【連載】クルマはパーツでデキている
ピストン径の大きさがダンパーの可能性を広げる

 

 Car Watchではいつも最新のクルマの情報をお届けしているが、そんなクルマの性能は、タイヤやサスペンション、プラグなど、様々なパーツが少しずつ性能を向上したことで成り立っている。そこでそんなクルマを支えるパーツにスポットを当てようというのがこの企画。普段あまり注目されることのないパーツに着目し、それらのパーツにはどのような性能が要求され、どのような技術が盛り込まれているのか? さらにそのような最新技術が盛り込まれたアフターパーツも紹介していく。

 第2回は、サスペンションの要といえるダンパーを取り上げる。取材に応じてくれたのは、グロ-バルサスペンションメーカ-として有名なショーワだ。

ショーワチューニングの「SPORTS」ダンパー。そのカラーリングから「通称:赤アシ」としてファンに支持されている


ダンパーって何? どんな役目?
 クルマのサスペンションに使われている数多くのパーツの中で、もっとも重要な役割を持つのが「スプリング」と「ダンパー」だ。両者は常にセットとして扱われており、まさに「サスペンションの両輪」といえる存在。

 そもそも、クルマにサスペンション(緩衝装置)が必要になったのは、ギャップを乗り越えた際などに発生する、路面からの衝撃を緩和するためだ。自動車が発明された当時、すでに空気入りのゴムタイヤは存在したが、タイヤのたわみ(変形)だけでは衝撃を吸収できなかったため、サスペンションの導入が必要だった。

写真はホンダステップワゴンのサスペンション。スプリングやダンパーの他、アームやブッシュ、写真には含まれていないがスタビライザーなどによって構成される

 サスペンションは複数のパーツによって構成されるが、そのひとつとして、路面からの衝撃を吸収する「スプリング」が用いられている。スプリングは路面からの衝撃を自らが変形することで吸収し、たとえばそれがコイルスプリングの場合には、「縮む」という変形によって衝撃吸収機能を発揮し、さらにその後の「伸びる」という変形によって、クルマの姿勢を元に戻そうとする。サスペンションの動きとはいわば、この「スプリングが伸縮を繰り返すこと」を指していると言えるだろう。

 路面からの衝撃を緩和する装置としてスプリングはとても有効なパーツなのだが、1つ大きな欠点がある。それは、縮んだスプリングが元の長さに伸びたとき、その位置では止まらずに、さらに伸びようとすること。伸びすぎたスプリングは再び縮むが、今度は縮み過ぎる。最終的には落ち着くが、伸縮のたびに「少しだけよけいに動く」のは確かだ。

 こうしたスプリングの余計な動きを「バウンシング」と呼ぶが、バウンシングを抑制するには、スプリングを硬くする(伸縮の幅=ストロークを小さくする)ことが必要になる。しかし、スプリングを硬くすると乗り心地が悪化する。かといって、バウンシングも乗員にとって不快であり、車体の挙動安定性という観点からも好ましくないから、やはりある程度抑制しなければならない。

 そこで、このスプリングと組み合わせて使われるようになったのが「ダンパー」だ。日本語に訳すと減衰装置。つまり「スプリングの動きを抑制する」もので、スプリングが伸び縮みするとき、その「抵抗」となって動きにくくすることで、バウンシングを抑制する。そして、この抵抗の大きさを「減衰力」と呼ぶ。スプリングが伸縮しようとする力を「減衰させる(減らして衰えさせる)」という意味だ。

スプリングとセットで乗り心地や操縦安定性を左右するダンパー(写真左上)

減衰力と乗り心地、操縦安定性の関係
 というわけで、ダンパーが発生する減衰力はクルマが走る上で欠かせないものだが、かといって、その働きが強すぎるとスプリングが伸び縮みしなくなる。つまり、乗り心地が悪化してしまう。逆に減衰力が弱すぎると、バウンシングが収まらず、フワフワとして安定感のない乗り味になってしまう。

 そこで自動車メーカーでは、この「乗り心地」と「操縦安定性」を両立させるために、ダンパーの減衰力を「ちょうどよいところ」に設定しようと開発を行う。その時の評価基準のひとつとなるのが「ピストンスピード」だ。ピストンスピードとは「ダンパーが1秒間にどれだけストロークしたか」を表したもの。走行車両の車速、カーブの大きさ、前後左右の慣性力(一般的に前後G、横Gなどと呼ばれる力)の大きさによって異なるので、0.1m/sec、0.3m/secなど、テスト条件を設定し、そのストローク時の減衰力を測定する。

 「0.1m/sec」は1秒間に0.1m(=10cm)なので、走行中を想定すると「小さな凹凸を乗り越えた」程度(実際には、走行中にタイヤが路面の凹凸を乗り越えるのに1秒かかることはほとんどないし、10cmの段差を乗り越えることも考えにくいのでイメージしにくいが、それぞれの数値に0.1を掛けて「1cm/0.1秒」とするとわかりやすいかもしれない)。「0.3m/sec」はその3倍の速度なので、かなり大きな入力だ。高速でカーブを曲がるためにハンドルをサッと切ってクルマが傾くとか、やや大きめの凹凸に「タタン!」と乗ったときの衝撃といった感じだろうか。一般的には、0.1m/secは普通の舗装路、0.3m/secは荒れた舗装路を想定したピストンスピードで、それぞれ「低速域」「中速域」と呼ばれ、そのほか最近では「微低速域」として0.05m/secでの減衰力値を重視するメーカーも増えている。0.5~0.6m/sec以上は「高速域」となるが、高速域を大きく超える領域(1.0m/sec~)は乗用車が舗装路を走るという前提では想定外の範囲といえるだろう。

 というわけで、自動車メーカーがダンパーを開発する際には、最低でも2モード以上のピストンスピード(低速側、高速側)を想定し、それぞれでの「縮み」「伸び」の減衰力を設定する。低速側の減衰力の強弱は、なめらかな舗装路を走行中の乗り心地に影響し、減衰力が強すぎると「ゴツゴツ」という感覚を乗員に伝えてくる。また、カーブを曲がろうとするときなどは、高速域の減衰力の強さが要求され、減衰力が不足するとハンドルを切った瞬間に車体が大きく傾き、操縦安定性が低下する。そこで、低速域、高速域にそれぞれ最適な減衰力を持たせる必要が出てくる。

 ところが、1本のダンパー(単純構造のピストンバルブ)で、低速域、高速域それぞれの減衰力を「理想の値」に設定するのは、現在のダンパーのメカニズムではとても難しい。それに、低速域と高速域の中間の特性も含めて、運転していて違和感が出るような設定にはできないため、どうしても「全体的」に「乗り心地重視」か「スポーツ性(操縦安定性)重視」という減衰力設定になりやすい。アフターパーツメーカー製のダンパーの多くが「減衰力調整式」を採用していたり、GT-Rや外国製高級スポーツカーが室内からサスペンションの設定を変更できるようになっているのも、そうした理由による。

ダンパーの構造と減衰力発生の仕組み
 ここまで、減衰力が乗り心地や操縦安定性に与える影響について説明してきたが、ここからはダンパーの構造と、減衰力発生の仕組みについて考えてみたい。

 減衰力は、「ダンパーオイル」という液体の流動抵抗を利用して発生させる。ダンパーケースの中に「シリンダー」という容器があり、その内部はオイルで満たされていて、その中をピストンロッドの下部に組まれた「ピストンバルブ」が上下に動く(注射器をイメージするとわかりやすい)。このとき、ピストンバルブに開けられた小さな穴(オリフィス)をオイルが通過し、その流動抵抗が「減衰力」になるのだ。

 とは言っても、ただオイルがオリフィスを通過するだけでは大した抵抗は発生しない。そこでより流動抵抗を発生させるために、このオリフィスにフタをするような形でプレート(金属の薄い板。バルブプレート、シムプレートともいう)を組み込む。こうすることでオイルがオリフィスを通りにくくなり、流動抵抗=減衰力が発生する。プレートが薄くてペラペラのものなら、簡単に反り返ってオイルが流れるので減衰力は弱くなるが、プレートを厚いものにしたり、何枚も重ねたりすれば、減衰力を強くできるという仕組みだ。さらに伸び用と縮み用でそれぞれのオリフィスを設けることで、伸びるとき、縮むときと独立した形で減衰力を調整することもできる。

 そして、もう1つ、ダンパーの特徴を語る上で知っておきたいのが、「単筒式」と「複筒式」という2種類の構造があるということ。単筒式は文字どおり、シリンダーがシンプルな円筒形状で、その中にオイル、ピストンバルブ、ピストンロッドが内蔵されている。また、シリンダー下部にはフリーピストンでオイル室と仕切られたガス室(窒素ガスを封入)がある。

 複筒式では、シリンダーが二重構造になっている。主室となるシリンダーの外側にもうひとつの部屋(副室)があって、主室と副室は下側で繋がっている。副室の上側がガス室になっているが、オイル室とガス室を仕切るものはなく(別体タンク式などを除く)、重力によってオイルは下、ガスが上に自然に分離している状態だ。

 単筒式、複筒式それぞれの長所・短所について見てみると、単筒式の最大のメリットはピストンバルブの直径を大きくできること。バルブ径サイズのアップは、オリフィスのレイアウト設計の自由度を高め、またバルブプレートを大径化できるため、オリフィスのオイル流量コントロール幅を広げることにもつながる。複筒式では二重構造となるため、内側のシリンダー径(ピストンバルブ径)は単筒式よりも小さくせざるを得ない。そのほか、単筒式ではガス室とオイル室が分離されているため、ガスがオイルに混ざる「エアレーション」が発生しにくいという長所がある。

 一方の複筒式はというと、単筒式のようにガス室を分けるためのフリーピストンがなく、ピストン径自体が小さいこともあって、摺動抵抗(フリクションロス)が少ない。さらに、ガス室を分離していないため、ガス圧を低く設定でき、乗り心地を優先した減衰力にしやすい。ガス室がダンパー上部にあることで単筒式のような「倒立配置」ができないが、そのおかげで絶対ストローク量を確保できるのもメリットだ。そして、これはある程度以上の規模で生産した場合、という条件付きだが、複筒式は単筒式に比べて加工・製造コストを抑えられるため、大量生産に向いている。そのため、国産の量産車の場合、ほとんどのモデルで複筒式のダンパーが純正採用されている。

ダンパーの模型。純正ダンパーの多くに見られる「複筒式」だ。シリンダーとピストン、オイル室の位置関係が分かるだろう内側のシリンダーと外側のアウターケースの2重構造になっているのが分かるだろうピストンバルブはシリンダーの内側に密着する形で装着される。中心部にはピストンロッドが組まれる
写真は3種類のバルブを裏表から見たところ。ピストンバルブには、「オリフィス」という穴が開けられているが、この穴の形状や大きさが重要なため、狙いたい仕様に応じて様々な形状のピストンバルブがある。ピストン径が大きいほど、その設計自由度が高くなるのだ
ピストンバルブには、何枚かのバルブプレートが組み合わされる。バルブの表側、裏側それぞれが、縮み側、伸び側を担当する。プレートがストロークによってバルブと反対側に「反る」ことで、オリフィスの入り口が開く仕組みだ

 ところで、これまで何度となく登場している「ガス室」だが、そもそもなぜ、ダンパーには「ガス室」が必要なのだろうか。それはオイルに圧力を加え続けることでオイルを安定させるためであり、またダンパーが縮んだ際、「シリンダー内に入り込むピストンロッドの体積」を吸収するためだ。

 ダンパーが縮むということは、すなわちピストンロッドがシリンダーの中に押し込まれるといことだが、もしシリンダー内がオイルのみで満たされていたら、そのピストンロッドの体積分だけオイルをどこかに逃がさなければならない(気体は圧縮できるが液体は圧縮できないため)。そこで、ガス室を設け、ガスの収縮によって、ピストンロッドの体積分を吸収するのだ。ちなみにこのガスの圧を高くすると(一般的に単筒式はガス圧が高い)、ダンパーが激しく動いたときにもオイルにキャビテーション(気泡化)が発生しにくくなるが、ガスの反発力が大きい分、乗り心地が硬くなる。

複筒式ダンパーを圧縮していったときの様子。ピストンロッドを押し込むと、副室の油面が上がり、ガス室が圧縮されているのが分かる

ダンパーの仕様はこうして決まる
 このように、ダンパーは構造的な違いによって、その特性にもある程度の傾向が見られるわけだが、では、このことを踏まえてダンパーの仕様というのは、いったいどのように決められているのかを考えてみよう。

 一般的には、量産車ではダンパーの減衰力は、組み合わせられる「スプリング」とのバランスを考慮して決められる。スプリングの硬さ(スプリングレート)や長さ(単体時の長さ=自由長、組み付け時の長さ=セット長、車両静止時の長さ)、伸縮幅(ストローク)、特性(スプリングレートが途中で変化するかどうかなど)に合わせて、最適と思われる減衰力が導き出されるのだ。こうしたスプリングの「仕様」は、それが組みこまれるクルマの車重、サスペンション形式、トレッド、ホイールベース、重量バランス(重心位置、エンジン搭載位置も含む)、そしてキャラクターに応じて決められる。

 特に大きな要素がこの「キャラクター」の違いだ。そのクルマがスポーツカーなのかファミリーカーなのか、さらには乗車定員は何人なのか、荷物はどのくらい積めるのかなどといった「条件」に応じて、スプリングの仕様は決まる。減衰力は、この基本的なスプリングの仕様が決まった段階で、タイヤサイズとともにキャラクターごとに設定されるのだ。だから、同じモデルでもグレードによってスプリングレートや減衰力が異なるということはよくある。

 こうして、メーカーが時間とコストをかけて開発したダンパーだが、それでもなお、その「味付け」がすべてのユーザーにとって満足の行く仕様とはならない。同じ仕様のサスペンションでも、ユーザー(=ドライバー)それぞれで感じ方が異なるため、これはある意味で仕方がないところではある。

ダンパーのチューニング(理想の乗り味を手に入れるには)
 というわけで、今回はグロ-バルサスペンションメーカ-である「ショーワ」にお話しを伺った。ショーワといえば、かつてはF1マシンのダンパーを手がけるなど、ダンパーメーカーとしては歴史、実績ともに文句なしのメーカー。現在も2輪、4輪ともにホンダ車のほとんどの車種の純正ダンパーを製造しているが、その一方で数年前から「ショーワチューニング」というオリジナルブランドを展開し、アフターパーツの開発にも力を入れている。

ショーワの工場の様子。純正ダンパーと同じ生産ラインで「ショーワチューニング」のダンパーは製造される。精度や耐久性も「純正クオリティ」だ工場のラインにはテスターも用意され、規定の減衰力が発生しているか全てのダンパーで検査される

 ショーワチューニングのサスペンションキットで特徴的なのは、ショーワで純正部品として供給している車種用のみをラインアップしているということ。これは純正と同じケースやロッドを使うことで大幅なコストダウンが図れるためだ。実際ショーワチューニングのサスペンションキットは、スプリングとダンパーのセットで7万~8万円台と、値頃感のある価格設定となっている。加えて純正クオリティが確保できるというのは、信頼性という部分でのメリットも大きい。

今回お話をうかがった、ショーワ 開発本部の河村哲範氏。「ダンパー屋が作りたかったダンパーです。乗り心地には自信があります」

 しかし、純正品を生産しているメーカーが、アフターパーツを開発するということは、少し矛盾を感じる。つまり自社で生産した純正品を否定することにもなりかねないからだ。そのあたりをショーワ 開発本部 四輪サス開発部の河村哲範氏に聞いてみた。

 まず、新車の標準状態であっても、「乗り心地が硬い」と感じる人が多いのはなぜなのかをたずねると、「乗り心地というのは、基本的には主観なので、人によって感じ方が違うのは当然ですが、そのクルマに初めて乗るときに持っている『イメージ』によっても感想は違ってきます。自分の中に乗り心地の基準があって、運転したときにそれを裏切られるほど『硬い』と感じたら、それは相当硬いという印象になります。特にコンパクトカーではそういうことが多いのではないでしょうか」と河村氏。

 特にコンパクトカーで多いという部分についてたずねると「量産車のコンパクトカーでは、その車両価格に比例して、コストを抑えなければならないという課題があります。いくら『乗り味』をよくしたいと思っても、サスペンションパーツにそれほど高価なものを使うことができません。中でも特に足かせとなるのが、『ピストンバルブの直径』です。コストの都合で太いシリンダーを組むことができないわけです」。

 と、ここで登場したピストンバルブの径の話。ピストンバルブを大きくできるメリットは、単筒式のメリットとして説明したが、複筒式であってもピストンバルブの径は重要ということだ。

 ショーワチューニングのダンパーは、純正ダンパーをベースにオリジナルの設計が施されているが、特にこの「ピストンバルブ径」にはこだわっていて、純正ダンパーではコスト的に「細身」に設計せざるを得なかった場合、内部構造を変更して大径のピストンバルブを収めている。複筒式ダンパーのシリンダーが二重構造になっていることを利用して、アウターケースの外径を変えずに、内側のシリンダー径のみをサイズアップしているのだ(一部車種を除く)。さらに、多少、スペースに余裕がある車種の場合、アウターケース径も大きくし、ピストンバルブ径を拡大している。

乗り心地を向上させる画期的システム
 ショーワチューニングのダンパーのもうひとつの大きな特徴が「リバウンドスプリング」だ。他社の市販ダンパーでは見られないショーワチューニングのオリジナルだ。純正ダンパーでも一部で採用されており、最近ではインプレッサのサスペンションなどにも採用されている。これは、シリンダー内部、ピストンバルブの上部のピストンロッド同軸上にコイルスプリングを組み込んでいる。

 このスプリングは1G状態(クルマが制止した状態)では圧縮されていない状態で、クルマがロールしたときのイン側など、サスペンションが伸びようとしたときに、リバウンドスプリングの力で“伸びにくく”する。イン側を伸びにくくするのは、アウト側のサスを縮みにくくする(硬くする)のと同様の効果で、ロール量を抑える効果がある。

 通常、ダンパーのリバンプ速度を遅くする(伸びにくくする)には、全体的に減衰力を強める必要があるが、そうすると乗り心地にまで影響を与えてしまう。そこで、バルブではなくスプリングの反発力という減衰力を追加することで、「初期の当たり」をソフトに設定しつつ、必要な減衰力を発生させるというのが、リバウンドスプリングの特徴だ。

写真は現行インプレッサ用ダンパーのカットモデル。中に見えるスプリングがリバウンドスプリングだショーワチューニングのダンパーのノーマルからの改良点(例)。アウターケースのサイズはそのままに、シリンダーとピストンを大径化。加えてリバウンドスプリングを追加している

車種別完全専用チューニング
 ショーワチューニングのダンパーは、「チューニング」という名前が付いているため、スポーツ志向の強いサスペンションパーツと思われがちだが、実際の「味付け」はむしろ逆で「純正よりも乗り心地のよい足まわり」を目標に開発されている。

 乗り心地がよくしなやかな走りを実現する「COMFORT(コンフォート)」と、操縦安定性と気持ちよさを高い次元でバランスさせた「SPORTS(スポーツ)」の2タイプをラインアップしているが、たとえスポーツであっても、「開発テスト時に純正サスペンションよりも乗り心地が硬かったら、それは市販化しません」(開発担当者)というこだわりを持って開発している。そういう経緯もあって、たとえば、GE型フィットでは純正で15インチを履くモデルのみにキットを設定したり、CR-Zではスポーツのみのキット設定とし、コンフォートを設定しないなど、車種それぞれでラインアップを変えている。

ショーワチューニングのコンフォートとスポーツの位置づけ「SPORTS」装着のCR-Zに試乗。ハイブリッドの重量バランスを利用した減衰力設定により、乗り心地を確保しながら、路面に吸い付くような接地感を実現しているこちらのフィットも「SPORTS」装着車。ノーマルではやや硬さが感じられるモデルだが、特にフロントサスの突き上げ感がほぼ解消され、乗り心地がよくなっている

 「開発対象車種の仕様(グレード)違いというのは必ずテストしています。しかし、中にはサスペンションキットが必要ない車種もありますし、何度テストしても、乗り心地の点で納得できないものもあります。そういうものは製品化しても意味はありません。われわれダンパー屋が作りたいダンパーを作り、『この仕様なら納得して世に送り出せる』という感触を得られたものだけを製品化しているのです(河村氏)」。

 ショーワチューニングのダンパーはスプリングとのキットで販売されているが、このスプリングも度重なるテストを経て設計された専用品だ。ピストンバルブ、リバウンドスプリングだけが専用設計なのではない。車種によってはアウターケースの全長やピストンロッドも短く設計(ショートストローク化)するなど、まさに「車種別専用設計」なのだ。純正部品を作るメーカーが、ダンパー屋としてのこだわりを持って開発したサスペンションキット。それが「ショーワチューニング」なのだ。

86用サスキットも開発中
 インタビューの後日、「86用サスキットの開発テストを行うので来てみませんか?」というお誘いを受け、取材に行ってみた。聞けば今回のテストはダンパーのセッティングではなく、スプリングの設定を決めるものだと言う。

 具体的には減衰力を極力弱くしたテスト用ダンパーを用意し、それに様々なレートのスプリングを組み合わせながら試走すると言う。このような手法でセッティングすることは希だそうだが、86はサスペンションのセッティングが難しいらしく、こうすることでよりマッチングの高い製品を作ろうという試みだ。

 減衰力がほとんど出ないダンパーとスプリングの組み合わせは想像のとおりで、ガレージの段差を降りただけでもポヨンポヨンとボディーが揺れ、なかなか落ち着こうとしない。その様子は外から見ていても一目瞭然。この状態でテストコースを走ってはスプリングを交換するという作業を繰り返す。まずはフロントは一定でリアのスプリングだけを入れ替え、リアの目処が立ったら、今度はフロントスプリングを入れ替えるという流れで作業を進める。

スプリングをテストするため、減衰力を極端に弱くしたテスト用のダンパーを装着。純粋にスプリングの特性を見極めるためのアイテムだ走り終えてはスプリングを変えるという作業を繰り返す。前後のスプリングレートバランスも、このようなテストを経て決定されるサスペンションキット開発のためには、たくさんのスプリングをテストしなければならない。こちらはそのための試作品

 組み替えては走り、また組み替えるという作業を丸一日続け、夕方になってようやく開発陣も納得の組み合わせが見つかったとのことで、実際にそのクルマに乗せてもらった。その印象はというと、まずは乗り心地のよさに驚かされる。ダンパーが邪魔することなくスムーズにサスペンションが動くからだろう。そしてもう1つ驚かされたのが、ダンパーがほとんど働いていないにも関わらず、スッと揺れが収まることだ。さすがに普通のサスよりは揺れが残るが、ちょうど前後の揺れがお互いを打ち消すようなイメージで揺れが収まる。聞けば、前後のどちらかのスプリングが硬いと、そちらを軸にした揺れが残るのだが、前後のバランスが取れると、このようにスプリングだけでも“意外と”減衰してくれるのだそうだ。

 これでスプリングの設定は決まったので、あとはこれにダンパーの減衰を足していく。その過程で乗り心地が悪化したりバランスが崩れたりしたら、それはダンパーが原因と割り切れる。目から鱗のセッティング方法である。

 今後まだダンパーのテストや車高ももう少し落としたいなど、開発にはまだまだ時間を要しそうだが、86オーナーにとっては製品化が待ち遠しい商品だろう。

現在、86/BRZ用のダンパーキットを開発中。完成が楽しみだ

(松本尊重/Photo:高橋 学)
2012年 10月 15日