試乗レポート

トヨタ、新型「シエンタ」 プラットフォームを一新した7人・5人乗りミニバン

3代目になったコンパクトミニバン、トヨタの「シエンタ」

3代目になったコンパクトミニバン「シエンタ」

 コンパクトミニバンのトヨタのエース、「シエンタ」がフルモデルチェンジした。初代は2003年登場し、スライドドアと3列シートの最少ミニバンとして多くのユーザーに親しまれ、2代目は斬新なデザインでヒット作となった。そしてそのテイストを持ち込み満を持して新型に切り替わった。

 新型はプラットフォームを一新。TNGAの思想によるGA-Bプラットフォームにボディ結合部の剛性を高めた環状骨構造を採用している。軽量化と高剛性がポイントだ。

新型「シエンタ」を都内で試乗してきました

 サスペンションにも大きな挑戦が行なわれた。フロントのストラット形式に変わりはないが、これまで4WDはプロペラシャフトを通す都合でリアサスペンションをダブルウィシュボーンとしていた。3代目となった新型シエンタでは4WDの設定をガソリン車からハイブリッド車に絞ったことで、後輪の駆動をeアクスル化。すべての車種をトーションビーム形式とした。トヨタらしい決断だ。

 エンジンは1.5リッターの排気量は先代から同じだが、N系エンジンからダイナミックフォースエンジンと呼ばれる効率と出力を両立させた新世代のM15Aエンジンに変更になった。ストロングハイブリッドのTHS用エンジンと自然吸気エンジンの2種類が用意される。

ハイブリッドモデルに搭載されるM15A-FXE型エンジン
ガソリンモデルに搭載されるM15A-FKS型エンジン

 ミニバンは使い勝手が大切。早速実車で後席のシートアレンジや乗降性を見る。セカンドシートのレッグスペースは一見広く見えないが、実際には170cmのドライバーが合わせたシートポジションでもスペースは適度に取れ、つま先がフロントシートの下に入るので見た目以上に広々としている。サードシートへ乗り込むにはセカンドシートを2ステップで畳んで大きな開口部から入る。広くはないがセカンドシートを前にスライドさせるとレッグルームが稼げ、セカンドシート同様につま先が入るので小一時間の移動には耐えられそうだ。その際、リアのラゲッジルームは手荷物ぐらいであれば、収納スペースは確保できている。

 セカンド/サードシートの折りたたみは方法さえ覚えてしまえば簡単。それぞれのシートは巧みに空いたスペースにもぐりこみ、フラットなラゲッジルームに生まれ変わる。左右で独立してたためるので使用条件に応じて使える。

コンパクトミニバンとして上質な仕上がりのハイブリッド

外観も親しみやすくなった新型「シエンタ」
新型シエンタのリアまわり。ボディサイズは4260×1695×1695mm(全長×全幅×全高、4WDは車高1715mm)、ホイールベースは2750mm

 最初の試乗車は7人乗りのハイブリッド。駆動方式はFFのGグレードで、装着タイヤはブリヂストン「エコピアEP150」。サイズは185/65R15のスピードレンジはSとなる。

 ドライバーシートへの乗降性はフロアが低く乗り降りしやすく、シートには自然に腰が下りる。シートは小ぶりな作りだが適度に身体になじんでくれて、コンパクトミニバンのシエンタにピッタリだ。突出したところはないがホールド感や上下ストロークなどバランスよく作られていた。

 ドライバーシートからの視界は開放的だ。Aピラーが前にあるため断面が大きく視界に入るが、斜め前方は三角窓とドアミラーの配置が考えられている。左斜め前方視界もクリアになっており死角は少ない。

上質な仕上がりのインテリア。シエンタらしいユーティリティが用意されている
ステアリングホイールは3本スポークタイプ。水平方向はADASのコントロールスイッチなどで一杯
ハイブリッドモデルのメーターパネル。ADASの車間表示などが分かりやすくなった新デザイン
セレクトレバーまわり

 ドライビングポジションはミニバンらしく高めに位置して直前視界も優れている。ダッシュボード中央に据えられた大型マルチディスプレイはシートを低くすると少しじゃまになるが、正しいポジションを取っていれば問題にならない。

 内装もシンプルにデザインされて好ましく、シエンタの人に寄り添うというコンセプトに沿った心地よい演出だ。シフトレバーもハイブリッドらしくスライド量の小さい独特のフィーリングだが、操作のしやすい形状だ。

 新しいシエンタのボディサイズは4260×1695×1695mm(全長×全幅×全高、4WDの全高は1715mm)で、全高のみ先代と比べて20mm高くなっている。ホイールベースもGA-Bプラットフォームを採用しているが、シエンタに関しては先代と同じ2750mm。このサイズ感がトヨタの考えるコンパクトミニバンには最適解との判断だろう。

 5ナンバーサイズだけに市街地の取り廻しもよく、最小回転半径は5.0mと小さい。狭い所でも安心して入っていけ、電柱に苦労しないのは5ナンバーサイズならではだ。

 先代のシエンタは加速騒音が賑やかだったが、新型では速度とエンジンノイズとのバランスが取れており、音が抑えられた結果、静粛性は大いに高くなった。エンジン振動だけでなく、路面から伝わる振動も抑えられて、コンパクトミニバンとして上質な仕上がりとなっている。

 ルーフには共振を防ぐ接着剤がトヨタとしては初めて使われているが(シエンタには構造接着剤の使用量が大幅に増えておりボディの場所に応じて広く使われている)その制振効果が大きく、ひとクラス上の印象だ。路面からの入力に対しても上手にいなしているのが分かる。

 ハイブリッドシステムはモーター走行の時間を長めにとっており、発進直後の滑らかさと力強さ、それに走行中もマメにEV走行モードを活用して燃費に貢献しているのが分かる。WLTC燃費では28.2km/Lをマークするのは素晴らしい。THSシステムの燃費のよさは折り紙付きだ。今回も市街地、高速、それに撮影を行なった実燃費で21km/L程を記録していた。

 乗り心地もコンパクトらしい路面からのショックは伝えるが、前後がバランスよく上下するので乗員の揺さぶられる感じがなく納得のいく振動を感じる。バタバタしないところがミニバンにとっての要件をキチンと満たしていると感じた。またハイブリッドによるピッチング制御も決まっており、荒れた路面を走行した場面でも前後に頭を振る感覚ははるかに少ない。

 首都高速では中程度の速度で旋回するコーナーもあり、ここではミニバンだからこそ正確なハンドリングを求められるが、ハンドルの応答性は適度にキビキビ、適度に穏やかで前後のロールバランスも適正で腰高間を感じさせない安定感のあるハンドリングだ。大きな横Gをかけると腰砕け感があるが、シエンタが求めるハンドリングでは許容範囲に収まっている。

サードシートに座ったところ。レッグスペースはそれなりに厳しいが、セカンドシートの下に足先が入る工夫がなされている

ハイブリッドと比べて元気のよさが目立つFFガソリンモデル

FFガソリンモデル。外観からハイブリッドとの違いが分かる部分はほとんどない
FFガソリンモデルのリアまわり。排気管などがうまく取り回されている

 一方、1.5リッターガソリンのシエンタ(FFのみの設定)だが、こちらは通常のCVTとの組み合わせとなる。ハイブリッドでは加速時の振動や音などはマイルドに抑えられていたが、ガソリン車では比較的ダイレクトに伝わってくる。エンジン回転が先行するラバーバンドフィールもあり音は大きめだ。よくもわるくもダイレクトなエンジンレスポンスだ。ハイブリッドに試乗した直後に乗ったので元気のよさと賑やかさが目立ってしまったが、先代シエンタよりもブラッシュアップされた静粛性であることは間違いない。

 また乗り心地もリアからの突き上げがシャープになっていた。ハイブリッドとは同じグレードで70㎏程軽い重量差が影響しているかもしれない。

 いずれにしても静粛性はハイブリッドとの比較であり、制振性など優れていることに変わりはない。またリアからの突き上げも常にポンポンと跳ねるような性質ではなく、評判のよかった先代から比べても優れている。突き上げは段差などでリアが軽荷重のときに感じるもので先代よりもフラットな乗り心地だ。

ガソリンモデルのコクピット
ガソリンモデルのメーターパネル
セレクトレバーまわりにハイブリッドモデルとの違いが出ている

新たに設定された、ハイブリッド4WD

 さて、今回のシエンタから新たに設定されたリアにモーターを持つハイブリッドe-Fourは、FFハイブリッドよりも重量が50kg重い1420kgになる。この重量増分はほぼ後輪にかかるので、トーションビームは強化されている。

 結論から言えば加速性能など日常的な使い勝手ではFFと変わらず。音などの快適性もそれほど変わらない。FFに比較すると乗り心地はやや前後の動きが大きく、それがハンドリングにもわずかに影響を与えているようだが、ほぼ同レベルに抑えられている。何よりも降雪地帯でも4WDの発進性と燃費の優れたハイブリッド(WLTC25.3km/L)の恩恵を受けるのは願ってもないことだろう。

 新型シエンタ、現代のコンパクトミニバンに求められるニーズはほぼ応えている。気になる納車は3~4か月のようで、すでに受注はかなり積み上がっていると聞く。シンプルで空間利用度の上手なライバル、フリードとの競争はますます激化するに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学