【インプレッション・リポート】
トヨタ「GRMN iQ Supercharger」

Text by 斎藤 聡


超コンパクトボディーをスーパーチャージャーで武装したマイクロレーサー=GRMN iQ Supercharger(以下、GRMN iQスーパーチャージャー)のプロトタイプモデルに試乗した。

 このクルマは2009年に100台限定で販売されたiQ GAZOO Racing tuned by MNの第2弾ともいうべきクルマで、今年夏に限定100台で発売予定となっている。今回はそのプロトタイプモデルに試乗した。

 開発者は、「100台だからこそ、採算をあまり考えず、こだわったチューニングを施すことができる。そして100人のユーザーならばリアルにユーザーの顔をみることができ、つながっていられる台数だ」と言うのだ。

 量産車をいかに効率よく作り、より多くの人に売るか、そうしたクルマ作りとは180度違うスタンスで作られているのが、GRMN iQスーパーチャージャーなのだ。


 改めてこのプロトタイプの仕様をチェックしてみよう。ベースはiQ130G→(ゴー)。外観では、専用フロントバンパー、フロント/リアオーバーフェンダー、専用リアバンパー(ディフューザー付き)、専用リアスポイラーといった専用開発の外板パーツが装着されている。インテリアも専用スポーツシートは本革シート、専用メーター、追加タコメーターなど、スペシャル感満点。

 機能部品ではROTREX(ロトレックス)製機械式スーパーチャージャー、クロスレシオ6速MT、減速比のローギヤ化、サスペンションメンバーブレース、専用チューニングサスペンション、専用ブレーキパッド&ローター、専用デュアルエキゾースト、社外アルミホイールを装着する。

 ちなみにロトレックス製のスーパーチャージャーはちょっと変わったタイプのものだ。一般的なスーパーチャージャーは、ルーツ型とかリショルム型と呼ばれる大きなコンプレッサーを、クランク軸から取り出した動力で駆動する。低回転からいきなり下駄を履かせたようにトルクアップが得られる半面、コンプレッサー部分の造りが大掛かりでユニットが大きくなってしまうのと、高回転でメカニカルロスが大きくなるのがウイークポイント。

 ところがロトレックスのタイプはクランク軸から動力を取って駆動するのは同じだが、その反対側、コンプレッサー部分にはターボチャージャーのインペラーとほぼ同じ形状の羽が付けられ、これによって圧縮空気を作り出しているのだ。ターボチャージャーのタービンを機械式にしたともいえるシステムで、ボディーをコンパクトにできている。GRMN iQスーパーチャージャーに採用されているのはC15-60というタイプで、ユニット重量はわずか2.9kgしかない。

 これによって、パワー&トルクはベースグレード130G MT→の94PS/120Nmに対して130PS/180Nmを発生する。

GRMN iQスーパーチャージャーのエンジンルームスーパーチャージャーユニットは、エンジン右側に搭載されているインタークーラーも装備する

 試乗した印象は、とてもナチュラルで素直にエンジンを回すとそれに伴ってトルクとパワーが充実してくるタイプ。高回転での頭打ち感や伸びの鈍さは皆無。もっとも、プロトタイプはマージンを取っているのか、レブリミットが5800rpmくらいになっていたので、3速までは車速が伸びて行く前にレブリミットに当たってしまう感じを受ける。しかもクロスミッションとローギヤード化された最終減速比のため、シフト操作がかなり忙しい。

黒と赤でまとめられたレーシーなコクピット富士スピードウェイのショートコースでは、シフト操作がかなり忙しかった

 冷徹にセットアップすれば、もっとギヤ比を高めにして、この個性的なスーパーチャージャーの特徴(高回転域のパワーの充実感が素晴らしい)をより分かりやすくするべきでは? とも思えるのだが、セッティングの最終的な味付けは未定といいながら、低速域での無駄なパワー感とやんちゃなフィーリングを意図的に残そうとしている。

 この味付けは、速さよりも楽しさを優先したクルマ作りに徹しているからだという。コースの決まったサーキットを走ると、ギヤ比の合う合わないは、わりとはっきり出てくるが、ワインディングや街中をキビキビ走るといったシチュエーションだと、このクロスミッションは忙しそうだがその分楽しそうだ。

 足まわりも、適度に車高を落とし、適度に引き締めている。ハンドルの効きが良くコーナーにグイグイ入っていく。それでいながら腰高感や不安定感がない。過敏に感じない範囲できびきびと走り、グイグイ曲がっていく。

 もっとも操縦性については、ややハンドルが効き過ぎるため、足まわりは若干仕様変更するかもしれないとのことだが、それもきちっと走って面白さ、楽しさを模索しながらセッティングしている証拠。そういう意味でGRMN iQスーパーチャージャーのプロトタイプは、このクルマを手がけるGAZOO推進室が考える新しいトヨタのクルマ作りがギュッと詰まっているのだろう。


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2012年 4月 24日