試乗レポート

レクサス初のバッテリEV専用モデル「RZ プロトタイプ」をサーキット試乗 「DIRECT4」の4WD制御がもたらす乗り味とは

新型RZ プロトタイプ

レクサスの最新BEVを袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗

 トヨタ自動車の社長が4月1日から佐藤恒治さんにバトンタッチされる。その体制発表でBEVの開発に注力していくこと、レクサスは既定路線としてBEVの強化が明言されている。

 レクサスのプレジデントもRZのチーフエンジニアだった渡辺剛さんに代わり、BEV化路線が明確になった感だ。

 RZの概略はすでに発表されているが、レクサス初のBEV専用モデルとなりトヨタブランドのbZ4Xの兄弟車でもある。プラットフォームはbZ4Xと共用するがボディはレクサス独自のもので、インテリアデザインもレクサスらしい。駆動方式はツインモーターの4WD、DIRECT4のみの設定だ。

 ボディサイズは4805×1895×1635mm(全長×全幅×全高)でDセグメントのグローバルカーらしい大きさだ。ホイールベースは2850mmとロングホイールベースだ。

タイヤは前後異サイズで、フロントは235/50R20、リアは255/45R20のダンロップSP SPORT MAXX 060を履く。これも走りへのこだわりのタイヤサイズだ。

 フロントモーターは150kW、リアモーターは80kWの出力、そしてバッテリは71.4kWhの容量で、WLTCモードでの航続距離は500km以上を目指す。

新型RZ プロトタイプ。ボディサイズは4805×1895×1635mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。車両重量は2110kg
助手席側フェンダー部にCHAdeMOのポートを、運転席側フェンダー部には普通充電のポートを設定
シート
最初にラインアップされる特別仕様車のFirst Edition
レクサス特有の「スピンドルグリル」は、BEVらしく塊感のある「スピンドルボデー」となった
ホイール
車名に加え、DIRECT4エンブレムも装着
ボンネット内。フロントモーターは150kW、リアモーターは80kWを発生。リチウムイオンバッテリの容量は71.4kWh、航続距離は450kmを開発目標値としている。0-100km/h加速は5.3秒
インテリアは感性に響く空間づくりにこだわり、シンプルながら上質さを感じられるものとした
シートやドアトリムなどには、触感、サステイナブルにこだわったバイオ素材のウルトラスエードを採用し、レザーフリーを実現
東京オートサロン2023で公開された「RZ SPORT CONCEPT」も展示

 試乗コースは袖ケ浦フォレストレースウェイ。プロトタイプのRZをサーキットで走らせることになるが、極力一般路や高速道路を模した走り方でインプレッションを試みた。

 ドライブモードはNORMALとSPORT、ECO、RANGEがあり、それぞれを組み合わせるCUSTOMが選択できる。最初のラップはNORMALで次のラップはSPORTを選択した。

インパネ中央のディスプレイでドライブモードを変更できる

 スタートはいかにもトルクのあるBEVらしい力強さだがアクセルの反応は緩やかで内燃機から乗り換えても違和感はない。モーター特有のトルクの立ち上がりの早さは気持ちよく、同時に振動がほとんどないことはレクサスらしい上質さを感じさせる。

 乗り心地はサーキットで確認できることは限られるが、少なくともアクセルのオン/オフでのピッチングは小さく、バネ上の動きはよく制御されてフラットな印象だ。試しにコーナーのイン側にあるなだらかな縁石に乗せてみたが路面からの当たりはソフトでサスペンションがよく動いている。可変ショックアブソーバー(AVS)は見送られ、まず素材を磨き上げることに注力したという。

 加えてBEVらしい静粛性の高さはRZの魅力の1つ。インバーターノイズなどもほとんどなく、遮音対策はしっかりしている。逆にラゲッジルームから入ってくるロードノイズが耳につく。これまで隠されていた音が顔を出して目立った感じだ。

 追い越し加速を想定して少し強めにアクセルを踏む。レスポンスよく滑らかに、そして素早く加速する。エンジン車のように湧き上がるような高揚感はないが、そこにはBEV特有の世界観がある。

 ハンドリングはタイトコーナーも低重心でロールが小さい安定した姿勢のままタイトコーナーを旋回していく。さらに中速コーナーでのライントレース性は高くRZの得意科目の1でリラックスしたドライブができる。

 ただ個人的にはハンドル操舵力は重めに感じ、応答初期からちょっとハンドルを握る手に力が入るが、いったんコーナリング姿勢に入るとグイグイと旋回していくのが頼もしい。

 RZは全モデルDIRECT4、つまり前後モーターを持つ4WDだ。状況に応じて前後駆動力配分とブレーキ制御による旋回姿勢性が高い。その安定感に気をよくしてコーナーの立ち上がりでアクセルを少し踏んでみた。クルマの挙動は乱れないがVSC作動の警告灯が点灯してモーターの強力なトルクを感じさせる一瞬だった。

 次のラップはSPORTに入れる。センターディスプレイ上から選択できるが、あらかじめドライブモードを呼び出しておけばハンドルスポーク上のスイッチからも選ぶことができる。

 ハンドル切り始めの操舵力がさらに重くなり、アクセルレスポンスも感度が高くなる。NORMALと同じアクセル開度でもグンと前に出るが、出力を解き放つというよりも、節度あるパフォーマンスを発揮するイメージでレクサスらしい。ハンドリングは軽快と言うよりもドッシリしたグリップで安定感は抜群だ。

 高速道路を想定した100km/hでのレーンチェンジもハンドルの応答遅れもなく流れるようにレーンを変える。ただ、ハンドル操作の微小域での反応が意外と早く、ドッシリしたセンターフィールが欲しいところだ。

 SPORTでは駆動力制御も変わるようで、後輪の駆動力配分が強めに感じた。

 次のラップではRANGEを選んだ。モニター上に走行可能距離が表示され、ECOモードよりもさらに電力を絞った走行距離優先のモードになる。BEVにとって充電ポイントまでたどりつける目安が分かるのは心強い。

 さて、RZはレクサス最初のBEV専用車としてレクサスにふさわしい仕上がりを目指し、素のよさを磨くことに注力している。前述のようにAVSを採用しなかったのも、別項で記す後輪ステアを使わなかったのも、まずクルマから仕上げるという強いポリシーだ。

 ボディ骨格もレーザー溶接で溶接点間隔を狭めて高い剛性を確保し、特にリアまわりには構造用接着剤を多用する。さらにパフォーマンスダンパーをフロントのサスペンションタワーとリアエンドに置き、余分なしなりを止めている。

 新型プリウスでも使われたラジエーターサポート部に入った斜めブレース材はコーナーでの横剛性にも効果が高いとされる。このほかにボディ後部にはノイズや振動対策で発泡剤が入れられている。

 3ラップの周回が終了し最初のRZとの出会いは終了。改めてインパネに目をやると、レクサスらしい上質な素材とデザインは高級感がある。ドライバー正面のメーターもbZ4Xのハンドル上から見るタイプではなく、通常の位置になりディスプレイも大きい。ヘッドアップディスプレイも見やすい。細部にわたるこだわりにレクサスらしさを感じた。

DIRECT4の緻密な制御を体感

 次のメニューはDIRECT4の試乗だ。DIRECT4は電気ならではの強力なトルクとレスポンスを活かして、接地荷重に応じた駆動力を即座に前後配分することでドライバーに心地よいハンドリングをもたらし、合わせて揺れを防ぐことでDIRECT4ならではの味を出している。

 試乗車は通常では設定のない前後駆動力配分を50:50に固定にできるソフトを入れた特別なRZで、標準の前後可変駆動力配分と切り替えて比較してみる。

 通常のDIRCT4はドライバーにとって自然なフィーリングで一連の動きが滑らか。ドライバーにとって違和感がないことはこれまでの試乗でレポートしたとおりだ。

 今度はスイッチを切り替えて前後駆動力配分を50:50に固定する。途端にハンドル操舵でのレスポンス遅れで何とも言えない扱いにくさを感じた。操舵する度にギクシャクするのだ。

 後ろから押し出されるようなフィーリングはコーナーに入ってしまえばそれほど違和感はないが、標準のDIRECT4とはやはり違和感がある。標準モデルでは前輪の駆動力を上げることでハンドル操舵時に曲がりやすくしている。

 ドライ路面でもDIRCT4の駆動力制御は綿密に行なわれていることが確認できたが、路面状況が変わるワインディングロードや降雪地帯ならさらに有効性を感じることができるに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学