【インプレッション・リポート】
日産「セレナ」

Text by 岡本幸一郎


 「ミニバン」というくくりで言うと、相変わらずよく売れているものの、最近ではますます勝ち組と負け組みがハッキリしてきた印象だ。

 タイプでいうと、ハイルーフが勝ち組、ロールーフがウィッシュのような一部人気モデルを除き負け組で、ハイルーフの中でも、勝ち組と呼べるのはMクラスの4車種と、LLクラスのアルファード、ヴェルファイアぐらい。ちなみにセレナの兄貴分のエルグランドは、発売翌月こそグンと数字を伸ばしアルファード/ヴェルファイアを上回ったものの、その翌月から再び抜き返されており、微妙な感じになってきた……。

 一方、Mクラスミニバンでは、ヴォクシーとノアはひとまとめとして、ステップワゴンとセレナという、まさに三つ巴の戦いがここ数年続いている。

 実際にはヴォクシーとノアを合計すると、はるか以前から事実上のミニバン販売ナンバーワンモデルであるわけだが、表向きには2007年から2009年まで3年連続でミニバン販売ナンバーワンの座についたのはセレナだった。

 そのセレナが、5年半ぶりに満を持してモデルチェンジ。タイミングとしては、ステップワゴンのフルモデルチェンジの1年後、ヴォクシー/ノアのマイナーチェンジの半年後となる。

新型セレナの室内サイズは3060×1480×1380mm(室内長×室内幅×室内高)で、先代モデルよりも300mm長く、10mm広く、25mm高い寸法

 実車を見てまず感じたのは、「上手いことまとめたな」という印象。世に大いに歓迎された先代のよさをスポイルした印象もまったくなく、それでいて先代セレナと並べると明らかに新しく見えるし、そして中身は着実に進化している。

 ただ、フロントマスクがステップワゴン スパーダに似てしまったのは見てのとおり。そもそも現行4代目ステップワゴン自体、先代セレナに似ていると言われたり、その先代セレナは、2代目ステップワゴンに似ていると言われたりもしている。

インパネのデザインは好印象

 むしろ大きく変わったインパネが印象的だ。先代セレナも収納スペースが豊富で、いかにも便利に使えそうな印象はあったものの、デザインは素っ気なく、質感の面でも少々寂しいものがあった。ところが現行セレナは、見た目も非常によい雰囲気になった。グラフィックが美しいメーターは、エコに関する表示機能が非常に充実しているのも特徴。瞬間燃費計には平均燃費が同時に表示されたり、アイドリングストップした時間が表示されたり、節約した燃料を確認できるなど、見るのが楽しみになる機能が与えられたところもよい。

 また、CVTのセレクターが、先代セレナでは女性にはやや遠い位置にあり、モーターでアシストする独自の凝った機構が裏目に出て、好みの位置でセレクターを止めにくくなっていたところが、ちょっとせり出して誰にでも操作しやすい位置に持ってこられたところ歓迎だ。

 そのほか、シートアレンジは基本的に同じものながら、セカンドマルチセンターシートから「スマートマルチセンターシート」に名称が変更になった。助手席は、前倒ししてテーブルになる機構が廃されたものの、シート自体の座るための機能が向上している。

3列目シートの跳ね上げ時の高さは、先代モデルよりも175mm低くなったことで後方視界が確保されたほか、大型自転車を積んでもハンドルがシートに干渉しない

 また、リンクの見直しにより、3列目シートを跳ね上げた際の高さが、175mm低くなった。これを実現するため、セレナの1つの特徴であった3列目シートの前後スライド機構は廃されたものの、大型の自転車を積み込んだときにハンドルがシートに干渉することもないし、運転席からの後方視界も確保されるなど、メリットのほうがはるかに大きい。さらには、3列目シートの片方に人が座り、片方は跳ね上げて大きな荷物を積むといったシチュエーションでも、3列目シートに座った人の閉塞感が軽減されるなど、いいことずくめである。惜しむらくは、テールゲートに電動開閉機構の設定がなくなってしまったことだろうか。

 全体的にシートのサイズが増し、クッションも厚くなっているし、さらにはこれまで平板だったシートの形状が、ややサイドサポートが張り出したものとなった。これも着座感の向上に一役買っていると思う。半面、乗降性の面では少々落ちたとも言えるわけだが、トータルとしてはより「実」を取った変更と言える。

 サンルーフも、より面積が大きくなった。開口位置は後ろ寄りとなり、2、3列目の乗員にとって嬉しいであろう仕様となる。1列目は、フロントやサイドのウインドーが広くなり、十分に解放的なのでこれでよいと思う。また、後席モニターとして新たに設定された11インチという大画面のワイドモニターは、後席に座る人もきっと喜んでくれることだろう。ちなみにライバルは今のところ最大でも9インチだ。

 ドア開口についても、2列目のスライドドアの開口幅が、ライバル車に比べて大きいところは相変わらずセレナの強み。さらに、新たにワンタッチでスライドドアを開閉できるようになったのも便利だし、スライドドア、すなわち2列目のウインドー部にロールサンシェードが付いたのも重宝しそうだ。また、1列目ドアの最大開口角も、ダイハツのように直角とまではいかないまでも、かなり大きいところもライバルに対する優位点といえる。

シートサイズが増すとともにクッションが厚くなり、どのシートも着座感が高まった
先代モデルよりもサイドサポートが張り出した形状に。シートの印象は良好2列目用の11インチワイドモニターは乗る人に重宝される

 そして、走りについて。先代も売れる要素は満載のセレナだったのだが、どうにも筆者が人にあまり薦められないと感じていた要因は、乗り心地のわるさだ。先々代のC24型がソフトだったので、そのイメージを期待していたのだが裏切られた。あまり荒れていない路面でもドタバタとし、コーナリングでは過大にロールしたりと、言わば硬くあって欲しいところで柔らかく、逆に柔らかくあって欲しいところで硬いという足まわりだった。途中で多少改善されたものの、基本的な素性は大差なかった。

 ところが、現行車では印象が一変し、かなりよくなった。ハイウェイスターのみ採用のハイスピードダンピングコントロールショックアブソーバーの恩恵か、初期ロールが抑えられ、ロールスピードも抑えられているので、あまり「ロールする」という感覚がないし、乗り心地がよく、高速巡航でのフラット感も高い。コーナリングでは、限界まで攻めたときのロール量はそれなりに大きいが、そんな走り方をする人は、このクルマを選ばないほうがよい。ブレーキも、従来は小さな踏力でも「カクン」と効いてしまう領域があったところ、現行車では踏力に対してリニアに制動Gが立ち上がるようになった。この味付けなら、微妙に減速したいようなシチュエーションでも、不意にノーズダイブすることはないだろう。

 ステアリングフィールもかなりよくなり、素早く切り返したときにアシストがついてこないようなこともなくなった。中立の据わりもよいし、適度な操舵力で先代同様クイックすぎないところも好印象だ。

 新採用の直噴エンジンと、改良されたCVTのフィーリングもよい。エンジンは低中速トルク重視で、CVTも回転が先行する印象が薄れた印象。新たに備わったECOモードも、エコすぎてストレスを感じることもなく、ちゃんと普通に使えるところもよい。

 これらのように、個々の要素の印象は、基本的には従来の延長上にありつつも、それぞれがとても熟成されていることを確認することができた。そして、これら一連の味付けの改善により、無駄な動きを誘発して同乗者に不快な思いをさせる可能性がより小さくなったと言える。ミニバンにとってはとても大事なことだと思う。

 そして、肝心のアイドリングストップシステムも、同社はマーチで初出ししたばかりだが、こちらは早くもさらに進化したようだ。ECOモーターの採用により、0.3秒で再始動を可能としているのがニュースで、振動がとても小さくヒルスタートアシストも付いているので、坂道で下がる心配もない。マーチに毛が生えたぐらいのイメージだったのだが、ECOモーターの恩恵か、出来は予想以上によい。

 このクラスのミニバンの三つ巴の争いは熾烈で、新しいモデルが出ると、そちらに目移りがしてしまうという状況が続いていると思う。昨年のステップワゴンは、低床プラットフォームの強みを生かしつつ、3列目を格納式にするなど、新たな一歩を踏み出した。ヴォクシー/ノアは、オーソドックスさに熟成が加わった。そんな中でセレナは、モデル末期まで売れ続けた先代も、まだまだ十分に第一線で通用する実力を持っていたところ、さらなる総合力の向上を期待した以上に果たしたと思う。

 ちなみに、もし筆者が三つ巴の中から選ぶとしたら、ステップワゴンが現行モデルになってからは、セレナよりもステップワゴンだと思っていたが、これで再びセレナが一番になった。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 2月 10日