【インプレッション・リポート】 ベントレー「コンチネンタルGT」 |
フォルクスワーゲン・グループの加護のもと、かつての盟友ロールス・ロイスと袂を分かち、新たな道を歩み始めて10余年を経たベントレー。歴史的な成功を上げてきた同社の新世紀を担う中核モデルとして2003年にデビューしたコンチネンタルGTは、「4WDシステムを持つ全天候型超高級グランドトゥアラー」という新たなジャンルを開拓することに成功した。全世界での販売台数は約2万3000。それまでのベントレーが生産してきた全モデルの累積生産台数をも上回るという素晴らしい成果を上げてきたのは、当サイトでもお伝えしてきたとおりである。
そして昨年の2010年のパリ・サロンにて、2代目にフルチェンジ。この春から日本市場でも正式なデリバリーが開始された新型コンチネンタルGTは、入念なカスタマーリサーチを行った結果、あくまでキープコンセプトを護持したうえで、徹底的なリファインを施すというモデルチェンジ様式を断行することになった。
■似て非なる2代目
ベントレー空前のサクセスストーリーを完全継承すべく誕生した2代目は、一見したところ初代と大きくは変わらないアピアランスを持つことから、特に写真を見ただけではマイナーチェンジと勘違いしてしまうのも無理は無いかもしれない。
しかし、現物を目の当たりにすると、まさに「似て非なるもの」という言葉がピッタリくる。1950年代に生産されたベントレーのアイコン「Rタイプ・コンチネンタルH.J.マリナー製スポーツサルーン」をモチーフとした基本的プロポーションは不変だが、従来は数枚に分割していたアルミ板を摂氏500度まで加熱してから、空気圧で成形した1ピースのパネルに置き換えるという、当代最新のテクノロジー「スーパーフォーミング」の効力で、より複雑かつシャープなエッジを強調した造形が可能になったことによって、グラマラスでスタイリッシュな印象を格段に強めた。
また、インテリアのデザインについてもキープコンセプトは維持され、初代と同様ベントレー伝統のエンブレム「ウイングドB」をモチーフにした、センターコンソールを中心にT字型の左右対称とした造形を基調とする。しかし、より立体的でスタイリッシュな造形とされた上に、携帯電話など手元の小物を置くスペースが格段に増やされたのは、非常に歓迎すべきことであった。
一方、シートバック背面の意匠を「コブラデザイン」としている。これは肩の部分を広くする一方でウエスト部分を狭く絞ったデザインで、後席のレッグルームを46mm広げることができたとの由である。さらにはシートベルトのアンカーを、従来型のシートバック組み込みからリアウインドーのサイドに移したことで、シートユニット自体の小型化にも成功したとのこと。実際にリアコンパートメントに座ってみると、フル4シーターとしては若干の圧迫感を感じた従来型コンチネンタルGTに対して、実質的なスペースはもちろん、前方の視界でもかなり改善されたことが分かった。
そして、ベントレーにとっては重要かつ伝統的なファクターである内装のフィニッシュについても、従来型以上に本物のマテリアルにこだわっていることが伺われる。2月に行われたこの車の日本発表イベントに際して来日したインテリアデザイナー、ロビン・ペイジ氏に尋ねたところによると「金属に見えるところには金属を、ウッドに見えるところにはウッドを」というモットーを掲げ、ベントレーの身上であるフィニッシュをさらにブラッシュアップしたというが、その成果は間違いなく現れていると言えるだろう。
また、レザー表皮の下にフォーム材のクッションレイヤーを設けた「ソフトタッチ構造」を採用したシートは、ソフトな触感でよりゴージャス感を満喫させてくれる。そしてこの構造を採用したゆえに、長期間に亘って使用した際の耐久性にも優れているとのことなのである。
■スポーツカー的要素が飛躍的アップ
今回のテストドライブでは、まず都内の一般道を走り、そののち従来からコンチネンタルGTが最も得意とするステージであった高速道路に車を進めることにした。
新型コンチネンタルGTのW型12気筒6リッターツインターボユニットは、従来型GTと基本的には同一のものだが、最新のエンジンマネージメントシステムを採用したほか、可動部のフリクション低減と軽量化により、対従来型GT比でパワーで15PS、トルクでも50Nmに及ぶスープアップを達成。実に575PSの最高出力と700Nmの最大トルクを得たとされている。
ところが、元来のパワーが圧倒的であったがゆえに、わが国の交通法規を頭の片隅に入れてスロットルを踏んでいる分には、市街地はもちろん、たとえ高速道路であっても大きな差は感じられなかった、というのが正直な感想であった。
しかしその一方、新型で大きく変わったと思わせるのはエンジンフィール。特にサウンドである。これまでのベントレーW12エンジンのフィールは、同じ12気筒でもフェラーリやランボルギーニのように「カーン」と一気呵成に吹け上がるような陽性のものに対し、地の底から巨大な力が湧いて出るようなダークな感触を特徴としてきた。また、あくまでシルキーかつエキサイティングなV12に比べ、ハスキーなビート感を感じさせるW12サウンドも相まって、その世界観は独特の底深さを感じるものとなっていた。
その深遠なキャラクターは新型コンチネンタルGTでも基本的には変わらないのだが、レスポンスや吹け上がりが少なからず軽くなったように感じられたのだ。また従来の重低音に加え、アルプスホルンのごとき朗々とした咆哮がかすかに聞こえてくるのも、エンジンフィールを格段にスポーティなものとしている大きな要素と思われる。
スーパーカー的な気質が際立つパワーユニットに組み合わされるトランスミッションは、先だって発売されたコンチネンタル・スーパースポーツで初めて導入された「クイックシフト」。従来と同じZFの6速ATをベースに専用開発したもので、変速スピードを先代GT比で約半分に落とし、1度に2速のシフトダウンも可能。
また、シフトダウン時に自動的にエンジン回転数を合わせるブリッピング機能も盛り込まれている。上質なタッチのパドルをマニュアル操作することにより、シフトアップ&ダウンともによくできた2ペダルMTのごとき迅速な変速スピードを披露する一方、トルクコンバーターゆえのスムーズな変速マナーも兼ね備える。
自動ブリッピング機能はスーパースポーツのそれほどスポーティなセッティングではなかったが、このクラスの車としては充分なもの。どちらかと言えばジェントルなイメージの強いトルクコンバーター式ATと言えども、アストンマーティンの「スイッチトロニック」などにも大きく遅れをとっているとは思えなかったのである。
このように、高速道路ではパワートレーンの熟成ぶりに加え、従来型GTから変わらぬ圧倒的なスタビリティと走行マナーのよさに目を見張らされた新型コンチネンタルGT。しかし、この車の新型たる所以を何より感じたのは、意外にもワインディングに足を踏み入れた瞬間であった。従来のコンチネンタルGT/GTスピードでは顕著であったアンダーステアが大幅に低減され、あまり得意種目ではなかったはずのタイトコーナーでも、ノーズが実に気持ちよくターンインしてくれるのだ。
従来型とのウェイト差は65kg。しかも依然として2320kg(メーカー公表値)というヘビー級であるはずなのだが、走行フィーリングはスペックとは大きく異なる。これまでのコンチネンタルGT系モデルは、高速ツアラーとしての本分に従って、かなりスタビリティ重視のシャシーチューニングが施されてきたが、今回の新型ではすっかりとテイストを変えたフットワークに驚かされてしまったのである。
これは、前後のトレッドを拡大したことに加え、電子制御4WDの「リアルタイムAWD」システムの前後トルク配分を、従来のコンチネンタル系に共通する50:50から、こちらもコンチネンタル・スーパースポーツ譲りの40:60に変更したことが重要なファクターになったものと思われる。
またこの変更により、スロットルコントロールの領域も格段に増やされている。もちろん、フロントエンジンのビッグパワー4WDのセオリーとして、車体をキッチリ曲げたのちにトラクションを生かして加速するという走りの基本形は変わらない。しかしその点を勘案しても、自分でクルマをコントロールしている実感やワインディングでの楽しさは、これまでのコンチネンタルGTのイメージを覆すものとなっていたのである。
もとより超一流のハイウェイクルーザーであったコンチネンタルGTシリーズの資質は、ベントレーにとって、依然として重要な矜持となっている。しかし、現在のベントレーの成功を継承すべく開発された新型コンチネンタルGTは、従来の資質はそのまま、例えば同じ英国のアストンマーティンや、さらには現代スーパーカー界の帝王、フェラーリのフロントエンジンモデルにも匹敵する、生粋のスポーツカーとしての資質をも獲得したと言ってよいだろう。この変化の度合いは、エクステリアデザインの「似て非なるもの」以上に、ドラスティックなものと思うのである。
■ベントレーの成功を継承できるか?
自動車業界に限らず、ヒット商品の代替わりというのは非常に難しいのがビジネスの常と言われる。それまでの成功を継承すべくキープコンセプトとするか、あるいはまったく新しいコンセプトを導入するかの選択は、あらゆるプロダクツの商品開発者を常に葛藤させてきたことなのだ。
昨年秋から日本でも発売されたばかりの新型「ミュルザンヌ」では、ベントレー固有のオーセンティックな味わいを完全再現する一方で、ドラスティックな変貌を遂げさせることにも成功していたが、一方今回の新型コンチネンタルGTでは、既に絶大なファンの支持するベントレーとコンチネンタルのイメージを覆すことなくリファインをこなし、さらに新しい魅力を加えるというという難しいモデルチェンジを見事成功に導いたと見てよいだろう。
たしかに現代の社会情勢も勘案すれば、先代のごとく発売当初から爆発的ヒットを獲得することは少々困難かもしれないが、「旧い革袋に新しいワイン」とも言うべき完成度と独特の魅力は、コニサー的鑑識眼を持つベントレー・ファンの間では、必ずや浸透してゆくものと確信しているのである。
英国車ファン、そしてスーパーカーファン双方にとって注目すべきベントレー新型コンチネンタルGTの日本国内販売価格は、スタンダード状態で2415万円。また、標準トリムでは不足というカスタマーには、有償ながらベントレーが持つ3万に及ぶボディーカラーから好みの色を選ぶこともできるオプションを用意。より多くのインテリアカラーも選べる上に、伝統のコーチビルダーの名称を冠した特別注文生産部門「マリナー」によるオプションパッケージも用意されている。そして日本市場への正式デリバリーは、今年6月から開始されるとのことだ。
また、今年の後半にはV型8気筒ユニットを搭載したモデルの追加発表が予定されているとの由。こちらも、実に興味深いニューカマーとなるのは間違いの無いところである。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 6月 24日