木製モデラーの個展へ

上信越道の富岡あたりから見える雪を被った浅間山。その白さは寒々しさよりも清々しいばかりでした

 この連載の少し前の回で、東京の神楽坂で行われた自動車アート展の紹介をしたところ、群馬県に住む知人から「こちらにも素晴らしい木製アートを手掛ける方がいて、近々、個展を開く予定です」というお知らせをいただきました。クルマ好きと言っても世の中には様々な方がいて、そういう方を新たに知り、直接お会いできたならラッキー&ハッピーと思う私。

 そこで、今回は群馬県高崎市で行われている木製モデラー山田健二さんの個展を見にいきながら、その周辺を寄り道ドライブしてみることにしました。

 このところ、関東では暖かい日と寒い日が入り混じる陽気が続いています。そんな中にも春らしい何かが見つけられたら、ドライブ中のラッキー&ハッピーが感じられるかもしれない……と。

 晴天に恵まれたこの日、気温は低めながら車内からは青い空と春らしい陽射しが感じられ、ドライブ日和を実感。一方で関越自動車道に乗り、藤岡JCTに近づくころから遠くに雪を被った浅間山が青空に白い山の存在感を主張しており、上信越道に入り下仁田あたりに差し掛かると、その存在はより大きくなる。

 すると、冬と春の狭間の微妙でもどかしい季節感が感じられます。「この辺りに春はまだやって来ていないのか……?」。上信越道はいつもなら軽井沢に向かうルートです。が、今回は松井田・妙義~下仁田あたりをドライブするべく、知人の案内もあって途中のインターで降りることに……。

日当たりのよいところでは白梅が咲き始めていました。その後ろには妙義山!「もうおしまいだね」という下仁田ネギ。私にはまだまだ美味しそうに見えました
黄色い花を咲かせるロウバイ。もう少し早い時期なら黄色いアーチの中を歩けたかも……。新緑の季節を迎えるまでの貴重なシーズンを、花々で実感できました「旧富岡製糸場」は場内を見学できます。現在、富岡製糸場と絹産業関連遺産は世界遺産の暫定リストに記載されており、正式に認められることを目指しています

 花暦がいつもより遅れているのはこのあたりも同じ。やっと白梅が咲きはじめ、畑には土の中で越冬した下仁田ネギがまだまだ美味しそうに太くて緑色の先端をピンと立ててジッとしていました。デコボコも独特な妙義山と下仁田ネギが見える風景がいかにも……な雰囲気を醸し出していました。加えて、平日の昼間でときどきお年寄りが農作業をしているくらいののんびりとした光景は、気持ちが和むものです。

 そこから富岡を抜け、下道でのんびりと高崎市内へ……山田氏が個展を開くギャラリーを訪れると、今度は真っ赤なフェラーリたちが出迎えてくれました。しかし、その精巧さに圧倒されるものの、興奮するというよりも終始、穏やかな笑みが浮かぶような作品でした。

 実は山田健二さんの作品はバルサ材という軽くて柔らかい木を重ねて形を作り、ボディラインを削り出し、プラモデル用のラッカー塗料で着色をするという手法で製作されています。そのためか、何と言うか柔らかさや温もりが感じられるのです。この方法でモデルカーを作るのは山田さんだけなのだとか。それもフェラーリだけなのだそうです。

 山田さんは子供の頃から鉄道模型や帆船をこの手法で作製しており、スーパーカーブームの時代に衝撃的な出会いをしたフェラーリに魅せられ、6年前からフェラーリのモデルカーを作り始めました。

ギャラリーを入ると山田氏の絵やモデルカーが彼のフェラーリレッドの世界を作りだしていました製作途中のモデルと山田健二さんタイヤは1つのパターンを削り、重ねてようやく1本のタイヤが完成するのだそうです
ディーノだけが唯一、イエローでした今回の個展に向けて製作された250GTOは1/5スケールと特大サイズ! 製作日数は3~4カ月を費やしたそうです。大きいほど、より精巧さが求められるし、求めたくなるのだとか。ボディーの柔らかなラウンドはもちろん、タイヤやホイールのリアルさがより印象に残りました。実車もアルミを叩き出して1台1台造られましたが、それに通ずる思い入れを感じます

 衝撃的な出会いというのは、デパートにお勤めしていた山田さんは当時イベント担当で、あるとき販促活動の一環として屋上でランボルギーニ カウンタックと一緒にフェラーリ 308GTBを展示したのだそうです。その際、役得でフェラーリに同乗試乗させていただいたときのエンジンの性能や音、そして街中での周囲の視線をも集めるスタイルにすっかりメロメロに……。このときランボルギーニを走らせることはできず、フェラーリは知人所有だったことから自走し、同乗もできたことから運命的な出会いが始まったのです。

 そこから資料を集めはじめ、フェラーリにのめり込むと、エンツォ・フェラーリのカリスマ性に惹かれ、シューマッハがF1で連勝する強さにも魅せられ、「フェラーリ以外はクルマではない!」というほどのフェラーリファンになってしまったのだそうです。

 また「1/1(実車)のフェラーリを端から買うことはできないわけで、かと言ってメーカーのプラモデルなどはせいぜい1/12のサイズです。僕だけの大きなフェラーリ(主に1/6)が作りたいんです」と山田さん。何だか少年みたいであり、展示されているモデルカーを見ているとその気持ちが伝わってきました。ちなみに3年前に1/1(実車)の「328S」も手に入れたのだそう。「自分の誕生日が3月28日なので、運命を感じます(苦笑)」ですって……(私のほうこそ、苦笑)。

 モデル製作はお仕事をリタイヤされてからの夢だったそうで、今はその夢を果たしている真っ最中。子供のころから絵を描き、モデル製作をしていたそのキャリアから作り出される作品は完璧に趣味の域を超えており、TVや雑誌などでも度々紹介されているほどです。

 これまでに作られたフェラーリは18台。絵は200枚を超えるそうで、こちらも子供のころから変わらぬ水彩絵の具で描かれているのですが、キャリアはもちろんですが、センスもあるのでしょう。本当に様々な自動車アートがありますが、山田さんの作品も他にはなく、とても素晴らしいものでした。

 今回の山田さんの個展を訪れるドライブが、どうやら私の春のドライブの幕開けになったみたい。私のまわりではスタッドレスタイヤからサマータイヤへと履き替える方も増えているこの頃。そろそろ春のドライブシーズンを迎える準備が始まっています。

 クルマがお好きなら、春のドライブに自動車アートやミュージアムの見学を取り入れてみてはいかがでしょうか。山田健二さんはご自宅をギャラリーにされているそうです(群馬県高崎市竜見町15-2 Tel.027-323-6644 事前連絡が必要)。次回は私もご自宅にうかがい、山田ワールドを堪能させていただきたいと思います。

壁にはプロのカメラマンによって撮影された製作過程やパーツなどが芸術的に飾られていました作業風景の1カット作業場で製作する山田さん。図面を作成するところからモデルカー作りは始まるのだそうです。そしてその正確さが完成品に生きるのだとも……納得
250GTOのリアルなエンジンルームも木製です250カリフォルニア スパイダー250カリフォルニア スパイダーのインテリア。木製と言ってもシートやトリムは革を張り、ガラスはアクリル、ホイールのスポークは針金を使用しているそうです

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 3月 22日