【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第29回:クラブマン&プロフェッショナルクラスのチャンピオンが指南! 最終戦の結果やいかに?
2016年11月5日 02:53
2人のチャンピオンが鈴鹿攻略をレクチャー
来シーズンから後期型が登場することが決定しているGAZOO Racing 86/BRZ Race。つまり、前期型がトップを張れるのは今回が最後のチャンスといっていい。愛機はこのレースに参戦してきてから使ってきたA型と呼ばれる初期モノ。すでに走行4万kmをオーバーし、酷使してきたためにルーフレールだけでなくルーフ面に歪みが出始めている状態にある。これまで共に戦ってきた戦友といっていい愛機の花道を飾りたい、そんな思いで最終戦が行なわれる鈴鹿に入った。
現在参戦しているクラブマンクラスは、前戦から状況が一変してしまった。これまでタイヤはブリヂストン「POTENZA RE-71R」の実質ワンメイク状態だったのだが、ライバルメーカーが新製品を登場させたために、タイヤ戦争が勃発したのだ。十勝戦ではそれを何とかしのぎ、2大会ともにブリヂストンが勝利を収めることに成功したが、ここ鈴鹿ではどうか? 十勝での戦績がよかったからか、シェアは半数まで盛り返したが、僕らブリヂストン勢にとって、まだまだうかうかしていられない状況は続く。
十勝でチャンピオンを確定させたブリヂストンユーザーの松原怜史選手は、なんとかライバルを阻止しようとふたたびクラブマンクラスで参戦することを決意した。もうチャンピオンを確定させているから、出場する必要はないというのが本当のところだが、ブリヂストンに何とか勝利を、というのが参戦理由である。ライバルではあるが、心強い戦友になりそうだ。
それを後押しするかのように、プロフェッショナルクラスでチャンピオンを確定させたブリヂストンユーザーの佐々木雅弘選手が、僕にドライビングのレクチャーをしてくれた。詳しくは動画をご覧いただきたいが、これまでやってきた僕のドライビングは間違えだらけだったことがハッキリした。鈴鹿は得意だと思っていたんだけどな……。
ところで、鈴鹿の予選は参戦台数が多いため、2組に分けて行なわれることが決定している。松原選手は1組、僕は2組。つまり直接のライバル関係にはない。そのため、今回はドライビングからタイヤの使い方まで懇切丁寧に教えていただけることになったのだ。狙いはフロントローをブリヂストン勢で分け合うこと。すべては松原選手の余裕からくるものなのだが、オッサン、その気持ちに何とか応えたいものである。
松原選手曰く「鈴鹿は外気温も路面温度も低いから、ド新品がマッチしますね。タイヤの空気圧はフロント195kPa、リア210kPaがオススメです。S字を抜けるまでに温まりますから、それ以降はスローで。130Rから全開で予選アタックして、1周でキメてくださいね」とのアドバイスをいただいた。
新品タイヤが必要なため、それを練習で試すわけにはいかなかった。おまけに練習日は午前がドライで午後がウェットという状況。ドライでは久々の鈴鹿に慣れるのが精一杯。2本目はウェットセッティングなるものを体験するだけに留まった。
「ウェット路面の場合はエアを冷間で400kPaまで引き上げてくださいね」と松原選手。それ以外はドライと変わらぬセッティングで走っていたらしい。最終戦でシリーズに関係ないからここまで教えてくれたのだが、これまで自分がやっていたこととはあまりに違うことに驚くばかり。それをウェットで実行してみれば、たしかにグリップするしタイムも出しやすい。限界域はややピーキーに感じたが、それでも操れないわけじゃなかった。今回は役に立ちそうにないが、勉強になりますな、セッティングってやつは。
やる気満々で予選にチャレンジ
あらゆるお勉強とドライビング指南を受けて挑んだ予選は、前日とは異なり見事な快晴だった。路面温度もジワジワと上昇し、何も心配することなくアタックできそうな感じがする。これなら2組のポールは確実か!? なるべくよいポジションで予選を行なえるように整列。たしか5~6台目には並んでヤル気満々である。
そこで色気が出始めてきた。何とかインラップでトップか2番手くらいまで上がって、トラフィックに引っかからないように予選をしようとガンガンに走り始めたのだ。だが、さすがはワンメイク車両である。どんなに頑張ったところで、インラップで何台も抜けるようなことはない。それを諦め、間合いを取って予選を開始した。
1コーナー進入からS字、そして逆バンクまで、パーフェクトと言えるくらいの走りを展開! 実はこの時点で松原選手よりも0.3秒ほど速いラップタイムを刻んでいたという。だが、しかし、けれども……。練習時にも体験しなかったほどのスーパーラップをキメ過ぎたせいか、デグナーカーブ2個目の進入で止まり切れずに、かなりのアンダーステアを出してしまったのである。そこで1秒以上のタイムロスをしてしまい、結果はトップと1000分の数十秒差という惜しい2番手を記録した。何をやっているのやら……。
タイヤのエアを高めでアタックしたために、連続アタックをすることはできない。そこでひとまずピットインして内圧を合わせ直し、ふたたびアタックを開始する。落ち着いて走ればポールは取れるはず。新品一発のグリップを上手く使った松原選手には届かないだろうが、2組のポールは何とかして取りたい。
だが、しかし、けれども、である。ソツなくこなしてベストタイムを記録しながら130Rを抜けた瞬間、目の前には3台ものトラフィックが……。ここでTHE END。2組目ポールを逃して2番手、総合4番グリッドからのスタートとなったのだ。
「鈴鹿はスプーンコーナーの立ち上がりでいかにグリップするかが重要なんですよ。そこでタイヤが踏ん張ってくれれば、タイムは確実に向上しますから。だからタイヤの熱の入れ方はS字を立ち上がるまでって言ったんです」とはふたたび松原選手。セクター1で僕のほうが速かったのは、タイヤを温めるのが早すぎたから。タイヤのグリップのピークをコースのどこに合わせるか、いまやクラブマンクラスであってもそんなことを考えてアタックをしなければならないようである。さすがはチャンピオン、恐れ入ります……。
なるか松原選手との一騎打ち
というわけで、2列目4番手というスターティンググリッドになったわけだが、希望が消えたわけではない。前にいるライバルタイヤを履く2台は、ロングディスタンスでラップタイムの落ち込みが大きいことが十勝戦で見えていたからだ。何とかそこを崩し、松原選手との一騎打ちに持ち込みたいところだ。
まずまずのスタートを切り、4番手で2コーナーを抜けると、まさに数珠つなぎ状態でレースは進んでいく。スタート内圧はフロント165kPa、リア170kPa。内圧が上がり切るまでの前半はキツいが、後半になれば有利になるだろうとの計算がそこにある。だからオープニングラップはなかなかスリリング。新品タイヤで予選をスタートしたため、ブロックの高さからくるヨレ感が常につきまとい、フラフラとした動きでコーナーを走っている。
きっと後ろの選手はその動きを見てチャンスだと感じたのだろう。スプーンコーナーの入り口でインを刺してきたのである。そこで僕のリアバンパーが弾かれてクルマは真横を向きながらコース外へと一直線。何とかフルカウンターでクルマを立て直し、戦列に復帰するも、その時点で7番手。クルマは問題ないようだが、それにしてもあんまりだ。その相手を続くシケインでふたたび抜き返して6番手へ浮上したが、トップ集団は遥か彼方へと行ってしまった。ちなみにこの時の接触でぶつかってきた相手にはレース後に20秒のペナルティが課せられたが、そんなものは何の役にも立たない。かなり腹立たしいが、これもまたレースというものか。予選でミスしてそんな位置を走っていたこと、そしてフラフラとスキを見せた僕がわるいのだ。
レースは後に前を走る選手がミスをして5位まで上げることに成功。そのままフィニッシュとなった。予選よりポジションダウンしたこと、さらには表彰台も逃してしまったことが悔しい。シリーズはこれまでと変わらず4位。優勝すれば2位の可能性もあっただけに、やるせない気持ちでいっぱいだ。そして愛機に最後の花道を与えることもなく、痛手を負ったボディにさらなるキズを加えてしまったことがとにかく残念でならない。ちなみにレースは松原選手が当然のように優勝。おめでとう、そして色々ありがとう! なんの役にも立てずでわるかったが、不甲斐ないオッサンをカバーしてブリヂストンに優勝をプレゼントしたことはさすがだ。
レース後によくよくクルマを見てみれば、バンパーにはキズがほとんどないものの、内部は鉄板が曲がってタイヤに突き刺さる寸前という状況だった。あと数mmずれていればタイヤがバーストしてリタイヤに陥っていただろう。完走できたたけでもよしとしなければならないかもしれない。
今回の鈴鹿は愛機の引退レースのつもりだったのだが、こんな締め括りでは終われない。11月27日の「TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」(富士スピードウェイ)で行なわれる特別戦への招待を受けたために(シリーズ上位だけが出場できるらしい)、そこでリベンジ! シリーズとは何の関係もないこのレースではあるが、佐々木選手や松原選手に教わったすべてを、そして長年連れ添った愛機の力を振り絞ってこようと思う。