとローギヤ化された最終減速比とのセットや、前後機械式LSD、GRMN専用の390Nmのトルクを持ち、徹底して各部のバランス取りをした1.6リッターターボエンジン、レカロ製のサイドエアバッグ付きのフルバケットシート、ボディ補強ブレス、強化クラッチもGRMN専用品となる。

GRMNヤリス サーキットパッケージ
ワイドなフェンダーなどが分かる
独特の形状をしたリアウィング。サーキットからのフィードバックが行なわれている
リアディフューザーまわり
リアウィングとリアスポイラーで空気の層を作り出している
フロントウィンドウにはモリゾウ選手のサインが刻まれている
綾織カーボンのボンネット
BBS製18インチホイールと専用ブレーキ
こちらはリア。タイヤはアドバンのA052になる

 GRMNヤリスはグラベルと同時に袖ケ浦フォレストレースウェイでも試乗することができた。こちらはCircuit package(サーキットパッケージ)である。サーキットパッケージではBBS製の専用18インチ鍛造ホイール、それに収まる18インチブレーキ、綾織カーボンのリアスポイラー、10mm車高ダウンするビルシュタイン製の倒立10段階減衰力可変ショックアブソーバー、サイドスカート、リップスポイラーが装備される。

 装着タイヤはアドバンのA052。サイズは235/40R18で前述の8.5J BBS鍛造ホイールに履く。さらに全幅は10mm拡大されて1815mmとなっている。

直列3気筒 1.6リッター直噴ターボのG16E-GTS型エンジン。最高出力は200kW(276PS)と変わらないが、最大トルクは390Nmに引き上げられている
選別ピストンなど手作りに近い形で組まれたG16E-GTS型エンジン。GRMNの匠エンブレムが特別なものであることを示す
カーボンボンネットに取り付けられたエアアウトレット。GRMNヤリスの空力に貢献する
GRMNヤリス サーキットパッケージのコクピット
専用ステアリングまわり
専用メーターまわり
専用シフトノブが取り付けられている
GRMNエンブレム
レカロ製の専用フルバケットシート

とにかく気持ちのよいエンジン、数字には現われない回転フィールの軽快さ

GRMNヤリス サーキットパッケージで袖ケ浦フォレストレースウェイを走ってみました

 軽く入る6速マニュアルトランスミッションを1速に入れ、ラリーパッケージ同様に少しだけ重くミートポイントの狭いメタル強化クラッチを踏んでスタートする。動きは軽快。力強い蹴り出しに4WDであることを思い出した。

 すぐにレブリミットの7000rpmまで飛び込みそうになるほどギヤレシオは低い。ピットロードを出ると1コーナー。ギヤは4速まで入るほどクロスしている。コーナーでは強力なグリップを持つスポーツタイヤとの組み合わせもあって2560mmのホイールベースと1535/1570mmのトレッドでスクエアなサイズをもつGRMNヤリスは軽くノーズをインに向ける。

 エンジンはとにかく気持ちいい。軽く回るのはもちろんのことレスポンスがシャープなのはGRヤリスの専売特許のようなものだ。GRMNではさらに磨きがかかり、数字には現われない回転フィールの軽快さで自分的感応数値は30%増しだ。エンジン自体も軽くて回頭性が素直でシャープなのは言うまでもない。ハンドルを切ると瞬時に反応するのはほかに形容しがたい一体感がある。エンジンをダイレクトマウントしたかのような錯覚さえ覚える。もちろんそんなことはあるはずもなく、アイドリングでもエンジン振動はよく抑えられている。

実戦を戦うスポーツカーそのもののGRMNヤリス サーキットパッケージ

 小気味よさにどんどんペースアップする。GRMNヤリスはそれを十分に受け止めて余力十分だ。よくできた軽い4WDは前後トルク配分を微妙に変化させているが運転のじゃまになるようなことはせず、ニュートラルから少しアンダーステア気味の姿勢のまま高速コーナーを駆け抜ける。スクエアなレイアウトでは限界点が分かりにくそうだが、シンプルな機構のサスペンションは適度なインフォメーションを伝えてくれる。また機械式LSDの分かりやすい作動制限もあって、トラクションの強さと軽快なフットワークが両立する。

 クルマの挙動が安定していれば安心感が大いに高まり、さらに限界点まで攻めてみる。次第にアンダーステアが顔を見せ始めたので、ハンドル舵角を一定にしてアクセルを踏み続けてみた。一瞬リアがスライドしたが安定したグリップ力と限界点のコントロール性のよさでわずかな修正舵ですぐに姿勢を取り戻せた。

 倒立型ショックアブソーバーは横剛性があり、コーナリング中も適度な反発力を持ちつつ素直な収束力を持っている。

 4ピストンブレーキも強力で、わずかなラップ数のサーキットランではコントロール性も制動力もまったく変わらない。まったくこんな軽快で面白くて速いクルマは他に探すのは難しい。GRMNヤリスは最高のオモチャだ。

強力な4ピストンブレーキを備える。サーキットでの安心感は抜群

 これらのGRMNパーツは綾織カーボンルーフやスポット増し、専用エンジンなどは別として、GRヤリスでGRMNの性能の一端を体感できるパーツも準備されており、さらにGRMNオーナー向けのプログラムも展開予定だ。GRの進撃は留まるところを知らない。

【お詫びと訂正】記事初出時、「GRMNヤリス サーキットパッケージ」を限定50台としていましたが、正しくはGRMNヤリスシリーズでボディカラーのマットスティールが限定50台となります。お詫びして訂正させていただきます。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛