【インプレッション・リポート】 プジョー「508」 |
しばし欠番となっていた「5」の数字のつくラインが、往年の「505」以来の復活を遂げた。今度の「508」は、基本的には407の後継であるとともに、だいぶ前から日本では絶版となっていたフラッグシップ「607」の後継という役目も担うクルマである。
ボディーサイズは、407に対して全幅や全高は大差ないものの、607のレンジをカバーする意味合いもあってか100mm近くも長くなり、4790mm×1855mm×1455mm(セダン)となった。しかしながら車両重量は407よりもいくぶん軽くなっている。
407というのは、あのフロントマスクに代表される、なかなかアクの強いルックスが特徴で、わかりやすいものが好きな筆者にとって、前身の「407」はけっこう好みのクルマだった。508ではそれが薄れ、けっこうアッサリしたクルマになったというのが第一印象。極端に長かったフロントオーバーハングも508ではだいぶ短くなっているが、それは407の当時には、とにかく前面衝突性能を確実にすることが大命題だったからであり、今ではあそこまでやらなくてもちゃんとクリアできるようになった、という事情もあるらしい。
日本に導入されるのは、セダンとSWそれぞれの「Allure」(アリュール)と「Griffe」(グリフ)で、パワートレーンは直列4気筒DOHC1.6リッター直噴ツインスクロールターボ付き×6速ATの1本、ハンドル位置は右のみ。価格帯は全体で374万円~437万円となる。Allureというのは、Griffeに準じる上級グレードと考えていい。
モデル | エンジン | 変速機 | ハンドル | シート | 価格(円) |
508 グリフ | 直列4気筒DOHC 1.6リッターターボ | 6速AT | 右 | レザー | 414万 |
508 アリュール | ファブリック | 374万 | |||
508SW グリフ | レザー | 437万 | |||
508SW アリュール | ファブリック | 394万 |
■広くて使いやすい室内
508でまず印象的なのが、室内空間の広さだ。前席、後席、ラゲッジのいずれも、Dセグメントの中でもけっこう広いほうだと思う。横方向に広がり感のあるインパネは、デザイン的にも上級感があるし、Griffeには上質なレザーシートが標準装備される。ただし、デコラティブパネルを含め樹脂部分の質感はもう1歩。とくに607に乗っていた人にとっては、物足りなく感じられるかもしれない。
エンジンスタート/ストップボタンがインパネの最右端にあり、パーキングブレーキ解除ボタンよりも右の、かなり右奥の位置にあることに少々驚いたが、おかげでハンドルやレバーに隠れることなく常に目視できる。その下のプッシュオープン式パネルには、ESPのON/OFFやヘッドアップディスプレイの調整など、操作の頻度の少ないスイッチ類が収められている。センターコンソールボックスは機構的な制約もあってか容量は小さめだが、USBポートや12V電源ソケットが装備されている。
前後シートのサイズはたっぷり確保されていて、横方向の広さも十分。407より90mmもホイールベースが拡大されたおかげで、後席のニースペースはかなり余裕がある。頭上空間はそれほど大きくないのだが、着座姿勢が斜めに倒し気味に設定されているため、頭まわりの狭さを感じることもなく、後席から前方の景色は開けて見える。
FF専用ボディーにつき、後席のセンタートンネルはわずかに張り出している程度なので、後席乗員の足下は広く、中央席に人を乗せることになっても、センタートンネルを跨いで座ることを強いられずにすむのも508ならでは。クラス初の4ゾーンオートエアコンが与えられているおかげで、前席だけでなく後席も左右個別に温度を設定できるところもありがたい。
SWには、広大な開口面積を誇るパノラミックルーフが標準装備されるところもポイントだ。これは固定式だが、開閉機構を持たないおかげで横幅が広く、途中に仕切りが入ることもなく、絶大な開放感を楽しむことができる。とくに後席でその恩恵にあずかれることだろう。
ラゲッジスペースも十分に広いだけでなく、側面のデザインなども使いやすい形状になっている。さらに、SWのGriffeでは、このクラスではまだ少数派であるパワーテールゲートが標準装備されるところもポイントだ。
■小排気量ターボでも運転しやすい
エンジンについて、このところDセグメントも小排気量直噴エンジン+ターボチャージャーが普及して、あまり驚かなくなってきたところだが、プジョーにもBMWと共同開発した、例の1.6リッター直列4気筒ユニットがあり、多くの車種に搭載されているところで、508にもそれが与えられている。V型6気筒の設定は今のところない。トランスミッションは407よりも新しい世代の、アイシン製6速ATだ。
この組み合わせが、なかなか按配がよいことは、すでに308等で確認しているものの、さすがに100kg以上重い508クラスになると、過給の安定しない低回転域の扱いにくさが気になるのではと予想したが、それは杞憂だった。
トルコンによるトルク増幅効果がうまくその部分をカバーし、1000rpm程度から十分なトルクを発生し、力強く加速するので、なんら不満を感じることはない。また、競合するフォルクスワーゲン「パサート」やボルボ「V60」ではデュアルクラッチATを採用しているが、やはりトルコンが介在するATのほうが絶対的に運転しやすいことを改めて確認した次第である。
ATのマニュアルモードは、セレクターをDから左側に倒して、前がシフトダウン、後ろがシフトアップという、BMW等と同じ方式となっているし、両グレードともステアリングホイールにパドルシフトを備える。シフトチェンジのスピードはそれほど早くないが、ショックはうまく消し去られている。ちなみに、6速、100km/h走行時で、エンジン回転数は2200rpmぐらいである。
ATは、標準モードのままでも不具合は感じないが、Sモードを選ぶとけっこう印象が変わって、よりリニアにピックアップするし、アクセルオフにしてもしばらくそのギアを維持する。アップダウンのあるワインディングのようなシチュエーションでは、たとえ攻める気はなくても、Sモードを選んだほうが走りやすいだろう。
静粛性は全体的に高く保たれており、実用域だけでなく高い回転域まで回してもそれほど車内は騒々しくならない。半面、車外にいると電動ファンの作動音がけっこう大きいことは気になったのだが、そのあたりは外のことと割り切っているのかもしれない。
■お買い得な“内容の濃いクルマ”
フットワークの仕上がりも上々だ。プジョーというと「猫足」を連想するところだが、最近のプジョー車の多くが、高速走行をも視野に入れた引き締まった乗り味になってきている中で、このクルマもまた往年の猫足のイメージとは異なる、新感覚のプジョーの乗り味に仕上げられていた。
やや硬めの乗り心地はドイツ車的で、コーナリング時に外輪が沈み込む感覚は極めて小さく、高速巡航時のフラット感は高い。ただし、前身の407がストロークを抑えた、突っ張った感じの乗り味だったのに比べると、ずいぶんしなやかさは増している。
Allureの16インチとGriffeの17インチの差はけっこう大きく、17インチのほうが乗り心地はだいぶ硬めで、ステアリングのキックバックも大きめ。16インチはエナジーセーバー、17インチとGriffeのオプションで選べる18インチ(未試乗)はパイロットプライマシーと、銘柄が異なるせいも少なからずあるかもしれないが、マッチングとしては、16インチのほうが上といえそうだ。
また、約30kgあると思われるパノラミックガラスルーフを持ち、荷物を満載するような使い方も想定されるSWでは、それを考慮したサスペンションセッティングが施されている。つまり、ルーフの重さによるロールモーメントを打ち消すよう、バネ定数を上げ、スタビライザーを太めるなどしてロール剛性が高められており、結果的に空荷状態ではセダンよりもロールしないし、もちろん乗り心地もやや硬めとなっている。
さらに、エンジン自体の軽さやオーバーハングの短縮、ボディー剛性の向上もあってか、ステアリング応答性も、407よりもスッキリしていて気持ちよい。フロントサスペンション形式が、407ではダブルウィッシュボーンだったところ、508ではストラットに変更されているのだが、イメージとは裏腹に、深い舵角を与えたときの接地性は、むしろ508のほうが高いように感じられた。
また、最近のプジョー車の特徴のひとつに、直進性のよさが挙げられると思うが、このクルマもまさにそう。308あたりでは、ステアリングのセンターに戻ろうという力が強すぎて、少々煩わしい思いをすることもなくはなかったが、508はそのあたりのセッティングもこなれている。切り始めの反応も素直で、ほどよくマイルドで好印象だ。
400万円前後で、これほどの内容の濃いクルマが手に入るというコストパフォーマンスも魅力だし、装備類など内容的には同程度かそれ以上の価格帯の競合車を上回る面も多々見受けられる。とくにSWは、使い勝手のよいラゲッジスペースや、前述のルーフによる絶大な開放感という付加価値も付いてくる。
407と比べると個性が薄れたようにも見えるが、反対に普遍性を手に入れたことで、より多くの人をターゲットにできるクルマになったともいえるだろう。ドイツ車が圧倒的に強い日本のDセグメント以上の輸入車のマーケットにおいて、508というクルマは、なかなか面白い選択肢だと思う。
508グリフ | 508アリュール | 508SWグリフ | 508SWアリュール | |
全長×全幅×全高[mm] | 4790×1855×1455 | 4815×1855×1505 | ||
ホイールベース[mm] | 2815 | |||
前/後トレッド[mm] | 1575/1545(18インチホイールは1570/1540) | |||
重量 | 1520 | 1560 | ||
定員[名] | 5 | |||
トランク容量[L] | 515 | 565~1598 | ||
エンジン | 直列4気筒DOHC 1.6リッター 直噴 ツインスクロールターボ | |||
最高出力[kW(PS)/rpm] | 115(156)/6000 | |||
最大トルク[Nm(kgm)/rpm] | 240(24.5)/1400-3500 | |||
トランスミッション | 6速AT | |||
10・15モード燃費[km/L] | 11 | 10.8 | ||
JC08モード燃費[km/L] | 11 | 10.6 | ||
駆動方式 | 2WD(FF) | |||
ステアリング | 右 | |||
前/後サスペンション | マクファーソンストラット/マルチリンク | |||
前/後ブレーキ | ベンチレーテッドディスク/ディスク | |||
タイヤ | 215/55 R17 | 215/60 R16 | 215/55 R17 | 215/60 R16 |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 9月 14日