試乗レポート

BMWの新型プラグインハイブリッド「XM」、史上2モデル目となるM専用車に乗った

新型XM

ハイエンドSUVマーケットで戦う新型XM

 初めて「XM」というクルマが披露されたのは2021年11月。キドニーグリルの存在が冗談かと思うほど強烈にフィーチャーされた度肝を抜くルックスが、賛否両論を巻き起こした。そしていよいよデビューと相成ったわけだが、量産仕様となっても外観のインパクトは変わらず。鮮烈なまでの存在感を発揮している。

 XMはBMWがSAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)と呼ぶXモデルの最高峰に位置する存在だ。そして同時に、伝説のM1以来となる史上2モデル目のM専用車でもある。

 ターゲットは「X7」よりもさらに上級、あるいは高価格となる目下成長著しいハイエンドSUVマーケット。「メルセデスAMG G 63」が売れに売れ、さらにベントレー、ランボルギーニ、アストンマーティン……と、さまざまなブランドが参入するこの市場で戦うためには、デザインもパフォーマンスもテクノロジーも突き抜けたものでなければならないということから、“M”のブランド力を前面に押し出した、既存のSAVラインアップから独立した存在として企画されたのだ。

 八角形の輪郭のキドニーグリルはクロームで縁取られ、その両脇には新型7シリーズ、そしてX7とも共通する上下2分割とされたヘッドライトユニットが備わる。昼間に見ても派手だが、見ものはナイトシーン。アイコニック・グロー・キドニー・グリルは輪郭が発光して、凄まじいアピール力を発揮する。

 3列シートのX7と共通の長いホイールベースに低いルーフライン、23インチホイール、さらにはサイドウィンドウの周囲に施されたアクセントバンドの視覚的効果もあって、フォルムは力強さが際立っている。幾何学的なディテール、各部に施されたゴールド、M1のそれをモチーフに敢えてリアウィンドウ左右に配されたBMWマーク等々、デザインはどの角度から見ても退屈させることがない。

今回試乗したのはBMW M専用モデルとなる新型「XM」。日本では1月18日に発売となり、価格は2130万円。ボディサイズは5110×2005×1755mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3105mm(数値は欧州仕様値)。エクステリアはBMWのラグジュアリーモデルにふさわしい存在感、ダイナミズムに加え、Mモデルらしいスポーティさを強調したもの。中でもBMWの象徴であるキドニーグリルは外側のエッジに向かって細くしたもので、八角形のアウトラインでダイナミックなキャラクターを強調しつつ、クロームで縁取ることで高級感を表現。暗闇では光を放ち存在感を増す「アイコニック・グロー・キドニーグリル」となる

 内装もやはり凝りまくっている。複雑な面を描くダッシュボードに鎮座するBMWカーブドディスプレイはMモデル専用の表示が与えられたもの。トリムやシートのステッチの入れ方なども、実に手が込んだものだ。

 注目はリアシート。Mラウンジと名付けられたこの空間は、長いホイールベースのおかげで余裕たっぷり。シートに腰を下ろせば、見上げた先のルーフのヘッドライナーはアルカンタラ張りの3Dプリズム構造とされていて、しかも周囲にはアンビエントLEDも埋め込まれているなど、こちらも夜が楽しみになりそうな雰囲気が演出されている。

インテリアでは12.3インチのメーターパネルと14.9インチのコントロールディスプレイを一体化させ、運転席側に湾曲させた最新の「カーブドディスプレイ」を採用。後席はスポーティ、ラグジュアリー、ゆったりとくつろげるという独自の「Mラウンジコンセプト」を用いた。また、立体感のある彫刻的なデザインがルーフライニング表面に施され、美しいイルミネーションと相まって上質な空間を演出している

システム全体で653PS/800Nmを発生

 ついデザインに目がいってしまうが、XMはハードウェアも見どころが満載だ。一番のトピックはプラグインハイブリッドとされたパワートレーン。そう、XMはMモデル初の電動化モデルでもあるのだ。

 エンジンはおなじみのV型8気筒4.4リッターツインターボユニットで、単体でも最高出力489PS、最大トルク650Nmを発生する。“Mハイブリッド”として8速ATに内蔵された電気モーターのアウトプットは197PS/280Nm。システム全体では最高出力653PS、最大トルク800Nmという強大な出力を誇る。

XMのパワートレーンは最高出力360kW(489PS)/5400rpm、最大トルク650Nm/1600-5000rpmを発生するV型8気筒4.4リッターターボエンジンに第5世代のBMW eDriveテクノロジーを採用し、電池容量29.5kWh、145kW(197PS)を発生する電気モーターも搭載。これに8速Mステップトロニックトランスミッションを組み合わせ、システムトータルの最高出力は480kW(653PS)、最大トルクは800Nmを発生する

 シャシーには、これまたMモデル初採用の四輪操舵システム、インテグラルアクティブ・ステアリングや48V電装系を使った可変スタビライザーのアクティブロールスタビリゼーションを採用。電子制御式ダンパー、Mスポーツディファレンシャルなどと組み合わせる。ちなみにエアサスペンションを使わないのは、サーキットなどの高負荷領域を見据えているから。この姿かたちでも、あくまでMハイパフォーマンスモデルなのである。

 その走り、一体どんなに強烈なのかと思うところだが、実際にステアリングを握った印象は、良い意味できわめて洗練されていた。発進、そして通常走行はバッテリ残量に余裕があれば電気モーターだけで行なわれるが、スペックの通りその走りは十分に力強く、そして滑らかだ。

 おもしろいのは標準装備のBMWアイコニックサウンド。電気モーター走行中でも、まるでエンジンのような野太いサウンドが、アクセルの踏み加減に応じて響いてくるのだ。この音質が優れていてまったく人工的ではなく、正直エンジンが停止しているのか始動しているのか判断が付きかねることもあるぐらいである。

 しかもエンジンと電気モーターとの連携ぶりは見事で、アクセルを踏み込むと電気モーターで即座にグイッと引っ張られ、すぐさまあふれんばかりのエンジンパワーが追いかけてくるという感覚。中間加速などの際の応答性はすばらしく、トップエンドに向けての突き抜けるような伸びも快感そのもので、ついつい右足に力が入ってしまう。

 単にパワフルだというだけでなく、味わい深く、また新種のパワートレーンに触れている歓びもある。“M”のパワートレーンに対する期待を裏切ることはないのだ。

 シャシーの躾けも行き届いている。日常域の乗り心地は23インチタイヤの存在を意識させるが、ペースを上げていった時の操縦性はみごとなもので、大きく重く重心の高いものを操っていることを忘れさせる。前述の通り、これでもかというほどに装備された電子デバイスが巧みに統合制御されていて、一体感のきわめて高い走りを実現しているのである。

 かなり突き抜けた見た目をしてはいるが、中身は紛れもないBMWであり、そしてMだというのがXMを試してみての実感。ターゲット層だけでなく、生粋のMファンだって乗れば案外気に入るのではないかと感じた。マーケットの反応がこれだけ楽しみなモデルは久しぶりだ。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、2019年には新たにYouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」を立ち上げた。