インプレッション
フェラーリ、新型「プロサングエ」初試乗 SUV然としたブランド初の4ドア4シーターレイアウトの走りはどうか?
2023年3月8日 08:01
もちろん昨今のSUVトレンドをまったく意識しなかったわけではないだろう。しかしながらフェラーリは新型「プロサングエ」を、いわゆるSUVとは規定していない。むしろその長い歴史の中で重要な役割を担ってきた2+2レイアウトのGTの系譜の最新型だというのがフェラーリの解釈である。その特徴は高いライドハイト、そして跳ね馬では初めてとなる4ドア4シーターレイアウトだ。
4973×2028×1589mm(全長×全幅×全高)という堂々たる体躯のボディは、きわめて長いフロントノーズを持つ。これは伝家の宝刀というべきV12ユニットをフロントミッドに収めるためで、おかげで相対的にコンパクトなキャビン、高いようで高すぎない全高、近年のフェラーリに共通のエアロダイナミクスが可視化されたかのようなボリューム感あふれるデザインと相まって、いわゆるSUV的なものとは一線を画している。
前述の通りドアは4枚。しかもリアドアはウェルカムドアと呼ばれる後ヒンジの、しかも電動開閉式とされる。これは乗降性への配慮からで、実際にフェラーリの他のモデルより広い63°の開放角度を持つフロントドア、そして79°まで開くこのリアドアのおかげで後席へのアクセスはとても容易だ。
ただし、センターピラーレスとしてリアドアを小型化しているわけではない。聞けば、左右独立のバケットシートによる居住性含めて、後席のゲストにも前席と同じような快適性を味わってもらうのがコンセプトであり、センターピラーレスは考慮しなかったという。もちろん、それはボディ剛性との兼ね合いもあったには違いない。
そのボディは基本的にアルミウムと高強度スチールから構成され、ルーフパネルにのみCFRP(カーボンファイバー)を使う。これは中間層に防音素材を挟み込みながらも、アルミ製より約20%軽く仕上がっているという。それもありシャシーの重量は812シリーズを下まわり、それでいて捻り剛性は30%、ビーム剛性は25%向上したとうたわれている。
V型12気筒エンジンは排気量6.5リッターの自然吸気で、最高出力725PS/7750rpm、最大トルク716Nm/6250rpmを発生する。そのアウトプットは、前輪にはエンジン前方に置かれ、駆動力を左右輪に配分するPTU(パワー・トランスファー・ユニット)によって、そして後輪にはトランスアクスルレイアウトとされた8速DCT、そしてお馴染みのE-デフを介して伝達される。この独創的な配置によって、前後重量配分49:51を実現しているのも、プロサングエの大きな特徴である。
シャシーも、これまた斬新だ。その名もフェラーリ・アクティブ・サスペンション・システムは、48V電装系で駆動する電気モーターによって各輪のライドハイトを個別に制御するもので、減衰力可変式のダンピングシステム、コイルスプリングと組み合わされる。その一番の恩恵はロールやピッチングといった挙動の抑制で、たとえばコーナリング中にはロール剛性を断続的に変化させつつ、ロールセンターを下げることで、重心の高さを意識させない走りを可能にしたという。おかげでいわゆるアンチロールバーは省かれた。
左右席がほぼ対称のデザインとされたコクピットに乗り込むと、目線はたしかにやや高めながらシートとフロアの位置関係は他のフェラーリと変わらず、ジャストなドライビングポジションを取ることができる。
発進は案外、穏やか。しかしながら2100rpmで最大トルクの80%を発生させるV12ユニットは、その先では心地よいドライバビリティを実現している。乾燥重量2033kg、おそらく車検証数値では2.3~2.4tにもなろうかという重量級だけに、特に中速トルクが分厚くされていること、各ギヤのステップ比が小さな8速DCTなどの恩恵だろう。
さらに右足に力を入れれば、まさにフェラーリミュージックと呼びたい快音とともに軽々と吹け上がり、パワーを炸裂させる。何しろ0-100km/hは3.3秒である。速さはいうまでもなく凄まじい。しかしながら個人的には、どこから踏んでも即座に力がみなぎる瞬発力に全能感とでも表現したくなる快感を覚えた次第だ。
自由自在に操れるという意味では、フットワークもそういう仕上がりである。ステアリングは常に素晴らしい手応えを示し、操舵していくと軽やかに、しかし決して鋭すぎることのない、極上の一体感をもって旋回姿勢に入っていく。車重、車高、大きさといったものをネガティブに意識させることは一切なく、狭いワインディングロードでも思いのままのラインをトレースできる様は、まさしく跳ね馬。少しずつ攻めていくとまったく危なげなく、軽くリアを振り出すこともできたりして、やはりこれはSUVとして括るような存在ではないなと思わされた。
後席にも触れておこう。ドアはレバーをやや長めに引くと自動的に開く。乗り込んだらセンターピラーにあるボタンを押せば、やはり自動で閉まる。バケットタイプのシートは大げさなサイドサポートなどはないにも関わらずホールド感は上々。あるいは、それは前後左右への姿勢変化の少ないフットワークのおかげで感じられている部分もあるのかもしれない。前席より着座位置が高くて狭苦しさはないし、それにも関わらず頭上にも十分な余裕があるから、快適性は想像以上といえる。
静粛性も高い。実は後席シートバックの背後、荷室との間に取り外し式の隔壁が1枚入っているなど、この点も大いに配慮されているのである。
ラゲッジスペースは凄まじく広いとまではいわないが、フェラーリとしては十分以上。必要とあれば、その隔壁を外し、後席シートバックを倒して荷室に充当することも可能だから、それこそ2人でアウトドアアクティビティを楽しむなんて使い方にも対応してくれるはずだ。
発表の際には、「フェラーリも遂にSUVか……」と思った人はきっと少なくないだろう。私自身もそういう気持ちがなかったとはいわないが、しかし実際にその走りを味わってみると、プロサングエは紛うかたなきフェラーリだったし、デザインにしても後席含めた快適性、使い勝手にしても、とにかく他にはない独創的なクルマに仕上がっていた。率直にいって脱帽である。
ちなみにその車名はイタリア語で「サラブレッド」を意味する。プロサングエ。まさしくそれを名乗るにふさわしい1台だ。