【インプレッション・リポート】
ボルボ「V60」

Text by 日下部保雄


 「S60」のワゴンバージョンとして登場したのが「V60」で、ボルボのラインアップが分かりやすくなってきた。このところプラットフォームの整理と統合でサイズ感とポジションが明快になってきた。そして当然、V60でもボルボの企業ポリシーである「安全」を軸にクルマ作りが行われている。

V70(左)とV60

ボルボワゴン史上もっともスポーティなデザイン
 もっともこのV60については、これまでのボルボワゴンとはちょっと違う。ボルボのワゴンと言えば、ボクシーなデザインでラッゲージルームの使いやすさと共に実用性を前面に出したデザインが売り物だった。ところが新しいV60は、ボルボワゴン史上もっともスポーティなデザインを与えられたワゴンだ。ネーミングからSportsWagonと銘打っているほどだから、ボルボがV60のデザインにかける意気込みが伺える。

 これまでとは打って変わってラゲッジルームの広さは優先せず、むしろロングルーフを活かしたのびやかなデザインで、全体に流れるようにイメージを与えている。デザイン力で評価の上がるマツダが、アテンザワゴンで試みた手法に似ており、V60もそれと同じカテゴリーに入るだろう。

 フロントはS60と変わるところはないが、サイドにはエッジの効いたウェストラインがボディ後部に跳ね上がるように入っており、強いアクセントとなっている。サイドウィンドーが上下に薄いのがS60/V60の共通の特徴だが、圧迫感を与えないデザインであるのが好ましい。むしろCピラーから後ろのラッゲージルームのウィンドウはさらに後方に向かって絞り込まれており、後端でウェッジラインを形成する。

 多くのワゴンの中でもかなり大胆なデザインと言えるだろう。

DRIVe
T6 AWD R-DESIGN

 インテリアは基本的にはS60と変わりがない。最近のボルボに特徴的なセンタースタッグは車内空間に重苦しさを与えない、優れたデザインだ。メータークラスターにはマルチインフォメーションディスプレイをセンターに配置した一般的なものだが、エクステリアのスポーティなデザインによくバランスしている。太いAピラーとBピラーは非常に安心感がある反面、視界が若干遮られるのも事実。キャビンからも圧迫感はないが、開放感との微妙なバランスの上に構成されたデザインだ。うまいところに落ち着かせたというのが実感だ。

 ちなみに後方をルームミラーを通して見ると金魚鉢を見ているような感じになるが、予想したより後方視界は確保されておりあまり不自由は感じない。むしろ後ろが長いのでバックして駐車するときは、斜め後方視界が限られてやや不便だ。もっともこんな場面でもバックビューモニターが普及したので、試乗中難儀を感じたことはなかった。

DRIVeのインテリア
R-DESIGNはインテリアもスポーティーな味付け

1.6リッターと3リッターのターボエンジン
 さて試乗したV60は2モデル。1.6リッターターボの「DRIVe」(こちらはFF)と3リッターターボの「T6 AWD R-DESIGN」である。

 メインとなるのはDRIVeなのでこちらを中心に解説していこう。

 エンジンは直列4気筒の1.6リッターターボで、出力は132kW(180PS)/5700rpm、240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpmで発生する。エンジンの特性は低回転型で最大トルクは1600~5000回転で出せるので、排気量以上に力強く感じるだろう。最高出力も5700回転で出ているので、このことからもこのエンジンの狙いどころがわかる。スポーティに引っ張っていこうとするよりも日常的な使いやすさを中心にエンジンチューニングがされている、ドライバビリティに優れた実を取ったエンジンだ。

 このエンジンは直噴化でターボとの相性に優れている。そしてブレーキエネルギー回生システムでオルタネーターの出力を抑え、若干の燃費改善を行っている。このエンジンはS60と全く共通だ。そしてS60同様にV60もエコカー減税対象車でもある。

 一方のT6になると、3リッターの直列6気筒エンジンを横置きに搭載している。この場合のエンジンも過給されて高出力エンジンとなっている。ロングストロークの直6は224kW(304PS)/5600rpm、440Nm(44.9kgm)/2100-4200rpmで1800㎏のボディーを引っ張る。T6と組み合わされるAWDシステムはボルボが使い慣れたハルデックスを用いたスタンバイAWDだが、レスポンスは非常に速く、FFベースであることを感じさせることはほとんどない。

DRIVeの直列4気筒1.6リッターターボエンジンT6 AWDの直列6気筒3リッターターボエンジン

 

安全装備のセンサー類はフロントガラス上部にある

 そしていかにスタイリッシュなV60といえどもボルボである以上、安全は決して譲れない。S60でも導入されたシティ・セーフティとヒューマン・セーフティはV60でも受け継がれている。25万円のセーフティ・パッケージのS60での装着率は、70%に及ぶとされている。

 復習しておくとシティ・セーフティはレーザーセンサーを使って時速30km/h以下で障害物を感知した時にブレーキを自動的にかけるシステムだ。15km/h以下なら衝突を回避できる。ヒヤっとした人ならこの装置の有効性は身に染みて分かるはずだ。

 ヒューマンセーフティは単眼カメラで人間を検知し、衝突が予測される場合には自動的にブレーキをかける。こちらはミリ波レーダーとの組み合わせで機能する。時速35km/h以下なら警報を発し、ぶつかる瞬間には1Gの強力なブレーキをかける。

 セーフティ・パッケージには全車速追従機能付きのオートクルーズ(30km/h~200km/hまで追従可能で0.4Gの自動ブレーキをかける)、斜め後方に後続車が死角に入った場合にインジケーターが点灯する「BLIS」(ブラインド・スポット・インフォメーション・システム)、レーン逸脱警報装置などが含まれるので、かなりお得なパッケージとなる。

 ボルボの安全思想は、ボルボ車に乗るすべての人が事故に合わないようにするクルマ作りにある。そのために早い時期から安全技術には貪欲に取り組んでいる。

実用のDRIVe、スポーティーなT6
 1.6リッターターボのDRIVeは1560㎏(セダンよりも20㎏重い)の重量で馬力荷重は8.67㎏/PSとなる。しかし低速のトルクがたっぷりしているので、発進から速度が乗るまで鋭い加速ができる。

 むしろスタートでは、ターボ過給の強烈なトルクで上り坂で不用意にアクセルを開けると、フロントタイヤのホイールスピンを誘発する。タイヤは215/50 R17を装着しているが、タイヤのキャパ不足というよりも、低速回転のトルクの上昇が急激であることを物語っている。

 エンジン出力はパワフルだが、回転の伸びで出力を稼ぐタイプではなく、分厚いトルクで実用域で粘りのあるエンジンセッティングになっている。低速でのややセンシブルなアクセルを除いては使いやすいパワーユニットだ。エンジンの音もよく抑えられており、不快な音はキャビンに入ってこない。エンジン本体からの音質もわるくない。

 一方のT6の出力特性のマナーは予想以上によい。6気筒らしいストレートな回転の上昇とフラットな低速トルクの出方など、もっと強烈なトルクを持て余すかと思ったが、微低速回転でのアクセルレスポンスが適度にいなされており、さらにはAWDの駆動方式のために、発進時にホイールスピンしたり、ハンドルが左右にとられるトルクステアが起きたりもしないので、パワーの割には扱いやすい。エンジンノートも硬質な回転フィールとやや高周波の音が気持ちよい。

 ただしT6 R-DESIGNは235/40 R18と大きなタイヤを履いているので、路面のわだちなどでは若干のハンドルとられ、ワンダリングがある。この点ではDRIVeのほうがリラックスしてハンドルを握れる。

 シャシーは、R-DESIGNは専用スポーツサスペンションで最もハード。T60はスポ-ティーなセッティング。DRIVeはベーシックで少しソフトな設定となっている。

 ここでスポーツモード付DSCTに触れておこう。エンジンのトラクションコントロール、コーナリングトラクションコントロール、スタビリティ・コントロールと安全デバイス満載だが、それらはボルボ流にアレンジされており、例えばスタビリティ・コントロールではロールレイトを計り、さらに安全マージンとしてフィードバックしている。またコーナリングではトルクを外側タイヤにかけてコーナリングしやすくしている。これらがボルボに新しいハンドリングを与えている。

 ハンドリングはボルボの場合はあまり得意種目ではないと思われているが、T6はライントレース性に優れており、ドライバーが狙った通りのラインを、大柄なV60がきちんと通過していく。さすがに軽快感はないがグリップ力は高く、オン・ザ・レール感覚でドライブできる。

 一方のDRIVeはT6ほどのグリップ力はないが、小中舵角でのグリップ感はよいので、意外と軽く走ってくれる。ただハンドルを切り始めなどでややピッチングのある動きをするので、FRドライブのようなスッキリとしたフィーリングにはならない。

 いずれにしてもコーナリング中のギャップなどがあると、リアサスペンションが多少暴れるのはS60/V60などのボルボのこのプラットフォームの癖でもある。

 乗り心地はDRIVeは素直で多少のハーシュネスを伴うものの、2776㎜のホイールベースと1588㎜のワイドトレッドで大きな揺れはそれほど強くない。タイヤの大きなT6ではハーシュネスは強めになるが、こちらも不快感は少なく、総じて快適な乗り心地だ。よりソフトなタッチを望むならDRIVeが、もっとスポーツライクなハンドリングがほしければT6 R-DESIGNがベターだと思う。

 ちなみにDRIVeのトランスミッションはボルボ自慢の6速のデュアルクラッチATで、これはS60の同エンジンモデルにも搭載されている。湿式のデュアルクラッチとこのエンジンとの相性はよく、変速ショックはほとんど感じず、言われなければトルコンATと区別がつかないほどスムースだ。

 一方、T6は6速トルコンATで、もちろんマニュアル操作も可能なために、ドライバーの意思でエンジンブレーキを必要とする時などには都合がよい。

 さてリアシートはたっぷりしており、レッグルームもヘッドクリアランスも余裕がある。クッションストロークはソフトだが、腰がありパッセンジャーのお尻のすわりはよい。しかもワイドボディーを活かして幅もあるので、さらに広々感がある。

 肝心のトランクルームは後半が絞り込まれたデザインのために広大という感じではないが、実用上は問題はないだろう。横幅もそこそこあるので、ゴルフバッグなどの長いものもフルサイズが2個、ミドルサイズが2個搭載できる。また欧州車らしい配慮はトランクルームの床面が一部立ち上がり、仕切りとなるので、荷物を放り込んでもおいてもその荷物が暴れないですむ。

 もちろんリアシートバックは分割で倒されるので、スキーなどの長尺ものを搭載してもパッセンジャー空間はきちんと確保されている。助手席のシートバックも倒せたり、頑丈なドッグネットを備えるのも、ボルボらしい。

 ボルボのワゴンで最もスポーティでデザインコンシャスなのがV60シリーズだ。

 


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2011年 6月 15日