レビュー

【タイヤレビュー】トーヨータイヤのSUV向け新スタッドレスタイヤ「オブザーブ GSi-5」

ミニバン向けスタッドレスタイヤ「ウインタートランパス MK4α」も試乗

トーヨータイヤのSUV/CCV専用新スタッドレスタイヤ オブザーブGSi-5

SUV/CCV専用スタッドレスタイヤ オブザーブGSi-5

 トーヨータイヤジャパン(東洋ゴム工業)の新スタッドレスタイヤ「オブザーブ GSi-5」と、ミニバン用スタッドレスタイヤ「ウインタートランパス MK4α」を、同社が持つ北海道のサロマテストコースでいち早くテストする機会を得た。

 1989年に竣工した同コースは、23万8060m2の敷地に、2820mにおよぶ外周路を備え、さまざまな条件の冬道の試験を行うことが可能になっている。我々が試走を行った2月は、現地に駐在する開発関係者が「今年は特別」と口をそろえるほど積雪量の多い、厳しい条件となっていた。そんな中で同新製品をはじめ、いろいろと独自色を感じさせるトーヨータイヤのラインアップがどのような走りを見せてくれるのか興味深く思っていた。

 新製品のオブザーブ GSi-5はSUV(スポーツユーティリティビークル)/CCV(クロスカントリービークル)向けのスタッドレスタイヤとして開発され、「全方向での高いアイス性能」「雪道での優れたトラクション性能」「高いドライ性能とウェット性能」などを追求。スノー、アイス、シャーベットなどのさまざまな冬の場面で優れたパフォーマンスを発揮することをコンセプトとしている。

 オブザーブGSi-5を装着した試乗車は、マツダ CX-5とアウディ Q3が用意されていた。このほか、ミニバン専用のスタッドレスタイヤ「ウインタートランパス MK4α」を装着したエルグランドに試乗できた。

 トーヨータイヤのスタッドレスタイヤというと、ご存知のとおり鬼クルミを使っていることが特徴で、オブザーブ GSi-5も同様だ。竹炭でミクロの水膜を吸収する「吸水カーボニックパウダー」に「鬼クルミの殻」を配合した「NEO吸水クルミックスゴム」をコンパウンドに採用し、あらゆる方向に高いエッジ効果を発揮する「360°サイプ」、タイヤブロックの壁面にある凹凸がお互いに支え合うことで剛性を保つ「3Dグリップサイプ」などのパターンテクノロジーを採用し、性能を高めている。

オブザーブ GSi-5
左右対称ながら回転方向指定を持つトレッドパターン。サイプのほか、各ブロックにジグザグ上のエッジが設けられているのが分かる
オブザーブ GSi-5のサイド部。サイドに「Vカッター」と名付けられたV字状のエッジが設けられ、わだち路での安定性向上を図る
オブザーブ GSi-5のカットモデルと、配合された材料のサンプル。大粒と小粒のクルミ殻、それに竹炭が用いられている

装着する車両の特性に合わせて最適な味付けを

 まずは、新製品であるオブザーブ GSi-5を装着した2台をドライブ。SUV/CCV専用となるGSi-5では、遠くにウインターレジャーに出かけるような使い方を主に想定して開発されている。氷上性能や雪上性能を前モデルの「ウインタートランパスS1」と同等としながら、ドライ路面でのしっかりとした操縦安定性や、スキー場付近によく見られるシャーベット路での排雪性を高めるなど、SUVの使われ方を重視したという。

 同社のテストコースの外周路には、途中、降雪した高速道路を想定した直線区間や、いろいろな勾配やRのカーブが続く区間があるが、下りでRのきついコーナーでも、圧雪の上では頼もしいグリップを得ることができた。直線区間には轍が設定されていたが、そこでのふらつき感も小さく、レーンチェンジを試したときの収束性もわるくない。このあたりは「バイトエッジ」や「Vカッター」などが効いているのだろう。

試乗車はマツダ CX-5とアウディ Q3。マツダ CX-5での走行にマッチングのよさを感じた

 トラクション性能やブレーキング性能も十分に確保されており、もちろん踏みすぎればデバイスが介入するが、運転操作に対して素直にイメージしたとおりに反応する印象で、運転していて楽しい。

 一方、試乗日は朝から好天に恵まれ、昼前に気温がマイナス5度程度まで上がっていたことから、圧雪の下にすぐアイスの層があるような状態のいくつかのコーナーでは、凍っていた部分が溶け出して水膜ができ、非常に滑りやすくなっていた。

 今回の主役であるオブザーブ GSi-5をドライブした時間帯がまさにそれで、スタッドレスタイヤをテストする条件としてはかなり厳しかったのだが、現実としては十分に起こりえる状況といえる。そんな区間でも速度にさえ注意していれば、危険な状態に陥ることなく走ることができたのは、ポテンシャルとしては十分に高いアイス性能を備えているからだろう。シャーベット状になっている路面でも有効なトラクションを得られる。

 事実上のオブザーブ GSi-5の前身である「ウインタートランパスS1」と性能を比較したチャートを見る限りでは、ほぼすべての要素においてオブザーブ GSi-5が上回っている。両者が用意されていて新旧を乗り比べることができたら、オブザーブGSi-5がどのくらい進化しているか、その差を如実に感じ取ることができたはずだ。

 ただ、オブザーブ GSi-5に関しては、サイズは異なるとはいえ同じ銘柄のタイヤを装着し、マツダ CX-5とアウディ Q3という似たような車両重量とパッケージのクルマで、ほぼ同じ時間帯に乗り比べたわりには、その印象は同じではなかった。

 アウディQ3は、オンロードを非常に軽快に走れるSUVであることを別の機会に確認しているが、車両自体の特性によるものか、雪上ではやや路面とのコンタクトフィールが薄く、速度のコントロールに気を使う必要があった。とはいえ、少々オーバースピードで限界を超えても破綻することはない。

アウディ Q3とマツダ CX-5の印象は異なるものだった

 一方のCX-5は雪上だけでなくアイス路面でのグリップ感もまずまずで、滑り始める感覚も把握しやすく、19インチの扁平サイズながら乗り味にしなやかさもあり、全体的に好バランスだったように思えた。そうしたマッチングによる印象の違いが大なり小なり見られるケースもあるようだ。

ミニバン専用設計のスタッドレスタイヤ ウインタートランパス MK4α

 ミニバン用スタッドレスタイヤであるウインタートランパス MK4αに関しては日産 エルグランドで試乗した。ウインタートランパス MK4αは、前作であるウインタートランパス MK4に比べコンパウンドに配合したクルミを6倍増量した進化モデル。重心高の高いミニバンの特性に合わせ、イン側のゴムを柔らかくしてアイスの諸性能を確保しながら、荷重のかかるアウト側のゴムを硬めにしているのが特徴となる。

ミニバン専用に設計されたスタッドレスタイヤ「ウインタートランパス MK4α」。非対称トレッドパターン、回転方向指定なしのタイヤ。オブザーブ GSi-5とは設計思想が異なる
左がイン側、右がアウト側。イン側はスーパーソフトコンパウンド、アウト側はソフトコンパウンドと、コーナリング時の荷重を受け持つアウト側を硬めにしている。トレッドパターンも、イン側とアウト側で荷重設計が異なるのが見て取れる

 また、ミニバンとしての使われ方を考慮し、大きな車両重量に耐えられるようブロック面積を多くして剛性を確保するとともに、アイス性能を重視してサイプの量や密度を高めている。

 このウインタートランパス MK4αに関しては、それらが今回の路面とマッチングがよかったようで、いたって走りやすかった。エルグランドの車重が1.9t程度と重いこともあってか、有効なグリップを得ることができた。また、試乗時刻がオブザーブ GSi-5より早く、より低い気温で試乗できたことも1つの要因になっているかもしれない。

重量級ミニバンの走りをしっかりサポートしてくれたウインタートランパス MK4α

 トーヨータイヤが手がけた最新モデルは、前で述べたとおり、竹炭ベースのカーボニックを用いたり、クルミを増量したりするなど技術的にも数々のテクノロジーを採り入れている点も興味深い。装着する車両の特性から使われ方にまでを考慮し、性能の最適化を図った商品ラインアップを用意している印象を受ける。SUV/CCV向けの新商品オブザーブGSi-5も、ミニバン向けのウインタートランパス MK4αも、まさにそれが当てはまるユーザーオリエンテッドのスタッドレスタイヤである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。