【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第27回:チャンピオンの可能性も残した十勝ラウンド初戦レポート

今年の十勝ラウンドは10月1日~2日の2日間で第5戦と第7戦を開催するという変則的な2連戦で、10月1日に行なわれた今回のレースはキャンセルになったオートポリスの代替戦となる

気になるライバルメーカーの新タイヤ

 十勝戦はまさに崖っぷちだ。GAZOO Racing 86/BRZ Raceのクラブマンクラスは、松原怜史選手がすでに3勝を達成しており、チャンピオンへの王手をかけている。あと1勝してしまえばチャンピオン確定だ。僕は今季1勝しているため、逆にいえばあと3連勝すればチャンピオンの夢だって残されているわけだ。可能性はかなり低いが、チャンピオンの可能性があると言われればプレッシャーがのしかかってくる。

 一方、クラブマンクラスで装着することが可能なタイヤ、ブリヂストン「POTENZA RE-71R」もまた崖っぷちに追い込まれていた。このクラスでシェア9割以上を獲得していた“勝利のタイヤ”は、ここにきてライバルメーカーが新製品を登場させたため、下馬評では「RE-71Rでは勝てない」との噂が絶えなかった。結果として十勝にエントリーしたうち、RE-71Rを装着しているクルマはたったの6台。始まる前から劣勢を感じさせるには十分な状況がそこにあった。

 だが、練習走行が始まると、上位にいる人間はどれもRE-71Rを装着するクルマばかり。ライバルは三味線を弾いているの? それとも十勝の路面にタイヤが合わないのか? 一発のタイムは出すものの、ロングディスタンスではタイムダウンが大きいという傾向があると噂されていたライバルタイヤだけに、どうして一発のタイムを記録しないのかが気がかりだった。

“勝利のタイヤ”としてクラブマンクラスでシェア9割以上を獲得していたブリヂストン「POTENZA RE-71R」。下馬評ではRE-71Rでは勝てないとの噂が絶えなかったものの、上位入賞者はどれもRE-71Rを装着していたという結果に

 とはいえ、依然不安がつきまとう状況。だから練習走行から今回は全力だった。やや減らしたタイヤと新品タイヤを持ち込み、どちらの方がこのサーキットにマッチするのかを判断するためのテストを続けていた。路面状況がわるく、他のサーキットとは違い新品タイヤの方がマッチすることがそこで見えてきたのだが、決勝でのタイムダウンは実は激しい。ライバルタイヤに勝つにはどうするべきか? そこで出した結論は、予選はライバルに上を行かれたとしても、やはり決勝を重視すべきだろうという判断だった。やや減らしたタイヤで予選に挑み、決勝でライバルがタレてきたところで一気に巻き返そうという作戦である。

 だが、始まってみれば予選でライバルが一発の速さを見せることはなく、結果的にトップから4位まではブリヂストン勢。トップはチャンピオンに王手をかけた松原選手。4位はなんと僕だったのである。これはかなりの劣勢ぶり。ただ、そもそも問題視してきたライバルタイヤを打ち破ったことだけはよかった。

今回の十勝戦ではやや減らしたタイヤで予選に挑み、決勝でライバルがタレてきたところで一気に巻き返そうという作戦に出た
十勝スピードウェイでの練習走行の様子

結果的に不利だったイン側スタート

 決勝レースだって可能性がないわけじゃない。昨年は予選2番手からトップに立ち、しばらくはそのまま走っていたのだから……。だが、レースはそう簡単に行く状況ではなかった。イン側スタートの4番グリッドは予想以上に滑りやすく、スタート直後に5番手を走行するクルマに抜かれる始末。レースから半周はそのままの状況だった。ただ、スタート直後の混乱を上手く切り抜け、ふたたび4番手にポジションを回復した。

 その後は3位を走行するクスコレーシングの菱井将文選手とのバトルに終始。全日本ジムカーナで13回のチャンピオンを獲得したという菱井選手は、走りに無駄がなくなかなか突破口を見つけることができない。3回ほどオーバーテイクを試みたが、いずれも上手くいくことはなく、最後は4位でフィニッシュすることが精一杯だった。しかし、当初の目標でもあったライバルタイヤを10秒ほど引き離すことに成功。予選も決勝もまだまだRE-71Rはイケる! これだけを証明できたことはよかった。

イン側スタートの4番グリッドは予想以上に滑りやすく、スタート直後に5番手を走行するクルマに抜かれたものの、ふたたび4番手にポジションを回復。結果としては4位でフィニッシュとなった

 下馬評に翻弄された今回。だが、やはりレースはやってみなけりゃ分からない。噂を聞いて落ち込み、もう勝てないと思っていたところが正直言ってあったが、実はそんなことはなかった。同じようにブリヂストンユーザーで追い込まれた状況にありながらも、今回のレースで勝利とチャンピオンを獲得した松原選手はさすがの精神力といっていい。ハッキリいって完敗である。おめでとう!

 というわけで、今シーズンのシリーズが決まってしまった十勝だが、これで終わりではない。今回のレースはキャンセルになったオートポリスの代替戦であり、実は翌日の日曜日に本来の十勝戦が行なわれるのである。何とかしてそこで松原選手に勝ちたい! 次なる目標をそこに定め、作戦を練り直すことにしたのでありました。次回につづく。

レースは松原怜史選手がポール・トゥ・ウィン。その結果、2016年のクラブマンクラスの栄冠は松原選手の手に。おめでとうございます!

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学