インプレッション

シトロエン「DS3 カブリオ」

 2年前に日本に導入されたシトロエン「DS3」のオープンモデルが、この夏にも日本にやってくる予定だ。それに先駆けスペインはバレンシアで行われた国際試乗会で、一足先にその楽しさと実力を確認することができた。

 それはオープンカーとしてはお約束通りの解放感のみならず、コンパクトなオープンカーでありながら、得られる実用性とDS3として期待を裏切らない走り、そしてオープンだからこそ楽しめるデザインや新しいDSライフの始まりをも予感させる魅力があった。

実用性もあるオープンモデル

 DS3は2010年から日本に導入されている「C3」の派生車種であり、上級モデルである。シトロエンのDSシリーズは1955年に発売されたシトロエン「DS」に由来し、現在のC3や「C4」などのCシリーズとは一線を画すプレミアムなシリーズだ。

 新たに追加される「DS3 Cabrio(カブリオ)」は、ベースとなる2ドア ハッチバックモデルのボディーサイズやスタイルを継承するオープンカー。外観の特徴は、ハッチバックのDS3に対し、ウインドーの上に浮いているように見えるルーフが3タイプ(色)のキャンバスのルーフに変わっている点と、テールライトに3D LEDライトを採用していることだ。

 キャンバスルーフは生地の細部にもこだわり、例えば「ブルーインフィニ」というブルーにもバイオレットにも見えるキャンバスは3種類の色を使って織り上げ、そのうちの1本は光を反射する糸を採用することで、光の具合で光沢感や風合いが変わる質感を実現した。

 また「モノグラム」は、よく見るとDSロゴが織り込まれ、その色合いにもフレンチテイストを感じることができる。キャンバスルーフはこの2タイプの他にブラックがあり、日本導入モデルにはボディーカラーに合ったタイプが予め採用されるということだ。

 3D LEDライトの光も斬新だ。そもそもこの技術はコンセプトカーの「Revolte」や「SunVolt」からヒントを得ている。この3次元的なテールランプは、中央部に31個のLEDを備えた長方形の白色ガラスを配置し、光を反射して後方へ放散する反射板ミラーと組み合わされている。点灯させたライトを近距離でジーッと見ると、ライトの奥へ目線が吸い込まれそうな感覚があり、とにかく興味深くて新しい。が、実はこのライト、つい最近限定発売された「DS3 ウルトラ・マリン」には導入済みだ。

 キャンバスルーフは3段階での開閉が可能だ。全開の状態からでも120km/h以下であれば16秒で閉じることができる。DS3 カブリオはA、B、Cピラーを残し天井だけが開くタイプなので、高速走行中でも開閉操作が行えるメリットがある。開発者は「このクラスのオープンカーに完璧なシステムは要らない。欠点がないカブリオレのようなモデルがいい」と言っていた。

 高速走行中でも開閉が可能である点に加え、天井だけが開くこのモデルは、乗車定員が5名。そもそもそれほど広い後席ではないが、ルーフを開けてもスペースが犠牲になったりしない。

 おまけにラゲッジスペースも250Lと、「MINI」のオープンモデルと比べて倍の容量が保たれ、6:4分割式の後席を畳めばそのスペースはさらに広がる。「毎日大きい荷物は入れないにしても、たまには大きいスーツケースも入れたいだろう」という配慮である。

 完璧なシステムよりも気軽にオープンドライブを楽しめ、なおかつコンパクトカーとしての日常+αの実用性も犠牲にしないオープンカー開発がこのDS3で行われているのだ。

楽しくて頼もしい

 それはドライビングプレジャーもしかり。DS3の開発当初からオープンモデルを作る予定があったわけではないが、ハッチバックと同等のハンドリングや乗り心地が求められたそうだ。

 バレンシアでは、日本に導入が予定されている直列4気筒DOHC1.6リッター直噴ターボ(156PS)に6速MTを組み合わせたモデルを試乗することができた。

 ボディーサイズに必要十分なトルクとパワーを持つ走りは、操作フィールのよい6速MTで走りのリズムやムードを変えることができる。バレンシアの街中や眺めのよい郊外では流すように走らせ、時々スポーティにキュンキュンと走らせてもみた。サイズのわりに重厚なボディーを軽快に走らせることができるが、乗り心地が決してハードなわけでもない。ハッチバックのDS3と何ら変わらぬ質の高い走りが、スムーズかつスポーティに楽しめる。

 それでいて大がかりなチューニングや補強、変更は行われてはいないそうだ。屋根のパーツ、トランクまわりの強化、振動を抑えるダイナミックダンパーの採用など……重量の増加はわずか25㎏というから、これも驚きだ。通常は100㎏近く重くなっても不思議ではない。

 キャンバスルーフを閉めたクローズド状態の静粛性も、ハッチバックと同等の遮音性が保たれている。一方3段階に開くルーフは、全開で高速走行をしても、フロントのルーフエンドに装着されたウインドーデフレクターを立てれば、問題なく走れる。が、全開状態では後席の後ろに畳まれた幌が壁を作り、後方視界を妨げるので、1段階手前にしておくのが日常ドライブにはおすすめだ。

 DS3 カブリオは「屋根が開いたらファンタスティックな楽しさも気軽に広がる」的なモデル。スポーティな印象も強いプレミアムシリーズのDSに追加されるオープンカーは、そんなスポーティなデザインや走りをオープンという少し肩の力を抜いて楽しみたいモデルでもある。

 だからこそ本当ならATモデルがあれば、女性も積極的に選びやすくなるのかもしれないが、6速MTだけというややマニアックな販売を予定しているらしい。が、楽しくて頼もしい(実用的)のは間違いない。日本への導入は今年夏ごろを予定している。

飯田裕子