【インプレッション・リポート】 ルノー「メガーヌ ルノー・スポール」 |
意外なことに聞こえるかもしれないが、仏ルノーの日本ブランチであるルノー・ジャポンにとって、「ルノー・スポール」というブランドは極めて重要なウェイトを占めている。実は、大ヒット作「カングー」を含む全ルノーの販売台数の約25%が、「ルーテシア ルノー・スポール」および「トゥインゴ ルノー・スポール」という2つのモデルによって占めているというのだ。
Car Watchではお馴染みの存在となった、ルノー・ジャポンのマーケティング部商品計画グループのフレデリック・ブレン氏曰く「日本市場のルノー・スポールの販売台数は全世界で第9位。さらに、ルーテシア ルノー・スポールに限っては世界第3位にランクされる」とのこと。日本というマーケットに於けるルノーが、いかにコアなエンスージアストによって支えられているかがよく分かる実例と言えるだろう。
そしてこのほど、ルノー・スポールのエンスー指数をさらにアップしてくれそうな、魅力的なトップモデルが日本上陸を果たすことになった。2009年春のジュネーヴ・ショーにてワールドプレミアが行われた「メガーヌ ルノー・スポール」が、ついに日本国内でも鮮烈なデビューを果たしたのだ。
メガーヌRSの発表会は仏大使館で開かれ、ゴーン会長が出席した |
■日本市場に重点を置いたニューカマー
メガーヌ ルノー・スポール(RS)は、ルノーのモータースポーツ開発部門である「ルノー・スポール・テクノロジーズ」が、メガーヌ・クーペをベースに仕立てたスポーツ版。
心臓部はツインスクロール・ターボを採用した2リッター直列4気筒DOHC 16バルブエンジンで、最高出力184kW(250PS))/5500rpm、最大トルク340Nm(34.7kgm)/3000rpmと、先代のメガーヌRSに設定されたセミレーシングモデル「R26R」よりもさらに20PSも出力アップ。最大トルクも4kgm以上アップすることになった。しかも最大トルクの80%以上を、1900rpmで既に発生しているという、いかにも現代的な低・中速トルク優先型のスペックを持っている。
また、当代最新のスポーツモデルらしく駆動系の電制システムも完備。標準装備のESP(横滑り防止装置)は、デフォルトに相当するノーマルに加えて「SPORTS」と「OFF」の3モードに設定が可能な「RSダイナミックマネジメント」を採用。「OFF」ではESPとトラクションコントロールが作動しないシステムとなっている。さらに「SPORTS」と「OFF」モードでは、スロットルレスポンスもよりスポーツ向けのセッティングに自動変更される。
もちろん、スタンダードのメガーヌ各モデルに比べれば2倍近くにも増大したパワーに合わせて、シャシーにも大幅に手が加えられている。中でも注目すべきはフロントストラット。ルーテシアRSと基本を一にする「ダブルアクスル・ストラット・システム」は、別体のアルミ製ナックルアームにストラットの下部を接続させて、ピボットをずらすというアイデアである。これによりサスペンションの上下動に左右されることなく常に荷重をタイヤの中心に掛けることができ、トルクステアを抑えることが可能とされる。
2リッター直列4気筒DOHCツインスクロールターボエンジンを搭載する | フロントサスにはダブルアクスルストラットを採用 | 用意されるのは左ハンドル仕様のみ |
ちなみに、本国市場に於ける新型メガーヌRSには、サーキット走行も念頭に置いた「シャシー・カップ」と、ロードユース中心の「シャシー・スポール」と称される2つのチューンが設定されているが、現時点に於ける日本仕様としてはアンチロールバーで13%、前ダンパーは35%、後ダンパーを38%それぞれ締め上げ、総体でロール剛性を15%上げているシャシー・カップのみが導入されることになっている。
また、現在のルノー・スポール支持層の志向に合わせ、純然たる日本仕様ながら左ハンドル仕様のみの設定となる。
この車のジャパンプレミアは、フランスの大使公館で開催。しかも、ルノー日産グループの総帥カルロス・ゴーン会長がわざわざ来日してプレゼンテーションを行ったという豪華さからも、ルノーが日本市場に於けるメガーヌRSに懸ける意気込みが判ろうもの。彼らの強い自信を確かめるべく、我々はテストドライブに赴いたのである。
■ホットハッチからスポーツカーに進化
第一印象で先代メガーヌRSと最も変わったと思わせるのは、やはりそのアピアランスだろう。先代メガーヌの3ドアは、リア・サイドウインドーのみ後方に向かってなだらかに下降するユニークなデザインとされることで、クーペ風のグラフィックを形成していたが、最新版メガーヌでは先代のグラフィックをさらに昇華させることで、思い切って3ドアクーペとしてしまっているのだ。
ただ、2世代前の初代メガーヌの3ドアはクーペスタイルを採っていたので、ある意味先祖帰りとも言えるだろう。また、2代目メガーヌで最大のアイキャッチとなっていた「アヴァンタイム」譲りのユニークなヒップラインこそ、より常識的な形状となったが、後方を丸く絞ったリアウインドーとともに、実にセクシーなヒップラインを見せてくれる。
また、サイドスカートは、今世紀初頭のF1でルノーがパイオニアの一端を担った球根型サイドポンツーンを彷彿とさせるほか、後付けのように成形されたワイルドな形状のオーバーフェンダー、ディフューザー型のリアアンダーカバーと一体化された形状のセンターマフラーなどの“スパイス”が振りまかれ、クーペスタイルをよりレーシーな魅力溢れるものとしている。こうして完成したメガーヌRSはスポーツクーペ、さらに言ってしまえばピュアスポーツの雰囲気さえプンプンと匂わせているのだ。
F1マシンの球根型サイドポンツーンを思わせるサイドスカート | リアにはディフューザーを装着 | 先代のメガーヌRS |
一方、インテリアでもスポーツイメージの追求は怠りない。レカロ製の本格的なスポーツシートで武装するほか、シートベルトやタコメーターなどにもルノー・スポールのレーシングカラーであるイエローをあしらい、フランス的なエスプリとレーシーな雰囲気を巧みに演出している。また、シートポジションも実用車ベースのスポーツモデルとしては低めにセットされ、ドライビングポジションはホットハッチ独特のアップライトなものではなく、あくまでスポーツカー的なものとなっている。
さらに、メガーヌRSがコンテンポラリーなスポーツモデルであることは、先だって限定発売となった「ルーテシアRSコンプリート」に先行搭載された「RSモニター」でも感じ取られる。計器盤中央に設けられたモニターで、スロットル開度やブースト圧、トルク/出力、前後左右方向のG、そして0-400mおよび0-100km/h加速タイムやラップタイムなど、スポーツドライブをサポートしてくれる様々な情報をモニタリングできる。
また3モードESPを「SPORTS」ないしは「OFF」に設定している際には、スロットルレスポンスを「スノー」「プログレッシブ」「リニア」「スポーツ」「エクストリーム」の5段階に設定できる機能も標準装備されるのだが、これは単なるギミックを超え、自分好みのチューニングを可能とするもの。ひいては、スポーツカーとしての楽しみの部分をさらに増進してくれるだけのポテンシャルを秘めていると思う。ドライブ・バイ・ワイヤが一般化した現代の高性能車では、今後ちょっとした流行になるかもしれないと感じたのである。
レカロシートを装備する | RSモニターには様々な情報を表示できる | 黄色のステッチが入る内装 |
■ターンパイクが狭く感じるパフォーマンス
今回の試乗会場となったトーヨータイヤ・ターンパイクの大観山ビューラウンジからスタートした直後、筆者は思わず「こりゃ硬いな……」と呟いてしまった。ところが、最初のコーナーを通過しただけで、このハードなサスペンションに意味があることが直ぐに分かってくる。この車を、実用車ベースのホットハッチと見ればハードに過ぎると思われるセッティングも、ピュアスポーツと見れば至極当然なのかもしれない。
それでも、フランス車の本分であるしなやかさを失わないギリギリの範囲で、ロールを抑えてコーナーリングスピードを上げるセッティングとされているのだ。前述したように、現時点に於ける日本仕様の新型メガーヌRSにはシャシー・カップのみが導入されることになっているが、上記のごとく“コアな”ルノー・スポール信奉者に先ず認知を図るには、このようなピュアかつスポーティな仕様でインパクトを与える必要があるとの判断に拠るものだろう。
また、この近辺のアスファルトは若干路面の荒れた部位があるのだが、それでもルーテシアRS用と基本設計を一にするというダブルアクスル・ストラットの恩恵か、トラクションの掛かり具合は非常によく、ちょっと派手めにスロットルを開きつつスタートしても、足がバタついて駆動が抜けてしまうような「お行儀の悪さ」は皆無だった。
さらに、先代のメガーヌRSでは、若干不自然なフィールのあった電動パワーステアリングも、この新型ではかなり改善されており、ダイレクト感も明快に感じられるようになっている。そして肝心のハンドリングも、クイックかつシュア。FWDのイメージを覆すような回頭性の高さも相まって、公道のワインディング程度のペースならば、常にキレイな弱アンダーで回ってくれる。そして、これもシャシー・カップに標準装着されるGKN製ヘリカルLSDの効用なのだろうが、ロードホールディングも素晴らしいもので、どこでも安心してアクセルを踏めるだけのキャパシティがある。
一方このアシのよさにも負けないのが、2リッターDOHC 16バルブターボユニットである。言われなければ、過給機付であることをまったく意識させないほどにナチュラルで鋭いレスポンスや、圧倒的な低速トルクのもたらす使いやすさ、レブリミットは決して高くないが、中速からのびやかに吹けてゆくパワーフィールなど、現代のスポーツエンジンとしては及第点以上のできばえ。こと官能面に特化すれば、仮想ライバルと目されるフォルクスワーゲン「シロッコR」よりも上回っているかにも感じられる。
またエキゾーストサウンドは、フェラーリのような180度スロークランクを持つV8の如きスパイシーなもの。特に加速時に聴こえてくる「キーン」という金属音が混ざると、まるでフェラーリ348に乗っているかのような錯覚を覚えてしまうのだ。
このサウンドと絶対的パワーを満喫しつつワインディングを愉しんでいると、ポルシェやフェラーリなどのスーパースポーツに乗るとしばしば感じる「ターンパイクが狭く感じる」感覚が湧き上がってくるのが分かろう。まさにホットハッチの常識を超えたピュアスポーツ、あるいは、スーパーカーの領分に足を踏み入れてしまったとも思えてしまうほどの素晴らしさであった。
タッチはやや軽いが正確なシフトレバーを操り、巧みなギアレシオを持つクロスレシオの6速MTで、レスポンスに優れた快音エンジンを吼えさせつつ走ると、3ペダルのマニュアルギアボックスの古典的な愉悦に浸ることができるのである。
ルノー・ジャポンでは、新型メガーヌRSのターゲットユーザーについて「40代後半から50代前半のMTが好きなエンスージアスト」を想定しているという。先代メガーヌからの乗り換え需要や、ドイツ製ホットハッチ/スポーツクーペの支持層はもちろんだが、1990年代にアルピーヌV6ターボやA610ターボなどに憧れたフレンチ・スポーツカーのファンに対しても十二分の訴求力がある1台。そう、太鼓判を押してしまいたいのだ。
しかも、価格は極めて戦略的な385万円。仮想ライバルであるシロッコRの515万円はもちろん、メガーヌRSと同じく左ハンドル+6速MTで導入されるプジョーRCZの200HP版よりも格段に安価な価格設定は、これまでのルノー・スポールと同様のヒットを予感させるものと言えるだろう。
そして、このルノー・スポール版に乗ってみると、新型メガーヌという車そのものの総合パフォーマンスの高さもよく分かってきた。来年夏ごろには、大人しいグレードのメガーヌもルノー・スポールの後を追うかたちで導入されることになっていると言う。
さらにはメガーヌRSについても、今回の“エンスー的”バージョンが成功すれば、シャシー・スポールやフルレザーシートを備える右ハンドル版などの輸入も検討しているとのこと。今後もルノーとメガーヌには、是非とも注目してゆきたいところである。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 2月 14日