インプレッション

MINI「ペースマン」

 MINIとして7番目のモデルとなる「MINI Paceman」(ミニ・ペースマン)の、日本での販売がスタートした。

 これまでMINIブランドは、3ドアハッチバックを皮切りに、「コンバーチブル」、シューティングブレークの「クラブマン」、5ドアSUVの「クロスオーバー」、2シーターの「クーペ」、2シーターオープンの「ロードスター」とラインアップを拡充してきた。

 そして、今回のペースマンは、3ドアのSUV。いわばMINI クロスオーバーをクーペ仕立てにし、よりパーソナル感とスポーティ感をアップ。SUVではなく「SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)」を標榜するモデルとなった。

 ちなみに「ペースマン」の由来は? と広報担当者に聞いてみれば、「名前は造語。ただし、これからのMINIブランド全体をペースメーカーのように引っ張ってゆくモデルになってほしい」と言う。3ドアのSUVは、日本のマーケットで言えば、非常にニッチな商品。しかし、BMWジャパンにとっては、案外に大切なモデルと見ているのかも、と思わせる発言であった。

大きいようで小さく、それでいて存在感もある絶妙なサイズ感

 試乗会場は、ヨットハーバーを望むホテル。エントランス前に並んだペースマンを眺めてみる。事前に見た写真からの印象では、たっぷりとしたボリュームを感じさせたものだが、意外にコンパクトであることに気づく。寸法は4125×1785×1530mm(全長×全幅×全高)。同じ3ドアSUVである「レンジローバー イヴォーク」(4355×1900×1605mm)よりも遙かに小さいだけでなく、BMWブランドの最小SUVである「X1」(4355×1900×1605mm)よりひと回りもふた回りもミニサイズなのだ。欧州プレミアムSUVとしては、十分にMINIであるというわけだ。

 ちなみに、ベースとなったMINI クロスオーバーと比べると、全高が20mm下げられただけで、ほとんど寸法は変わらない。つまり、ものすごく小さいわけではなく、MINIとしては、それなりのボリュームがあるということ。大きすぎず、小さすぎずという、絶妙なサイズ感だ。

 エクステリア・デザインの特徴は、尻下がりに優美なラインを描くルーフラインと、それに対照的に尻上がりに勢いよく伸びるショルダーラインにある。この2本のラインが描くスタイリッシュさに、力強く盛り上がるリアフェンダーの造形が加わる。ツンと澄ましているだけでなく、ワイルドさも隠し持っていることが伝わってくる。ベースとなったMINI クロスオーバーと比べれば、ペースマンは圧倒的に躍動感に溢れる。まさに今にも飛び出していきそうな構えだ。ただ、3ドアにしたというだけでなく、全体から伝わってくるフレッシュでエネルギーに満ちあふれた雰囲気こそが、ペースマンの魅力なのだろう。

 今回日本に導入されるのは3グレードだ。90kW(122PS)の直列4気筒1.6リッターの自然吸気エンジンを積む「クーパー」、135kW(184PS)の直列4気筒1.6リッターツイン・スクロール・ターボの「クーパー S」。このターボモデルに4輪駆動システムを搭載する「クーパー S ALL4」だ。

 トランスミッションは、すべてのモデルで6速MTと6速ATが用意されている。SUVであっても、MTをすべてのグレードに用意するところが、元気な走りを売りにするMINIブランドならではだ。

 残念なのは、どのモデルにもアイドリングストップ機構が採用されていないこと。それでもJC08モード燃費は、自然吸気モデルのATで14km/L、MTが16.7km/L、ターボのATで14.1km/L、MTが16.2km/L。自然吸気とターボの差が少ないのが特徴的だ。

MINIワールドを踏襲しつつ、最新のITアイテムを投入

 室内に目を移してみれば、そこはハッチバックのMINIから連綿と続くMINIワールドそのもの。黒を基調に、鈍く光るクロームのレバースイッチがちりばめられたインテリアは、他のMINIモデル同様の意匠だ。

 センタコンソールに大きく据え付けられたスピードメーターの針はリング状となって、中にディスプレイを抱えている。正直、走行中にこのスピードメーターの針がリングのどこを示しているのか確かめる人はいないだろう。けれど、こういう遊び心を具象化させたのがMINIと考えれば、愛すべき機構と見えてくる。

 後席へのアクセスは、フロントシートを倒す面倒があるけれど、納まってしまえば、意外にもヘッドクリアランスも左右の空間も十分にあった。イメージと異なり、MINI クロスオーバーと全高が20mmしか違わないという恩恵がここにあった。

 また、後席は3人ではなく、2人乗車に割り切り、フロントシートとそっくりなシートが、左右1脚ずつ用意されているのも、快適性を高めている理由だ。クーペだからといって、後席の居住性がおろそかにされていなかったのだ。

 今回、室内で目をひいたのが、ドライバーの目の前に専用のホルダーで据えられたiPhone。これはMINI専用のアプリをインストールしたiPhoneをカーナビとして利用する「MINI CONNECTED+NAVI」というオプション。ナビアプリは評価の高いアイシン製の「ナビエリート」がベースになっている。

 iPhoneと車両は有線ケーブルで接続されており、走行中のナビの操作は、車両のシフトノブの後にあるジョイスティックで行う。また、カーナビだけでなく、フェイスブックやツイッターといったSNSに、クルマからアクセスすることもできるのだ。クルマとネットワークの新しいつきあい方をMINI CONNECTED+NAVIは提案するものなのだ。

iPhoneのアプリをクルマの操作系で操作できるMINI CONNECTED。シフトレバー後のジョイスティック(右上)とセンターメーターのディスプレイ(下段)でiPhoneのナビアプリを操作できる。

SUVであっても、走りは「ゴーカートフィール」のMINIそのもの

 最初に試乗したのは、パワフルなターボモデルの「クーパー S」、6速AT仕様だ。目線は高く、いわゆるSUVのコマンドポジション。着座姿勢も若干立ち気味のようだ。ステアリングの手応えはやや重め。そっとアクセルペダルを踏み込むと……オッと! と一瞬思うほど力強く1歩目が出る。加速は、まさに飛び出すかのよう。「1390kgの車両重量に1.6リッターエンジンだからね」と、あなどっていたようだ。

 スペックを確かめてみれば最大トルクは、わずか1600rpmから発生する。その値は2.4リッタークラスの240Nm。オーバーブースト時は260Nmまで高まる。その高トルクが延々5000rpmまで続くのだ。ハッキリ言って、動力性能は必要十分どころではなく、ありあまるほど。わずかなアクセル操作によって、通りの流れを易々とリードすることができた。

 そのパワフルな心臓にあわせるかのように、足回りも存分に締め上げられている。そして、そのフットワークはSUVの範疇ではなく、ハッチバックのMINIと同様のもの。いわゆる「ゴーカートフィール」そのものであったのだ。最初は、「少々、硬いかな?」とも思ったが、このパワーを受け止め、MINIらしい俊敏さを実現するには必要不可欠であったのだろう。また、ドライバーの操作にヴィヴィッドに反応する走りを楽しむうちに、足の硬さは、まったく気にならなくなったのだ。

 クーパー Sの試乗ですっかりテンションは高まったが、そのノリでノンターボのクーパーに乗り換えて、「アレ?」となった。動きだしから、おっとり。流れる時間がゆったりしてくる。1360kgの車両重量に最高90kW(122PS)/160Nmのエンジンは必要十分なもの。ただ、ターボモデルがあまりにも辛口だったため、そのギャップに驚いてしまったのだ。

 それでも、時間が経つにつれて自然吸気モデルのよさも見えてきた。ターボほどのパワーはないけれど、別に遅いクルマではない。しっかりとアクセルを踏み込めば、パッと最大トルクの発生する4250rpmまでメーターの針は跳ね上がる。そのときのエンジンサウンドは、ターボモデルよりも勇ましく、そして心地よい。乗り心地も若干マイルドだ。ターボモデルのように、どこか急かされるような雰囲気がないのも嬉しい。ペースマンのキャラクターを好みつつも、それほど飛ばさないという方には、間違いなく自然吸気モデルがおすすめだ。

 BMWがリバイバルさせた、最初のMINIがデビューしたのは2001年のこと。気がつけば12年の歳月が流れ、バリエーションも7モデルにまで広がった。そのように枝葉が広がっていけば、当然、源流が持っていたコアな味は薄まることもあるだろう。しかし、7モデル目であるペースマンは、そうはならなかった。まるで煮詰め直したかのような、濃厚なMINIの味を楽しむことができたのだ。ブランドが拡大しても、薄まることなく、ファーストMINIの確固たる世界観が維持されていることは、ただ驚くばかりだ。

Photo:安田 剛

鈴木ケンイチ