【インプレッション・リポート】
BMW「X5 xDrive35d ブルーパフォーマンス」

Text by 鈴木ケンイチ


 

 ビー・エム・ダブリューは1月18日、「X5」シリーズに新グレード「X5 xDrive35d ブルーパフォーマンス」を追加、2月末からデリバリーを開始すると発表した。

 この「X5 xDrive35d ブルーパフォーマンス」は名前からも察することができるように、心臓はディーゼル。しかも日本の「ポスト新長期規制」に適合するクリーン・ディーゼル・エンジンである。ビー・エム・ダブリューによると、日本に投入したモデルは欧州で販売されている「ユーロ6」対応車と同じ仕様だと言う。

 ちなみに欧州でのX5シリーズのディーゼルモデルの占める割合は、ドイツやフランスなど主要国で軒並み90%を超えるほど。そのうちの大多数は現行規制となる「ユーロ5」対応で、次世代規制となる「ユーロ6」向けはオプション扱いになっているとも説明された。つまり、日本の「ポスト新長期規制」と次世代規制「ユーロ6」は、現行よりも一段上の厳しい規制なのだ。

アドブルーを利用するSCR技術で厳しい規制をクリア
 その厳しい最新の規制をクリアするために採用されたのが、「BMW ブルーパフォーマンス テクノロジー」だ。排気ガス中のNOx(窒素酸化物)に尿素水溶液「AdBlue(アドブルー)」を噴射して還元するSCR(選択触媒還元)システムに、煤であるPM(粒子状物質)をフィルターに吸着して燃焼・除去するDPF(粒子状物質除去フィルター)を組み合わせたものだ。

 注目は厳しい「ポスト新長期規制」をクリアするために追加されたSCRシステムだ。車体の下を走る排気管にSCR触媒コンバーターを設置。ここを通る排気ガスにアドブルーを噴霧する。すると排気ガス中のNOxとアドブルー(NH3)が反応して、NOxは無害な窒素(N2)と水(H2O)となる仕組みだ。すでにトラックなど大型車両へは採用が進んでいる。この技術を追加することで、X5 xDrive35d ブルーパフォーマンスは、世界で最も厳しい日本の「ポスト新長期規制」と「ユーロ6」をクリアすることに成功しているのだ。

 ただし、このSCRシステムにもデメリットはある。それは大量のアドブルーを搭載しなければならないこと。そして、アドブルーが減ったら補充しなければならないことである。

 X5 xDrive35d ブルーパフォーマンスは、2つのタンクに合計21.7Lのアドブルーを搭載する。1つはエンジンルームの前方下、もう1つは助手席の下のあたり。タンクを2つに別けたのは、50:50の前後重量バランスを守るためと凍結防止の手間を考えたという。

 アドブルーはマイナス11度を下回ると凍結してしまう。それを防ぐためにタンクを電気などで温めなければならない。そこでタンクを2つに別け、1つを排気管の近くに設置して、排気ガスの熱で温める。そして、もう1つは電熱線で温めるという手法を採用した。これなら冷寒地での始動直後でもしっかりとアドブルーを使うことができ、しかも温めるためのエネルギーロスも減らすことができるというわけだ。

 アドブルーの補充は2万km走行ごとに必要となる。補充口はエンジンルーム内に2個所。車載の専用工具で簡単に補充口を開けることができ、また補充用のボルトは補充口にピタリとはまるようにできている。ビー・エム・ダブリューによれば、ディーラーで行う年に1回の点検を行っていれば、そこで補充が行われるし、そもそも3年間の無料メンテナンスパッケージに加入すれば交換費用も手間もかからないと説明する。ちなみに補充液だけの価格は約1万8000円とか。

X5 xDrive35d ブルーパフォーマンスのエンジンルーム。アドブルーの補充口はエンジンを挟んで左右にあるエンジン右側のアドブルー補充口エンジン左側のアドブルー補充口を、専用工具で開けているところ

 

X5シリーズ中、最高の燃費性能を実現したディーゼル・ユニット
 それでは、続いてX5 xDrive35d ブルーパフォーマンスのアウトラインを説明しよう。

 エンジンは直列6気筒3リッターBMWツインパワー・ターボ・ディーゼル・エンジンだ。最高出力は180kW(245PS)/4000rpm、最大トルクは540Nm/1750-3000rpm。トランスミッションは8速AT。JC08モードの燃費は5人乗り仕様で11km/L、7人乗りで10.8km/Lとなる。販売価格は839万円だ。

 これに従来からある2つのガソリンモデルを比較してみたい。

 まずは、ベーシック・モデルとなる「X5 xDrive 35i」。搭載する直列6気筒3リッターツインスクロールターボエンジンのスペックは、最高出力225kW(306PS)、最大トルク400Nm、JC08モード燃費は8.5km/L、価格は798万円となる。次に上位モデルとなる「X5 xDrive 50i」。V型8気筒4.4リッターツインターボで、300kW(407PS)、600Nm、JC08モード燃費6.3km/L、価格は1045万円。

 つまり、新しいX5 xDrive35d ブルーパフォーマンスの最高出力は3グレード中、最も低いが、最大トルクは上位モデルに肉薄するうえ、燃費はトップだ。そして価格はベーシック・モデルよりも41万円高い。しかし装備面でX5 xDrive35d ブルーパフォーマンスは、35iよりも大きな19インチホイールとヘッドアップディスプレイを標準とする。この2つの装備が加えられたことで、ベーシック・モデルとの価格差は消え、ぐっとお買い得感が強まっている。

 ちなみにBMWのいう「ツインパワー」はツインターボのことではなく「直噴技術」と「可変技術」の2つを備えたエンジンという意味。このディーゼル・エンジンでいえば、ピエゾインジェクターを用いたコモンレールの「直噴インジェクション」と、ターボで採用した「可変ジオメタリー・ターボチャージャー」を指す。「可変ジオメタリー・ターボチャージャー」とは、タービン内に排気を導く弁を可変とすることで、幅広いエンジン回転数においてレスポンスのよさと燃料消費抑制を維持するものだ。

強大なトルクが生み出すミドルセダンのような身軽な走り
 試乗会会場で対面したX5 xDrive35d ブルーパフォーマンスは、曲面を多用したデザインのためか、ぎゅっと締まって見える。しかし、寸法は4860×1935(オプションを装着する試乗車は1990)×1775mm(全長×全幅×全高)。車両重量は2.2tを超える。特にパノラマ・サンルーフを頭上にいただく、この試乗車では車両重量2250kg。文字通りの重量級マシンなのだ。

 他グレードと異なるのはボディサイドとリアエンドに貼られた「ブルーパフォーマンス」のエンブレムだけだ。ホイールサイズも異なるのだが、試乗車には「ダイナミック・スポーツ・パッケージ」が装着されており、ホイールは20インチ、フロント・スポイラー、サイド&リヤスカート、スポーツ・サスペンションが装備されている。

 

 ドライバーシートに収まる。シートはシートサイドの張りが大きく、ホールド性が高い。まるでスポーツセダンのようだ。また、インテリアの意匠も普通のセダンとほとんど変わらない。視線を外に移すと、若干上下に窓が広く、目線の位置が高いけれど、それでもSUVという雰囲気は希薄だ。オフローダーではなく「街を走るSUV」というキャラクターで成功した、X5シリーズならではの眺めだ。実際にBMWは、X5シリーズをSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と呼んでいる。「そこらのSUVとは違うのだ!」という主張を、座席に座っただけで感じ取ることができる。

 室内に入ってくるエンジン音はわずかなものだ。ガラガラという特徴的な音もカドが丸められている。車両が静止しているときにハンドルやフロアから伝わる振動も、かつてのディーゼルとは比べ物にならないほど小さい。10年以上前の古いディーゼルのイメージとは隔世の感だ。これが今どきの最新ディーゼルの姿なのだろう。

 走り出して、街中を流してみる。パワーステアリングの手応えは軽く、またロールも少ない。フィーリング的には、やはり目線の高いセダン風だ。8速ATが細やかにシフトチェンジを行う加速は滑らかで、2.2tを超える重さがあることを忘れてしまう。街中を流れに乗って走るかぎりでは、エンジン回転数はアイドリングの700rpmほどから1000rpmをわずかに越えるあたりまでを、ゆったりと前後するばかり。それでユルユルと走れてしまうのだ。

 タイヤはフロント275/40 R20、リア315/35 R20というスポーツカーさながらの扁平でしかもランフラット。路面の凹凸をコツコツと拾ってしまうけれど、それが苦痛なほどではなく、全体としては重厚でフラットな乗り味。ステアリング操舵に対する鼻先の動きも穏やかで、せわしなく急かされる感じはない。なかなかに重厚な走り味だ。

 次に高速道路へ。車線の流れへの合流もスルスルと滑らかにこなす。100km/hでのタコメーターの針は1500rpmを示す。振動も少なく、それでいて、アクセルの微妙な操作に対してエンジンの応答もいい。これほど太いタイヤを履きながら、直進性も存外に良好。これならロングドライブも楽だろう。

 そこから、アクセルを踏む足先に力を込めれば、即座にメーターの針は2000rpmほどに跳ね上がる。最大トルクの発生する1750rpm以上のエリアだ。クルマは2.2t強という体重を忘れたような急加速を見せる。さらに深くアクセルを踏み込めば、タコメーターの針は軽々とレッド近くまで振れてゆく。とはいえ、回すほどにパワー感が生まれるのではない。2000~3000rpmほども回っていれば、巨体を振り回すのに充分なトルクを引き出すことができるから、無理に回す必要はない。どこからでも即座に巨体を加速させるトルクの塊のようなパワー感が、ディーゼルならではの魅力なのだ。

 また驚くのは、レーンチェンジの動きの身軽なことだ。鼻先を引きずり回すというほど過激ではないが、ドライバーの思うままブレのない動きで隣のレーンに飛び移る。背の高いSUVのように「よっこいしょ」というのではなく、ミドルセダンに近いフィールである。これぞシティ派SAVを謳うX5シリーズの真骨頂なのだろう。

 ゆったりと流すときは回転数が低く、振動も騒音も少なくて快適。それでも、いざとなれば強烈なトルクを引き出して身軽なステップを踏ませる。この2面性を可能とさせるのが、強烈なトルクを持つディーゼル・ユニットとBMWの優れたシャシー技術というわけだ。

 ディーゼル・エンジンは、環境性能と経済性という2つの優れた面がある。同じ排気量で比較すれば、ガソリン・エンジンよりも燃費がよく(つまりCO2排出量が少なく)、また、燃料となる軽油はガソリンよりも安い。つまり、エコでありエコノミーでもある。

 しかし、BMWは、それにもう1つの魅力をプラスした。それがディーゼルのトルクフルなエンジン・キャラクターを利用した軽快な走りだ。そして、その走りのよさこそが、X5 xDrive35d ブルーパフォーマンスの一番の魅力であった。「ディーゼルを使うと、こんなに楽しいクルマができるよ」という1つの模範例と言っていいだろう。


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2012年 4月 27日