【インプレッション・リポート】
BMW「アクティブハイブリッドX6」

Text by 飯田裕子


 アクティブハイブリッドX6は日本で販売されている20車種を超える国内外のハイブリッドモデルの中でも、極めてユニークなモデルと言えそうだ。というのもこのアクティブハイブリッドX6は同シリーズのガソリン最上級グレード(Mモデルを除く)であるxDrive50iにも搭載されている4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンを採用し、エンジンとモーターを組み合わせたパワーはなんと485PS!

 日本でハイブリッドというと、プリウスに代表される国産ハイブリッドの印象が強いはずだ。それらはさほど大きくない排気量のエンジンにモーターを組み合わせ、走行状況によってそれぞれの美味しいところを使うことでCO2の排出量はもちろん燃費に優れたクルマを追及している。この燃費効果が日本のハイブリッド車に対するお株も認知度も引き上げたと言っても過言ではないだろう。

 近年、ハイブリッド車の入口はココにあったのだが、車重の重いモデルほど発進や加速時にモーターの駆動力を利用するメリットは大きく、国産でもレクサスなどがモーターアシストを採用しアイドリングストップ、エネルギー回生システムなども使って燃費向上を図っているし、ポルシェやフォルクスワーゲンもフルハイブリッドのSUVを発売している。

 アクティブハイブリッドX6の燃費も、同じエンジンを搭載するX6 xDrive 50iと比べ約20%向上しているが、周囲の他ハイブリッドと比べれば圧倒的にパワフルなパフォーマンスに目が向く。プリウスと類似するシリーズ・パラレル式のハイブリッドであり、モーター単体での走行も可能としながら、圧倒的なパワーを発揮するエンジンの存在感があまりにも強いからだ。

 BMW初の量産型フルハイブリッドとなるアクティブハイブリッドX6は、これまでもエンジンを主役とし「駆け抜ける歓び」を提唱してきたBMWらしいと言えるが、単にそれだけでは語るに終われない完成度の高さを目や耳、そして体で感じ、そのユニークさを実感することができる。

ハイブリッドシステムは2モーター
 現在、BMWには7シリーズ、X6の2モデルにハイブリッドがあるが、そのシステムは異なる。

 「アクティブハイブリッド7」(7シリーズ)はエンジン+シングルモーターに8速ATを組み合わせたパラレル式ハイブリッド。エンジンとモーターは直結されているため、エンジンを止めた状態(=モーターのみ)での走行はできない。

 一方、アクティブハイブリッドX6はシリーズ・パラレル式ハイブリッドタイプだ。シリーズ式のようにエンジンが発電機の役割を担い、電動モーターによって走行(駆動)できるし、パラレル式のようにエンジン、モーターでの単体走行、エンジン+モーターという混合走行も行える。

アクティブハイブリッド7(右)とアクティブハイブリッドX6アクティブハイブリッドX6(奥)は2モーター+ニッケル水素だが、アクティブハイブリッド7は1モーター+リチウムイオンアクティブハイブリッドX6のパワートレーン

 300kW/407PS/5500-6400rpmを発揮する4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンと、67kW/91PS、 63kW/86PSを発揮する2つのモーター/ジェネレーター(発電機)、そして2.4kWhのニッケル水素バッテリーを組み合わせたシステムを搭載。モーターが発電はもちろん駆動も行い、無段変速機(ECVT)の役割も担う。アクティブハイブリッドX6には4段の固定ギヤに高速用/低速用の2パターンのECVTを変速機能に設けているが、ドライバーにとっては擬似的に設定された7速ギヤにより、7速ATのような変速感が得られる。

 このハイブリッドシステムは「2モードハイブリッドシステム」と呼ばれ、GM、ダイムラー、BMWの3社で共同開発されたことでも話題になっていた。BMWでは「2モードアクティブトランスミッション」と呼んでおり、EV走行モード(低速走行時)、エンジンをメインにして走行するモード(高速走行時)の2モードを、2つのモーターとエンジンを走行状態に応じ効率よく使って実現している。

 出力の大きい方のモーターが主に走行に使われ、出力の小さい方は発電を担う。しかし、フル加速となると両方のモーターがエンジンパワーに加勢し、他のハイブリッドモデルでは味わえないパワフルな走行が味わえるのだ。

スムーズな走行モードの切り替わり
 ボディーサイズは他のX6モデルと変わらぬ4885×1985×1690mm(全長×全幅×全高)。車重の2610kgは同エンジンを搭載するX6 xDrive50iと比べると280kgほど重い。都内のコンビニの駐車場から運転を開始した私は、ハイブリッド車として“お約束の”と言うべきモーター走行でスタート。そのまま数百m先の信号まで商店街の中を走り、大通りに出てアクセルを踏み足すまでエンジンがかかることはなかった。

 この大きなボディーが、音もなくバッテリーの電力を使ってモーターのみで走りだす(=EV走行)。モーター走行がすでに珍しい体験ではない私でも、BMWの重厚なボディの中で感じたこの静寂に新鮮な上質さを覚えずにはいられなかった。

 このようなモーター走行は走行条件にもよるが、60km/h以下で2.5kmの走行が可能だ。実際に週末のやや混雑した一般道を走行中、私の運転するアクティブハイブリッドX6の車速は20~50km/hでこの混雑区間の多くの場面でモーター走行した。周囲のクルマの流れに合わせて少し多めにアクセルを踏み足すとエンジンが走行に参加するが、再び緩めればモーターのみの走行に切り替わる。

 一般道の通常走行においては、エンジンを積極的に使いタイヤに駆動力を伝えるとともに、バッテリーの充電を行う。そしてアクセルを緩めたりオフ(踏み込んだアクセルを完全に戻す)したりすると、エンジンからの動力供給はストップし、すかさずエネルギー回生が行われる。ちなみに2つのモーターを持つアクティブハイブリッドX6は両方がオルタネーターとして機能するため、より多くのエネルギーを回収することもできる。

 このように通常パターンでの走行では、エンジンがストップし、再びエンジンが作動するというやりとりがかなり頻繁に行われるのだが、切り替わりはモニターをチェックしていなければ気付かないほどにスムーズ。巧みな制御技術に感心する場面の1つである。加えて街中や渋滞走行ではストップ&ゴーを繰り返すことも多く、ハイブリッドのブレーキ回生時のブレーキフィールも気になるところだが、このクルマの減速から停止に至るブレーキフィールにはほとんど違和感がない。とても初登場のフルハイブリッド車とは思えぬ仕上がりのよさをブレーキフィールからも感じることができた。

 一方、高速走行でアクセルをめいっぱい踏み込むと、アクティブハイブリッドX6のボディーは、シートに押し付けられた私の体もろともズドーン&ズバババ~ッと加速する。カタログスペックでの0-100km/h加速は5.6秒! 体感的には速さよりもパワフルさに圧倒される印象が強い。このときのハイブリッドシステムはエンジンはもちろん2つのモーターが充電をやめ「eブーストモード」に入り、すべての動力をタイヤへと伝える。加速に必要なパワーはモーターの駆動力を利用するため、ズバババ~と走行している最中でもエンジン回転数を抑えることができ燃料消費を抑えることができるのだ。

 

ハイブリッドを忘れる完成度の高さ
 車重増加に伴うハンドリングの犠牲はほとんど感じられなかった。いくらパワーやトルクがあってもスムーズなコーナリングができなければBMWらしくない。アクティブハイブリッドX6のタイヤは、スポーツモデル「X6M」と同サイズのフロント275/40 R20、リア315/35 R20のランフラットタイヤを装着。サスペンションやブレーキサイズなどはX6シリーズと共通だが、アクティブハイブリッドX6にはxDrive 50iに標準採用されているトルク配分システム「ダイナミック パフォーマンス コントロール」は装備されない。

 しかしながらコーナーでタイヤからボディーに至る一体感を乱す素振りはない。攻めるような走行をしたわけではなかったが、これだけの巨体でも遠心力でドライバーのステアリング操作を悩ますこともない。もともと足回りに若干硬めな印象のあるアクティブハイブリッドX6は、例えば高速道路のランプウエイなどでもサスペンションをストロークさせてしなやかにコーナリングするというよりも、むしろ一塊のボディーがフラットな姿勢で曲がっていく。ちなみにこのフラットなライド感は平坦路でも変わらず、乗り味の統一感が感じられるところでもあった。

 また今回、電動パワーステアリングを採用しているのだが、走行シーンや速度が変化してもステアリングフィールに違和感がほとんどなかったというのも加筆しておきたい。ドライブフィールというのは回生ブレーキにしてもステアリングフィールにしても、こういった細かな仕上げの積み重ねで完成度が上がるというもの……だと思うのだ。その点もしっかりとチューニングされているというわけだ。

 ガソリンモデルとの外観の大きな違いは一点。エンジンルームに追加されたハイブリッドシステムによって、エンジンフード(ボンネット)中央が膨らんでいる。その他はバッヂによるアピールが少々…。

 インテリアではタコメーターの下にバッテリーの充電状況とモーターの出力状態を示すアナログ式の表示がある。さらにセンターパネル上8.8インチの液晶モニターの地図などを表わす画面が分割表示されており、右側2/5ほどの面積にはスケルトンでシステムの作動状況をリアルに示す画面が追加されていた。

 この画像が実によくできている。BMWでは7シリーズからカラー液晶モニターのサイズが大きくなり、鮮明な画像を映し出すことができるようになった。それは地図やトランスミッションのセレクターレバーをR(リバース)に入れた際に映し出されるバックビューの画像まで、極めて色鮮やかに見せてくれる。アクティブハイブリッドX6ではこの画面で走行状況によって常に変化するエンジンやモーターの動力の働き具合を知ることができる。

 例えばエンジンを使った動力出力をタイヤに伝える際はレッド、モーターの場合は動力の出し入れはブルーというような感じだ。アクセルをめいっぱい踏み込めばレッド&ブルーがドドドーッとタイヤへと動力を発し駆動力を与えてくれることがわかる。ドライバーにはあまり頻繁にチェックしてほしくはないが、このシステムの作動表示には一種のエンターテイメント性すら感じられる。それはこの液晶モニターの鮮明さとリアルさ、そしてイラストのセンスがよくカッコイイ表示のおかげだろう。冒頭でこのハイブリッドの完成度の高さを目で体感できるというのはこういう意味なのだ。

 ラゲッジスペースは床下にバッテリーを搭載。ハイブリッドモデルであってもラゲッジスペースが犠牲になっていない。4人乗りの室内の居住スペースについてもボディーサイズに対する期待を裏切ることはない。後席にも若干だがリクライニング機能がある。そしてハイブリッドシステムを採用した走行中の静粛性はガソリンエンジンのモデルよりも高く、穏やかで上質な快適さをも高めている。

 アクティブハイブリッドX6の「駆け抜ける歓び」は鳥肌の立つようなパワフルな加速感が期待通りであり、モーター走行の静寂はBMWに新しい乗り味をもたらしてくれた。そしてこの静寂の時間がなかったら、ハイブリッドであることを忘れてしまいそうなほどシステムの完成度は高い。ハンドリングは歓びよりも安心感が強いが、それこそが乗る人すべての移動する歓び(楽しさ)を与えてくれるはずだ。

 燃費は欧州モードで約10.1km/L。実走行では8km/L代の後半くらいだった。これは同クラスの欧州SUVハイブリッドの中では決して高い数値ではない。環境性能だけを高めるならエンジンのダウンサイジングとハイブリッドシステムを組み合わせることも考えられるが、それなら他メーカーもすでにやっている。

 BMW初のフルハイブリッドモデルは世界で最もパワフルなハイブリッド。今回のモデルの完成度の高さにも好感を抱くことができたからか、BMWのハイブリッドの入口がココにあってもいいのではないか……と思えたのだった。


インプレッション・リポート バックナンバー
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2011年 6月 22日