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マツダの新型「CX-60」に搭載される第2世代「e-SKYACTIV D」は、なぜ排気量アップしたのに燃費がよくなったのか?

2022年9月15日 発売

マツダが新たに開発した直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンは、第2世代「e-SKYACTIV D」となる

新たに開発された直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン

 マツダが9月15日に発売したラージ商品群第1弾となるSUVモデル「CX-60」には、多くの刷新された技術が導入されている。エンジンは、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「e-SKYACTIV D M Hybrid Boost」搭載モデルが先行して発売された。

 そのほかは12月発売予定で、直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンの「SKYACTIV-D 3.3」、直列4気筒ガソリンエンジン+モーターの「e-SKYACTIV PHEV」、直列4気筒2.5リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 2.5」と、全4種類のバリエーションが設定される。

CX-60/ボディカラーはディープクリスタルブルーマイカ

 パワートレーンの選択肢は、大きく直列4気筒ガソリンエンジンと直列6気筒ディーゼルターボエンジンの2種類があり、ガソリンエンジンにはプラグインハイブリッド(PHEV)、ディーゼルエンジンにはマイルドハイブリッド(MHEV)が組み合わせられ、上級グレードを構成している。なお、PHEVとMHEVは4WDのみの設定で、ICE(内燃機関)エンジンは4WDと2WD(FR)が用意される。

9月15日に先行して発売された直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジン+48Vマイルドハイブリッドの「e-SKYACTIV D M Hybrid Boost」。その他のエンジン搭載モデルは12月発売予定

 2.5リッターの直列4気筒ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.5」は、搭載方法こそ違うが現行の「CX-5」や「CX-8」にも採用されているエンジンがベース。一方の3.3リッターの直列6気筒ディーゼルターボエンジンは、もちろんベースはなく新規で開発されたものとなる。

直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンの「SKYACTIV-D 3.3」
直列4気筒ガソリンエンジン+モーターの「e-SKYACTIV PHEV」(※排気量は未発表)
直列4気筒ガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 2.5」

 マツダの現行直列4気筒のディーゼルエンジンは、1.5リッター、1.8リッター、2.2リッターの3種類で、1.8リッターは後発となるが基本的には「SKYACTIV-D」の第1世代。

 新開発の直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンは第2世代となり、現行のディーゼルエンジンに対して「トルクと出力」の向上を達成するとともに、「燃費」「環境性能」の改善が図られ、新たな技術や制御などを投入することで、第1世代で課題となっている要因をクリアしたという。ちなみに、エンジン単体のスペックは、最高出力が231PS/4000-4200rpm、最大トルクが500Nm/1500-3000rpm。WLTCモードの燃料消費率は18.5km/L(4WD)。MHEVモデルは最高出力が254PS/3750rpm、最大トルクが550Nm/1500-2400rpmで、WLTCモードの燃料消費率は21.1km/Lとなっている。

第2世代となったSKYACTIV-Dの進化のポイントは「燃焼と空気の混合促進」だという

 では、新しい直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンは、どのように開発されたのだろう。まずは3.3リッターへ引き上げられた排気量だが、パワートレーン開発本部の志茂大輔上席エンジニアによると「ラージ商品群の車格で必要となる最大トルクは550Nmという目標があり、WLTCの燃費領域を理想燃焼でカバーするとなると3.3リッターの排気量が必要でした。国内では税制的に切りのよい数字がいいのですが、3.0リッターでは実現できず3.3リッターとなりました。現行のエンジンがカバーしている理想燃焼の領域は50km/h以下ですが、新しいエンジンは140km/hでも理想燃焼できるように設計しています。また、4気筒で3.3リッターとすることも可能でしたが、そうなると振動などが問題でバランスシャフトが必要になるのと、直列にすると機械抵抗を抑えられるため、直列6気筒の3.3リッターは狙った性能を実現するために必要な条件でした」と直列6気筒3.3リッターが理想を追求した最適解であったと語る。

マツダ株式会社 パワートレーン開発本部 エンジン性能開発部 第1エンジン性能開発グループ 上席エンジニア 博士(工学) 志茂大輔氏

 現行の直列4気筒ディーゼルエンジンが2.2リッターなので、直列6気筒3.3リッターというと1.5倍に意味性があるように思えるが、理想的な燃焼や性能を導き出した結果のコンポーネントだという。

 この新しい直列6気筒3.3リッターディーゼルターボエンジンでは、上記のように提供する価値を「出力」「燃費」「環境性能」として、実現するためにもっとも注目したのが“燃焼の理想化“になるという。第1世代のディーゼルエンジンでも、以前のモデルに対して低圧縮化やPCI燃焼(予混合)などの技術によってさまざまな性能を改善してきたが、燃焼効率でみると理想にはまだ遠かったという。

 ディーゼルエンジンは、タイミングを制御しながら気筒内に燃料を噴射し、圧縮によって自然着火させている。これまでもその時点での理想的な燃焼を求めてきたが、酸素と燃料分子がしっかりと混ざる前に着火し、燃焼効率の悪化やPMの発生を招いていた。そこで新開発したのがピストン。ピストンヘッドに段差を付けて「2段エッグ燃焼室」という新たな技法を確立した。

2段エッグ燃焼室での燃焼行程図解
従来ディーゼルエンジンの課題点
DCPCI(Distribution-Controlled Partially Premixed Compression Ignition=空間制御予混合燃焼)の狙い
燃焼進化のポイント
エンジンカットイメージ図
ピストンイメージ
2段エッグ燃焼室イメージ

 また、志茂氏は「従来のディーゼルエンジンでもタイミングなどを制御して細かく燃料を噴霧していたのですが、噴霧が届かなかったりして燃焼室内で局所的に燃料が濃いところがありました。また、空気と燃料の混合が保てないなどの理由で、ピストンの上死点からだいぶ離れたところで燃料噴射を行なうこともありました。より理想的な燃焼を求めるために開発されたのが2段エッグ燃焼室で、さらに多段燃料噴射の制御を加えることでDCPCI(空間制御予混合燃焼)を実現しています」と解説してくれた。

 燃焼室を2段にして空間を分割することによって、噴霧した燃料と空気がしっかりと混ざり、燃焼効率のアップを実現。噴射タイミングもより理想的になっていて、1行程あたりの噴射回数は同様だが、より上死点に近いところで噴射することで、燃焼効率を引き上げている。

 この新しい燃焼システムを実現したのは、ピストンヘッドに段差が設けられた新開発のピストンで、材質も従来のアルミからスチール(鉄)へと変更。材料置換の理由はいくつかあるが、圧縮比を上げたことにより耐久性の確保や、アルミよりも膨張しないためフリクションが抑えられることなどが挙げられるという。

新たに開発されたスチール製のピストン
従来のピストンとの比較。燃焼室の形状が変わり、スカートが短くなり、肉厚も薄くなっていることが分かる

 これらの新規開発された部品や制御によって、エンジン単体で燃料消費量を8%改善。常用域でのトルクとパワーは24%アップさせながら、NOxは低減。結果的に現行の「CX-3」の約2倍となる550Nmという大トルクと19.0km/Lに迫るWLTCモード燃費の両立を、約1900kgという重量で達成しているのだから驚きだ。

3.3リッターと排気量が大きくなったことで、トルクも増え、車重も重くなっているが、燃費はもっともいい数値となっている