試乗レポート

メルセデス・ベンツ新型「GLC」 2代目になって走りと質はどう進化した?

 2015年より販売された初代GLCは日本でも人気を博し、メルセデスのSUVでベストセラーとなっていた。完成度の高さと見た目のよさに加えて、全幅こそ1.9m近いものの、CクラスベースのSUVらしく日本で持て余すことのない適度なサイズ感や、それでいて車内の居住性や積載性が十分に確保され、使い勝手に優れていたことも人気のヒケツに違いない。

 メルセデスの場合、驚くほどの販売を続けている別格的なGクラスをはじめ、GLEやGLSといった本格的なSUVが控えていることもあってか、初代GLCには彼らとは異質の、よりとっつきやすい性格が与えられていたが、2代目もそのあたりは変わらない。

メルセデス・ベンツ「GLC 200 d 4MATIC」のボディサイズは4716×1890×1640mm(全長×全幅×全高:欧州参考値)、ホイールベースは2888mm、車両重量2050kg、前軸重1070kg、後軸重980kg(車検証記載値)、ボディカラーはモハーベシルバー
車両本体価格は820万円、試乗車はオプション装備として「AMGラインパッケージ」「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」「ドライバーズパッケージ」「パノラミックスライディングルーフ」「メタリックペイント」が追加され1014万円
デジタルヘッドライトを採用
シャープなLEDリアコンビネーションランプは立体的なインナーを持つ2分割タイプ
タイヤはミシュランの「e・PRIMACY」でサイズは235/55R19

 ひと目めでメルセデスと分かるアイコンや、キャラクターラインを極力排したボディパネルにたくましい下半身を組み合わせた流麗なスタイリングを踏襲しながらも、スポーティなフロントエンドやシャープなリアコンビネーションランプなど細部にわたり作り込まれたデザインはなかなか印象的で、車格が上がったように感じられる。

 ボディサイズは、全幅は従来と不変で、全長がやや長くされたことで、もともと良好だった車内の居住空間と荷室容量がさらに拡大した。インテリアは眼前とインパネ中央に配された大きなディスプレイや、凝ったデザインのエアアウトレットなどCクラスとの共通性が見てとれる。縦のラインを強調した斬新なダッシュボードの模様も印象的だ。

中央にあるセントラルディスプレイはドライバーが見やすいようにドライバー側に傾けている。内装はシエナブラウン/ブラック(本革)
前席
後席
ラゲッジスペース
特徴的な縦柄のダッシュボード
最新世代のMBUX(Mercedes Benz User Experience)を搭載
置き充電、USBポート(タイプC)も完備
オプションのパノラミックスライディングルーフはプラス22万円

 トンネルを走ると、アンビエントライトによる演出がより際立ち、ムーディになっていることが分かる。全体として、これまたグンと車格が上がった感じがする。洗練された内外装デザインは誰の目にも魅力的に映ることだろう。

アビエントライトは64色から選択可能なほか、ゆっくりと色が変化していくグラデーションなども用意されている

驚くほどリニアでなめらかな乗り味

直列4気筒2.0リッターディーゼルエンジンは最高出力145kW(197PS)/3600rpm、最大トルク440Nm/1800-2800rpmを発生(※欧州参考値)

 試乗したのは直列4気筒2.0リッターのクリーンディーゼルエンジンを搭載する四駆の「GLC 220 d 4MATIC」のエアサス仕様。ドライブフィールはとてもなめらかで、ちょっと走ってみただけでも従来とは違う雰囲気を感じた。最近の欧州のディーゼル車は、本当にディーゼルなのかと思うほど車内が静かなものが多いが、それに比べるとGLCでは音や振動は若干感じられるものの、気になることのないよう上手く対処されている。

 感心したのは駆動力の味付けだ。197PSと440Nmを発生するエンジンには、最大17kW(23HP)と200Nmを発生するISG(Integrated Starter Generator)が組み合わされており、ゼロ発進から右足の動きをそのまま忠実に反映するかのようにリニアにトルクを生み出す。それを伝達効率の高い9速ATがスムーズに伝えてくれて、扱いやすくて驚くほどなめらかな走りを実現している。

 メルセデスSUVのエントリークラスのGLAやGLBらFFベースの車種では大半にDCTが採用されているが、やはりトルコンATのほうがなめらかで走りやすいことをあらためて実感する。とくに発進~停止の多い日本では、このドライバビリティの高さがありがたい。

 初代ではパワーユニットのバリエーションが非常に豊富に用意されたのも特徴で、クリーンディーゼルやガソリンだけでなく、プラグインハイブリッドや、AMGの「43」やクラス最強の510PSを発生する「63」もあった。おそらく2代目もこれから徐々に拡充されていくことと思うが、売れ筋となるであろうディーゼルの完成度が上々であることを、まずはお伝えしておこう。

このクラスのお手本のような走り

 乗り心地もハンドリングも、走りはいたってなめらかだ。エアサスの作り込みが絶妙で、路面状況をドライバーに伝えながらも、凹凸をしなやかにいなして揺れを瞬時に収めてフラットな姿勢を保ってくれる。

 初代で示した、Cクラスとともに“アジリティ”を感じさせる俊敏なハンドリングは、GLEやGLSあたりの上級機種とは異質の軽快さの際立つものだったが、半面、乗り心地にはややツンツンした感触がついてまわった。それがずいぶん様子が変わっていて、よりリラックスして乗れるようになっている。

低・中速域では小まわりをサポートして、高速走行時には安定性を確保してくれる「リアアクスルステアリング」はパッケージオプション設定

 ハンドリングも俊敏さをひけらかす感じではないが、走りの一体感はより増している。これにはおそらく後輪操舵が大いに効いているに違いない。切り始めから応答遅れなく生じたヨーを揺り戻すことなく理想的に収束させることができているので、無駄な動きもなく、修正舵をあまり必要としない。ステアリングフィール自体もなめらかでスッキリとしていて、上質感がある。高速道路でのビシッとした直進安定性も頼もしい。

 人を乗せて長距離を走るのも得意なら、いわゆるドライビングプレジャー的なものもある。いろいろな要素を兼ね備えた足まわりである。先発の現行Cクラスの乗り心地がけっこう硬かったもので、「GLCもそうなっちゃうのでは?」と内心ちょっと心配していたのだが、そんなことはぜんぜんなくて、「もちろん分かってますよ」といわれたような感じがした。このクラスのSUVのお手本のような動きに仕上がっている。

ラゲッジスペースが拡張されても、後席スペースはヘッドクリアランスもニークリアランスもしっかり確保されているのは、さすがメルセデス

 装備としては、オフロードモードを選択すると、ボンネットの下が透けて見えるような新しい機能が加わったことに注目だ。同様の機能は他社でもいくつか見られるようになったが、GLCにも搭載されたことを歓迎したい。

フロントカメラとドアミラーカメラの映像を基に、ボンネットが透けたように路面状況を仮想的に表示してくれる「トランスペアレントボンネット」機能も搭載
オフロードモードにすると車高が上がるようになっているほか、任意での昇降も可能
オフロードモードを選択すると、エンジン、サスペンション、ESPはオフロード仕様に、ステアリングはコンフォート仕様となる
セントラルディスプレイでは各サスペンションの伸縮状態や車体のアングル、向いている方角、エンジンデータなどを確認できる

 本当に見た目も走りも、広くなった車内空間も含め、GLEいらずではと思えるぐらいの雰囲気になった。逆に、弟分としてGLCを食わんとするほど存在感を増してきたGLAやGLBとの差も一気に広がった。これまで初代GLCを愛用していて、2代目への買い替えを検討している知人がいるのだが、自信を持って背中を強く押してあげたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一