【インプレッション・リポート】
レクサス「RX」

Text by 日下部保雄


 レクサスらしくあるためには何が必要か。プレミアムブランドとはどうあるべきか、レクサスは日本から発信する高級とは何かを問い続けて日本デビュー以来、7年の時を刻んだ。これまでレクサスであるためのレクサスマストで自らを律していたが、それは個々のレクサス車の個性を伸ばすためのもので、ブランド全体としての向上には弱い部分があった。7年目のブランド再構築にはレクサスのアイデンティティを明確にすべく、「CT200h」から始まったスピンドルグリルを発展させた、一目でレクサスとわかる認識できるデザインとした。「GS」を見ればその個性は明快だが、2009年にデビューした「RX」もこの4月にビッグマイナーを果たしてスピンドルグリルを持ったレクサスファミリーとなった。

 海外のプレミアムブランドはほぼ例外なく、ブランド・アイデンティティを確立しており、レクサスもこれに倣ったことになり、個性明快になる。今後のレクサスは当面、この路線で継承されることになる。個性の強いデザインだけに好き嫌いは分かれるかもしれないが、ブランド構築のためにきっぱり突き進む選択を選んだ。

 さて、RXのボディーサイズは全長4770㎜、全幅1885㎜。全高1690㎜。立派なLクラスSUVだ。現在のラインアップはFFのRX270、FFと4WDのRX350、同じくFFと4WDのRX450hとなっている。販売台数の多くを担っているのは4気筒のRX270だが、今回試乗したのは、もう一方のメジャーグレード、そして花形となるハイブリット車のRX450h 4WD、それも新たに追加されたグレード“F SPORT”だ。

 大きく変わったエクステリアデザインで最初に目に入るのは言うまでもなくスピンドルグリル。縦に大きなRXだけにスピンドルグリルも一層迫力があり、L字型のLEDクリアランスランプも強い存在感を放っている。これまでの上品なたたずまいとは一転してアグレッシブだ。

専用のスピンドルグリルを装備するRX450h F SPORT。パフォーマンスダンパーや、19インチタイヤなどで走りのスポーツ度もアップしている

 それに合わせてリアのコンビネーションランプも形状も変更されて、後ろ姿もスピーディなイメージになった。このテールランプにはGSから導入されたフィン形状の空力パーツが巧みに取り入れられている。このフィンは空力に絶大な効果があると言われ、話題の86にもディーラーオプションパーツとして採用されている。今後トヨタ車、レクサス車には随所に盛り込まれていくことだろう。そのほか、ヘッドライトは全グレードにLEDが標準となっている。

通常タイプのRX450h。レクサスの新アイデンティティであるスピンドルグリルを装備
ヘッドライト、リアコンビランプなどLEDが多用されている

 インテリアは基本的には変更はないものの、リモートタッチの操作がGS同様の形式になり、操作が“マウス“のみで行えるようになっている。今回のマイナーチェンジはエクステリアのフェイスリフトにとどまらない。見えない部分も大幅に見直されている。

インテリア
RX450hのため、ハイブリッド車ならではのパワーメーターを装備ヘッドアップディスプレイはRX450hで標準、RX350/270でメーカーオプション
セレクトレバーはこの位置にリモートタッチの操作方法が改良された

 まずボディー剛性の向上が大きな変更点に挙げられる。リアのドア下部開口部のスポット溶接打点が増やされて、開口部の大きなドアまわりを補強することで剛性を上げて、ボディーを大幅にしっかりさせているが、スポット溶接の打点増しはこれだけでなく、リアフロアとリアホイールアーチ内に及び、安定性だけでなく、その効果は静粛性、乗り心地にまでを改善している。これだけではない。リアスタビライザーの取り付け部にブレースを入れて強化し、スタビライザーを最初から効果的に働かせることができるように剛性アップされた。

 またフロント部ではリーンフォースメントの付け根を強化しており、ハンドリングのしっかり感に大きな効果を上げている。試乗したF SPORTでもう1つ隠し玉がある。前後にパフォーマンスダンパーが装着されていることだ。これはレクサスではCTから導入されたもので、ボディーの最前部と最後部の下に配置され、ボディーのねじれに対してのしなりを効果的にコントロールしている。

 試乗は御殿場~富士周辺で行い、新東名高速道路で高速での直進安定性を、東名高速道路の高速ワインディング付近ではハンドルの追従性などをチェックしてみた。

 LサイズのRXの運転席に乗り込むと視界がよく、運転しやすいのは変わらない。操作系も従来と変わらず、カーナビなどをコントロールするリモートタッチなどは相変わらず使いやすい。ただリモートタッチのサイドにあったエンタースイッチはコントローラーをプッシュする操作法になっていた。最初は戸惑ったものの、ワンタッチで操作できるので慣れると使いやすい。

 御殿場の郊外路のザラメ路を走るとロードノイズの低さを実感できる。もともとRXはレクサスらしい静粛性で定評があるが、今回のマイナーチェンジでそれに磨きがかかった感じだ。ハイブリットではゆっくりとスタートするとモーターのみで走行するEV走行になるが、その無音状態だけにロードノイズが耳についてもよいはずだが、RXは驚くほど静かだ。リアから入ってきた僅かな音もきれいに低減されている。

 この静粛性の高さは、さまざまな速度レンジでチェックしてみたが、突出してうるさくなる速度レンジは存在しなかった。RXが想定しているロングドライブでも疲労の軽減になるに違いない。リアまわりのボディー剛性アップの効果は静粛性にも大きな貢献をしている。

 走りのほうだがRXの接地感の高さは定評があるところ。こちらもしっかりした走りはさらにブラッシュアップされた。新東名の走りやすいストレートではハンドルのスワリなどを見たが、もともと直進性の高いクルマなので、飛躍的な向上というわけではないが、どっしりとした安定性は更に高くなっている。

 ステアリング系の話をすると、F SPORTの電動パワーステアリング(ESP)はノーマルに比べてキビキビ感のある方向にチューニングされているが、ステアリングセンターを締め過ぎた設定ではないので、適切な保舵感があってスッキリとした運転できる。レーンチェンジなどで、ハンドルを左右に切り返す時も、ストレスのない自然なフィーリングで操舵でき、ハンドルのスワリに優れている。

 ベース車両はもう少しステアリングのレスポンスが鈍くされており、ゆったり感を重視していると言う。

 ちょっと話がそれるが、レクサスの安全とハンドリングを守る一方の柱であるVDIM(アクティブステアリング統合制御)の制御にも変更が加えられた。RXのボディー剛性の向上、サスペンションのダンパー設定の変更(オイル粘性を変え、フリクションの低減を図っている)、ESPの仕様変更に伴ってVDIMの設定も変えて、挙動制御は従来モデルを踏襲しながら、洗練された動きをするようにチューニングされた。

 話題を高速道路に戻そう。直進安定性とともに乗り心地の向上にも触れておきたい。RXのフラットな乗り心地はレクサスらしいところだが、従来モデルでは高速道路の大きなジョイント路などではリアから入る突き上げを感じて、高速コーナリングではわずかに跳ね上げられる傾向があったが、マイナーチェンジされたRXではバネ上の動きにしっとりとしており、フラット感はかなり向上している。

 F SPORTのタイヤは235/55 R19というサイズを採用しているが、バネ下の暴れはほとんど感じなく気持ちがよい。ただしサスペンションはこれまでよりも硬めの設定になっており、コーナリングや安定性に対して優位な方向に振れている。それでも乗り心地に関しては逆に向上しているのはアシがよく動く方向にチューニングされ、それを支えるボディーを相当しっかりさせた効果だろう。

 RXは基本的にどっしりした高速安定性が持ち味だが、想像以上にハンドリングに優れている。F SPORTはシリーズの中でも最もキビキビしたハンドリングに設定されているが、高速でのライントレース性に優れているだけでなく、ハンドル操作に対して素直に反応してくれるのでコーナリング姿勢に入りやすい。また直進安定性でも触れたようにキビキビはあるが、過敏な動きは抑制されており、スポーティな持ち味はなかなか的を得ている。

 RXは言うまでもなくLクラスのSUV。その大きな車体にもかかわらず、ドライバーが想定するラインに余分な修正を与えることなくピタリとラインに乗せることができるので、運転が楽しくなる。もはやSUVのハンドリングではない。東名の山北あたりは緩やかなワインディングロードが続き飽きないが、姿勢安定性、そしてハンドルレスポンスが適度にシャープで、F SPORTの本領発揮である。もちろんSUV用のタイヤなので、一瞬のヨレ感はあるものの許容範囲以内である。

 そして、高速クルージングをして気づいたことがある。RXの新しい顔、スピンドルグリルは迫力があるらしく、追い越し車線を走行していると前走車がすぐに譲ってくれる。デザインの好き嫌いはあるだろうが、存在感は間違いなく向上している。何はともあれ、RXはその完成度に磨きがかかって事を強く感じられた試乗だった。

 走りの質感、居住性の質感、いろいろな質感の向上で意味の高いマイナーチェンジが図られていた。このRXに限らず、最近登場する日本車はこれまでの移動が楽な乗り物であることにとどまらず、感性に訴えることのできる内容を備えてきた。日本の製造業には逆風が吹いているが、そんな逆況にめげることなく、これからも質の高いクルマを見せてほしいと心から思う。



インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 5月 31日