【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン「ゴルフ TSI トレンドライン ブルーモーション テクノロジー」

Text by 飯田裕子



 

 「ゴルフ」はお世辞抜きで素晴らしいモデルだと思う。特に熟成もかなり進んだ今、個人的にはベーシックなモデルの完成度の高さにウットリしてしまうほどだ。

 ゴルフはクルマの動きにムダがないばかりか、ドライバーの操作とクルマの動作の統一感に1つとして違和感を抱かせることがない。アクセルを踏みタイヤにトルクを伝える動作、ステアリングフィールの手応え、わずかに柔らかいシートのクッション性、そして乗り心地。それらすべてが実に滑らかで、1つとして尖っていたり、どれかが強かったり、何かが重いと感じることがないのだ。

 ときにハードに走らせれば、ボディー剛性やサスペンションのストローク感を活かした走りに、好感を抱くこともある。が、日常ではそういう性能の高さすら出しゃばらない、トータルで気持ちよく走ることのできる統一感。ゴルフというブランド力におごらず、進化を続けるフォルクスワーゲンの凄さすら感じる。

 そんなゴルフに「 ブルーモーション テクノロジー」を採用する、「TSIトレンドライン ブルーモーション テクノロジー」が加わった。

アイドリングストップとブレーキエネルギー回生を搭載
 フォルクスワーゲンは「Think Blue.」をスローガンに、地球環境を考え、環境保護/環境改善のための様々な活動を行っている。その1つが新技術の研究や開発、そして搭載したクルマによる環境負荷の低減だ。すでに多くのモデルに採用されている技術ではダウンサイジングエンジン「TSI」やデュアルクラッチトランスミッション「DSG」、そして段階的に採用を始めている「ブルーモーション テクノロジー」などがそれにあたる。

 ブルーモーション テクノロジーは、フォルクスワーゲンでは「スタート・ストップシステム」と呼ぶアイドリングストップと、「ブレーキエネルギー回生システム」のこと。アイドリングストップは日本車でもすでにお馴染みの機能でもあり、フォルクスワーゲンのTSIエンジンやDSGがもたらす燃費向上ぶりを認識する方にとっては「あのフォルクスワーゲンがまだ採用していなかったのか……?」と思うかもしれないが、近年モデルチェンジした「シャラン」や「パサート」「トゥアレグ」などにはすでに採用している。

 

試乗車のタイヤはミシュラン「エナジーセーバー」。ベースになったトレンドライン プレミアムエディションよりもエコ志向のタイヤを履く

 今回はフォルクスワーゲン主力モデル「ゴルフ」のベーシックモデルにこの新技術を追加し、標準採用されたことが、登場のタイミングはさておき大歓迎なトピックなのだ。

 と言うのも……「ゴルフ TSI トレンドライン ブルーモーションテクノロジー」は、2011年夏に発売されたゴルフのエントリーモデル、「トレンドライン プレミアムエディション」をベースに、ブルーモーション テクノロジーを採用したモデル。プレミアムエディションは1.2リッター TSIエンジン搭載モデルにレザー巻きステアリングやアルミホイールなどを標準装備している。

 そしてプレミアムエディションに対しプレミアムエディション ブルーモーション テクノロジーでは、フォグランプ・レスになってはいるものの、たった1万円プラスでアイドリングストップや回生ブレーキシステムが搭載されることになったのだ。10・15モード燃費は17.4km/L→18.4km/Lと約6%向上。減税や補助金が利用できる今、ますます魅力的な1台と言えるのではないか。

極めて速やかかつスムーズなアイドリングストップ
 中には1.2リッターという排気量や77kW(105PS)/5000rpmというパワー、175Nm(17.8kgm)/1500-4100rpmというトルクなどの数字を見て、このモデルは大して走らないのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれない。

 実際は驚くほどスイスイとよく走るうえに、その身のこなしがとても軽い。1.2リッターとは言え、直噴ターボを採用しており、最大トルクは1500~4100rpmで発生する。必要とあらば低回転領域から力強い加速が得られる。高速道路での合流や追い越し時に強い加速を求めたとしても、十分。ただ伸びやかな加速をいつまでも、とはいかないが……。

 スイスイと走るその印象は7速DSGのシフト制御のおかげもある。街中で発進してから、ほぼ一定走行を維持する場合、DSGは速やかにシフトアップしながら、必要速度への到達までをあっという間に行ってしまうのだ。発進時、少しだけエンジン音に意識を持っていくだけで、小気味よいシフトチェンジの様子を確認することができるだろう。

 今回新たに採用されたアイドリングストップ機構は、クルマが停まると同時にエンジンを停止させる。そしてブレーキを緩めれば(条件により停止中も再始動することはある)再びエンジンが始動する。

「ブルーモーション テクノロジー」搭載車には専用のオルタネーターやスターター、バッテリーが搭載されている。いずれも左がブルーモーション テクノロジー用、右が1.4リッターTSI(シングルターボ)用だ

 ゴルフにこのシステムが採用されたことで改めて感じるのは、そもそもゴルフが実に滑らかに走りかつ、静粛性に優れる点だ。私はゴルフが5代目から6代目へとモデルチェンジをした際に、特に静粛性の向上に驚かされた。音を遮断するガラスの採用やアイドリング振動の極めて少ないクルマへと進化したことが大きな要因で、最近でも1.2 TSIモデルで特に街中で感じていたことだった。

 そのため、アイドリングストップ機能が採用されたこのモデルでも静かに街中を走り、気付いたらエンジンが停止しているという具合だ。もちろん発進時、エンジン再始動の際には微振動や音は聞こえるが、動作は極めて速やかかつスムーズと言っていいと思う。

アイドリングストップに勝るものなし
 試乗中、わずか15分ほどの試乗時間の中で燃費計に注目してみた。都合よくかなり長い信号待ちを強いられる場所があり、アイドリングストップ機能を解除して平均燃費の変化をうかがってみたのだ。

 体感的には1分以上は停止していたであろうその時間、平均燃費はタカタカと数字が落ちていく。0.1km/L、ときには0.2~0.3km/Lがイッキに減っていき、最終的には2.5km/Lも減った。いくらフリクションが少なく効率よく走るゴルフでも、アイドリング時のムダな燃料消費の防止は、アイドリングストップに勝るものなし。

 トレンドライン ブルーモーション テクノロジーは、環境性能面ではゴルフのラインナップ中、最強。ニュートラルな立場で印象を伝えるのが苦しいほど、魅力的だ。

 

フォルクスワーゲン ゴルフ トレンドライン ブルーモーション テクノロジー
全長×全幅×全高[mm]4210×1790×1485
ホイールベース[mm]2575
前/後トレッド[mm]1535/1510
重量[kg]1270
エンジン直列4気筒SOHC 1.2リッター 直噴ターボ
ボア×ストローク[mm]71×75.6
圧縮比10
最高出力[kW(PS)/rpm]77(105)/5000
最大トルク[Nm/rpm]175(17.8)/1500-4100
トランスミッション7速デュアルクラッチAT「DSG」
駆動方式2WD(FF)
10・15モード燃費[km/L]18.4
前/後サスペンションマクファーソンストラット/4リンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク/ディスク
前/後タイヤ195/65 R15
前/後ホイール6.5J×15
定員[名]5

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 3月 23日