もはや草レースではない? 「ニュルブルクリンク24時間」

 今週末、フランスでは「ル・マン24時間レース」が開催されます。が、私は先日、“世界最大の草レース”と呼ばれる「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」で、「レクサスLFA」に乗って2度目のクラス優勝を果たした弟(飯田章)と、“お祝い”と称して久しぶりに家族でお食事会をしました。内輪の雑談ではありますが、弟というよりも1人のプロとニュル談義になりました。

 「ライバルが少なくて、完走すればクラス優勝はできるんだから、大したことではないよ……」などと言っていたのですが、ニュルブルクリンク24時間耐久レースの舞台はクルマの聖地とも言われる“ニュル”のノルド・シュライフェ(北コース)。

 約21kmもあるコースには170以上のコーナーに加え、高低差もある世界一苛酷なコースと言われています。このサーキットでの24時間耐久レースは、たとえ“草レース”であったとしても、人間もクルマにとっても苛酷なものだったはず。ここはスポーツカーをはじめとする車両の開発を行う場所として、自動車メーカーやタイヤメーカーが利用しているのも有名な話です。

 今年、このレースには170台ほどが参加。国産メーカーからのエントリーも多く、活躍に注目していた方も多いのではないでしょうか。

 ちなみに私も過去に3周ほど走ったことがありますが、コースの印象を例えるなら、箱根あたりのブラインドコーナーもある山間道とサーキットが混ざったような感じ。普通のサーキットを想像すると、あまりにも規模が違い、圧倒されビビります。“クルマの聖地”などと言われる意味も分かるというものです。彼にとってのニュルの印象は……。

 「初めてのニュルは怖くて当たり前。今でも怖いところだと思うよ。ただその一方で、初めて走ったときから、峠を走っているみたいで楽しいとも思ったんだよね。ただね、僕らが一般のクルマ好きの人たちに向けて、軽はずみにニュルは楽しいとか素晴らしいと言って、走りたいという気持ちを煽るのは、命に係わるキケンを感じる」。

 確かに、私がパブリック走行で走ったときも、ポルシェやBMW、フェラーリなどのスポーツカー、2輪に混じって、ごく普通の乗用車が家族でドライブ気分で走っているんです。ワイルドでしょう? 私はメルセデスのディーゼル・ワゴンでちょっとお邪魔させていただいたわけですが、コースを把握していない自分にとっては、コースを覚える暇もなく常連さんたちがもの凄いスピードでやってくるのを上手にかわすのに精一杯。

 誰でも走ることはできますが、すべて自己責任。そういう感覚に慣れていない国からのビジターがニュルを走るならそれなりに準備が必要だと感じます。

 また、弟でも怖いと思うと聞いて安心する一方で、やはりニュルはすごいコースなんだと実感します。

 そんな苛酷なコース上を、今年は約170台が走った24時間レース。GAZOO RacingチームのレクサスLFAはここで開発されており、レースは耐久試験の延長として参戦しているのだそうです。

 「欧州勢はニュルで長い開発の歴史を持っているわけで、確固たるベースがある。そんなメーカーのスーパースポーツカーたちと肩を並べて走り、鍛えられる場所としてニュルを選んでいるんだよね。そしてLFAは市販車ベースだから、レーシングカーじゃないんだけど、レース中は中盤のレーシングカーたちを追い回して脅かしていたよ。LFAの基本性能の高さは間違いない」と弟。上位クラスのマシンを追い回して走るのはきっと楽しかったし、誇らしかったのではないでしょうか。

 本人にとっては6度目、LFAで5度目となるレースについては、今年からTOP40予選というのが採用されたことが面白かったと言います。

 24時間の耐久レースは予選の順位はあまり関係ないわけです。が、今年からは1回目の予選で上位40台に残ったクルマだけが、再度ガチンコのタイムアタックに参加でき、正式な予選(スタート)順位が決まるというのがTOP40予選。これはレース展開よりも、ドライバーやチームのプライドをかけたアタックと言えそうで、だからこそ、弟も一発の速さにこだわって走ることもできたから、面白かったのでしょう。

 ただレーシングカーばかりで戦うル・マンのほうが、同じ24時間レースでも楽だと言います。あちらはプロドライバーの数だって多いはずです。でもそうでないのが“草レース”であるニュルの醍醐味なのではないか、と聞くと、2000年に彼が始めてメルセデスで参戦した頃とくらべて、上位集団はもはや草レースではないのだとか。下位集団が減って、居ずらくなっているという印象すら感じているようです。

 「有名なレースになりすぎちゃったのかな……」と弟。確かに、かつて私がこのレース凄いなぁと思ったのも、M3やポルシェなどに混じって、フォルクスワーゲンの「バナゴン」なんてバンも参戦していたというお話。参加者の神経も疑うけれど、参加許可を出すオーガナイザーがいるわけで、「まさしく草レースなんだわ……」と感心しつつ、関心を持ったものでした。

 きっと今ではあり得ないのでしょう。でも外国の者としては、あのニュルで24時間の“草レース”が行われるという響きに羨ましさを抱くわけで、そういう環境が続くといいのに…と思います。

 観客は大盛り上がりで観にやって来るのだそうです。「参加者も観客も自分なりの楽しみ方を知っているんだよ。観戦方法の規模はル・マン以上だね。トレーラハウスやテントだけじゃなくてその1週間のレース観戦のために家を建てちゃうんだから……」。弟の話がどこまでの規模なのか、これだけは想像がつきません。しかし日本人にとって海外のレースでも、とりわけロングディスタンス系を観ることで、レース文化のみならず観戦文化を知ることもできるのが楽しいのです。私も1度はニュルにも行ってみたいものです。

 最後に来年も出るのかという問いには、分からないという予想通りの答えが返ってきました。しかし、もしもLFAが進化を続けるなら、弟がドライバーでなくても引き続きレースを走る実験場として参戦してほしいと思うけれど、いかがでしょうか。要は、日本のメーカーに参戦し続けて欲しいと1人のレースファンは思うのです。

レクサスLFAの開発のお手伝いをしているという弟は、昨年、LFAで量産メーカーの市販車のコースレコードを記録しました。もう更新されてしまったようですが……一緒に食事をするのは久しぶりでしたし、最近はわんぱく盛りの姪や甥がおり、子煩悩な弟と落ち着いてクルマ談義など普段からできない状態です。この日も弟はあまりレースの話を積極的にしたい雰囲気ではなかったのですが、付き合ってくれました

 ただし弟はル・マンでも味わうことが無かった「1周ごとに、あ~無事に戻ってこられた」という気持ちを、毎周抱くそうです。弟を尊敬し応援する一方で、あの飯田章でもそう思うほど、ニュルってやはり苛酷なんだと心配にもなりました。

 お酒を飲みながらの雑談はこんなところです。が、ル・マンにしてもニュルにしても、24時間耐久レースを想像するだけでアドレナリンが出るのは、私だけ? ちなみにル・マン24時間レースには、私も弟のお手伝いやTV取材チームのお手伝いで5回行きました。自分では十勝24時間レースに参加したことがあり、様子が分かるからアドレナリンも出るのかもしれません。この週末、もしもル・マンをTVやネットなどで見る機会があれば、アドレナリンが出ちゃうかも? 国産勢には頑張って欲しいですね。週末が楽しみ。

 それにしても、ル・マンを地上波のTVが放送していたことが懐かしいな……。

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 6月 14日