【年末拡大版/その2】若手ドライバーにもっとチャンスを

合同テストは11月15日~17日に行われた

本当に若手育成テスト?
 アブダビGP直後の11月15日~17日の3日間、ヤスマリーナサーキットで若手ドライバーを対象とした合同テストが行われた。参加したドライバーは、以下の通りだった。

・レッドブル:ジャン・エリック・ヴェルニュ
・マクラーレン:ゲリー・パフェット/オリバー・ターベイ
・フェラーリ:ジュール・ビアンキ
・メルセデス:サム・バード
・ルノー:ロバート・ウィケンズ/ケビン・コリュス
・ウィリアムズ:バルッテリ・ボッタス/ミルコ・ボルトロッティ
・トロロッソ:ステファノ・コレッティ/ケビン・チェコン
・フォースインディア:マックス・チルトン/ジョニー・チェコットJr.
・ザウバー:エステバン・グティエレス/ファビオ・ライマー
・ロータス:ロドルフォ・ゴンザレス/ルイス・ラジア/アレクサンダー・ロッシ
・ヴァージン:シャルル・ピック/エイドリアン・クアイフ-ホッブス
・HRT:ダニ・クロス/ジャン・ハロウズ/ナタネル・ベルトン

 さてこのテスト、本当に若手育成のためのテストになったのだろうか? シーズン終わり近くとあって、2012年マシン用のコンポーネントをテストするチームが多かったからだ。多くのマシンに各種の計測装置が搭載されていた。さらに、ピレリも2012年用タイヤのテスト兼ねていて、2011年用と2012年用タイヤが入り乱れての走行だったと言う。

ヤスマリーナサーキット

 もちろんF1ドライバーにはマシンの開発力や、正確な走り、的確なフィードバック(情報報告)力が必要だし、その点ではよい評価ができたのかもしれない。だが、マシンやタイヤのテスト項目により重きが置かれてしまうと、若手ドライバーにF1マシンでの走行経験を積ませ、その能力を評価するという主目的は果たしにくくなってしまう。

 これにはシーズン中のテストが原則禁止され、例外的に認められている若手育成のための走行や空力テストにおいて極めて制約が多いというところにある。だが、野放図にテストを許してしまうと、テスト費用をまかなえる裕福なチームと持たざるチームとの格差が広がってしまう。しかも、テスト走行は大金がかかるのでコスト増につながってしまう。制限をしながらもある範囲でテストを増やす方法はないのか。このテストの問題はチーム間でも話し合われ、善後策が練られている。

 ここで、別のシリーズでやっていた方法を取り上げてみよう。それはインディカーのもので、ECUデータから走行記録を調べ、規定の範囲内の走行であればテストを可能とするというもの。ECUはエンジンを制御するコンピュータで、運転と走行に関するデータが集まり、記録できる。F1もFIAによる共通ECUが搭載され、そのデータはFIAがチェックできるようになっている。これを使えば、プライベートテストをしても走行時間と距離をチェックでき、制限を管理しやすいはず。

 どんな方法でもよいかもしれないが、せっかく才能ある若手ドライバーたちがやってくるのだから、正統な評価をしてもらえる機会が与えられることを願ってしまう。

エドアルド・モルタラ

ドライバー育成という美名の落とし穴
 現在のF1は大部分のチームがドライバー育成プログラムをもち、支配下に若手ドライバーをかかえている。その若手は、リザーブドライバーとしてF1開催時に「控え」としてガレージに詰めるほか、金曜日のフリー走行で走るチャンスを与えられるものもいる。また、F1の前座イベントとして開催されるGP2、GP3に参戦するドライバーや、フォーミュラ・ルノー3.5やF3に参戦するものもいる。彼らが所属するGP2からF3の各チームも、トップF1チームの傘下にあるか提携関係にあるところが多い。つまり、こうした育成プログラムのピラミッドの中に入っている若手ドライバーはチャンスが多くなるというわけである。

 一方、こうしたピラミッドに入っていないドライバーは、将来がより厳しく、狭き門になってしまう。例えそのドライバーが優れた才能を持っていてもだ。2009、2010年とマカオGPを2連覇したエドアルド・モルタラもそんな1人で、勝負強さ、速さを備えたドライバーである。だが、モルタラは2連覇直後に「F1がすべてではない」と言い、アウディのドライバーとして活躍している。

セバスチャン・ベッテルはドライバー育成システムの成功例

 結果、ドライバー育成システムはその運営者がドライバーの才能を見抜く鋭い眼力がないと、充分に機能しないどころが、かえって優れたドライバーをほかのシリーズに追いやってしまうことにもなり兼ねない。もちろん、セバスチャン・ベッテルのように大成功した例もかなりあるのだが。半面、下位チームには力のある若手ドライバーを傘下ドライバーとすることでスポンサーを連れてきてもらい、カネを取るにも関わらず戦闘力のないマシンで苦戦させ、そのドライバーの評価を下げさせてしまうという例もかなりあった。

 1人のドライバーが少年時代のレーシングカートからF1目前のところまで来るには、多大な努力・情熱と資金・支援が必要になる。途中から支援・育成するのはよい事だが、そう言いながら実際は才能の芽を摘んでしまうのはよくない。できることなら、より柔軟に才能のあるドライバーを選択する姿勢やチャンスを与えて欲しいと思う。

 F1参戦メーカーとチームの若手育成にはさらなる発展を祈り、その見識と柔軟性が高まることも求めたいところである。

マカオGPで見た日本の実力の高さ
 アブダビでの合同テストの直後には、伝統の第58回マカオGPが開催された。今回は、ユーロF3チャンピオンおよびFIA・F3インターナショナルトロフィーチャンピオンであるロベルト・メーリ、ブリティッシュF3チャンピオンのフェリペ・ナッセ、ドイツATS・F3チャンピオンのリッチー・スタナウェイ、GP3チャンピオンのバルッテリ・ボッタスが参戦。さらに各シリーズの上位勢も軒並み参戦してきた。さらに全日本F3からも関口雄飛、安田裕信、山内英輝のトップ3が参戦。ユーロF3に参戦してきた佐藤公哉も挑んできた。

関口雄飛安田裕信
山内英輝佐藤公哉

 マカオのコースは海側が超高速区間で、山側が3、4速のコーナーと微妙なアップダウンが連続する極めてテクニカルなコーナー区間となる。そのため、マシンの性能とドライバーの技量がすべて高次元でシンクロしないと勝てない。さらに、予選、予選レース、決勝とそれぞれの結果が次に影響するため勝負強さが必要であり、セーフティカーが入りやすいことから幸運を呼び込む力も勝敗に大きく左右する。

 予選レースまでは、ユーロF3で2位だったマルコ・ヴィットマンとロベルト・メーリの速さ比べのような展開で、そこをナッセらが伺うという状況だった。だが決勝では、メーリはスタートでストール。ヴィットマンはセーフティカーあけのリスタートでトップから順位を落として3位になった。一方、ユーロF3で3位のダニエル・ジュンカデラが初日のクラッシュから奇跡的な復活劇で優勝するという強運ぶりを発揮した。2位はナッセになった。

マカオのコースは超高速区間とテクニカルなコーナー区間が設けられ、マシンの性能、ドライバーの技量が大きく要求される

 その決勝で、関口雄飛は一時トップ争いをし、4位で完走した。関口はフリー走行前日に出走が急きょ決まった。初めてのマシンとチームだったうえ、エンジンの個体差によってパワーが不足気味で、海側の高速区間でスピードが伸びなかったのが敗因だった。だが、その見事な走りは居並ぶF3チャンピオンたちに「脅威だった」と言わしめた。そして、マカオからすぐにヨーロッパでF3のテストを受けるチャンスを勝ち取った。

 山内英輝も普段とは違う戸田レーシングから参戦。戸田レーシングは過去2年間のマカオのデータを元にマシンを仕上げてきていた。だが、エンジンはかつて名機と謳われながらも、今ははるか時代遅れのホンダ製。大きく、重いエンジンでは苦戦が予想された。それでも山内はフォルクスワーゲンやメルセデスが占める上位争いに食い込んでいた。最後は5位走行中に追突されてリタイヤとなったが、マシンのハンデを見せない山内の頑張りとテクニックは、多くのレース関係者から注目を集めた。

 安田裕信は初日の大雨でリズムを崩し、予選ではクラッシュ。このクラッシュがもとで決勝はドクターストップとなり、フォーメーションラップのみの走行で終わった。マカオでは散々な結果だったが、今季の全日本F3での安田とスリーボンドチームは安定して表彰台にあがり、堅実なレースを高次元でやってみせた。

 佐藤公哉はユーロF3で戦い、ランキング10位。モトパークというまだ経験の浅いドイツのチームであることを考えれば、まずまずの結果だった。そして、マカオに勝負をかけてきたのだが、決勝のリスボアコーナーで接触と前車のスピンで行く手を塞がれ、ほぼ最後尾まで落ちてしまった。だが、フリー走行や予選では区間タイムでよいところも見せていた。

 こうしてみると、今年のマカオに挑んだ日本人ドライバーは、世界でも充分戦える実力を備えていた。実際、全日本F3を見てきて思うのは、Cクラス、Nクラスの両方でとてもハイレベルの戦いをしていたということだ。日本人のドライバーは現在とても高いレベルにあるし、日本のレースはどのカテゴリーでもかなり高度な戦いをしている。そのことは、フォーミュラ・ニッポンやSUPER GTで活躍しているアンドレ・ロッテラーとブノワ・トレルイエがル・マン24時間でアウディ勢の中で唯一生き残っただけでなく、プジョー勢の猛追という激しいプレッシャーをはねのけて総合優勝したことにも現れている。

アンドレ・ロッテラーとブノワ・トレルイエは今年のル・マン24時間でみごとに優勝を果たし、日本のレースが高度であることを証明した

高次元な戦いをみせるフォーミュラ・ニッポン(写真は今年優勝したアンドレ・ロッテラー/PETRONAS TEAM TOM’S)

ハイレベルな国内レース
 2011年はF1の日程以外、できる限り国内レースを見た。フォーミュラ・ニッポンは全戦現地で取材させてもらったし、F4やスーパーFJも見せてもらった。そこで思うのは、ドライバーもチームもかなり高次元での戦いをしているという点だ。フォーミュラ・ニッポンは、ラップタイムで言えばツインリンクもてぎでインディカーを4秒近く引き離しており、おそらくGP2をも凌ぐだろう。SUPER GTもメーカー対抗、タイヤ戦争の中、多大なプレッシャーに応えて結果を出すプロフェッショナルドライバーとして高い技量と精神力が問われていた。

 こうした現在の日本のレース界から、また世界に羽ばたく実力を持つドライバーが見つかるはずだ。あとは支援体制だけだ。自動車メーカーや関連企業だけでなく、幅広い企業や団体から支援が欲しいところだ。そのためには、モータースポーツに関心のあるお客さんが再び増える必要がある。お客さんがいるところに、スポンサーは商機を求めて集まるからだ。

トヨタ ガズーレーシング フェスティバルでは、クルマを走らせることの楽しさ、見る楽しさを提供していた

 そんな中、各自動車メーカーは年末にファン感謝イベントを行った。「トヨタ ガズーレーシング フェスティバル 2011」では、クルマを走らせることの楽しさ、走るクルマを見る楽しさを提供していた。F1をはじめ、SUPER GT、フォーミュラ・ニッポン、F3、FCJ、スーパー耐久、WTCC、ドリフトなど、それぞれのレースに面白さや魅力がある。2012年にはさらにWEC(世界耐久チャンピオンシップ)も復活し、トヨタがハイブリッドのプロトタイプカーで参戦する。テレビ観戦ならインディカーも、NASCARも見られる。

 それぞれの楽しさと魅力を皆さんにより多くお伝えし、より多くの皆さんにサーキットに来ていただき、テレビを見ていただけるようにしたい。それが、皆さんとモータースポーツを再活性化し、才能のあるドライバーをより活躍できるようにする道だと思う。このスポーツの魅力をどう伝えるのか、2012年はこのことにより積極的に挑みたい。

最後に
 最後になりましたが、2012年が皆さんにとってよりよい年となることをお祈りします。そして、大変なことがあってもモータースポーツのもつ音、色彩、熱気という、非日常的な世界で少しでも気分転換をしていただければと思います。

 筆者自身、つらいとき、悲しいときに、モータースポーツの圧倒的な迫力で気分を晴らさせてもらい、勝者の喜びとともに、敗者の想いもおもんばかることで、より強い気持ちにさせてもらってきました。これを多くの皆さんにも体験していただければ、何よりです。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2011年 12月 27日