試乗レポート

レクサスの新型バッテリEV「RZ」ステアバイワイヤモデルを南仏の一般道で試乗

 2020年10月に発売された「UX300e」に続くレクサス2番目のバッテリEV(BEV)は、e-TNGAプラットフォームを用いて生み出されたBEV専用開発車となる。その名はレクサス「RZ」。ボディサイズは4805×1895×1635mm(全長×全幅×全高)という、ちょうど「NX」と「RX」の間に位置するサイズのクロスオーバーSUVである。今回はこの正式には「RZ450e」を、発売に先立って南仏の一般道で試してきた。

 スピンドルグリルは、エンジンを持たないBEVには不似合いだという観点からそのモチーフを違った観点で捉えたそのデザインはスピンドルボディと称される。元々、単にグリルを貼り付けただけでなく、スピンドルをフォルム全体に反映させていたレクサスだけに、その意匠には違和感などは皆無。新鮮であり、またちゃんとレクサスに見える。

南仏で開催された試乗会

 NX以降のモデルに採用されている“TAZUNAコンセプト”に基づいて、室内デザインはヘッドアップディスプレイとステアリングスイッチに操作系を集約したものとされている。素材を見ると、シートやドアトリムなどにバイオ素材を30%使ったウルトラスエード素材を採用し、ステアリングホイールも高触感合成皮革巻きとするなど、昨今のレザーフリーのトレンドに対応。エアコンより高効率な輻射熱ヒーター、e-ラッチ、印象的な陰影イルミネーションの採用など、先進技術がフルに盛り込まれている。

 e-TNGAプラットフォームと言えば、先にトヨタ「bZ4X」にも使われているが、レクサスらしい質の高い走りの実現のために、アッパーボディは実質的にはそれと別物になっているという。高強度素材の広範な採用や接合の強化、バックドア周辺への二重環状構造の採用、各種補剛部材の追加などによって、ボディ剛性は大幅に向上。構造用接着剤の塗布長は実に1.79mにも達するという。

e-TNGAプラットフォームを採用する「RZ」

 パワートレーンは前後2モーターの四輪駆動で、それぞれの電気モーターはフロントが最高出力150kW、リアが同80kWを発生する。合計では230kW(313PS)となる。この出力は、新駆動力システム「DIRECT4」によって前後100:0〜0:100の間でリアルタイムに制御される。まさに電気モーター駆動ならではのシステムである。

 フロア下に積まれるリチウムイオンバッテリは容量71.4kWh。つまりbZ4Xと同じだが、日本仕様はWLTCモードでbZ4Xの4WD仕様とそう遜色ない航続距離500kmを実現できそうで、これは高効率なSICパワー半導体素子をインバーターに採用したおかげだという。

 サスペンションはフロントがマクファーソンストラットで、リアがダブルウィッシュボーン。入力速度に応じて減衰力を切り替える周波数感応式ショックアブソーバーを採用する。タイヤサイズは18インチと20インチで、後者ではボディ前後にパフォーマンスダンパーが追加される。

 注目はワンモーショングリップ。操縦桿のようなステアリングホイールが目印の、ステア バイ ワイヤ機構である。ステアリングは前輪とは機械的には繋がっておらず、操作は電気信号に置き換えられて制御される。ロック・トゥ・ロックは約150°。つまり交差点などでも持ち替えずに操作できる一方、高速では安定志向とされるといった具合に、ギア比を自由に設定できるだけでなく、細かな操舵制御がステアリングフィールに影響することなく、また振動なども遮断できることなどがそのメリットだ。

ステアバイワイヤ機構を採用する「ワンモーショングリップ」
標準ステアリング車

 今回は標準ステアリング車、そしてワンモーショングリップ車の2台に乗ることができた。まず両車に共通して印象的だったのは、その静かさ。高剛性ボディという土台に加えて、徹底した制振、遮音、吸音対策が効いている。内燃エンジンがないぶん目立ってくるBEV特有のノイズに丁寧に対策して、音量が低いだけでなく静かだと感じられる音空間が目指されている。余談だが、開発メンバーはそれを「静粛感」と表現していて、なるほどと納得した次第である。

 ライドコンフォートのレベルも高い。ボディ剛性の高さはここにも当然効いてくるし、サスペンションの動きもしなやか。20インチの大径タイヤ&ホイールでも突き上げなどの嫌な感触とは無縁だ。むしろ18インチのほうが、柔らかいは柔らかいけれど切れ味が薄まってしまうという感じ。好マッチングなのは20インチだ。

 走りもきわめてスムーズで、雑味というものをまるで感じさせない。パワー、トルクは十分にあるがアクセルオンとともに急加速するようなことはなく、確かな力感のもと実に扱いやすい特性を実現している。しかもアクセルを深く踏み込んでいくと、爽快な伸びまで味わわせてくれるから嬉しい。

 DIRECT4も、そのスムーズさに貢献している。前後駆動力配分は発進時には60:40程度までリアに寄せられ、その後の巡航時には70:30に。無論、走行状況に応じてリアルタイムで変化していて、適切なトラクション性能を発揮する。さらに、コーナリングの際には75:25程度まで駆動力配分をフロントに寄せることで旋回を助け、その後、最大20:80までリアへの配分を増やしながら立ち上がっていく。

 リアモーターの方が出力が小さいので、FR的な……とまではならないものの、優れた前後重量配分、低重心といった素性のよさも相まって、きわめてニュートラルステア感の高い走りを楽しめる。いかにも制御されているという違和感が一切ないのも見事だ。

 実はRZはブレーキもいい。アクセルオフでの減速度は4段階に変更できるが、こちらも唐突に前につんのめるようなことはなく、エンジンブレーキさながらに自然な感覚。そしてブレーキには、新型「プリウス」と同じ新開発のハイドロブースターが使われていて、秀逸なタッチを実現しているのみならず、前後の制動力バランスを緻密に調整することで姿勢を制御することも行なっている。これもまたフラットで滑らかな走行感覚に貢献しているのである。

 とにかく上質とか、清涼とか、そんな表現をしたくなるRZの走り。一方で、それだけでは物足りないと感じる人もいるかもしれない。ワンモーショングリップは、おそらくそんな人に響くはずだ。

 最初は、低速域でのクイックな反応に驚くが、慣れるのにそう時間はかからない。むしろ交差点やラウンドアバウトでも持ち替えが不要なので上半身が動かずリラックスして操作できるし、一方でワインディングロードに入れば、まさに指先だけの操作で連続するコーナーをクリアできる楽しさもある。すれ違いも難しい狭い道で路肩に寄せるような時にもすぐに緊張しなくなったが、強いて言えば、駐車だけは一発で決めるには少し時間がかかるかも?

 実はこのRZ、スペックや内容にほとんど違いはないプロトタイプには昨春にすでに試乗している。待たされた感は強いが、さすがに完成度は高く、何よりレクサスらしい「スッキリとしていて、かつ奥深い走り」をこの上ないレベルで実現できていることに感心させられた。トヨタ自動車の新しい体制では、次世代BEVの開発をレクサスがリードしていくと明言されたが、そのでき映えからすれば今後も大いに期待していいはずだ。

 一点だけお願いしたいのは、ワンモーショングリップの早期の市場導入である。実は現状では、まだ違和感が拭い去れないとして開発続行中であり、市販の時期は明言されていないのだ。不用意なことは言えないが、クルマ好きなら現状でも十分納得できるでき映えと言っていいはず。BEV化に向かうレクサスの未来は面白いことになりそうだというムードを高めていく意味でも、ぜひ早期の市販を期待したい。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。