試乗レポート

レクサスの新型バッテリEV「RZ」に搭載予定のステアバイワイヤを初体験 異形ステアリングを握って感じた未来

新型「RZ」(プロトタイプ)

 レクサスの新型「RZ」のもう1つの注目ポイントはステアバイワイヤだ。物理的にタイヤとハンドルをつなぐステアリングシャフトを持たず、電気信号のみで操舵する革新的なステアリングシステム。量産車としては世界初になる。

 このステアバイワイヤ装備車両は遅れて投入される予定で、試乗に供されたRZも開発途中のプロトタイプだ。

 シートに座ってステアバイワイヤとすぐに分かるのは特異なハンドル形状だ。長楕円形をしており、もはや回すというイメージは持てない。実際にハンドル操舵角は150度と少なく、腕が交差しきらないうちにタイヤはいっぱいに切れる。通常ハンドル操作量は2.5~3回転だから操舵量は圧倒的に少なくなる。

 また、ハンドル形状が円から長楕円になることでコクピットのデザインも大きく変わる。RZのステアバイワイヤ仕様はノーマルハンドルとの共用インパネ。それでもハンドルをとおして見ていたメーターがステアリングの上から見るようになり、ドライバー前面の視界が開放的になる。

新型RZのステアバイワイヤ搭載モデル(プロトタイプ)は横長の異形ステアリングを採用

 試乗はパドックに設定された狭いクランクとスラローム、それに後退駐車、乗り心地ではバンプの通過が設けられている。

 丸いハンドルを回すのに慣れた身としては、目の前にある操縦桿(?)は新しくて大きな好奇心が湧き上がってくる。

 ドライビングポジションを合わせるとヒップポイントが高く、ハンドル形状もあって直前視界がいい。Aピラーは太くて傾斜も強いので隠れる部分もあるが、三角窓から見える部分も大きくパイロンコースを確認しやすかった。

 まずクランクコースに入る。通常だとハンドルを大きく切り込まなければならないが、ステアバイワイヤではハンドル操作量は圧倒的に少ない。これまでの感覚と異なるのでどこまでタイヤが切れるのか戸惑った。内輪差でパイロンを踏むのではないかと思ったのだ。

 ステアバイワイヤは速度のパラメーターも持っているので低速では大きく切れ、中高速になると同じ操舵量でもタイヤ切れ角が小さくなってくる。これまでの経験値が活かされないが、使っているうちに慣れてくるに違いない。今回のような低速では内輪差を気にしない後輪操舵との組み合わせの相性がよさそうだが、まずプロトタイプで開発を進行させてステアバイワイヤの完成度を高めることを優先したとしている。

 低速のスラロームではハンドルの切り返し量が少なく、らくらくとクリアできた。タイヤの切れ角度とハンドル操作量が合ってくるともっと機敏に走れそうだ。これまではクルマのメカニズムに合わせて人間がハンドル操作をしていたものが、クルマがドライバーに合わせる時代に入ってきたと感じさせた。

 まだ速度とハンドル操作量との関係をつかみきれず、低速では戸惑うことばかりだったが、ステアバイワイヤが人間の反応にどう対応できるか熟成を重ねれば、きっといい関係が築けそうだ。

 バンプ路の通過ではキックバックはほぼゼロで、路面からのショックを排除できることはドライバーの疲労軽減にもつながる。これまでなかった感覚だ。

 面食らうことの多かったスラロームやクランクでの初体験だが、サーキットを公道を走るようなペースで走ると印象はガラリと変わった。60km/hぐらいになると緊張感がほどけ、ノーマルハンドル以上に滑らかな操舵感になる。中速コーナーになるとハンドル操作とタイヤ切れ角がぴったり合って気持ちがいい。

 特異なハンドルの使い勝手もまだまだ未知数で、長時間の運転になってもドライバーに負担はないのか、手のひらで感じられる路面状態をどこまで伝えてくれるのかなど、まだ未知数のことが多いが期待も膨らむ。

 また、積極的にタイヤ切れ角を制御できることはクルマがドライバーに合わせて操舵できることになり、将来の自動運転に向けての大きな可能性も大きく広がってくる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学