【インプレッション・リポート】 トヨタ「プリウスα」 |
3.11以降、日本メーカーの外への発信が止まってしまったようになっていたが、ようやく新型車の発表、そしてプレス向けの試乗会が行われるようになった。インポーターの動きはそれほど変化はなかったが、技術立国日本のメーカーが動き出したことの意味は大きい。
日本メーカーの口火を切ったのはトヨタで、すでに発表していたプリウスブランドのミニバン&ワゴン「プリウスα」である。このプリウスαを皮切りに、いずれも震災の影響で伸び伸びになっていたホンダ「フィット シャトル」、マツダ「デミオ」のスカイアクティブなどが登場する予定だ。
■ベースはプリウスだが別物
プリウスαの概略を説明しておこう。αはネーミングのとおりプリウスをベースとしているが、でき上がったクルマは別物になっている。
プラットフォームはプリウスを踏襲しているのでこの面で完全な派生車だが、サイズは一回り大きい。プリウスに対して全長は4615mmで155mm長く、ホイールべースは2780mmで80mmも伸ばされている。この延長分は3列シートやラッゲージルーム拡大のために使われる。また全幅も1775mmと35mm広げられているが、これもミニバンの居住性を稼ぐためだ。ちなみに全高は1575mmで+85mmの大幅な拡大となっている。このクラスのトヨタの代表的なミニバン、ウイッシュが4590×1720×1590mmなので、ほぼ同じサイズ感になるだろう。
プリウスはシャープなラインで構成されており、ある意味完成されたデザインとなっているが、プリウスαはこのデザインコンセプトを受け継いで、特にフロントエンドやサイドウィンドーなどはプリウスのイメージを色濃く踏襲しているので、ワゴンともミニバンとも違うユニークなデザインを採ることになった。もっとも全高が1490mmのプリウスと比べるとかなり背が高いので、ずんぐりとした印象は免れない。
プリウスのプラットフォームはかなり多くのトヨタ車に展開されており、トヨタにとって使い慣れたプラットフォームということになるだろう。サスペンションレイアウトはフロントがストラット、リアがトーションビームでこれもプリウスと共通だが、トレッドは拡大されてフロントが15mm、リアが25mm広い1540/1545mmとなっている。サスペンションは重量増、重心点の上昇に伴いα用にチューニングされているのは言うまでもなく、一部補強されている。
上段が7人乗り、下段が5人乗り。外観からは区別がつかない |
パワートレーンはプリウスと共通の直列4気筒DOHC 1.8リッターアトキンソンサイクルにTHS(トヨタ・ハイブリット・システム)-IIを組み合わせる。73kW(99PS)/5200rpm、142Nm(14.5kgm)/4000rpmのエンジンと、60kW(82PS)、207Nm(21.1kgm)のモーターとのコンビネーションだ。
この出力自体はプリウスと共通だ。ただプリウスαはプリウスより約100㎏ほど重くなっているのでハイブリットの駆動用モーターに負荷がかかる。このモーターの冷却方法はプリウスでは自然空冷に近いものだったが、プリウスαでは水冷式になり、熱の負荷から防御している。また相対的な駆動力の不足を補うために最終減速比が3.26から3.704に落とされている。しかし基本的なハードウェアの変更はこの程度だ。
ちなみにプリウスαの重量は1450㎏から1490㎏の幅にとどまる。
17インチタイヤを履いた「G ツーリングセレクション」 |
■バッテリーが違う5人乗りと7人乗り
ここでプリウスαの車種構成を説明しておこう。αには5人乗りのワゴンと7人乗りのミニバンがある。
実はこの2種類のモデルで駆動用バッテリーの搭載位置に差がある。5人乗りはプリウス同様のニッケル水素のバッテリーをプリウスと同くリアのトランクルーム床下に配置するが、7人乗りは、バッテリーをセンターコンソール部に移して、3列目シートのスペースを確保している。この位置では大柄なニッケル水素バッテリーを配置することはできない。そこで小型でも大容量の電気を出し入れできるリチウムイオンバッテリーを積んでいる。
軽量なリチウムイオン+3列目シートの組み合わせの7人乗りとニッケル水素の5人乗りでは重量差は殆どなく、10㎏の差で7人乗りが重いにとどまる。また5人乗りと7人乗りでは前後重量配分は殆ど変らないという(もちろん空荷の状態で)。
3列シート7人乗りのインテリア | ||
7人乗りは1列目センターアームレスト下にリチウムイオンバッテリーを積んでおり、ラゲッジルーム床下にも物入れがある |
5人乗りのインテリア。7人乗りも5人乗りも、2列目シートは180mm前後にスライドし、リクライニングもする。5人乗り2列目シートの後ろにあるくぼみは傘置き |
2列目シートの背後にバッテリーを積むため、センターアームレスト下には深い物入れが付く(左)。ラゲッジルーム床下を開けると、バッテリーの一部がのぞく(右) |
またグレードとしては「G」と「S」があり、Sは5人乗りのワゴンだけ、Gは5人乗りのワゴンと7人乗りのミニバンが用意される。
さらにGにはツーリングセレクションがあり、こちらは標準の205/60 R16から215/50 R17へと大きなタイヤに変更され、サスペンションチューニングも専用に施されている。
さて、ドライビンポジションだが、全高の高いαはヒップポイントが30mm上がっているので、まさにミニバン的な見下ろし感のあるポジションになる。
インテリアもプリウスをモチーフとしているが全く異なる。センターメーターはナセルに収められているが、そのフードが大きく視界に入ってくるので、もう少し低くしたいところだ。メーターの視認性ではカラーグラフィックをポイントで使っており、エコメーターなどが見やすくなっており、各メーターも見やすい配置だ。
最小回転半径は明らかに大きく、17インチタイヤのGツーリングでは5.8m、16インチタイヤでは5.5mなる。
プリウスのイメージを継承したインテリアだが、センター部分は電源スイッチ、シフトレバーなどの駆動系を操作する部分がシルバーに、エアコン操作系やインフォテインメントディスプレイがある部分を黒に塗り分けている。またセンターメーターの表示が異なる | ||
インフォテインメントディスプレイの表示 |
■快適性を重視
さて多人数乗車を前提としているプリウスαは、快適性に重点を置いて開発されている。
まず感じるのは静粛性の高さだ。プリウスでは、低速では電池だけで走るので、パワートレーンは無音状態になりロードノイズが耳に入る程度だが、速度が上がってくると、後ろから入ってくるロードノイズが大きくなり、前後席では場面によっては会話がしにくい時もあった。
αでは遮音材の配置が巧みになり、ロードノイズが低下しており、後席でも耳元から入ってくる音やルーフからの音がよく抑えられている。高速ツーリングでも車内のノイズバランスは適切だ。ちなみに風切音も小さい。
さらに乗り心地はこのプラットフォーム特有のゴロゴロ感はあるが、ホイールベースの長いことを活かしたダンパーセッティングとバネ上振動制御が効いている。このバネ上振動制御は、路面の起伏に応じて駆動用モーターのトルクを変動させて、ピッチングを抑える方向に働かせ、車両姿勢をフラットに保つ仕掛け。モーターのトルクを変えるといってもドライビングを邪魔するものではなく、全くその動きを感じることはできなかった。
そしてミニバン/ワゴンらしいフラットな乗り心地を実現している。ドライバー席だけでなく、2列目もなかなか快適だ。
大人の使用にも耐える3列目シート | |
16インチタイヤ。試乗車はヨコハマタイヤのアドバンdBを装着 | 17インチタイヤ。試乗車はトーヨータイヤのプロクセスR35を装着 |
ついでに言うと3列目シートは補助席的な作りではなく、左右間隔も適度で、さらにつま先が2列目シートの下に入るので、大人でも十分に使用に耐えられる。さらに2列目シートは1列目よりも45mmヒップポイントが上げられているので解放感が高く、3列目も2列目より45mm上げられているので3列目に座っても閉塞感はない。そして170cmの筆者がどのシートに座っても、ヘッドクリアランスは余裕があった。
ただタイヤサイズとそれに合わせたサスペンションのチューニングによって、17インチのツーリングセレクションは段差を乗り越した時に強めのショックを感じ、さらに路面の荒れたところではゴツゴツしたショックが伝わってくる。
標準の16インチタイヤはタイヤ剛性が高めだが、さまざまな路面を平均して乗り心地は快適だ。特に音の面でもロードノイズが抑えられており、ノイズ、乗り心地の両面でバランスは優れている。
■走行フィールは5人乗りも7人乗りも同じ
ハンドリングは、キビキビ感のあるプリウスに比較すると、全体に動きはミニバンらしくソフトなハンドリングになっている。応答性はスッと向きを変えるプリウスに対して、重心高が19mm高いαでゆったりとした反応になっている。この応答性をプリウスのレベルにすると、ドライバーはともかく乗員にとってはよく揺れるクルマになってしまう。とは言うものの、ドライバーが望むだけの回頭性は十分で、ストレスなく市街地からワインディングロードまでカバーできるハンドリングが与えられている。
こちらも17インチタイヤのツーリングセレクションと16インチタイヤでは異なる性格が与えられている。ハンドルに対する反応は16インチのほうが速く、車体のロール量ともバランスがよく、自然なフィーリングで好ましい。ハンドルの切り返しなどでの反応も適度で扱いやすく、タイヤとサスペンションのマッチングも好ましい。
一方のツーリングセレクションでは、ハンドル応答性は落とされているがグリップの絶対値は16インチよりも高い。50扁平タイヤのポテンシャルを生かしたコーナリング性能だが、乗り心地などの快適性とのバランス点を高いレベルで収束させたチューニングだと思う。
樹脂パノラマルーフはG ツーリングセレクション・スカイライトパッケージに標準、その他のグレードではメーカーオプション |
メーカーオプションのパノラマルーフだが、これまでのガラスルーフを採用した場合、重量増が悩みの種だった。もっとも軽くしたいクルマのてっぺんに、重いものを置かなければならないので、ハンドリングにも大きな悪影響を与えるからだ。αのパノラマルーフはトヨタ初の樹脂製で、ガラス製に対して40%も重量が軽減されている。αでは前後席に配置されているので、重量増は大きな問題だったはずだ。ノーマルルーフに対して20kgの増加である。
このパノラマルーフ装着によるボディー剛性の違いも興味があるところだが、ミニバン/ワゴンのαではほとんど違いは感じられなかった。
同時に5人乗りのワゴンと7人乗りのミニバンでの走行フィールの違いも大きな違いはなく、日常的な使い方での差は無視してもいいだろう。つまりどちらを選んでもドライブフィールに大きな違いはないということだ。
興味深いのはエネルギー回生が非常に速いことだ。特に小型のリチウムイオンバッテリーを搭載した7人乗りはかなり速く充電できる。
THS-IIのシステムは新型車が登場するたびに緻密なエネルギー回生制御が進められ、実用燃費は向上している。重量が重いαはプリウスほどの燃費は出せないが、それでもこのクラスのミニバンとして秀逸であることは間違いない。
受注も好調で、車種によってはすでに1年待ちの状態という。5人乗りSで250万円から、7人乗りでは280万円からのプライスタッグがつけられているが、その価格に見合うだけの価値はあるだろう。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 6月 20日