【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第25回:2つの重大な問題を突き付けられた第4戦富士
2016年6月15日 00:00
満身創痍の我が86
「今度はどこが壊れるんだ?(笑)」。パドックではライバルからこんなイジられかたをしている我が86。走行距離は間もなく3万9000km。前回の菅生ラウンドでは練習日にミッションブローに見舞われ、いつどこで何が爆発してもおかしくない状態で走っている。まるで86の耐久テストをしているかのごとくレースに参戦している現状は、誰の目から見ても満身創痍。岡山国際サーキットでの優勝をピークに、すべてが崩れ落ちていくような感覚に陥っている。
イマイチな感覚が続いているのはミッションのせいもある。新品ミッションを投入して以来、各ギアへの入りがわるく、それは未だに解消していない。1レースを消化してもまだ慣らしが終わらないこの感覚はどうしたものか? 街乗りをしたり、練習走行後にはオイルをマメに交換してみたりと努力を続けるが、それは一向に解決する感覚がない。クルマと身体が一体になる感触はなく、まるでリハビリしながら生活しているかのようである。
ただ、問題はそれだけに終わらない。今回はクルマに2つの重大な問題があることを周囲から突き付けられたのだ。真偽のほどは定かではないが、ここから先は“ホンマでっか?”くらいの気持ちでご覧いただければ幸いだ。
問題その1は「ボディが終わっているかも」事件! これはスーパー耐久レースに参戦するレーシングドライバーであり、ブレーキメーカーのENDLESSの社員でもある村田信博さんからご指摘いただいたこと。村田さん曰く「ちょっと前から気づいていたんだけど、橋本さんのクルマって屋根が変形しているでしょ。アレでよく走っていたなぁって見ていたんだよ。ほら、運転席と助手席の上のあたりに歪みが発生しているでしょ」とのこと。村田さんもスーパー耐久で86をドライブしているが、同様の歪みが発生したことがあったから気づいたそうだ。クルマがそうなると足まわりの動きがわるくなり、縁石などの乗り越えで暴れるような症状が発生。トラクションのかかりもわるくなるというのだ。「ウチの86はボディを変えたら問題が解消したけれど、橋本さんはそうはいかないもんねぇ……」。我が懐具合もよくご存じな村田さんでありました(笑)。
問題その2は「ブッシュくらい変えたほうが」事件! これは現在クラブマンクラスのランキングトップを快走する松原怜史選手からのご指摘。「橋本さん、ブッシュっていつ変えました?」と聞かれ、「新車時に強化ブッシュにしてから1度も変えてないよ」と答えると、「それはダメだ」と一喝。
リアまわりのメンバーブッシュとデフマウントブッシュはヘタりが進行しやすく、そこがダメになるとトラクションのかかりがわるくなるのだとか。松原選手はそのブッシュを今年変更し、速さが回復したという。ボディだけでなくそんなところもダメなのねと落ち込んだが、これはお金さえかければ何とかなりそうな部分。努力してみる価値はありそうだ。
予選はコバンザメ作戦で戦う!
レースウィークの初日からこんな問題が発覚した今回。だが、周囲が言うほど調子がわるいわけではなかった。練習日からトップではないものの、そこが射程距離に入りそうなタイムを記録。スリップストリームなどを使ってやれば、逆転のチャンスだってありそうだと確信していた。そして一応は地元と言ってもよさそうな距離にある富士スピードウェイ。だから、多少は有利な部分があると信じたい。
ただ、予選は一筋縄ではいかない様子。今回の富士はエントリー台数が79台と多く、2組に分けられてアタックが行なわれる形式だ。問題なのはどちらに振り分けられるかだが、配属されたのは強豪ばかりの1組目。これはそう簡単にポールポジションを獲得することは難しそうである。けれども、考えようによっては速いクルマのスリップストリームを使いやすい状況にあることもたしか。戦い方はズバリ、コバンザメ作戦だ!(笑)。シリーズランキングトップの松原怜史選手、そして2番手を走る小野田貴俊選手の後ろに何とかクルマをつけ、2台のスリップストリームをいただくしかない。自分で言っていて情けなくなるほどの作戦だが、現状でできる戦い方はそれしか見当たらない。
予選開始から終了まで松原選手、小野田選手をピタリとマークしながら走った。するとその作戦がハマり、なんとか1組目の2番手時計を記録することに成功! トップを獲得する夢は叶わなかったが(1位は松原亮二選手)、ともに走った松原選手、小野田選手の上を行くことができた。現状では上出来!? 結果、総合で1組目のタイムが2組目よりも速かったため、1組目が奇数列、2組目が偶数列のグリッドにつくことに。決勝は3番グリッドからのスタートとなった。
好位置スタート、だが……
優勝だって夢じゃない3番手グリッド。だが、決勝当日のコンディションは雨。決勝が行なわれる時間には曇りになるという予報が出ているが果たして? ドライを想定して事前から減らし、さらには予選でもかなり使ってしまっていたブリヂストン「POTENZA RE-71R」は、溝の高さがあまりなくウェットではかなり不利な状況。できればドライになってほしい。それは前述したクルマの劣化状況があるからなおさらだ。ドライならタイヤのグリップに助けられ、なんとか戦えなくはないが、ウェットになればそれも難しいような気もしてくる。
ウェットの場合、タイヤの空気圧を高めにするほうがよいとされている。だが、そのセッティングを施した場合、限界域ではピーキーな動きとなり、扱いにくさが際立つ。1発のグリップを取るか、それとも……。出走する最後の最後まで空気圧には悩んだ。第1戦のツインリンクもてぎでもウェットだったが、高めの空気圧を選んだためにレース前半では優位な状況にいたものの、レース後半でハーフウェットになると、空気圧が上がりすぎてクルマがかなり扱いにくくなったことを思い出す。あの時に近い状況ならドライを想定した空気圧のほうがよいかもしれない。
いろいろと悩んだ末に出した結論は、まわりがやらないであろう“ドライ想定”の空気圧だった。シリーズランキングを考えてみても、もう1勝がほしい今、イチかバチかをトライするしかない。勝てればラッキー、3位ならいらない。ギャンブルに出たのだ。だが、フォーメーションラップが開始されたころから無情にも雨は強くなる傾向だった。タイヤを温めるためにクルマを左右に振ってみるが、すぐにリアがスライドするばかり。天候が回復するのを祈るしか方法はなかった。
そんな中でスタートしたレースは、1コーナー立ち上がりで外側まで押し出され、その後のコカコーラコーナーで右前輪あたりを接触してしまう大波乱! アライメントがズレたのだろう。ステアリングセンターは狂い、クルマを信頼しきれない状況はさらに強まってしまった。さらに追い打ちをかけるかのごとく、雨足はさらに強まりコース上には川が流れる始末。いたるところでハイドロプレーニングに見舞われ、次々に後続に抜かれるばかり。途中でクルマを止めたくなるほどだったが、結果として8位まで順位を下げてゴールとなってしまった。
レースを制したのは予選2組でポールポジションを獲得したBRZを駆る手塚祐弥選手。BRZ初優勝という記録も達成した。おめでとう! 手塚選手は新品のPOTENZA RE-71Rを投入して予選に挑み、トップグループでただ1人、深溝で戦ったことが功を奏したようだ。レースを見ていた人からは、「1人だけピタッと安定して走っていた」とのコメントもうかがった。やはりタイヤさえシッカリしていればウェットでも大丈夫だったのは間違いない。見事な作戦。どうせやるならこれくらいのギャンブルに出たいものである。
というわけで散々なレースとなってしまった今回。次回へ向けてブッシュくらいは再検討したいところだが、ボディはやはり無理。それでも、86に手を入れて信頼関係を少しでも回復したいところ。ギャンブルに出なくてもよい状況でレースをしたい。
【編集部より】本連載を執筆している橋本洋平氏によるトークイベント「神保町フリーミーティング #03~橋本洋平氏86/BRZレース初優勝への道 佐々木雅弘選手とメカニックが勝因を分析~」を、6月24日(金)19時30分~21時にCar Watch編集部のある神保町三井ビルディング(東京都千代田区神田神保町1-105)23階セミナールームにおいて開催します。
当日は橋本氏に加え、レーシングドライバーの佐々木雅弘選手、カーライフ・ジャーナリストのまるも亜希子氏が参加して2013年の参戦開始から24戦目の初優勝までの軌跡をふり返ります。
締切は6月17日まで。まだ席に若干の余裕があるのでお時間のある方はぜひ参加してみてください。応募方法など詳細については関連記事をご参照ください。