試乗レポート

マツダ新型「CX-60」の3種類のパワートレーンを初乗り比べ ディーゼル・PHEV・マイルドハイブリッドそれぞれの特性とは

パワートレーンの異なる3種類のマツダ「CX-60」を乗り比べてみた

 マツダが社運を賭けて臨む、ラージプラットフォーム戦略。その先陣を務める「CX-60」の、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボ搭載モデル「XD」に、とうとう試乗することができた。

 このグレードは、2022年末に一番最初にメディアへとお披露目された直列6気筒3.3リッターディーゼル+モーターの48Vマイルドハイブリッド仕様「XD-HYBRID」(505万4500円~)から、文字通りハイブリッドシステムを取り去ったシンプルなディーゼルターボエンジン搭載モデルだ。なおかつその駆動方式は4WDだけでなく、2WD(FR)を選ぶことができる。その分価格帯も323万9500円~465万8500円と幅広いが、もっとも高額な4WDの「Exclusive Mode」でさえハイブリッドのベーシックグレードより約40万円ほど安価な設定となっており、その実力がとても気になるモデルだ。

CX-60のボディサイズは、全グレード共通で4740×1890×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2870mm。ロングノーズ&ショートデッキの力強く動きのある骨格と、魂動デザインの真髄である「生命体が地面に踏ん張り、後ろ足で前に向かって跳躍するような生命感」を表現。ボディサイドには骨格の動きに連動する大胆な光の魅せ方によってエレガントな面質が特徴

 さらにCX-60の中で最上級(626万4500円)モデルとなる、直列4気筒2.5リッターガソリンエンジン+モーターを搭載するPHEV(プラグインハイブリッドモデル)も試乗車が初めて用意された。

 そこで今回は、3.3リッターディーゼルターボ+モーターの「XD-HYBRID」も同時に借り出し、3.3リッターディーゼルターボ単体の「XD」、2.5リッターガソリン+モーターの「PHEV」との比較試乗を行なってみた。

今回は3.3リッターディーゼルターボ単体の「XD」(左)と、2.5リッターガソリン+モーターの「PHEV」(右)の試乗がメインだが、3.3リッターディーゼルターボ+モーターの「XD-HYBRID」も同時に乗り、それぞれの特性を確認してみた

 試乗経路は神奈川県横浜市内から千葉県鴨川市内の往復。途中の撮影を含めても片道約100kmほどの行程を、往路はPHEV、復路はXD中心に、途中XD-HYBRIDも乗り替えながら市街地と高速道路を試乗した。ということで、時系列的にはPHEVが先の試乗となったが、ここではまずXDとXDーHYBRIDの違いを述べてみたい。

 試乗したのはXDの「Exclusive Mode」で、本革シートや20インチホイール(ベースグレードは18インチ)を装着した最上位グレードであり、駆動方式は4WD。直列6気筒3.3リッターディーゼルターボは231PS/500Nmのパワー&トルクで、トランスミッションには8速のトルコンレスATが組み合わされる。

ディーゼルターボ単体のXDの乗り味やいかに?

試乗した直列6気筒3.3リッターディーゼルターボ搭載の「XD」は、最上位グーレド「Exclusive Mode」の4WD。ボディカラーはマシーングレープレミアムメタリック
XDのフェンダーアクセントは無地
リアゲートのエンブレム
XDのメーター

 まずこのXDを走らせて驚いたのは、意外なことに“出足の鈍さ”だった。

 500Nmの最大トルクを、ほぼアイドリング領域の1500rpmから発揮できる直列6気筒3.3リッターディーゼルターボが“非力だ”なんてことはない。つまり、それだけXD-HYBRIDに付いている最高出力16.3PS/900rpm、最大トルク153Nm/200rpmのモーターが、アクセル踏み始めにおけるトルクをリニアに立ち上げていたわけだ。

 ただそのモーターのレスポンスがあまりに自然過ぎるため、筆者はこれまでXD-HYBRIDの出足が、ディーゼルターボのトルクによるものだと思い込んでいた。そして「ハイブリッドの効果が分かりにくい」とまで評価していたのだ。

XDに搭載される直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 3.3」は、最高出力170kW(231PS)/4000-4200rpm、最大トルク500Nm/1500-3000rpmとXD-HYBRIDのエンジンとは若干出力特性が異なる。試乗したExclusive Mode(4WD)の燃費はWLTCモードで18.3km/L

 この出足の差は、ディーラーで両者を乗り比べればきっと分かるはずだ。しかし、40万円ほどのエキストラコストを支払ってXD-HYBRIDを手に入れたオーナーには、乗り比べなんかせずとも、もっと分かりやすくそのアドバンテージを体感できてもよいのではないか? とも思えた。

 もちろんモーターのトルク特性を際立たせ過ぎれば、スムーズさは失われる。であればモーターアシスト時にパワーメーターが青く光るとか、ハイブリッドサウンドが躍度と共に盛り上がるなど、わずらわしくなったらカットできるようなギミックでよいから、何らかの表現があって欲しいと感じた。端的に言えば余りに黒子的で、まじめに過ぎるのだ。

 裏を返せばXDに物足りないのはその出足くらいで、いざ走り出してしまえば1500rpmからでも、ストレート6(直列6気筒)の魅力がたっぷりと味わえる。

XD-HYBRIDと比べれば出足こそやや物足りないが、それ以外は文句なしの走りだ

 1シリンダーあたり約550ccの燃焼が繰り出すトルク感は、キメの細かさと力強さが絶妙にバランスされた心地よさ。そして回転を上げていくほどにフロロロ……フワァ!と、粒が揃って力を漲らせていく。ディーゼルターボでガソリンエンジンに引けを取らないほど、回転行程が楽しめるユニットに仕上がっている。

懸念していた上下バウンスはどうなった?

 フットワークも、それに見合ったしなやかさだ。

 CX-60は大柄なSUVの挙動を穏やかにするために、ピッチングセンターをホイールベースの外に出すジオメトリーが採られている。これによってブレーキングGや加速Gが掛かっても、車体が前後に傾かず、上下方向にストロークするように仕上げられている。

 ただ筆者はそのセッティングに、少なからず疑問を感じていた。足まわりが硬いとその上下バウンスは振幅ピッチが短くなり、普通に走らせていても軽く酔ってしまうほどだったのだ。

XD-HYBRIDの「Premium modern」は、かなりこなれた足さばきをみせていた
XD-HYBRIDのフェンダーアイコンは「INLIN6」
リアゲートのエンブレム

 しかし、試乗したXDはサスペンション剛性が適度で、その上下バウンスも気になるほどではなかった。またXD-HYBRIDも、かなりこなれた足さばきをみせていた。ただそのグレードは「Premium modern」であったから、どうやら上下ピッチを助長したのは「Premium Sports」の硬めな足まわりではないか、ということが段々と分かってきた。

 話をXDに戻すとそのハンドリングは、まさにマツダ的な軽快さ。FRベースの4WDというキャラクターが存分に生かされており、素直な回頭性と後輪からの押しだし感を、心地良く味わうことができる。

 そして常用域では適度に掛けられたフロントへのトルクによって、最終的には4輪駆動としての安定感が表現されている。今回はそのトルクスプリットを事細かに確認する状況ではなかったが、総じて楽しく安定した走りだと言えるだろう。

以前の試乗で気になった上下バウンスは気になるほどではなかった

 唯一気になる部分があるとすれば、リアサスペンションに若干の突っ張り感があったこと。XDの4WDは「S Package」以外リアスタビライザーを装着しており、マルチリンクの一部がピロボールとなっている。これがまだ1600km強の走行距離に対して若干こなれていない感があった。

 ちなみに、後日試乗したXDのFR仕様(リアスタビレス、マルチリンクの1か所がゴムブッシュ)は、ここが最初からピタリと収まっていた。4WDの走りを高めるために選ばれたであろうスタビとピロボールだけに、馴染んでからの実力もきちんと確認してみたい。

48Vマイルドハイブリッドシステム“M Hybrid Boost”を搭載する「e-SKYACTIV D」は、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン(最高出力187kW[254PS]/3750rpm、最大トルク550Nm/1500-2400rpm)とモーター(最高出力12kW[16.3PS]/900rpm、最大トルク153Nm/200rpm)が組み合わせられる。試乗したPremium modern(4WD)の燃費はWLTCモードで21.0km/L

 参考までにその燃費は、約100kmの走行距離に対してXDが18.8km/Lで、XD-HYBRIDは19.6km/L。どちらも素晴らしい結果だが、車重差が僅かに20kgであることを考えても、マイルドハイブリッド搭載による燃費効果は差がほぼ現れなかったと言える。

 となればあとは出足の快適性に対して、エクストラコストを払えるのか? というのが今回の結論となりそうだ。

PHEVの魅力は走りの質と静粛性

 2つのディーゼルモデルを真正面から比べたあとは、往路で試乗したCX-60の最上級モデルのPHEVで締め括ろう。

 そのグレードは、車両価格が600万円を超える「Premium Sports」。ハニカムグリルのフロントグリルと20インチホイールを標準装備し、インテリアにはタンカラーのトリムとレザーシートを備えたその名の通りのプレミアム・スポーティ仕様だったが、その走りも名前に負けない内容となっていた。

PHEVは直列6気筒モデルよりも重心が低く感じられ、どっしりとした安定感があった
フェンダーアイコンにPHEVと入っている
リアゲートのエンブレム
右後方に普通充電と急速充電(チャデモ)のポートを完備

 なんといっても魅力的なのは、プラグインハイブリッドの素性を生かし切った走りと静粛性だ。

 試乗車はそのグレードに“Sports”の名を冠していたが、足まわりの印象はしっとりと上質。うねった路面ではバッテリの重さが効果的に働いて、例の上下のバウンスもきちんと抑え込まれていた。また荒れた路面ではダンパーが入力を減衰したあと、その重さとフロア剛性の高さが、振動や突き上げをピタリと収めた。

直列4気筒2.5リッターガソリンエンジン+モーターの「eーSKYACTIV PHEV」は、大容量バッテリと大型モーターの組み合わせ。これまで公表されていなかったスペックは、エンジンの最高出力が188PS/6000rpm、最大トルクが250Nm/4000rpm、モーターの最高出力が175PS/5500rpm、最大トルク270Nm/400rpm。試乗したPremium Sports(4WD)の燃費はWLTCモードで14.6km/L

 操作感も良好だ。床下にバッテリを搭載する関係から直列6気筒モデルよりも重心が低く感じられ、どっしりとした安定感がある。

 また、縦置きとはいえ全長が短い直列4気筒をフロントに搭載するバランスから、ハンドルを切れば素直に曲がる。ちなみに前後重量配分は、51:49にまとめられている。

 微低速域からの加速はモーターの駆動が意識でき、少ないアクセル開度でも発進がスムーズ。トランスミッションを介しての駆動だけにピュアEVと若干フィーリングは異なるが、静かで快適な走りだ。

 そしてアクセル開度が深まるとエンジンの存在が大きくなるわけだが、そのサウンドはクリアかつ音量も低めに遮音されていて、出足の快適性は損なわれなかった。

インテリアはタンカラーのトリムとレザーシートを備える
PHEVはエンジンを発電機として使用し、強制的に駆動用バッテリに充電しながら走行する「CHARGEモード」ボタンが備わる
ラゲッジスペースに1500W電源も完備
充電コードも専用ケースに入って搭載されている

 こうしたハンドリングのよさと乗り味の質感は高速巡航でも受け継がれ、普通に走らせるだけだとネガティブが見当たらない。車線変更も操舵感がスムーズだし、追い越し加速も出足がいいからタイミングを計りやすい。強いて言えばACCと併用するCTS(クルージング&トラフィック・サポート)の制御がやや雑で、路面の読み取り能力が甘い。車間調整におけるブレーキのかけ方もわるくはないのだが、ここら辺はまだスバルやトヨタの“人に近い制御感”には遅れていると感じた。

意外だったPHEVのワインディングの走りのよさ

 絶対的な重量は重たいのだがヨー慣性モーメントは良好だから、曲がりやすくてオツリがこない。なおかつコーナーではスロットルをバランスさせることで、4輪が横Gをスムーズに縦方向へと転換してくれる。

 ブレーキのタッチはリニアさを追求したディーゼルモデルよりもクセがなく一般的で、油圧と回生ブレーキの協調も極めて自然だ。

 そしてアクセルを踏み込めば、直列4気筒2.5リッター(191PS/216Nm)がスカッ!と爽快にまわり、ここにモーター(175PS/270Nm)の加速が加わる。

 計327PSのシステム出力がもたらす加速は、2tを超える車重に対して驚くほどではない。しかし、FRベースの4WDがそのトルクを巧みに配分してくれるからだろう、アクセルレスポンスがリニアでパワー不足を感じない。2tを超えるSUVをナチュラルに走らせるそのシャシーファースターっぷりは、アウトランダーともRAV4ともまた違うキャラクターだ。

 こうした一連の走りを終えて燃費計を見ると、その数値は10.3km/Lと、ちょっと残念な数字を示していた。やっぱり高級車は燃費がわるいのか?

 ということで残りの一般道を約30km強、電池を使い切るまでEV走行。これでトータル燃費を16.8km/Lにまで回復させた。

 ちなみにEV走行は航続可能距離が残り1kmのところで打ち切られた。これは走行用バッテリがスターターの役目も持っているからであり、またバッテリ保護のためでもある。そしてセンターコンソールのボタンを押せば、走行中でも充電を行なうことが可能だ。

 ディーゼルモデルと比べてしまえば見劣りするが、CX-60でこの実用燃費はなかなかだと思う。当日は17.8Kwhのバッテリが2目盛りほど少ない状態、EV走行可能距離38kmで貸し出されたから、これが満充電であればもさらによい結果が得られたかもしれない。

 毎日のルーティンを満充電75kmのEV走行、マージンを大きく取っても6掛けの45kmでこなせれば、ガソリン代はかからない。

 つまりディーゼルモデルとPHEVモデル、どちらが優れているかはその使い方次第だ。模範解答をすれば日常的に長距離移動が多いならば前者であり、普段は街中が多ければ後者となるだろう。

急速充電(チャデモ)を搭載する必要は?とも思ったが、アウトドアなどに出かけた際、キャンプ場近くの充電ポートでバッテリを満タンにしておけば、いろいろと使い勝手がいい。こういうときはサクッと充電できるほうがありがたいだろう

 個人的な好みを言えば、両者は本当に甲乙付けがたい。シャシーバランスのよさとモーターライドの質感、トータルなプレミアム性を求めるならばPHEVモデルだが、直列6気筒ディーゼルターボの素晴らしさは本当に捨てがたい。いまあるウチに、味わっておくべき傑作エンジンの1つだと思う。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。

Photo:高橋 学