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マツダ新型「CX-60」の玉谷チーフデザイナーが明かす、FRプラットフォームが魂動デザインと合致する理由

2022年9月15日 発売

9月15日に発売されたマツダの新型クロスオーバーSUV「CX-60」のデザインスケッチ

FRプラットフォームや走りのよさが伝わるように造り込まれた骨格

 マツダ「CX-60」の内外装は「Noble Toughness」のデザインコンセプトのもとに作り上げられている。Nobleは「堂々とした」や「壮大な」、Toughnessは「強靱」や「頑丈さ」などの意味となる。CX-60は刷新されたFRプラットフォームを採用したことで、2010年から採用されている「魂動(こどう)」デザインが表現してきた生命感をより現実的に、そしてシンプルに取り入れることが可能になったという。

 CX-60のチーフデザイナーを務めたデザイン本部の玉谷聡氏は「現行のマツダ車を作っていくなかで、魂動デザインの大事にしている生命感を現すためのプロポーションとして、後ろ足(リアタイヤ)から前に向かっていく姿勢を追及してきました。ただFFベースのプラットフォームでこの姿勢を追及していくと、できる限界があったのです。しかし、動的な性能を追求していくなかで新しいコンポーネントができあがり、それが魂動デザインと合致したのです。つまりFRプラットフォームとなったことで、魂動デザインで表現したかったことがマッチしで、意味性が深まっています」と語る。

マツダ株式会社 デザイン本部 チーフデザイナー 玉谷聡氏

 現行のラインアップでは、コンパクトカーからSUVまでプロポーションに強いこだわりを持ち、FFプラットフォームのなかでもできる限りロングノーズの伸びやかなフォルムを採用してきたマツダ。魂動デザインのテーマの1つでもある“クルマに生命を宿す”ことを表現するために採用してきた伸びやかなフォルムは、FRベースのプラットフォームが用いられたことで内実ともに完成形に近づいたといえそうだ。

 また玉谷氏は「今までのモデルとCX-60を比べたときに異なるのは、クルマの姿勢です。FFベースのモデルだとキャビンを後方に下げられませんでした。また、フロントタイヤの前には長いオーバーハングがあります。この状態で躍動感を表すために、フロントを薄くしてキャビンの存在を後ろに大きくならないようにし、姿勢としてはクラウチングスタートのようなくさび形にしていました。CX-60では、大人びて風格のある表現をしようとしたときに、水平基調でどちらかといえば後傾したスタイルになりました」と説明する。

 見比べてみると分かるのだが、現行のSUVに対してCX-60のボンネットは厚みがあり、フロントグリルの上端からウエストライン、テールランプへ水平的な軸が通っているように感じる。真横のフォルムでは前傾よりはフラットから後傾に見え、駆動輪のリアに力がみなぎっているようなデザインとなる。

CX-60の全長は4740mm
CX-8の全長は4900mm
CX-5の全長は4545mm

「ボンネットはパフォーマンスの高いエンジンが入っているので、厚み方向でしっかりと存在感を見せています。一方でフロントフェイスは薄くし、こちらでもエンジンの存在を引き立てました。現行のモデルはライトが切れ長で横方向のデザインとなっていましたが、CX-60ではゆとりを表現するために、ヘッドライトはややつぶらな瞳にして丸い形状だが意志のある表情にしました。とがって前を向くのではなく、クルマ本来のパフォーマンスを表現するために、現行のモデルとは異なるアプローチで余裕やゆとりを感じさせています。このゆとりの表現は、今後のラージ商品群のSUVは同様になりますね」と玉谷氏。

CX-60のヘッドライト
CX-8のヘッドライト

 骨格が変わったことによりボンネットを薄くする必要がなくなり、フロントはエンジンを主張するセクションとなった。実際に見るとボンネットの開口部はCX-5などに対してかなり高い位置になっている。フロントまわりの意匠はこれまでのマツダ車という印象から外れていないが、グリルの開口部は縦方向に大きくなっていて、ヘッドライトは横方向のサイズを抑えた。現行のモデルは精悍な顔つきという印象だが、コンセプトらしい堂々として存在感のあるフロントまわりとなっている。

CX-60のフロントビュー
CX-8のフロントビュー
CX-5のフロントビュー

 フロントまわりとは異なり横方向の水平なデザインが強くなっているリアセクションについて玉谷氏は、「リアセクションについてはフロントのように縦方向で存在感を出してはいません。水平基調にこだわっていて、光の動き方も水平にしています。水平方向に作っていくと重心が低く見えるんです。そのため少し落ち着いて下がった印象となっています。また、リアもフロントと同様に顔だと思っていて、現行モデルのテールランプは丸型で表情をつけていましたが、CX-60の形状はカギ型のグラフィックにしていて、50~100m離れていても見えることを意識しています。ターンシグナルは瞳のような印象を与えていて、リアにも表情を与えるというのは現行モデルと共通です」と説明する。確かにターンシグナルを点灯させると、現行モデルと共通した印象を受ける。

CX-60のテールランプ
CX-8のテールランプ

 魂動デザインでは、表現の1つとしてボディに映り込む光の陰影を取り入れてきた。とくに7世代目となった「MAZDA3」や「CX-30」からはより強調されるようになっていて、CX-60もコンセプトに合わせた表現を行なっている。

 光の陰影について玉谷氏は、「ラージ商品群のなかでCX-60はナローなボディになります。CX-5よりも全幅を50mmワイドにしていますが、その拡大分はすべてをインテリアに使っています。SUVはエクステリアで力強さを表現するのが分かりやすいので、サイズアップをタイヤの部分の量感に使うのが定石ですが、それがCX-60ではできませんでした。代わりに、リアタイヤの上部には三日月型のシャドーを作っています。そこにフロントからボディサイドを通り集まったものと、ルーフ方向からリアショルダーに降りてきたものが集まっていて、一筆書きのような連続した光のラインが見えるようにしています。同時にキャビンに集めた光をリアに落とし込むことで、スタビリティを感じ取ってもらうのが狙いです」と語る。

ボディサイドは一筆書きのような連続した光のラインが見える

 つまりCX-60は、駆動輪に意識が向くようにリアタイヤに陰影を持ってきているのがエクステリアデザインの大きな特徴。パッと見て惚れ込んでもらうキャッチーな印象を与えるよりも、じっくりよさを感じ取ってもらえるように奇をてらわないシンプルでタイムレスなデザインで、全体的に魂動デザインの完成度が高まっているという。

インテリアにも「魂動デザイン」の光の陰影を採用

 また、CX-60ではエクステリアの質感に合わせるように内装でもこだわりを持ち、各グレードを作り上げてきたという。CX-60のカラーデザインを担当したデザイン本部の渡邉瑞希さんによると「どのグレード妥協なく質感を上げることに注力してきました。とくにプレミアムモダンのグレードは、日本の美とマツダらしさを掛け合わせることがテーマでした。魂動デザインでは光の陰影をエクステリアに使ってきましたが、新たにインテリアにも取り入れました。着物は光が当たることで表情が変わりますが、その表現を素材に使っています。また、日本人は縁結びや馬具など結ぶことに意味づけています。そのため人とクルマを結ぶことを意識し、素材とともに掛け縫いという手法で表現しました。素材としては楓の自然木で、照りのある木を使っています。こちらでも光の移ろいを表現しています」と素材から徹底的にこだわっていることを解説してくれた。

マツダ株式会社 デザイン本部 プロダクションデザインスタジオ カラー&トリムデザイングループ デザイナー 渡邉瑞希さん
着物のように光が当たると表情が変化する素材を使用
人とクルマを結ぶことを掛け縫いという手法で表現

 CX-60は300万円を切ったグレードからマツダとしては初のプレミアムゾーンに入る600万円オーバーまで幅広く展開しているが、上記の掛け縫いのダッシュボードや、センターコンソールとドアパネルに本杢を使っているのは、上位グレードとなる。

 マツダでは10年にわたって「魂動デザイン」の哲学をベースにデザインを磨き続け、クルマに生命感をもたらし、エクステリアでは躍動感あるプロポーションを表現してきた。CX-60に採用されたFRプラットフォームは、魂動デザインが求めて磨き上げてきたものを素直に表現できるといい、そのため現行モデルとは異なるプロポーションに挑戦し、幅広いグレード展開に合わせるように質感を高めていったという。CX-60はパワートレーンやシャシーなど技術的に刷新された箇所が多いが、デザインは「魂動」というテーマはブレずに継承しつつ、進化も遂げている。

掛け縫いを使用したダッシュボード