地図を作り、育てる人々
ゼンリン テクノセンター(一般見学は行われていません) |
ゼンリンという会社、ご存知ですか。地図、もしくは住宅地図の会社としてご存知の方が多いのかもしれません。私もクルマを運転する際に相当にお世話になっていました、これまでは……しかし、これからはそれ以外の生活の中でも、ゼンリンの情報を利用する機会が増えそうです。いや、もう利用させていただいているのかもしれません。
今回、福岡県は北九州市にあるゼンリンの開発・研究・地図データ管理などを行う「ゼンリンテクノセンター」を特別に案内していただきました。ゼンリンの地図が、人の足と手によって作られていることをしみじみ実感しました。
すでにご存知の方も多いかもしれませんが、ゼンリンの住宅地図情報は調査スタッフの方が全国全国市区町村(99.6%をカバーしています)の1軒1軒を定期的に歩いてローラー調査を行い、更新されています。調査スタッフの年間の述べ人数はなんと28万人! その方たちが新しい情報を地図に書き込んでいくそうですが、それもこれも60年以上にわたり日本中を歩き続け集めた情報がベースになっているんです。
余談ですが、日本中を歩き続けたと聞くと、伊能忠敬を思い出す方も多いと思います。小倉駅の近くに「ゼンリン地図の資料館」があり、地図にまつわる(もちろん伊能忠敬関連のものも含む)展示を楽しく見てまわることができます。
ゼンリンの地図データができるまでの全てを紹介するつもりはありませんが、マンパワーならぬ人の足で得た情報は、近年はすべてデジタル化されています。私が見学させていただいたのはその作業がどのように行われているかというのが主で、データ修正をはじめ、メーカーや官公庁などの用途に応じたオーダーメイドや、最先端技術やアイディアを用いた地図を作製する様子を、可能な範囲で説明していただいたのです。
ここでも余談ですが、ゼンリンが地図情報の電子化に着手したのは1981年。当時はまだコンピュータの能力も不十分で、コストも莫大だったそうです。が、デジタル化によって応用性も広がり、カーナビ用の地図データもこの頃に生まれました。世界初のGPS対応カーナビ専用ソフトは1990年に、マツダのユーノス・コスモに搭載されたのだそうです。知りませんでした。以来20年少々で、カーナビも本当に進化したものです。
地図データベースは何層ものデータを重ねてできており、例えばベースの地図があるとすると、その上に文字データや建物、道路データなど約1000枚のレイヤ構造になっているのだそうです。
おかげで住所はもちろん名前や目標物、カテゴリーを入力すれば行きたい場所を検索することができる。こういう情報のひとつひとつが人の手によって入力されているんです。今ではこの作業は、日本以外の例えば中国でも行っているそうです。しっかりと研修を行うそうですが、漢字に慣れ親しんだ文字文化を持つ中国人はやはり習熟度が高いのだそうです。
自動車メーカーやナビのメーカーの商品などが展示してあり、どんな製品開発に携わっているかを知ることもできました | コンピュータのまわりにある大きな紙の束は全て地図。データに間違いがないか、チェックを行ったり、新しいデータを入力したりするのに使われるそうです | 家や店舗、1軒1軒に名前などの情報を入力する作業は見ているだけで細かいとわかります |
高速道路はどうやって情報収集しているのか、新しくできる道路情報は開通時にナビに反映されているのか? そんな質問もさせていただきました。建設段階で設計図をもとに地図を作製し、基本情報は(シンプルな“道”の存在として)取り込まれます。
が、開通後に改めて詳細情報をクルマで調査するのだとか。高精度な道路調査ができる専用車両を所有しており、GPSの誤差は受信感度によるもののわずか数cmだとか。そのへんのGPS、カーナビのアンテナとは精度、感度が違う分効果的だけど、1台あたり数千万円の機器を積んでいるらしい。
細道路の情報を収集する計測車輌もあり、これは専用カメラで、細い通行可能な道路の交通規制、物理規制の情報収集をしているそうです。道路のペイント、構造物の情報などを誤差なく情報を取得することで、複雑な交差点などもカーナビ上でスムーズな案内が可能になる。一旦停止線も数メーター手前から注意喚起が行えるようなデータベースが完成するわけです。
現在は、私の愛車のナビの悩みでもある、「目的地“周辺”です。案内を終了します」という案内を改善する整備を行っているそうです。それが「Door to Door コンテンツ」。コレはエライッ! 細道路車輌で物理規制(車両止め、階段など、車両が通れない規制情報のこと)などを調査。さらに住宅地図調査の際に建物の入口がどこにあるか、1軒1軒調査をかけます。すると、これまで川岸の向こうに案内していたこともあった目的地も、今や建物の入口に面した道路への誘導から建物の前までの案内もしてくれる。しかも時間帯による交通規制(一方通行、進入禁止)に伴う、最適な道路の経路探索が可能になるのだそうです。
画像データの処理なども手作業で入力 |
さらにこれからは……エコルートの誘導を実現する情報の整備を行っているそうです。山越えは早く着くけれど、燃費が悪い場合は省燃費ルートの案内も可能になる。標高データは都市高速や有料道路を見分けるだけでなく、省燃費ルート案内への活用もしていくようです。ちなみに運転操作とナビとの協調制御については、トヨタが5年前に下り坂でナビから勾配情報を得て、自動的にシフトダウンする機能を採用していました。今後、協調制御についてもますます進化していくのでしょう。
クルマばかりではなく、歩行者のナビデータもどんどんと詳しくなっていくようです。駅構内、ペデストリアンデッキ、公園など歩行者が歩くところのデータ整備を行っている最中。歩行者向けには公園内をつっきった(自動車と違う)ルート案内に加え、雨の日はエスカレーターや地下通路、屋根優先や距離優先など、歩行者でも目的に応じていろんな検索が可能になってくるんだそうです。
もともとは官公庁や不動産会社、運輸関係、警察や消防、NTTなどの利用が多かったというゼンリンの地図情報。今は我々のカーライフのみならず、スマホやポータブルナビを持ち歩く歩行者にも身近になりつつあります。スマホでも「いつもNAVI」が使えたり、GPS機能付のデジカメやビデオにもゼンリンの地上データが採用されているそうです。
テクノセンターのフロア一面に作業する人と電算機器が並ぶ光景もかなり衝撃的でしたが、次々と新たな情報をデータに取り込めるようにするシステムの構築も相当に頭のいい人たちがやっているんだろうな……と、感心。地図を作製&管理するって本当に凄い、改めて地図に尊敬の念を抱く、見学となりました。
■飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/
(飯田裕子 )
2012年 7月 26日