【インプレッション・リポート】
アウディ「A6」

Text by 日下部保雄


 アウディの中核を担う「A6」がフルモデルチェンジされた。A6と言えば世界でアウディブランドを牽引してきた重要なモデルで、それだけにフルモデルチェンジにも力が入っている。今回で第7世代に入るが、A8で培ったアルミニウムを効率よく多用して、重くなる傾向にあるこのクラスに対してより軽量化を図り、燃費の改善を図っている。

 A6のボディーは流れるようなデザインが特徴で、ボディーサイズは従来とほぼ同じサイズに収められている。具体的には従来のA6が4925㎜×1855㎜×1455㎜(全長×全幅×全高)で、新型の全長はほぼ同じ4930㎜、全幅は20㎜広がった1875㎜、さらに全高は1465㎜と10㎜アップに留まっている。いずれにしても、プレミアムブランドの中核らしいビッグサイズであることに変わりはない。

 基本的にはこれまでのデザインを踏襲しているが、アウディらしい滑らかな面構成で後方に流れるようなルーフや立体的なサイド面、新しくなったシングルフレームフロントグリルと、薄く鋭角的なヘッドランプが新型とすぐに分かるスポーティな印象を与えている。実際よりも長く低く感じられるデザインがポイントだ。実際にこのクラスのアッパーミドルクラスのプレミアムセグメントでもっとも低く見える。

遠目でもアウディと分かるライティングシステム
 オプションのLEDヘッドランプは薄くて直線的な造形とし、標準仕様のバイキセノンもコンパクトに収まっている。このヘッドランプは強烈な印象を与え、最近のアウディらしいもの。そしてLEDヘッドランプはワイドレンジのオールウェザーライト機能を備え、通常のフォグランプを必要としない。先日のル・マン24時間レースでもアウディはR18でLEDヘッドランプの技術革新を謳っていたが、A6もその流れで優れたライティングシステムを持っている。内蔵されたポジショニングライトだけでも遠方からアウディということが分かるほどの迫力だ。

 リアビューも同様で、点灯パターンが独特でこちらもアウディと識別しやすい。逆に言えば存在感があるので、混合交通の中で容易に気付いてもらえそうだ。

 インテリアはもともとアウディの質感には定評があるが、キチンと整頓されたダッシュボードはスポーティで小気味よい。特徴となるのはベルト状に入ったラップアラウンドと呼ばれるアーチ状のラインで、ダッシュボードからサイドのドアトリムまでつながっている。キャビンの造形はこだわりがあってさすがにアウディらしい仕上がりだ。

V型6気筒DOHC 2.8リッターエンジン

エンジンは2種類のV型6気筒
 A6には2機種のエンジンが搭載される。これまでのA6からのキャリーオーバーだが、1つは2.8リッターFSIのV6エンジンで、ボア×ストローク85.4㎜×82.4㎜のややボアが広いタイプ。圧縮比は12:1とかなりの高圧縮で、最高出力204PS/5250-6500rpm、最大トルク280Nm(28.6kgm)/3000-5000rpmで発生する柔軟性の高いエンジンだ。この直噴エンジンはインテークのリフトを2段階で切り替えるアウディ・バルブ・リフト・システムを備える、燃費効率と出力のバランスを取ったエンジンとなる。

 もう一方の3.0リッターTFSIはスーパーチャージャー搭載のV6エンジンで、こちらは最高出力300PSを5250-6500rpmで維持し、最大トルクも440Nmを2900-4500rpmの幅広い回転域で出す。ブースト圧は0.8barでもちろんインタークーラー付きとなる。

 この直噴スーパーチャージャーの特徴は、もともとレスポンスがよいことに加え、インテークの経路が短縮されており、これもレスポンスの向上に役立っている。スーパーチャージャーと言えば「キーン」というメカニカルノイズの大きなことがプレミアムカーにとっては問題になるが、A6では遮音がしっかりしており、まったく気にならない。

V型6気筒DOHC 3.0リッター スーパーチャージャーエンジン

 トランスミッションはフォルクスワーゲングループ得意のデュアルクラッチAT。アウディではSトロニックと呼ばれ、7速でワイドレシオを実現している。当初の変速はややショックを伴うものだったが、今や変速タイミングは100分の数秒で可能となっており、走行中はトルコンに勝るとも劣らないスムーズさを持っている。このSトロニックについてはオートマチックモードとマニュアルモード、さらにオートマッチモードについてはスポーツプログラムが用意される。こちらは変速ポイントでエンジンを高回転に保つような設定で、エンジンのトルクバンドに乗りやすいプログラムとなる。ギヤ比は2.8リッターと3.0リッターで共通で、7速目は0.519とハイギヤードだ。ただし両車の間ではファイナルドライブが異なり、2.8の方が約12%ほど低い。

 そして新型A6はすべてクワトロ、4輪駆動である。このクワトロも進化し続けており、前後の可変トルク配分制御を細かく行い、シャープなレスポンスで極めて自然なドライブフィールを持たせている。路面、走行条件に応じてつねに最適なトラクションを提供し、最大で前輪に70%、後輪に85%のトラクションを伝えることができる。

 クワトロの美点は、基本的に機械式であるために動力伝達の面で非常にシンプルかつ瞬間的な駆動力伝達ができる点にある。またセンターデフに電子制御のトルクベクタリングシステムを組み合わせることで、コーナーで内側タイヤの荷重が減り、ホイールスピンの傾向を示すと直ちにそのホイールにブレーキをかけてトラクションを有効に伝えて、かつ正確なハンドリングを実現すると言われており、車のステア特性からすればニュートラルステアを目指している。

トルクバンドの広い3.0 TSFI クワトロ
 では実際にA6を街に連れ出してみよう。シチュエーションが雪でもサーキットでもないので、前述の極限性能を体感するのは難しいが、それらの技術がもたらす安心感の一端を楽しむことはできる。

 最初にハンドルを握ったのは3.0 TSFI クワトロだ。タイヤはピレリのP-ZERO(265/35 R20)というオプションタイヤを装着したグレードで、決して小さくないホイールアーチの中で迫力のある大径ホイールがA6の存在感を高める。

 3リッターのスーパーチャージャーエンジンは基本的に従来モデルと共通なので目新しくないが、相変わらずエンジンパフォーマンスは圧倒的で、アクセルに対して極めて素直に反応するのが好ましい。右足首の動きに対して自然吸気エンジンと同様にシャープでレスポンスのよい走りをみせる。各ギヤのつながりもスムースでハイギヤードなセッティングでいながらエンジンのトルクバンドが広く、かつ分厚いので、低い回転でもスマートに走れる。むしろ湧き出るトルクをドライバーが制御するのに気を使うほどだ。ハイパワーターボの様にアクセルがフロアに吸い込まれるような暴力的な誘惑こそないが、少しのアクセル開度で交通の流れに乗るのは十分だ。

 しかもエンジンのアイドルストップ機構が巧妙に働き、市街地では非常に有効な燃費削減効果がある。エンジンの再始動にもタイムラグはない。余剰なパワーを無駄に使っている感じがしなくて好感がもてる。

 ついでに言えば、A6はエネルギー回生システムを備えており、制動時やアクセルOFF時に運動エネルギーをオルタネーターを通じて発電し、バッテリーに溜め込み、加速時などのエンジン負荷が大きい場合にはオルタネーターの発電力を弱めてエンジンの負荷を低減して燃費を向上させる。

 A6のもう1つの魅力は軽量化技術である。AWDで全長5mになろうとするセダンが1850㎏に収まっているのは、アウディのA8譲りのアルミ技術の応用に他ならない。ちなみに2.8 FSI クワトロでは1790㎏となっている。

 ドライビングでもクルマの重さを感じることはほとんどない。むしろAWDらしい重厚な接地感と高い直進性による安定感を享受でき、首都高速などでもリラックスしてドライブできる。

 またハンドリングは額面どおりに滑らかで、ハンドル操作に忠実だ。まさにニュートラルステアを感じるのは首都高速の割とタイトなコーナーだが、市街地でもハンドル操作に軽快な反応を示すのは小気味よい。

 ただ気になるのは発進時にトルコンのようなクリープがないことで、A6を前に進ませるにはアクセルを踏むしかなく、その際のクラッチワークはMT車で人間がコントロールする方がスムースだ。デュアルクラッチの弱点である。

満足度の高い2.8 FSI
 さて、3リッタースーパーチャージャーエンジンを堪能した後で2.8 FSIに乗る。こちらのタイヤは245/45 R18と、3.0 TSFIが装着していたオプションタイヤに比べるとおとなしい。それでも存在感のあるデザインで満足感は高いだろう。

 パフォーマンスはA6にはちょうど適切な感じで、加速も鋭く、首都高速の理不尽なランプウェイから高速の流れに乗るのに不足はない。むしろアクセルを適度に踏めるので、個人的にはこちらの方が好みに合っているし、メインストリームは2.8 FSIだと実感した。装着タイヤも幾分細く(?)なっているので、路面からの入力によるハンドル取られも少なく、もっと気楽だ。

 さらによい点はハーシュネスで、3.0 TSFIで感じた路面からの突き上げやハーシュネスが格段に小さくなって乗り心地はさらに滑らかだ。ハンドリング自体もフロントエンドが軽くなったので、応答性が若干向上して軽快になっている。出力とコーナリングの絶対パワーを求めないなら、2.8 FSIで十分にA6を楽しめると思う。

 ちなみにリアシートのレッグルームは相当に広く、トランクも奥行きの深さを誇っている。ただ欧州車の常でトランク内は整理され、仕切られているのでトランク内の幅はそれほどではなく、ゴルフバッグは横には入りそうもない。

 いずれにしても、A6はアウディの中堅モデルとして今回もその役割を十分に果たしそうだ。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 9月 15日