試乗レポート
マツダの新型「CX-60」に公道初試乗、リアルワールドで感じたこととは
2022年9月15日 11:30
自動ドライビングポジションガイドとは
公道初試乗となる「CX-60」は、結論から先に言ってしまえば違和感があった。今回与えられたのは3.3リッター直6のディーゼルハイブリッドで550Nmを発生。プラットフォームは全く新しいこれからのラージ商品群を支えるFRベースの4WD。サスペンションは独自の考えでリアのトー変化を嫌ったマルチリンクを採用。ピッチングセンターは車両後方へと飛ばしている。さらにはトルクコンバーターレスのトランスミッションなど、新しいもの尽くめである。「走る歓びのど真ん中へ」というフレーズが説明会の冒頭で出てきたが果たしてリアルなシーンではどうか?
以前テストコースで出会ったテスト車両とは異なり、生産仕様になったロングノーズ&ショートデッキを感じさせるエクステリアはなかなかの風格を漂わせている。全幅は1890mmとかなり幅広く、扱うにはちょっと気を使いそうだがどうか?
ドライバーズシートに収まってみると、まずは自動ドライビングポジションガイドをお試しくださいとのこと。身長を入力して目線をまっすぐに保っていれば、適正なポジションとしてくれるそうだ。そのセットが終わると、いつもよりはアップライトに座らされている感覚になる。身長175cm、座高96.5cmという紛れもない胴長短足体型を見事に見破り、座面を少し前目にしてくれたところは正解! なかなかやるじゃんと思えたが、堕落したおじさんにはやや窮屈に感じることも事実。まあ、ドライビングするには指定されたポジションが的確なのは理解できる。スポーツドライビングの教科書に出てきそうな、しっかりとフル制動が行なえ、ステアリングは持ち替えをせずとも反対側までしっかりまわせ、その際に肩が背もたれから離れない。いやはやお見事である。骨盤を立たせ、クルマの動きを的確に身体に入力し、筋肉が入力に間髪入れずに反応することで頭を無駄に動かさないようにした結果がそこにある。
そのポジションから周囲を見れば、まずまずの死角のなさなのだが、実はさらに見やすくするギミックが与えられていた。それは360°カメラの進化版的なシースルービューである。直前はもちろん、直左右も認識しやすく、死角に隠れがちな小さな子供や背の低いポールをも画面上で確認できるようになっているのだ。また、これは後輪の軌跡もアナウンスしてくれることもあり、内輪差によってリアを引っ掛けにくくなっているところもマル。これなら1890mmの全幅があったとしても、路地裏で使いこなすことができそうだ。
リアルなシーンでの仕上がりは?
実際に走り出すと、ギクシャクせずに割とスムーズに1910kgの車体が動き出したところが好感触だった。トルクコンバーターレスということもあって、以前の試乗では微低速域がやや苦手と見ていたが、プログラム変更などを繰り返した結果、滑らかさが出ているところがありホッとした。
そこからまずは高速道路に乗ろうとインターチェンジに入ったが、料金所前後での荒れた路面、振動が割とダイレクトに入ってくることに驚いた。どちらかといえばリアの動きが大きく、高速道路に入ると常にリアがバウンスする感覚だ。巡行時には直進性もやや薄い感覚があり、かなりラグジュアリー方向に振ったのかと思えるような仕上がりがあった。ディーゼルエンジンと新生ミッションからは、常にダイレクトな感覚を与えられ、実用域での不満はない。
だが、直6らしさは低回転ではなく、音の面での滑らかさは正直なところあまりない。むしろ高回転まで引っ張った時の方が滑らかさが増すイメージがある。巡行中にはi-STOPをするシーンが度々あるのだが、そこからエンジンが復帰する時に、アクセルの入れ具合によって減速Gが出てショックを感じてしまうところが惜しいと思えた。特にi-STOP中に加速を行おうとすると顕著であり、ガクっと減速ショックを感じてから前に出るところが気になる。おそらく回転がシンクロせずにクラッチが繋がってしまうせいだと思えるが、そこは今後のプログラム変更の進化に期待したいところだ。
高速道路を降りてワインディングに入ると、そこでもリア側のバウンシングが気になる。意図した以上にリアが沈み込み、一方でフロントには荷重が乗っている感覚が薄いことから、とてもこれまでのようにドライビングが楽しいとは感じない。以前、かなりフラットなテストコースで走った時にはそれほど感じなかったのだが、荒れた路面が続くリアルなシーンではどうやら話が異なるようだ。
そのことを開発陣に伝えると、今度は同乗走行を行なってみましょうと、リアシートに座って4名乗車で移動することになった。シャシー関係のボスであるマツダの虫谷泰典氏は、「われわれが言っている乗り心地がいいという概念は、振動が入ってこないというものではなく、最終的に疲れないことなんです。シートは硬めに、リアのトー変化をさせないことで横力を与えないことで乗員にクルマが次にどう動くのかを感じさせています」とのこと。入力に合わせて身体の筋肉が自然と反応することを狙ったわけだ。一般的に同乗走行をする場合、頭上のグリップを握りしめたりするパターンがほとんどだ。今回は箱根の長尾峠という曲がりくねったところを走行したのだが、グリップを握ることもなく、頭の揺さぶられはかなり少なかった。ドライバーと他の3名の頭の動きがシンクロしていたのだ。
これはたしかに新しいし、疲れが少なくなるというのも理解できる。かつてない乗り心地であり、新世界のサルーンの形なのかもしれない。ただ、やはり振動に関しては収めた方がいいのは言うまでもなく、「走りの歓びのど真ん中へ」と言うフレーズも違和感が残る。これからの進化に期待したい。