【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第26回:タイヤ空気圧のセッティングの難しさを改めて知った第5戦富士

クルマをリフレッシュしました

 シーズン折り返しとなる第5戦富士スピードウェイ。ここまでの戦績は岡山で優勝したものの、それ以外は振るわずだったことはお伝えしてきたとおり。燃料ポンプの故障、ミッションブロー、さらにはボディの歪みが進行しているなど残念なことばかり。クルマがご老体になっていることは、もはや周囲の誰もが知るところだ。ただ、だからといって勝負を諦めているわけじゃない。2勝目を目指して、さらにはチャンピオンを目指して妥協はしたくない。

 そこで、少しでもクルマのリフレッシュを行ない、レースでの好結果を目指そうと今回は事前にいつもはやらない作業を実施した。着手したのはリアメンバーブッシュと、デフマウントブッシュの交換である。前回クラブマンシリーズのトップをひた走っている松原怜史選手から教えてもらったことを実行に移したわけだ。松原選手曰く、そこを交換すればトラクションのかかりがよくなるとのこと。これが吉と出るか凶と出るか?

少しでも上の順位を目指し、第5戦を前にリアメンバーブッシュとデフマウントブッシュの交換を実施

 一方で自分磨きもやり直し。7月に行なわれる予定だったオートポリス大会が震災の影響でキャンセルとなったため、前回のレースからおよそ3カ月も経過してしまった。すると生活が堕落するもので、実は3kgも体重が増える始末。レースの3週間前から食事制限や運動を繰り返し、何とか増えた3kgを減らすことに成功したからよかったものの、それでも体重は75kg。ダメ親父で本当にごめんなさい!(苦笑)

 さらにはプロクラスに参戦する佐々木雅弘選手に再びレッスンをしてもらうことにした。一度は優勝して自信がついたが、まだまだ走る場所によってはなかなか信用できない橋本洋平。その走りをいつものロガー解析でハッキリさせてもらおうとなったわけだ。

 すると、佐々木選手から「走りはかなりよくなった。以前だったらあるコーナーは進入スピードが速すぎたり、あるコーナーは遅すぎたりというムラがあったけれど、いまは僕と変わらない波形で走っている。あとはブレーキ踏力が少し足りないくらいかな。踏力の立ち上がりとピークの踏力がまだまだです」とのコメントをいただいた。主に足りていないのは1コーナーでの踏力。佐々木選手は160kgの強さで踏んでいるが、僕は140kgと少ないとのこと。ABSの介入を少しでも減らすことを狙った結果、踏力が必要になっている現状のENDLESSブレーキパッドは、とにかく力がいる仕様。正直に言って疲れるが、それがハマれば効率よく速く走れる。練習のたびに瞬時に目一杯右足に力を込めて踏むことで、タイムは上向くようになった。

 ただし、クルマ側に残した佐々木選手のコメントはかなり残念な結果。「84号車は動きがかなりルーズで操りにくいですね」とのこと。さまざまな86に乗っている佐々木選手なだけに、ほかとの違いが顕著に分かるらしい。操作に対して曖昧で、トラクションも抜けやすくなっているということらしいが、その主な理由はボディだろうという結論だった。今回ブッシュ交換をしたことで、自分的にはかなりシャキッと動くようになり、トラクションもかかると思っていたのだが、まだまだ上には上があるようだ。ルーフレールのくぼみが増え、Cピラーにも歪みが目視できるようになってきた現状なら、やはりルーズになるのも当然だろう。「でも、まだまだドライビングでイケるところは残っているからね」と佐々木選手。クルマのせいだけにするんじゃないよと喝を入れられてレッスンは終了した。

タイヤ空気圧セッティングの難しさ

練習日と同じ空気圧で臨んだ予選。これが裏目の結果に……

 現状での万全を尽くして迎えたレース本番は、練習日とはうって変わって涼しめの天候だった。ワンデーレースだったこともあり、早朝に行なわれたからそれも当然なのだが、実はそこがいま考えれば落とし穴だった。

 結論から言ってしまえば、予選は練習日と変わらぬタイヤ内圧でアタックを開始したために、空気圧が上がり切らずにブリヂストン「POTENZA RE-71R」のグリップを使い切ることなく終わってしまったのだ。練習日は路面温度が高く、内圧がすぐに上がってしまい、1周アタックしたら1周休ませるという状況でしかタイムを記録することができなかった。それを涼しい予選で、しかも予選時間が15分という短い状況で行なってしまったことが大間違い。どうせなら連続して走って内圧を上げるだけ上げたほうが結果はよかったかもしれない。

 そんなわけで、不発の5番グリッド。1000分の数秒速ければ3番グリッドという状況があっただけに悔やまれてならない。せめて2列目にはいたかった。チャンピオン争いをするには程遠い位置である。予選終了後にポールポジションを獲得した松原選手と話すと、「橋本さん、たぶんやっていることが違いますよ。レースが終わったら話しますね」と不敵な笑みを残して立ち去った。悔しい……。

奮闘するも、予選は不発の5番グリッドに。せめてチャンピオン争いができる位置にいたかった……

 決勝レースは少しでもスタートをキメて少しでも上に行こう。そう誓ってスターティンググリッドにつく。いつもよりもほんの少しだけ回転を上げてスタートダッシュを期待したが……。レースがスタートすればタイヤは空転。さらにはクラッチも滑りぎみになり、ズルズルと集団に巻き込まれていく始末。さらには1コーナーでの混乱で進路をふさがれ衝突寸前! なんとかグラベルまで避けてクラッシュは回避したが、10番手までポジションを落としてしまった。

スタートダッシュにミスり、さらに1コーナーであわや衝突という事態に! 回避したもののポジションを10番手まで落としてしまった

 けれどもそこで諦めてはいなかった。少しでも上へいくためにアタックを開始。すると、するっと抜けたり、さらには前でバトルをしているクルマが2台ともぶつかって視界から消えていったりというラッキー(?)もあり、最後は7位でフィニッシュ。その後、上位で1台のペナルティがあったおかげで順位が繰り上がり、6位入賞を手にすることができた。スタートポジションからすれば残念な結果だが、クラッシュに巻き込まれそうな状況があった中で、無傷で帰還して入賞できたことはよかった。

ラッキーもあって最後は7位でフィニッシュ。さらに上位陣の1台にペナルティがあったため、最終的に6位入賞という結果に

 ただ、目指しているのはそんな順位じゃない。もっと上にいきたいと思い、レース終了後に再び松原選手のところへ行き、さっき言っていた間違えを聞いた。すると松原選手は「橋本さんのスタート内圧ってかなり低いでしょ。他のサーキットならそのほうがグリップするんですけど、富士スピードウェイだけは違う。グリップよりも転がり抵抗を減らすことが重要。だからウチのクルマのスタート内圧は200kpaですよ」。もっと早く言ってよって感じはするが、ライバルにご丁寧に教えてくれる松原選手は本当にありがたい。そのコメントには感謝! ただ、もう今シーズンの富士はないんだよなぁ。

 というわけでさまざまな苦境があるが、今シーズンの残り3戦、何とかしてもう一度復調したいと必死になっている。よいときばかりのレポートができずに本当に申し訳ありませんが、今後とも応援よろしくお願いします!

ちなみにワタクシ、86に乗っていたおかげでキャロッセからお声をかけていただき、第5戦の翌日に富士スピードウェイで行なわれたスーパー耐久で「CUSCO with Key’s 86」に乗ることができました! 結果はダメダメでしたが(笑)
スーパー耐久でチームメイトを組ませていただいたレーシングドライバーの木下隆之選手

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:高橋 学