レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ「ブリザック VRX」

「最高到達点」を目指したブリザック25年の集大成

ダントツの氷上性能とユーザーのニーズを追求

 1988年に誕生し、2013年で25周年を迎えたブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK(ブリザック)」。日本国内におけるブランド認知率は96%に上り、そのブランドイメージについても、高性能=78%、信頼=86%、安心=80%となっており、北海道と北東北主要5都市では2台に1台近くのクルマがブリザックを装着しているという調査結果もあるそうだ。

 そんなブリザックにおいて、史上最強の性能を実現したという新商品「ブリザック VRX(ヴイアールエックス)」が9月1日に全国一斉発売となった。通常は3シーズンで新製品が市場に投入されることが多いが、今回は前モデルとなる「ブリザック REVO GZ」から4シーズンを経ての投入となった。

 新製品の「VRX」というネーミングは、「最高到達点」や「頂上」を意味する「VERTEX(バーテックス)」に由来し、これまで3世代にわたって用いられた「REVO」の名称が消えた。ちなみに前身の「GZ」は「Goal to Z」という意味だ。

 そんなブリザックの使命は、ダントツの氷上性能を追求し続けること。そして、ユーザーのニーズに応えることであると開発関係者は述べる。そのためブリザック VRXでは、25年間で積み重ねた技術の集大成として、全方位にわたる性能の強化を図るのはもちろん、ユーザーがもっとも求めているアイス性能のさらなる向上と、燃費への関心の高まりに対して、転がり抵抗の低減にも力を注いだという。

 本レビューでは、北海道士別市にあるブリヂストン 北海道プルービンググラウンドを中心に行われたブリザック VRX試乗会のリポートをお届けする。

ブリヂストンの新スタッドレスタイヤ「ブリザック VRX」。ブリザック25年の集大成モデル
ブリザック REVO GZで先鞭を付けた、スタッドレスタイヤの非対称パターン。VRXもイン/アウト非対称パターンを採用する。右がアウト側
REVOのネーミングがなくなり、新しい世代の製品となった

ブリザック VRXとブリザック REVO GZを直接比較

REVO GZとVRXの直接比較をドーム付きの氷結路で行った

 まず、ブリザック VRXとブリザック REVO GZを直接比較した印象からお伝えしたい。コンディションを一定とするために建てられたドームの中の氷上で、VRXとREVO GZを装着した4WDのオデッセイを乗り比べた。それぞれ停止状態から30km/hまで加速して、そのまま右と左に1回ずつレーンチェンジ。Uターンして再び30km/hまで加速して、そこからフルブレーキングするという走り方だ。

 これをそれぞれで試したところ、かなり違った。

 REVO GZでは、アクセルを踏んでも最初は滑って前に進まない。オデッセイの場合、最初にグンとエンジン回転が上がって、トラクションコントロールがすぐさま出力を絞り込み、グリップが回復したところでエンジン回転を波打たせながら前に進んでいく。VRXにも同様の傾向はあるのだが、REVO GZよりも早いタイミングでグリップを得ることができ、前に進み出す。

 氷上のレーンチェンジでは、REVO GZはステアリングを切ってから遅れてクルマの向きが変わるが、VRXはREVO GZに比べて速く反応するのだ。氷上のブレーキングでも、VRXはREVO GZよりも一車身ぐらい短く止まった。

 筆者としては、30km/hから20km/hまでの減速よりも、10km/hから停止するまでにおいて、VRXはよりしっかりグリップしている感覚があるように感じた。すべてのクルマのコントロールにおいて、VRXのほうがクルマの挙動が発生する時間が短かくてすむ。もちろん加速や制動に要する距離も短くなる。

 ブリヂストン側としても自信作であるため、こうしたプログラムが用意されていたと思うが、自分自身わるくないと感じていたREVO GZと新しいVRXの間には、予想以上に大きな差があったことに驚かされた。

プリウスにおける氷上旋回性能を比較

プリウスでの氷上旋回性能確認

 続いて、氷上旋回路でVRXとREVO GZを装着したプリウス(FF)を乗り比べた。この氷上旋回において一番違うと感じたのは、初期の応答性よりも、少しステアリングを切り込んだときの舵の利きだ。

 さらに、違いを試そうと、横滑り防止装置をOFFにして、あえてアクセル開度高めで乗ってみたところ、いずれも描く円が外側に膨らむが、VRXのほうが膨らみは小さく、REVO GZではコースアウトしそうになるくらい、どんどん滑って外へ逃げていく。また、旋回状態からアクセルOFFにすると、REVO GZではスピンしそうな動きが出て、カウンターをあてて立て直すシチュエーションがたびたびあったが、VRXは基本的にはそうなることはなく、そのまま挙動を大きく乱すことなく減速するという違いがあった。

 一連の性能差は、滑りの大きな原因である氷上の水膜を除去する能力が格段に上がっていることが大きな効果を発揮しているように感じられた。トラクション、ブレーキ、コーナリングともグリップ感が大きく異なり、印象の違いは明らかだった。

雪上テストコースと雪の一般道で優れた雪上性能を確認

 そして、4通りのサイズのVRXを装着した4種類の車両で、テストコース内に設定されたハンドリングコースと、テストコースから外に出て一般路を走行した。車両は、前輪駆動のフィットとゴルフ、四輪駆動のノアとクラウンで、コンパクトカー、ミニバン、Cセグメントのハッチバック、上級サルーンとボディータイプもそれぞれ。ゴルフとクラウンには横滑り防止装置が付いており、フィットとノアには付いていない。

 路面コンディションは、一般道は概ね圧雪で、テストコース内はアイスバーンの上に雪がのっていて、ところどころ氷が溶けてやや危険な個所があるという状況。その一部の極端に滑りやすい場所では、さすがにブリザック VRXといえどもオーバースピードでコーナリングすると十分なグリップを得られないこともあったが、それ以外の圧雪が主体の状況では、いずれも高いグリップを発揮することが確認できた。フィットは前輪駆動で横滑り防止装置も付かないが、軽量ながらトラクションもあるし、横方向のグリップも十分で、とても走りやすかった。

 ノアに搭載される4WDシステムは、スタンバイ4WDの発展形で、オートモードにしておけば状況に応じて的確に前後輪への駆動力配分を行う。上り坂でも後輪に駆動力が伝えられているので問題なく上れるし、逆に下りや惰走時にもエンジンブレーキが適度にかかるようで安定している。コーナリングでは、重心が高いことが幸いしてか、一般的な乗用車より垂直方向から荷重がタイヤに入り、タイヤのアウト側がよくグリップして抜ける感じがしない。横滑り防止装置の助けを借りなくても、十分なグリップ感があり走りやすものだった。逆に、コーナリングの際に荷重の大きさに負けてタイヤが腰砕けになる感覚もない。VRXは、このクラスの背高ミニバンにも問題なく使えるタイヤだといえる。

 クラウンは、北海道では大半のユーザーが4WDを選んでいるらしいが、4輪の荷重バランスがよく、後輪駆動ベースのフルタイム4WDレイアウトにより安定したトラクションが得られることもあって、どのシチュエーションでも抜群に乗りやすかった。

 全車に乗って共通して感じられたのは、静かであることと、タイヤ自体の剛性感は高いが、路面への当たりがREVO GZに比べてマイルドになったことだ。これについて開発関係者によると、それを目的に設計したというよりも、他の性能を追求したところ結果的に上がったというニュアンスのほうが近いようだが、REVO GZからVRXへの進化点として挙げておきたい。

 転がり抵抗についても、ブリヂストンの社内試験で、80km/h走行時で10%もの低減を果たしているとのことで、これも無視できないポイントだ。

 このように、強いところを伸ばしつつ、ほかの諸性能についても可能な限り引き上げ、よりオールマイティになったVRXは、多くのユーザーが信頼を寄せるブリザックの最新モデルとして期待を裏切らない仕上がりであった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。