飯田裕子のCar Life Diary
パイクスピーク2014での日本人と日本チームの活躍
(2014/12/25 12:00)
皆さんご無沙汰しております。不定期連載とはいえ、半年ほど掲載できずで申し訳ございませんでした。久しぶりの連載は、6月末にコロラドで開催された2014年の「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」のご報告。原稿はとっくに書いていたのですが、写真の準備が整わずズルズルと……。ほとんどの写真はワタシが撮影したもの。そう、この連載の大概は写真も私が撮っています。写真を撮るのが好きでついつい沢山撮ってしまうと今回のようなことになる。来年はこの連載を読んで下さる皆さまにもっと楽しんでいただけるような内容とし、掲載の頻度も上げていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
さて、そんな言い訳はさておきパイクス。標高4300mの高所で繰り広げられたヒルクライムレース。美しい山や空、しかし厳しい天候のなか今年も熱いレースが繰り広げられた。
今年はこの数年間で稀にみる好天に恵まれ、レース終了後には新たな顔ぶれがオールオーバー(総合)の表彰台を飾った。総合優勝はフランスからオリジナルマシン「M20 RDリミテッド」で参戦していたロメイン・デュマ。そして2位と3位の表彰台に上がったのは三菱自動車工業のEVマシン「MieV Evolution III」を駆ったグレッグ・トレーシーと増岡浩だった。ロメイン・デュマとグレッグ・トレーシーのタイム差はわずか2秒。ロメイン・デュマの1ミスで順位が変わっていたかもしれないと考えると、今年のEVの活躍は躍進といってもよいだろう。
2輪での総合優勝経験のあるグレッグ・トレーシーを除けば、ロメイン・デュマも増岡も3年目の参戦で念願の表彰台に上がれたことになる。さらにリザルトを振り返れば、トップのロメイン・デュマ以降2~4位はすべてEV。三菱自動車の2台に続き、モンスター田嶋がクラス3位(総合4位)となっているのだ。日本人が大活躍した。
パイクスでは、2012年からエレクトリックマシンの参戦が急増。その中心に日本人や日本チームがいる。今年からエレクトリッククラスは「モディファイド」と「プロダクション」の2クラスに分けられている。モディファイドには5台のマシンが参戦しており、三菱自動車のMiEV Evolution IIIが2台、モンスター田嶋の「E-Runner Pikes Peak Special」、チーム・ヨコハマから出場する塙郁夫の「Her-02」、そして2013年よりラトビアから参戦しているジャニス・ホーリックがテスラベースの「Roadster360」を新たに持ち込んだ。
プロダクションクラスにはTRDノースアメリカの副社長であるSteve Wickhanがハンドルを握る「Rav4 EV」と、ホンダエンジニアのRoy Richardsが「Fit EV」でプライベート参戦。EVは合計で7台がエントリーした。
三菱自動車とモンスター田嶋の戦い
今年もっとも注目されていたのが、EVで参戦する三菱自動車とモンスター田嶋の戦い、そしてどこまでも環境に優しいレースにこだわって参戦を続けている、チーム・ヨコハマの塙のベストタイム更新だった。三菱自動車とモンスター田嶋の戦いは、クラス優勝のみならず総合優勝にも手が届くのではないかと期待されるタイム争いだった。結果的に総合優勝を果たしたロメイン・デュマ(アンリミテッドクラス)でさえも、レース前からEVの速さが気になる様子だったのだ。
参戦3年目となった三菱自動車のMiEV Evolution IIIは2013年のマシンに改良を施し、空力やS-AWCの改良によりコーナリングスピードがアップ。練習走行で大きなトラブルもなく決勝日まで予定通りのテストが続けられた。一方、モンスター田嶋が持ち込んだE-Runnner Pikes Peak Specialも詳細スペックは提示されなかったものの、シンガポール製Gitiタイヤを含め改良が行われていた模様。ただ、順調にテストをこなす三菱自動車に対し、田嶋は連日思うような走行ができなかったようで、決勝が終わるまで決して多くを語ることはなかった。
そして迎えたレース当日。私は例年と変わらずゴール地点となる標高4301mの山頂でチェッカーを受けるマシンたちを待った。今年から速いマシン順でスタートする(2013年までは予選1位がいるクラスからスタートだった)というルールに変わった4輪はロメイン・デュマからスタート。何事もなく完走したのだったが、マシンから降りるロメイン・デュマに話を聞こうと近寄るも、この数日間でも見たことのない厳しい表情に躊躇してしまった。タイヤのグリップが低く、苦しんだようだ。実は2年前に完全舗装された路面がすでに降雪により痛みが激しく、今年は路面の凸凹が目立った。補修が行われてはいたものの、サーキットのように路面が安定しているとはどこを切り取っても言えたものではない。そこでロメイン・デュマは自らのタイムはもちろん、続くグレック・トレーシーのタイムが気になっていたのだった。
ロメイン・デュマに続き、三菱自動車のグレック・トレーシーと増岡浩はトラブルなくやってきた。グレッグ・トレーシーは2013年以上にコーナリング性能が向上したこと、そして増岡はチーム力に感謝していた。そのあたりの詳細は次回紹介したいと思う。
さらにドライバーを苦しめたのは例年にない好天気。いつになくパイクスの気温を上昇させ、田嶋のマシンはシステムエラーが発生。走行中に何度かマシンがストップするも、なんとか山頂にたどり着き、「今年はマシンセッティングに苦しんだから、無事に上がってこられただけでとても嬉しい」とレースの感想を語った。2015年はニューマシンを開発して再び参戦する予定だそうだ。三菱自動車がわずか2秒差で惜しくも総合優勝を逃したことを考えると、田嶋のニューマシン開発に力が入ることは想像しやすく、今後の巻き返しに期待したい。
気温上昇に苦しめられたのはチームヨコハマの塙も同じだった。チームがパイクスに挑んで5年目となった今年は、2013年に続き同じマシンに市販タイヤのブルーアース エースを履いて参戦。近年のEVでの参戦歴ではもっとも先輩格にあたる塙はオリジナルマシンでの参戦とはいえ、三菱自動車チームやモンスターらとはバッテリー搭載量(モーター出力)も異なる。例えば三菱自動車のマシンの最高出力は450kWだが、塙のマシンは190kW。その分車重は軽くはなるが、戦力的には大きな差がある。チーム横浜がこだわるのはあくまで「環境に優しいレース参戦」だ。今年、自己ベストタイム更新を狙ってレースウィークは順調にテスト走行をこなすも、当日の気温の高さによりシステムエラーが発生。モンスター田嶋と同様、走行中に数回のマシンストップに見舞われながらなんとか山頂でチェッカーフラッグを受けた。
パイクスの練習走行は、一般観光客の通行が始まる朝9時半までの早朝に行われる。一方のレースはお昼過ぎ。こういった点も想定内ではあるものの、今年の気温の高さはEVのみならずガソリン車にとってもタイヤへの負担(グリップ低下)など我慢を強いられるレースとなった。市販タイヤである低燃費タイヤ「BluEarth-A(ブルー アース・エース)」を履く塙が1週間交換なしの同じタイヤで戦うことができたのは、耐摩耗性に優れることの証だろう。路面温度が上昇する中での走行について塙は、「(タイムアタックをするには)ヨコハマタイヤで言えばADVANシリーズのようなスポーツタイヤを履くに越したことはない。実際、発熱によるタイヤのタレはあった。だけど、路面の荒れた156もコーナーのあるパイクスで多少はタイヤに配慮しながらも攻め続けられるって、どれだけスゴイことか分かってほしい。一般道を走るドライバーにとってエコタイヤがつまらないなんて、このタイヤではまったく思わないだろうね」と、例年とは異なる状況の中で走った今年の新たな発見を語ってくれた。
そのほかの日本人注目選手
そのほか、日本人で注目されていたのはタイムアタッククラスに参戦した吉岡稔記とケン・グシという2人のドライバーだ。彼らは北米で人気のドリフト競技に参戦する人気ドライバーでもある。そんな2人がともにサイオンFR-Sで参戦し、予選は吉岡が2台のポルシェ911に次ぐ3位と大健闘。ケン・グシはマシン不調により予選走行ならず、順位不確定のため本番レースは後半スタートとなった。
吉岡のパイクス参戦は今年で4年目。過去にも表彰台に上がった経験があり、今回のライバルはポルシェのドライバーとパイクス参戦3年目となるケン・グシと睨んでいた。吉岡の走行が終わった時点での順位はタイムアタッククラスの予選どおり2台のポルシェに次ぐ3位。ところが、ケン・グシはとても速く、結果はケン・グシが3位、吉岡が4位で今年のパイクスを終えた。吉岡は「パイクスは年に一度のレースだけど、その一度を戦う価値がある。また来年も参戦したい」と語った。
実は2輪にも日本人参戦者はいる。参戦2年目のサイドカー・チーム、クラシカルなバイクでさまざまな国内外のレースに参戦する方たち、EVバイクを持ち込んで初参戦に臨んだ方もいた。この数年、日本人の参戦が増えている。参戦するのは時間も資金も含め決して簡単なことではなく、さらにガードレールもほとんどない156のコーナーを抜けて標高4301mの山頂に辿り着くのは危険が伴う。今年も1人のライダーが命を落としている。それでも毎年、参加者は一定の定員を満たす。いつかは参戦したいと思わせる魅力がここパイクスピークにはあるのだと改めて実感した、2014年のレースだった。