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マツダ、直列6気筒エンジンなどを搭載する「CX-60 プロトタイプ」技術解説 ラージ商品群技術フォーラム

マツダ「CX-60 プロトタイプ」、「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVモデル

 マツダは「ラージ商品群技術フォーラム」と題した説明会を実施。2022年度に市場投入を予定している「CX-60」の技術概要を説明した。CX-60のプラットフォームはフロントエンジン・リア駆動のFRを基本とし、直列6気筒DOHC 3.3リッターディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 3.3」にマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたモデルや、従来のFF用、直列4気筒DOHC 2.5リッターガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5」を縦置きとし、プラグインハイブリッドシステムを組み合わせたものなどを用意する。

 トランスミッションもエンジン縦置きを前提としたトルクコンバータレスの8速ATとなり、4WDのAWDシステムもFRベースのものに刷新された。

 これらのシステムを組み合わせてさまざまなモデルをラインアップしていくが、今回試乗車としては、SKYACTIV-D 3.3にマイルドハイブリッドとトルコンレス8速AT+AWDシステムを組み合わせたディーゼルMHEVモデル、SKYACTIV-G 2.5にプラグインハイブリッドとトルコンレス8速AT+AWDシステムを組み合わせたガソリンPHEVモデルが用意されていた。

 CX-60の日本での価格帯は、「CX-5を検討している人でも視野に入るものから始まる」といい、SKYACTIV-G 2.5のコンベンショナルなFRモデルも用意。PHEVやMHEV、AWDやSKYACTIV-D 3.3の組み合わせによって、高価になっていくものと思われる。

ラージ商品群導入の狙い

マツダ株式会社 専務執行役員 研究開発・コスト革新統括 廣瀬一郎氏

 ラージ商品群導入の狙いについては、マツダ 専務執行役員 研究開発・コスト革新統括 廣瀬一郎氏が説明。マツダはサステイナブルZOOM-ZOOM 2030宣言における本質的な環境貢献を実現するために、バッテリEVやプラグインハイブリッド、新世代ディーゼルやロータリーエンジン技術などを用いていくという。

 2025年以降ではバッテリEVが主流になるかもしれないが、それまでは内燃機関からの移行期があるとし、そこでの効率アップを図っていく。とくに縦置き型のラージ商品群と呼ばれるモデルでは、直列6気筒エンジン、PHEV、48VのMHEV、トルコンレス8速AT、新世代シャシーなどでの効率改善を実現する。

マルチソリューションによる本質的な環境貢献
ビルディングブロック構想
ラージ商品群導入の狙い
低投資&高効率開発
内燃機関の進化

 その高効率化の一例として、直列6気筒エンジンと48VのMHEVシステムを挙げる。大排気量化により実用域の効率改善を図り、低回転域ではMHEVシステムでサポートすることで全体的な効率をアップする。一般に内燃機関は単気筒あたり500cc程度が燃焼効率のよい領域とも言われており、マツダの「SKYACTIV-D 3.3」も3.3リッターという排気量で6気筒化。この多気筒により、1気筒あたりの負荷も上げることで、効率のよい領域での燃焼を目指す。

 開発においても、制御により進化可能なアーキテクチャで全モデルを一括開発。今回のCX-60、今後出てくるCX-70、CX-80、CX-90といったクルマの開発費を25%削減しているという。

理想の燃焼に向けたロードマップ
合理的な電動化構成
エンジンの効率化
提供価値の領域拡大
モデルベース開発
ラージ製品群の技術

トルコンレス8速ATを新開発

マツダ株式会社 執行役員 パワートレイン開発・統合制御システム開発担当 中井英二氏

 エンジン燃焼に関する詳細な説明は、マツダ 執行役員 パワートレイン開発・統合制御システム開発担当 中井英二氏が行なった。

 中井氏が大きく取り上げたのは、新開発のトルクコンバータレス8速AT。一般的なトルクコンバータありATは、流体を使ったトルクコンバータによってトルクの増大を図るほか、流体の特性を活かした滑らかなトルク伝達を行なっている。これはよい面もあるが、マイナス面としては効率の低下、スリップ感などがあり、素早いロックアップ機構などによって補ってきたのがこれまでの歴史だ。

エンジン、モーター、トランスミッションを同軸状に配置
トルクコンバータレス8速AT
抵抗低減
変速応答性

 その解決を図ったMTベースのDCTもあるが、効率には優れていたものの滑らかな変速は難しく、各社は改善を図りつつ品質を向上している。その間にカーボンニュートラルとともにバッテリEVの波が押し寄せ、この分野でのまったくの新製品を見ることは極めて珍しくなっている。ここに投資する自動車メーカーは少ないのが現状だろう。

 ところがマツダはこの分野に新規に投資。質感の向上や効率の向上を狙ってトルクコンバータレス8速ATを新開発してきた。クラッチ機構には湿式多板を使い、外径を抑えるとともに制御のしやすさを狙う。変速機構はステップATと同じく遊星歯車(プラネタリギヤ)を用いたもの。これを4セット使うことで8速の変速を実現している。

 この8速ATは、通常タイプのほかに、モーターを内蔵したPHEV仕様、MHEV仕様があり、エンジンと適切に組み合わされてハイブリッド機構を実現していく。強力なモーターを使うPHEVには全長の短い4気筒エンジン、シンプルなモーターを使うMHEVには全長の長い6気筒エンジンを組み合わせて、パワートレーンとしての全長を同じスコープに収めるという、極めてロジカルな仕組みになっている。

 もちろん6気筒エンジンにPHEVといったシステムも可能だろうが、それはCX-60よりさらに大きなクラスで実現されていくものになるだろう。

48VMHEVとPHEVシステム
モーターとの組み合わせ
最適なモーター
システム構成

FRベースの4WD機構

4WDシステム
人間中心のパッケージ

 4WD機構となるAWDシステムもFRを基本としたものに変更された。従来のマツダの4WD機構であるi-ACTIV AWDはフロントの駆動力からPTOで駆動力を取り出し、ジェイテクト製の電子制御4WDカップリング(ITCC)で駆動力をコントロールしてリアへと導いていた。フロントとリアの駆動比が1:1であれば100:0から50:50の駆動比となるが、マツダはリアへ導く駆動力を取り出す際に約1%増速。これにより、ITCCのコントロール次第ではリアに積極的に駆動力を持っていけるようにしていた。同様の仕組みは、ジェイテクト製ITCCを使うGRヤリスでも用いられており、GRヤリスでは約0.7%増速。この増速は電子制御4WDカップリングのトルクコントロールの幅を増やせるため、各社がさまざまな形で用いている。

 今回の4WD機構では、リアの駆動力をフロントへまわすため特別な増速は用いられていないとのこと。理論上は0:100~50:50までフロントとリアのトルクを変更できることになる。

 トルクの取り出しはトランスミッション直後で行なわれており、電子制御4WDカップリングでフロントへとまわす。駆動軸はトランスミッションの左側を通っており、等長の駆動軸でフロントタイヤを駆動する。横置きエンジンでFFベースのクルマではレイアウトの関係から等長にはしずらく、等速ジョイントは用いられているものの、雪道のスリップ時にフロントが巻き込むくせが出るクルマもある。等長であればそのようなくせは出づらく、素直な駆動特性が期待できるものとなっていた。

DCPCI、空間制御予混合燃焼

SKYACTIV-D 3.3ディーゼルターボエンジン

 ラージ商品群で注目されるものの1つとして、直列6気筒3.3リッターのSKYACTIV-D 3.3ディーゼルターボエンジンが上げられる。最高出力187kW(254PS)/3750rpm、最大トルク550Nm/1500-2400rpm(日本仕様社内測定値)、圧縮比15.2を持つ3283ccのこのエンジンは、新しい考え方の燃焼室が採り入れられていた。

 ディーゼルエンジンは直噴エンジンであるため、ピストンヘッドが凹型の燃焼室を持つものが多く、従来のSKYACTIV-Dも凹型の燃焼室を持っていた。新しいSKYACTIV-Dでは、この凹型の燃焼室の側壁に1つの環状の出っ張りを持たせることで、燃焼室を上下に多段化。卵形の予混合を上下それぞれで行ない、そこにさらに燃料噴射することで燃料効率を上げたという。マツダはこの燃焼方式をDCPCI(Distribution Controlled Partially Premixed Compression Ignition)空間制御予混合燃焼と呼び、DCPCIではPCIに比べ効率のよい燃焼領域を広げることで全体的な効率を上げている。

理想の燃焼へ向けたロードマップ
燃焼イメージ
DCPCI
大排気量によるトルク向上と燃焼改善
カーボンニュートラル燃料への備え
燃焼技術
e-SKYACTIV D
走りと環境性能の両立
e-SKYACTIV PHEV
ユニットトルク特性

「脳とクルマが直結」しているかのような感覚

マツダ株式会社 執行役員 車両開発・商品企画担当 松本浩幸氏

 マツダ 執行役員 車両開発・商品企画担当 松本浩幸氏は、シャシーなど動的な部分について説明。CX-60などラージ商品群はエンジン縦置き+後輪駆動ベースのAWDを採用することにより、動的性能ポテンシャルを大幅に引き上げたという。とくにクルマを道具として見た場合、「脳とクルマが直結」しているかのような感覚、五感で把握することによる「身体拡張能力」の発揮ができるとする。

エンジン縦置き+4WD
3つのポイント
力の伝達

 そのポイントは3つあり、操作とクルマの反応の素早いシンクロ(同調、路面の外乱・操作変化に対するシンクロの持続、クルマの反応を五感で正確に感じ取れる設計になる。

 クルマの反応の素早いシンクロについては、力の伝達をスムーズにすることにより実現。重量物をセンターに集約することやステアリングまわりの剛性を上げる、力の伝達する順に下流ほど剛性を上げることで可能としている。

 シンクロの持続については、サスペンションの作動軸をそろえることなどで実現。FRのロードスターにも採り入れられたKPC(キネマティックポスチャーコントロール)も採用されている。

 クルマの反応を五感で正確に感じ取れる設計については、シャシーなどの基本設計に加え、クルマの反応を明瞭に感じ取れるシートを開発。不要な振動の少ないクリアな反力でクルマの動きを感じ取れるという。

慣性質量配分
力の伝達設計
シンクロの持続
サスペンションの設計技術
バウンス挙動
KPC(キネマティックポスチャーコントロール)
五感刺激
プラットフォーム技術
操縦安定性
楽しさ
高効率縦置きアーキテクチャ
エネルギーコントロールボディ
伝達エネルギー
音と振動
室内空間
一括スコープ効率開発
商品マップ

「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVと「e-SKYACTIV-G 2.5」ガソリンPHEV、二つのプロトタイプ

「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVモデル
「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVモデル
コクピット

 実際に試乗車として用意されていたのは、直列6気筒DOHC 3.3リッターディーゼルターボエンジン「SKYACTIV-D 3.3」にマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたモデルと、直列4気筒DOHC 2.5リッターガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5」にプラグインハイブリッドシステムを組み合わせたモデルの2種類。4WD機構を装備し、トランスミッションはトルコンレスの8速AT。いずれも開発中のプロトタイプモデルとなる。主要スペックは下記のとおり。

「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVモデル

全長:4742mm
全幅:1890mm
全高:1691mm
ホイールベース:2870mm
トレッド フロント:1637mm
トレッド リア:1637mm

エンジン
排気量:3283cc
圧縮比:15.2
トランスミッション:8速AT
ドライブトレーン:AWD
最高出力:187kW(254PS)/3750rpm 日本仕様社内測定値
最大トルク:550Nm/1500-2400rpm 日本仕様社内測定値
燃料消費量:N/A
燃料タイプ:軽油
燃料タンク容量:58L

モーター
冷却システム:水冷
最高出力:12.4kW(17PS)/900rpm
最大トルク:153Nm/200rpm

バッテリ
化学成分:リチウムイオン
電圧:44.4V
容量:0.33kWh
セル数:12

シャシー
フロント:ダブルウイッシュボーン
リア:フルマルチリンク
タイヤサイズ:235/50 R20
フロントブレーキ:ベンチレーションディスク
リアブレーキ:ベンチレーションディスク
重さ:約1900kg
重量配分:55:45程度

パフォーマンス
最高速度:220km/h
0-100km/h:7.3秒

「e-SKYACTIV-G 2.5」ガソリンPHEVモデル

全長:4742mm
全幅:1890mm
全高:1691mm
ホイールベース:2870mm
トレッド フロント:1637mm
トレッド リア:1637mm

エンジン
排気量:2488cc
圧縮比:13
トランスミッション:8速AT
ドライブトレーン:AWD
最高出力:141kW(191PS)/6000rpm 日本仕様社内測定値
最大トルク:261Nm/4000rpm 日本仕様社内測定値
燃料消費量(WLTP):1.5L/100km
燃料消費量(WLTC):66.7km/L
CO2(WLTP):33g/km
燃料タイプ:ガソリン(95ron)
燃料タンク容量:50L

モーター
冷却システム:水冷
最高出力:129kW(175PS)/5500rpm
最大トルク:270Nm/4000rpm

システム出力
最高出力:241kW(327PS)/6000rpm
最大トルク:500Nm/4000rpm

バッテリ
化学成分:リチウムイオン
電圧:355V
容量:17.8kWh
セル数:96

シャシー
フロント:ダブルウイッシュボーン
リア:フルマルチリンク
タイヤサイズ:235/50 R20
フロントブレーキ:ベンチレーションディスク
リアブレーキ:ベンチレーションディスク
重さ:約2050kg
重量配分:50:50程度

パフォーマンス
最高速度:200km/h
0-100km/h:5.8秒
EV走行:61-63km

 場所はマツダのテストコースとして用いられている美祢プルービンググラウンド。旧美祢サーキットだが、サーキット舗装はすべて剥がされて、一般道と同じアスファルトに張り替えられている。とはいえ、一般道と比べてフラットな路面で、静粛性などを見るのには適していると思われる。

 最初の試乗車は「e-SKYACTIV-D 3.3」ディーゼルMHEVモデルだった。室内へのディーゼル音の侵入は、空ぶかしなどをすると分かるものの、普通にエンジンがかかっていれば気にならないレベル。逆に振動はとても小さく、ボディ剛性の高さとエンジンそのものの振動の小ささを感じられるものだ。

 48VのMHEVのため、明確なアシスト力こそないものの、スムーズなパワー感が好ましい。それでいてアクセルをぐっと踏み込むと圧倒的なトルクで車体があっという間に100km/h超まで加速していく。怖くなるほどの加速ではないが、2000kg近い車重を考えるととてつもない速さだ。

 そしてそこからの単純なブレーキ操作におけるクルマの反応の質の高さには驚いた。重めのSUVの場合、ブレーキをぐっと踏む際にはボディのずれなど怖さを感じるというか、怖さを感じないように身構えながらのブレーキ操作に追い込まれることが多い。いつタイヤが滑っても対応できるように、緊張感のあるブレーキを強いられる。

 ところがこのCX-60プロトタイプの場合、ブレーキを踏めばぐっと沈み込んでさらにブレーキが効く感じで、余分な緊張感を持たなくてよい。

 それはコーナリングも同様で、コーナリング時のブレーキによる速度調整、逆にアクセルによる加速をしても、SUVのわりにラインがずれていかない。結果として、安心してアクセルを踏んで立ち上がることができたりする。とにかく、異常にリアタイヤのラインのずれが小さく、お尻を振る危険性が感じられないため、安心してコーナリングやスラロームが行なえる。動く、曲がる、止まるの質感が高いのだ。

 ディーゼルMHEVモデルの後に、「e-SKYACTIV-G 2.5」ガソリンPHEVモデルに乗り換えると圧倒的な静かさが訪れる。当たり前の話だがPHEVモデルのため、普通に乗っていたらエンジンは始動しない。そして、アクセルを普通に踏んでもモーター特有のトルク感による加速が始まるだけで、エンジンは始動しづらい。とにかく、車体剛性の高さと相まって静かなクルマだと感じる。

「e-SKYACTIV-G 2.5」ガソリンPHEVモデル
コクピット

 さすがにアクセルを強く踏み込んだり、高速域になるとエンジンがかかるが、それでもモーターのアシストが効いているため、ハイブリッドならではのアシスト力の効いた走りを楽しめる。エンジン音によって気がつくものの、エンジン駆動、モーター駆動の切り替わりを強く意識することはなかった。

 また、車重はこのガソリンPHEVモデルのほうが150kgほど重いとのことだが、軽やかさはディーゼルMHEVモデルよりも感じる。これは、バッテリなどの重量物が明らかに低く、中心に集まっているため。回頭性もよいし、ロール感も小さい。EVっぽさを楽しめる部分だ。

 新開発となった8速ATは、分かりやすい条件や高速域の変速では実にスムーズなものの、低速域の迷いやすい場面では明らかに変速や駆動接続面の作り込みがまだまだな部分があった。この辺りは開発陣も認識しており、市販化に向けて調整の続いていくところだろう。

 今回のラージ商品群技術フォーラムでは、CX-60の車体や6気筒エンジン、トランスミッションなどの技術については明らかにされた。この部分はクルマの基本的な魅力とはいえ、現代のクルマは安全装備やコネクテッドなど新しい分野の作り込みも気になるところ。発売へ向けて、最終的にどのような作り込みがされたのか、全貌が明らかになるのを待ちたい。