試乗記

新型「フリード」(プロトタイプ)試乗 2モーターハイブリッド「e:HEV」の走りは注目に値する

新型「フリード」に乗った!

コンパクトサイズであることを忘れる乗り心地

 モデル末期であっても1万台以上の販売を記録していた本田技研工業「フリード」が、いよいよフルモデルチェンジする。今回はそのプロトタイプをテストコースで試乗する機会を得た。そこではアノ売れていた、今となっては旧型もしっかりと準備され、徹底的に比較してくださいと言わんばかりの状況が作られていた。基本プラットフォームは同様ながらも、パワーユニットを変更して登場する今度のフリード。一体どんな走りを展開するのだろうか?

 まず出迎えてくれたのはエアーのe:HEV FFモデルだ。第一印象は明らかに「ステップワゴン エアー」の弟分といった感覚だが、フリードらしいコンパクトに凝縮された感覚もあり、かなり扱いやすそうだ。旧型からの進化のポイントは、今のホンダでは割と浸透してきた2モーターハイブリッドのe:HEVを搭載したこと。サスペンションのフリクション低減、さらにはリアダンパー取り付け剛性アップ、リア開口部剛性アップ、リアクオーターピラーの剛性アップや、ダッシュボードロアパネル剛性調整を行なったというのが走りの変更点だ。

3代目となる新型「フリード」(プロトタイプ)にテストコースで試乗。3代目では「エアー」(左)と「クロスター」(右)が用意され、ボディサイズはエアーが4310×1695×1755mm(全長×全幅×全高)。クロスターはホイールアーチプロテクターを装備することでエアーから全幅が25mm拡大し、4310×1720×1755mm(全長×全幅×全高)とした
7名乗車仕様のエアーのインテリア。インパネまわりはシンプルな構成と操作性を追求しながら、運転視界のノイズ要素を排除。必要な機能部品を質感よく仕上げることで、すっきりとした視界と優れた操作性を両立した。また、1列目シートの背面形状を工夫することで2列目の膝まわりの空間を旧型比で約30mm拡大したほか、3列目の肩まわりの空間も約65mm広がっている
ガソリンエンジンはフリードに合わせたコントローラブルで静粛性に優れた1.5リッターのポート噴射エンジンを搭載。最高出力は87kW/6600rpm、最大トルクは142Nm/4300rpm(数値は諸元暫定値)とし、CVTを組み合わせる
こちらは5名乗車仕様のクロスターのインテリア。2列シート仕様はクロスターのみの設定となっている。ラゲッジスペースはユーティリティボードで2段に分割できることに加え、磁石がくっつくステンレス素材を採用。ギア感の演出とともにマグネットトレーやフックを取り付けて有効活用できる「ユーティリティサイドパネル」など、アウトドアレジャーで活用できるアイテムを採用している
2モーターハイブリッド「e:HEV」では熱効率に優れる1.5リッターのアトキンソンサイクル DOHC i-VTECエンジンを搭載。最高出力は78kW/6000-6400rpm、最大トルクは127Nm/4500-5000rpmで、2モーター内蔵電気式CVTを組み合わせる。モーターの最高出力は90kW/3500-8000rpm、最大トルクは253Nm/0-3000rpm(数値は諸元暫定値)

 運転席に座ってみると主に下方向の視界がかなり開けており、取り回しのしやすさはありそうな感覚だ。走り始めればe:HEVらしくスムーズに動き出して高速周回路に入っていく。静粛性はなかなかだ。路面の荒れたシーンに入っても、突き上げ少なくいなしていることがうかがえる。一方で車線変更を行なってみてもスムーズかつ一体感ある仕上がりだ。これがコンパクトミニバン? 質感は明らかに上にいったことが理解できる仕上がりだ。路面がよくなるとその印象はかなり強く、気になるのは頭上の風切り音くらいか?

 高速域においてe:HEVがエンジン直結モードになると、エンジンが低回転すぎるのか、わずかにパワーユニットが揺さぶられるような微振動が気になるが、それは滑らかすぎる路面もあって目立っているのかもしれない。いずれにしても公道であれば気にならないレベルだと予測する。

 セカンドシートの乗り心地をチェックしようと、同じコースを後ろに乗って走る。旧型よりもシート座面の前側が引き上げられ、しっかりとサポートされるようになったところは好感触。走行時に揺さぶられても不快感はない。そしてなにより、このクラスではほかにないキャプテンシートが得られることもまたメリットの1つだ。この世界観を相変わらず続けたのはエライ! コンパクトサイズであることを忘れさせてくれる乗り心地はうれしい。

 ワインディングを走るとミニバンであることを忘れるほどの一体感ある動きが楽しめる。パワーステアリングが改められ、すっきりとスムーズな切れ込みから、戻す方向の重すぎない制御までが爽快な仕上がり。コーナリング中の揺さぶられもかなり軽減されており、まるでホットハッチのようにも振る舞えてしまうから驚くばかり。かといってガチガチではなく、しなやかさもある足まわりだから安心だ。また、e:HEVのリニアな応答性もあり、なにもかもがリニアだからおもしろい。

ガソリン仕様はe:HEVと比べると見劣りするも、軽快感は上

 続いてはガソリンエンジンのクロスターに乗ると、応答性はやや鈍く、トルク感も薄く感じてしまう。音や振動についてもe:HEVと比べてしまうとやや劣るのが正直なところだ。ただ、伸び感のよさ、そして100kgほど軽く仕上がったことにより、シャシーの軽快感はこちらのほうが上かもしれない。フェンダーアーチが加わり3ナンバーサイズとなるが、基本的なセッティングはエアーと変わらないらしい。

 のちに旧型に乗り同じコースをなぞるように走ったが、やはり一時代前のクルマになったことは否めない印象がある。7速DCTはスポーツできるという意味ではよかったが、段付きがこの手のクルマとしては気になってしまうし、シャシーのフラット感も薄かったのだと今となっては気になる部分がいろいろと出てくることは否めない。よいものを知ってしまうと贅沢になるものだ……。

 このように、新型に乗ると進化したことが確実に感じられる仕上がりであることは間違いない。デザイン的な新たなる世界観、そしてクロスターの新たなる価値観もあり、新型は間違いなくまた売れそうだという感覚が伝わってくる。ただ、クロスターの仕上がりが新しすぎるのか、現状ではコンサバなエアーのe:HEVの受注が好調だという状況。これから正式に発表され、その動きがどう変化していくかも楽しみなところだ。

こちらは新型フリード(エアー)用純正アクセサリー装着車。ベルリナブラックとクロームメッキを組み合わせたフロントグリル、LEDフォグライト付きのエアロバンパー、テールゲートスポイラー、切削クリアとブラック塗装の15インチアルミホイールを装着し、個性を高めている
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛