【オーストラリアGP】
地殻変動が始まる?
際だつブロウンGPとトヨタの速さ

 2009年のF1開幕戦、オーストラリアGPは、期待どおりの混戦模様になった。そして、ブロウンGPのテストでの圧倒的な速さは、スポンサー獲得のためのゴマカシではなく、ホンモノであったことが、実証された。

明暗を分けた、スーパーソフトタイヤの使いこなし
 ブロウンGPのマシン「BGP001」は、フリー走行から安定した走りを見せていた。そして、土曜日の予選になるとさらに速さが際立った。ジェンソン・バトンもルーベンス・バリチェロも、Q1、Q2を余裕で通過。Q2ではダメ押しのように、燃料搭載量が少なく軽い状態での速さをライバルに見せつけた。

 さらに、決勝スタート分の燃料も積んだQ3でも、BGP001はほかとは一線を隔す速さだった。この段階で、ブロウンGPが決勝でも強いことがかなりはっきりしてきた。燃料を搭載した重めの車体でも、まったく姿勢を乱さずに速く走る上に、スーパーソフトタイヤの性能をうまく引き出していたからだ。

 今回用意されたドライタイヤは、最も柔らかい「スーパーソフト」と中間の硬さの「ミディアム」。今年から、特性が大きく異なる2種類のタイヤを使わせることで、マシンに最適となるタイヤを選びにくくしている。こうすることで、タイヤの使い方、つまりタイヤの性能の引き出し方と性能の維持を難しくさせ、この優劣もまた決勝での追い抜きとスペクタクルの増加に結び付けようとしていた。これによりチームは、より幅広い対応能力をマシンに持たせることが求められ、ドライバーは両方のタイヤに対応したドライビングをすることが求められる。

 これに対して最もよい答えを出していたのが、ブロウンGPだった。ブロウンGPは、決勝で「ミディアム」-「ミディアム」-「スーパーソフト」というタイヤ選択をした。そして、どちらのタイヤでも安定して好タイムが出せていたのはブラウンGPだけだった。特に終盤でのスーパーソフトでは、バトンが1分29秒台を安定して出していた。このスーパーソフトを使いこなせたのが、予選と決勝での大きなアドバンテージだった。

 一方、大部分のチームは、スーパーソフトを装着するとわずか数周でタイムを大幅に落として苦戦した。その好例が、終盤のセバスチャン・ベッテル(レッドブル)対ロバート・クビサ(BMWザウバー)のバトルだった。クビサはスタートでスーパーソフトを装着した数少ないドライバーの1人だったが、おかげで中盤と終盤にミディアムを装着できた。

 そして終盤、ミディアムの性能維持能力の高さを利して、スーパーソフトを選択したベッテルに猛攻撃をしかけた。タイヤの性能が大幅に落ちたベッテルは、グリップしないタイヤのおかげで、加速も減速もコーナーでの横方向への踏ん張りも効かない状態に陥っていた。そこで、クビサは残り3周のターン5でしかけたのだが接触。両者とも、表彰台目前、バトルに負けても入賞確実というチャンスを失った。

 このクラッシュがベッテルに責任があると裁定され、次のマレーシアGPでの10グリッド降格処分が決まった。また、ベッテルが3輪状態となったマシンをしばらく走らせたことで、レッドブルチームは安全にかつ速やかに停車させなかったとして、5万ドルの罰金を科せられた。

 このベッテル同様に、スーパーソフトに苦しんだドライバーは多かったが、ウィリアムズのニコ・ロズベルグはその筆頭だった。ロズベルグのウィリアムズFW31はミディアムではトップの速さを持っていた。それは、ロズベルグがフリー走行でのトップタイムを連発し、そのほとんどがミディアムで出していたことでも分かった。そのロズベルグが、終盤スーパーソフトに交換すると、タイヤの急速な性能低下で、ライバルの攻撃に防衛するすべがなくなり、3番手から9番手に転落していた。

空力に頼り切らないことで、ブロウンGPが有利に
 だが、ここでことわっておきたいのは、スーパーソフトが悪いのではなく、それを使いこなせないマシンにしてしまったチームにも大きな責任があるということだ。

 普通の自動車もF1も、その運動性能を左右するのは、路面と接しているタイヤで決まると言ってもよいくらいだ。そして、サスペンションや空力や重量配分は、いかにタイヤを路面にきちんと接地させて、タイヤの性能を引き出し、しかもその性能を長持ちさせるかというツールであると言える。

 今年のタイヤに対して、どう対処するのか?という問題に対して、多くのチームのマシンは、対処幅が狭かった。結果、ミディアムではなんとかなったものの、スーパーソフトでは極端な性能低下を引き起こすマシンにしていたとも言えるのだ。

 これは空力性能を追求したと思われるマシンに顕著だった。ウィリアムズもレッドブルも、空力性能を追求して、空力性能の変化をまねく車体の姿勢変化を起こさせないようにサスペンションを硬くしていたようだった。中嶋一貴が、縁石に載った瞬間に車体が跳ねてクラッシュしたことでも、サスペンションの硬さがうかがえた。

 他方、ブロウンGPのBGP001が有利だったのは、ディフューザーに代表される空力性能だけではなく、サスペンションの性能のよさであるようだった。車載カメラの映像でも、リアだけでなく、フロントサスペンションも良く動いて路面の変化に対応しながら、車体の姿勢はほとんど崩していなかった。これで、タイヤの性能を引き出しながら、タイヤの消耗を抑えた走りも可能としていた。また、バトン、バリチェロの繊細なドライビングも、タイヤをよりうまく使う要因となっていた。

 安定した速さでスタートからトップを独走したバトンは、2位との差を見ながらペースをコントロールできたことも、タイヤへの負担を減らし、勝てる要因となった。一方で、スタート直後のミスでクラッシュを招いたバリチェロは、後方からの猛追でも2位になれた。しかも、バリチェロ車はスタート直後のクラッシュでディフューザーとフロントウイングにダメージを負った。フロントウイングは1回目のピットストップで新品に交換したが、ディフューザーはゴールまでそのままだった。空力性能が落ちても、BGP001は安定した速さがあった。

トップを狙えるトヨタ
 速さという点では、先述のウィリアムズFW31、レッドブルRB5に加えて、トヨタのTF109もかなりのレベルを見せた。

 リアウイングの問題で予選タイムを抹消されたにもかかわらず、決勝は2台ともトップ8以内でゴールラインを通過した。トゥルーリは3位でゴールしていたのだが、セイフティーカーラップ中にルイス・ハミルトンを追い越したとして25秒加算ペナルティを科せられ、12番手になった。この追い抜きの問題は、マクラーレンとトヨタで主張が食い違う点がある上、映像がないことから、正確なところは分からない。

 ただ、レース中のドライブスルーと10秒ストップのペナルティには、提訴する権利が認められておらず、これらのペナルティの代わりに適用される25秒加算ペナルティにも提訴は認められない。このことは、昨年のベルギーGPでのハミルトンのシケイン不通過とライコネン追い抜きの問題で25秒加算ペナルティに対して、マクラーレンの提訴が棄却されたという前例もある。

 しかし、結果と公式順位がどうであれ、トヨタTF109がトップを狙える速さがあることは明らかになった。ドライバーはまだマシンバランスに満足していない点があるようだが、これが解消できればブロウンGPとのトップ争いになるはずだ。

【編集部註】その後、FIAは再調査の結果、ルイス・ハミルトンを失格とし、トゥルーリのペナルティを取り消した。このため、トゥルールは3位に復活した。(2009年4月3日)

KERSの効果は?
 BMWザウバーのF1.08は、クビサがKERS(運動エネルギー回生システム)なし、ニック・ハイドフェルドがKERS搭載と分けてきた。クビサは、決勝で速さを見せてきた。これはクビサの頑張りによるところも大きかったようだが、フリー走行では「まったくタイヤがグリップしない」と言っていたマシンを、決勝ではかなり改善できたようだ。

 ハイドフェルトのほか、ルノー、フェラーリ、マクラーレンがKERSを使用してきた。予選では、KERSの約80馬力のパワーアシストをストレートでのタイム向上に利用していた。また決勝では、アロンソを筆頭に、追撃からの追い抜き阻止などに利用していた。

 半面、KERS装着車は、減速時に発電をするため、リアタイヤに強いエンジンブレーキがかったようになってロックして暴れやすくなり、ブレーキングで姿勢を乱すことも多かった。KERSはまだ導入して間もないもので、今後のさらなる開発が必要だろう。また、アルバートパークサーキットではストレートが短く、KERSの本来の目的だった追い抜きを助けるパワーアシスト効果があまり見られなかったが、マレーシアでは長いストレートがあるので、その効果が見られるはずだ。

 昨年までのトップ2だったフェラーリとマクラーレンはよいところがなかった。フェラーリF60は、ブロウンGPに対抗できる速さではなかった。また、昨年の開幕戦同様に信頼性にも不安を見せている。マクラーレンのMP4-24はもっと遅かった。しかも、ハミルトンは予選ギアボックスにトラブルが出てしまい、4戦連続使用という規定の中で、第1戦からギア交換となってしまった。これでグリッド最後尾からのスタートになった。決勝では終盤に3、4位争いにまで浮上し、トゥルーリのペナルティで3位になった。だが、トップ争いにはかなり遠い状況だ。

マレーシアも見所満載
 今回、レース前の木曜日にウィリアムズ、トヨタ、ブロウンGPのディフューザーについて、ルノー、フェラーリ、レッドブルからやはり抗議が出された。しかし、スチュワード(競技審判団)は、そのディフューザーを合法と判定した。これで、ウィリアムズ、トヨタ、ブロウンGPは、ディフューザーをそのまま装着して参戦できた。

 しかし、ルノー、フェラーリ、レッドブルは、この判定を不服として提訴したため、4月14日に国際控訴院(International Court of Appeal)で事情聴取と審理が行われることになった。これで、ディフューザーが違法となれば、オーストラリアとマレーシア両GPの結果になんらかの修正が加えられる可能性もないとは言えない。また、ウィリアムズ、トヨタ、ブロウンGPは、対策したディフューザーが必要となる。逆に合法とされれば、ルノー、フェラーリ、レッドブルを含む多くのチームがディフューザーを中国GPか、その後のバーレーンGPかスペインGPに投入してくるだろう。おそらく、両陣営とも、対策となる新型ディフューザーをそれぞれ開発して準備しているはずだ。

 圧勝だったブロウンGPには、土曜にヴァージン・グループという大口スポンサーが付いた。もちろん、新参者への「出る杭を打つ」ような行為も始まっている。優勝の翌日には、270名のリストラというニュースも喧伝された。しかし、リストラはどのチームで行っている。コスト削減策によって、余剰人員が出ているからだ。とくにテスト禁止によって、トップチームでもテスト担当チームの人員整理が行われている。ブロウンGPだけがリストラを話題にされるのは不公平で、報道としては根本から間違った姿勢だといえる。

 むしろ、今はこの4カ月、絶体絶命の状況からの奇跡のカムバックを果たし、1977年のウルフチーム以来のデビュー戦優勝、1954年のベンツチーム以来のデビュー戦1-2フィニッシュという快挙を達成した、ブロウンGPチームを称賛すべきだろう。

 アルバートパークは、F1の中では特殊なコースだった。だが、今週末のマレーシアGPのセパンサーキットは近代的なF1用コースの典型だ。ここでもブロウンGPが速いのか、トヨタ、BMWザウバー、レッドブルがこれを止めるのか。フェラーリがどう出てくるのか。さらには、新空力ボディーで暑さ対策に問題はないのか。熱い路面でソフトとハードの両タイヤをどう使いこなすのか。予選と決勝が夕方スタートということは、スコールの可能性もあり、雨用タイヤへの対応はどうなのか。そして、KERSの本領がどのように発揮されるのか。金曜日のフリー走行から、興味と見どころ満載だ。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2009年4月2日