今年もパイクスに

プラクティスの風景。コブラのレプリカのようだが、グリーンのボディはパイクスの赤い岩肌とのコントラストが美しい

 今年89回目を迎える「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」(以後、パイクスと省略)のレースウイークがスタートしました。

 私は昨年同様、YOKOHAMA EV CHALLENGEチームに同行させていただき、車検からレース当日までを取材する予定でいます。これに加え、私が気になるチームやドライバー、マシンも紹介するつもりです。

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、アメリカでインディ500に次いで歴史あるレースです。インディが今年100周年(だからと言って100回ではないのだけど)を迎えましたが、89回目となるパイクスも、インディ同様にこれだけ長い間続いてきたのには、やはりそれなりの魅力があるようです。

 このレースはパイクスピークという山の観光道路(有料)を閉鎖して行われるタイムトライアルレースです。関東で例えるなら箱根のターンパイクみたいなところでしょうかね。

 パイクスピークはロッキー山脈の一部の山で、コロラド州に位置します。レースのスタート地点は山の中腹で標高は2862m、目指すゴールは山頂で、その標高は何と4301m! レースが始まった当時はすべてがグラベル(ダート)でしたが、近年は舗装が進み、今年も昨年よりも舗装路の割合が増え、グラベルはほんの一部。さらに来年はオール舗装路になる予定なのだとか……。

このレースは別名「雲に向かうレース」と言われている。4301mの山頂は時折、雲の上になるパイクスピークは麓から見てもとて高い山であることが分かる。あんな山の山頂までクルマを走らせ、速さを競うレース、何ともアメリカらしい

 また転落防止のガードレールは所々のカーブに設置されているだけで、一般人でさえ、特に高所恐怖症の方にとっては運転が怖いと言いますから、そんなデンジャラスな道路で“誰が一番速く走れるか”を競うこのレースはサーキットレースにはないスリルがあるわけです。

 さらにこのレースを苛酷にしているのがルール。約1週間のレースウイークのスケジュールは、火曜日が参加者の受付と車検、水曜日~金曜日がプラクティス・デーなのですが、走行時間は一般観光客が訪れる前の朝の5時半から9時半まで。関係者はゲートオープンの3時半を目指してホテルを出発するため、睡眠時間はわずか……。この数日は皆さん超睡眠不足となります。

 しかも練習では、フルコースを走ることができません。フルコースを走れるのは、当日のたった1回の本番走行だけなんです。レースコースは約20kmで、走行時間はだいたい10~20分です。つまりこの十数分間の走行をたった1回チャレンジするために、国内外からドライバーたちが集まってくるのです。このレースの概要と苛酷さ、少しご理解いただけましたでしょうか?

 つまりパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、よほどのモノ好きかチャレンジャーでなければ参加しないのではないか、というのが私の見解です。

 そんなパイクス、今年は日本人としても見どころ盛り沢山なのです。が、日本人の最も“好きモノ”からまずご紹介するならこの人。このレースに20年以上も参戦している“モンスター”田嶋さんです。迫力のある走行パフォーマンスのファンも多く、地元では知らない人がいないくらいの有名人です。今年は3年目となる「モンスタースポーツSX4ヒルクライムスペシャル」で、前人未踏&自己ベストタイムとなる9分台のタイムを叩き出し、同時に6連覇となる総合優勝を目指しています。

 一方、私が同行させていただいているYOKOHAMA EV CHALLENGEチームのドライバー塙郁夫さんは、3年前からオリジナルEVマシンでEVのワールドレコードを更新中。今年は昨年使用したマシンを熟成させ、ワールドレコード更新を狙います。個人的には“大幅なタイムアップ”を期待し、応援するつもりでおります!

車検場で順番を待つ、モンスター田嶋さんとマシンの「SX4ヒルクライムスペシャル」。こうしている間にもカメラを持つ方たちが常にいるほど、注目と人気を集めていた塙さんが製作したオープンホイールタイプのEVマシンが車検を受ける。バッテリーはサンヨー製でパワーユニットはACP製。タイヤはもちろん横浜タイヤで、今回はブルーアースのプロトタイプを使用している。EVマシンは昨年同様に関係者の間でも注目を集めている塙さんのマシン「Her-02」。EVは音がないと言われるが、モーターのキーンという音が独特の緊張感とスピード感を感じさせてくれる。加えて、レギュレーションに従い、走行中は存在を知らせるビープ音も鳴る

 さらに今年はD1グランプリで腕を磨いた新たな日本人チャレンジャー、吉岡稔記クンも右ハンドルのシルビアS15で参戦。日本人の活躍から目は話せません。

 参加マシンでは日産のEV「リーフ」が初参戦。北米日産ワークスドライバーであるホード・チャドさんが、初めてのパイクスにリーフとともに挑みます。すでに何度かインタビューもさせていただきましたが、調子はよいとのこと。リーフでの参戦の感想をゴール地点でうかがうのが、今から楽しみです。

 一方、予想外だったのがホンダ「フィット」の参戦でした。こちらはオハイオ州にある研究所で働くレース好きが集まってレース仕様のクルマを作り、今回はパイクスにやって来たのだとか。コースのトップセクションを走行した後の感想を聞くと「オソイ~!」という第一声。標高が高くなるにつれ空気も薄くなるのでパワーダウンは否めませんからね。「デモ、タノシイ、デスヨ~」とドライバーのジェームス・ロビンソンさんが話してくれました。

ダート・パートを走るリーフキレイにカラーリングされた日産「リーフ」チームのトレーラー。こういう風景もアメリカン・モータースポーツ・イベントらしい
オハイオのホンダ研究所チームはホンダ「フィット」で参戦モンスター田嶋のライバルの1人、リース・ミレンのマシン、ヒュンダイ「RMR PM580」。父親のロッド・ミレンは“God of Pikes”と呼ばれるほどパイクスの有名人。今年は久しぶりに父親も、レッドブルカラーのヒュンダイ「ジェネシス」で参戦する

 今年は参加台数が増え、トータルで73台のマシンが参戦。2輪も約120台が参戦しています。アメリカ国内外からモノ好きとチャレンジャーが集まるレースとは言うものの、コロラドスプリングスという小さな町で行われるこのイベントは、オフィシャルなどの関係者は地元ボランティアの方々であり、地元の方たちにとっても我々にとってもローカル感の漂うお祭りのようなイベントの雰囲気があります。そこもまた魅力の1つ。来週はレースの模様とお祭りのような雰囲気をお伝えしたいと思います。

【お詫びと訂正】記事初出時、インディ500が今年で150周年と記述しましたが、100周年の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2011年 6月 27日