レビュー

【タイヤレビュー】ダンロップのSUV用新スタッドレスタイヤ「ウインター マックス SJ8」

氷上性能が格段にアップしていることを実感

住友ゴム工業の旭川タイヤテストコースで、SUV向け新型スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX SJ8」の試乗をすることができた

 ダンロップ(住友ゴム工業)ではSUV用スタッドレスタイヤ「SJ7」をモデルチェンジし、2014年シーズン向け新製品として「WINTER MAXX SJ8(ウインター マックス エスジェイエイト)」を発表した。SJ8は2013年シーズン向けに発表された乗用車用スタッドレスタイヤである「ウインターマックス」の技術を応用したSUV用スタッドレスタイヤだ。北海道の旭川にある同社のテストコースで試乗したので、早速リポートしたい。

WINTER MAXX SJ8

 ダンロップでは従来から独自のサイピング技術(サイプを生成する技術)として「ミウラ折りサイプ」を採用してきた。これは、単に真っ直ぐなサイプ(切り込み)を入れるのではなく、内部まで複雑に折れ曲がったサイプとすることで、隣あうブロック同士が支え合う形となり、サイプによるエッジ成分が持たせながらも、高いブロック剛性を維持することを可能としたもの。

 ダンロップでは、このミウラ折りサイプをさらに進化させた新ミウラ折りサイプを開発。従来よりサイプの幅を25%も低減させた。これにより、より多くのサイプを入れることができ、SJ8では前モデルと比べて単位面積あたりのエッジ成分を9%増大することになった。言うまでもなく、エッジが増えれば、それだけ氷をひっかく性能が向上し、トラクションおよび制動性能も向上する。

サイプの幅を狭くすることでより多くのサイプを入れられるようになった
新ミウラ折りサイプ。サイプの幅が狭いため、倒れ込みがさらに抑制される

 さらにスタッドレスタイヤでは重要なファクターとなるコンパウンドも、ウインターマックスシリーズでは新たな技術を投入している。氷をナノレベルで徹底的に研究し、ゴムの特性をスーパーコンピュータでシミュレーションすることで生まれたナノフィットゴムだ。アイスバーンの微小な凹凸にナノレベルで密着する柔軟性と、ブロックの倒れ込みを抑制する剛性を両立したコンパウンドとなっている。

高密度のシリカが骨格のようになることで、ナノ領域では柔軟性を持ちながらも大きな動きに対しては剛性をアップしている
ナノ領域の柔軟性
マクロ領域の高剛性

 そしてSJ8独自の技術として、パターン全体のランド比(タイヤトレッド全体の面積に対する接地部分の面積の比)をアップさせたのも性能向上に貢献している。ランド比を高くし、その分接地するエッジを増やすことで氷上性能が向上するわけだ。さらに、パターンデザインも氷上での回頭性がアップするクラウンブロックを採用、さらに回転方向が決まる方向性パターンを採用したことで、溝に入った雪やシャーベットを排出しやすくしている。

 特にミドルブロックに採用したT字型の溝は、雪上性能を向上するとのこと。さらにタイヤが回転した際に、先に地面に接する側にブリッジを設けたことで、氷上での制動力向上に役立っていると言う。

ランド比をアップしたトレッドデザイン
氷上での回頭性がアップするクラウンブロック
回転方向指定により排雪性を向上
T字型の溝は雪を縦横につかみ、雪上でのグリップを確保する

 さて、ウェット、ドライ、氷上、雪上すべての路面でSJ7より性能が向上したというSJ8だが、いよいよその試乗だ。

 まずは一般道にジムニーで乗り出す。装着サイズは175/80 R16だ。筆者は一応ラリーもたしなんでいるので、ウインターシーズンには雪道を走りに行く機会も多い。多少は雪道の特性や路面の凍結状況などは分かっているつもりだが、その意味では旭川という地域はコンディションはわるくないと言えるだろう。

SJ8を装着したジムニーで旭川の一般道を試乗。余計な制御が入らないジムニーが最も素直にSJ8のポテンシャルの高さを実感できた

 スタッドレスタイヤは気温が低いほどグリップする。スタッドレスタイヤが氷の上で滑ってしまうのは、接地圧によってタイヤと路面の間に水膜ができてしまうためで、気温が低くなればなるほど、その水膜はできにくくなり、グリップはしやすくなる。そう考えると、本州での使用を考えた場合は、やや評価も有利になってしまうかもしれないが、旭川という気温の低い好条件を差し引いても、SJ8は高い性能を発揮してくれたと感じた。

人工的に磨き上げられた氷盤路でのスラローム比較。走り終わるごとにコースの上を掃除するほど徹底的に管理されていてとても滑る
やや上り坂のアイスバーンのコース。やはり雪上のコースと比べると圧倒的にミューが低いが、その分SJ7とSJ8の差が明確に現れた

 当日のテストコース周辺の一般道は基本的に圧雪で、交通量が多い道路はやや凍結路面が顔を出すという状況だった。スタッドレスタイヤは気温が低いほかに、路面に雪が乗っているほどグリップする特性もあるので、旭川という気温の低い地域で、かつ圧雪であればかなりのグリップ感を得られる。一般道では従来モデルのSJ7とは比較できなかったが、普通なら恐る恐るブレーキングするような、ところどころにブラックアイスが顔を出しているような凍結路面でも、ドライ路面と同じとは言わないが、かなり安心してブレーキングできたのは事実だ。

 ラリーではウインターラリーで専用タイヤを使用するのが一般的だが、ダンロップではウインターラリー用にSP56Rというタイヤをラインアップしている。筆者もSP56Rのユーザーだが、このタイヤは耐摩耗性を犠牲にする代わりに、極端に柔らかいコンパウンドを採用することで、アイスバーンでもかなりのグリップを得られるようにしたもの。一般用スタッドレスタイヤと比べるとかなりの高性能を発揮するタイヤなのだが、SJ8はアイスバーンではSP56Rに匹敵するグリップ力を感じた。

 特に好感触だったのが縦方向、つまり回転方向のグリップだ。重量車であるイヴォーグでも試乗したのだが、車重が重くなると当然制動距離は長くなる。そのあたりは覚悟の上だったが、実際には想像以上に短い距離で停止できた。ただし、車重が重いだけに、横方向への流れ具合は多く、縦方向と比べれば、イメージどおりというレベルだった。

 さらにランクルプラドでも試乗。イヴォーグのタイヤサイズは225/65 R17で、車重やボディーサイズにマッチしたサイズだったと思うが、プラドの装着サイズは265/65 R17でかなり太い。車重を考えれば太くするのは仕方ないが、雪道では太ければ性能が高いというわけではない。ワンダリング性能と呼ばれるワダチの乗り越え性能が低下するし、接地面積が増えれば接地圧が低くなりエッジ効果も低減してしまうからだ。しかも車重もかなり重い。その意味ではジムニーやイヴォーグに比べるとやや辛かったのは仕方のないところか。

 ただ、いずれのサイズでも特に感じたのは雪上での制動力が圧倒的に高いという点だ。最近のスタッドレスタイヤはドライ路面やウェット路面での性能の高さをアピールするタイヤも多いが、それでもやはり一番性能を発揮してほしいのは雪上や氷上のはず。その意味ではSJ8は頼もしいタイヤと感じた。

イヴォークやプラドでも試乗した

 だが、それ以上に驚かされたのがテストコース内における氷盤路やアイスバーンの登板路での性能だった。テストコース内ではCX-5、CR-V、ヴァンガードでSJ7とSJ8の比較テストが可能だった。装着サイズはいずれも225/65 R17だ。氷盤路にパイロンを立てたスラロームコースでは、SJ7がターンインでほとんどアンダーステアしか出ないほどのミューの低さだったが、SJ8ではしっかりとステアリングが効いて向きが変わってくれた。もちろん、制動性能、トラクション性能ともかなりの性能アップを感じることができた。

自然界ではあり得ないほどまで磨き上げられた氷盤路のスラローム。10km/h程度しか出せないほどよく滑る路面だが、従来モデルと比較すると、SJ8の性能の進化をはっきりと感じることができた

 だが、さらに驚いたのがアイスバーンでの登板路だった。テストは登板路を逆に走行、つまり坂を下っていってブレーキングをテストできるのだが、30km/hからのフル制動を実施したところ、なんとSJ7よりもクルマ1台分ほど手前で停止したのだ。とかくこういうテストを行なうと「まぁちょっとはよくなってるかな」程度の性能アップが普通なのだが、これは驚きだった。

 圧雪のオーバルコースは全開走行が可能だったが、先に述べたような寒冷地ならではの好条件もあって、100km/hオーバーで走ってもまったく不安を感じないほど安定している。SJ7も雪上性能は十分高いと感じていたが、試しに同じようなタイミングでステアリングを切り込んでみると、SJ8では舵が効きすぎてしまう。フロントの入りが向上して、一気に舵が効くために、今度はリヤのスライドが激しくなってしまって、早めのカウンターステアが必要なほどだった。

かなり道幅も広い圧雪のテストコースでは、100km/hでも安心して走れる状況。ただし圧雪路だとSJ7でも十分と感じるポテンシャルは持っている

 どの車種も最近のクルマらしくABSやトラクションコントロールが装備されていたため、雪道ではすぐにクルマ側の制御が入ってしまい、なかなかタイヤの性能自体の比較というのは難しかった。だが、そんな条件下であっても、SJ8の進化は驚くに十分なものを感じさせてくれた。特に極端に滑りやすい氷盤路においての進化は特筆すべきで、刻々と変わる冬の道路において、このような悪条件下でのグリップの向上は、ドライバーに高い安心感を与えてくれるに違いないだろう。

若槻幸治郎(Koujirou Wakatsuki)

1960年東京都生まれ。某大学に入学するも、どうしてもクルマの世界に入りたくなり、19歳で中退、メカニックとして日産ディーラーに就職する。そこの先輩にラリードライバーがおり、その影響を受けてラリーの世界に飛び込むこととなる。メカニックとして8年間勤務したが、“ラリーを取るか仕事を取るか”というよくある(?)決断に迫られ、迷わずラリーを選択した。「時間的にラリーがやりやすい」という安易な理由でとりあえずライターに転身。だが、そのまますでに四半世紀が過ぎてしまった(笑)。ラリーではこれまで4度の全日本チャンピオンを獲得。現在でもスポットで全日本ラリーに出場しており、ラリーで培ったドライビングテクニックを活かした試乗リポートが得意。趣味は冬季の雪道走りとダム巡り。