【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第34回:昨年の優勝再現なるか。路面コンディションに四苦八苦した第4戦岡山レポート

 GAZOO Racing 86/BRZ Raceクラブマンシリーズは早くも第4戦を迎える。もてぎで3位、オートポリスで4位、そして前回の富士で2位という状況で、シリーズランキングは現在2位。そろそろ勝ち星がないとシリーズ上位に留まるには難しい。喉から手が出るほど優勝が欲しいところだ。

 今回のステージとなる岡山国際サーキットは昨年優勝した場所であり、気分的には追い風だ。あそこなら勝てそうだと周囲の期待も高く、それに応えたいという気持ちもある。だからこそ必勝態勢で挑もうと事前から準備を進めていた。

 そこで今回は積載車の投入に踏み切った。いままでは移動のすべてを自走としてサーキットまで足を踏み入れていたのだが、「そろそろクルマを温存したほうがよいのでは?」というメンテナンスガレージ・レボリューションのアドバイスに従ったのだ。走行距離は間もなく1万km。新車のナラシはもう必要ないだろうという判断である。運よくレボリューションには積載車があり、それを使っていいよと差し出してくれたから、積載車移動に踏み切れたという懐事情もあるのだが……。これがレンタカーを借りて86を引き取りに行ってと以前のようにやっていたら金額的にも時間的にも、さらには体力的にも厳しかったことは間違いない。レボリューションの青木社長、本当にありがとうございます!

 けれども積載車移動はすべてが幸せじゃない。大きく長い車体は交差点を曲がる度に気を使うし、休憩だってコンビニにさっと入れるわけじゃない。もちろん、86のように俊敏な加速は見込めないし、上り坂になれば失速してしまう……。おまけに高速料金は高いときている。今さらながら86での自走もわるくないとさえ思えてくる。すべてがよいことだらけではないのだ。

今回は積載車に愛車を載せて岡山まで自走。クルマの負担は減るも、ドライバーへの負担は増加!?

路面コンディションの変化に四苦八苦

 こうしてレースに対しての準備は万端だったのだが、懸念材料が1つあった。それは梅雨前線の動きが読めず、天気予報がコロコロと変化することである。予選・決勝が行なわれる週末は晴れ予報。しかし、練習走行が可能な木曜日と金曜日は雨マークだ。ドライでのテストができないことが心配。雨で走ったところで何にもプラスにはならない。ならば金曜日から走ればよいかと、半ばあきらめ半分だったのだ。だがしかし、直前の天気予報は木曜日が曇りで金曜日が雨。これなら木曜日から走るしかない! そこでレースウィークの水曜日深夜に出発することを決意。深夜0時前にレボリューションのある埼玉県川口市まで行って自家用車から積載車へと乗り換え、岡山を目指したのだった。

 携帯ナビが示す到着予想時刻は朝の8時すぎ。これなら朝イチの走行に間に合う計算。果たしてそこまで体力が持つかどうか? できるだけ休憩をせずに淡々と走ってはみるが、前述した通りのトラックの動き。なかなか到着予想時刻を短縮することもできず、さらには次第に眠気も強くなる始末。結局は明け方4時過ぎに道中半ばといっていい御在所SA(サービスエリア)で眠りについてしまうのでありました……。前日に昼寝をすることもできず、徹夜で走っていればそれも仕方なし。そんなこんなで岡山に到着したのは10時すぎ。真横になって眠れてしまうトラックのキャビン。あの寝心地のよさが今回の敗因だった(苦笑)。

 苦労して到着した岡山国際サーキットだったが、天気予報は外れて路面コンディションは雨。よってすぐに走り出すことはなく、ライバルたちの走りをひたすら観察していた。事前テストを行なっていたと聞くトップ集団の走りは相変わらず安定しているようで、外から見ていてもその速さが伝わってくる。

 路面が少し乾き始めてきたところで再び観察しなおせば、ダブルヘアピンのギヤの使い方が昨年とは違っていることに気づく。ギヤ比が変更になったことでそうなることは予測がついていたのだが、1つ目の左コーナーの進入は2速。立ち上がりで一瞬3速へシフトアップし、2つ目の右コーナー手前で再び2速へとシフトダウンするのが最善のようだ。忙しそうだしシフトミスも誘発しそう。これは厄介だ。

 午後になり天候が回復してきたところでいよいよコースイン。ほぼドライの状況で走ることができそうだ。走れば事前に偵察した通りの走り方でOK。予想通りにダブルヘアピンでのシフトミスもやってしまったが、ステアリングを左から右へと切り返すとき、ステアリングが真っ直ぐになった瞬間にシフトアップをすればそのミスもなくなりそうだということが分かった。クルマのクセを飲み込んで走れば何とかなりそうだ。

 だが、路面の感じがどこか昨年と変わっているから厄介だ。聞けば今年のはじめに全面路面改修が行なわれたらしく、アスファルトの感覚がまるで違っている。滑らかになり走りやすくなったようにも思えるのだが、どうもシックリこない。グリップ感が薄く、ヌルヌルとした感覚が常に残る。これは雨あがりだから? 仕方がないことのようにも思えるが……。

セッティングについて、プロクラスドライバーの佐々木雅弘選手に相談

 翌日訪れた同じチームのプロクラスドライバー・佐々木雅弘選手にそのことを伝えると、1回走っただけで「セッティング変更したほうがいいね」との回答を導き出した。佐々木選手曰く、「岡山の路面はアスファルトの目が細かくて滑らかになったから、タイヤが路面に噛み込みにくい。荒れた路面だとそこにゴムが入り込んでグリップすることが期待できるんだけどね。いまのスプリングのプリロードをそれほどかけていないセッティングだと、タイヤを路面に押し付ける力が弱いから、もっとプリロードをかけてみよう」とのことだった。路面がよくなればグリップも単純に上がるものかと思っていたが、タイヤのコンパウンドや構造にマッチするか否かは別問題。現在の相棒であるブリヂストン「POTENZA RE-71R」にとっては、前述したようなセットが合っているという判断らしい。

 セッティング変更を行なって再び走り出してみると、たしかに以前よりも安定感が高く、さらにトラクションもきちんとかかるようになった。リアのプリロードをかけていくとイン側の足が伸びにくくなり、空転してしまって電子制御が介入することが心配されていたが、そんなことが起きることなく走っている。これなら行けそうだ。

 すべてが順調に進んでいると思えていたレースウィーク。だが、落とし穴はレース前の車検時に訪れた。この連載では何度か触れているが、例の“すり減らしたタイヤ”に物言いがついたのである。「新品タイヤに付け替えてくるなら出走を認める」との判断が下され、その指示に従った。同様の判定が下されたのは実に十数台。ルールはルールなのだから仕方がない。プロフェッショナルシリーズとは異なり、クラブマンシリーズはユーズドタイヤでの出走がOKというレギュレーションだからこんな事態が勃発する。そろそろプロと条件を同じにして、このモヤモヤとした状況をなくして欲しい。

佐藤琢磨選手の手法を採り入れる!?

決勝レースのスタートシーン

 完全に流れがわるくなった予選。今年の開幕戦では新品タイヤスタートでポールポジションを獲得したことがあるが、あれは路面温度が極度に低かったから。真夏といっていい路面温度で同様のことは見込めない。走れば間違いなく劣勢。ただでさえ路面に食いつく感覚が低い路面なのに、さらに新品タイヤの山の高さである。練習時との感覚の違いに四苦八苦だ。それでも何とか予選2組目の3番手。総合で5位という結果となった。走行後にタイヤを見てみれば減りが全くないような状況で、この路面に対していかに新品タイヤが不利だったかが伺える。優勝を狙っていたレースだっただけに、この結果はかなりショックだ。

 宿に帰り酒を飲み、やるせない気持ちを周囲にぶつけてみるが、何ひとつ晴れることはない。徹夜してトラックで岡山まで来てこのザマなのだから許して欲しい。周囲の皆様、本当にごめん! 決勝前夜だというのに明け方まで眠れず、睡眠はたった1時間半。あまりの悔しさで身体はボロボロだ。

 落ちるところまで落ちた結果、レースが始まる前は開き直っていた。身支度を整えて早めにドライバーズシートに滑り込み座禅を開始すると、そのままスヤスヤと眠りについてしまうほど。メカニックから「橋本さん! 時間ですよ!」と叩き起こされ、「あと5分だけ寝かして」と答えて呆れられたのはここだけの話。インディ500で優勝した佐藤琢磨選手がレース中断中に行なったパワーナップ(仮眠)と同じ効果があったのか? いつもの通りにバカ話をして、出走できるまでにメンタルが回復しただけでもよかった。

 レースがスタートした時はかなり冷静。ソツなく無難に蹴り出して1コーナーへ。前を走る選手がスタートで失敗したこともあり、あっさりとポジションアップに成功した。だが、そのすぐ後ろでは多重クラッシュが発生。ミラーで見ていたが、あの場所にいなくて本当によかった。無事に通過しただけでもラッキーである。

スタート直後にあっさりとポジションアップに成功するも、後方では多重クラッシュが発生

 結果として、そのクラッシュによりセーフティカーが導入された。新品タイヤでのスタートはレース後半のタイムダウンが懸念されるが、これで周回数が減ってくれるならチャンスかもしれない。クラッシュを見てちょっと心臓がバクバクしていたが、冷静さを取り戻してセーフティカー後のスタートに集中する。

 再スタート直後、前を走るBRZユーザーの手塚祐弥選手がヘアピン直後の左コーナーで失速。続くパイパーコーナーでインを突き、3位へと浮上することができた。だが、トップ2台はかなりのハイペースであり、追いつける感触はまるでない。3位を死守できるか否かがこのレースの勝負所となりそうだ。

 一度は抜いた手塚選手だが、実はかなり速い。今シーズンはクルマの不調で下位に沈んでいることが多かったが、その原因を突き止めたいまは勢いが凄い! どう抑えて走れるか? 進入スピードはシッカリと落とし、脱出方向にクルマの向きを変えたら真っ直ぐ立ち上がるという走りを心掛けるが、テールtoノーズの状態が続く。これをずっと繰り返すのだからたまらない。だが、レース終盤になり再びクルマが不調になったらしく、手塚選手は失速。3位争いの決着がついた。それがなければいずれ抜かれていただろうし、セーフティカー導入で周回数が減っていなかったら順位を落としていただろう。

75号車の手塚祐弥選手と激しいバトルを展開するも、手塚選手の失速によりなんとか3位を手中に収めた

 というわけで、今回は辛くも3位で表彰台の一角を確保することに成功。けれどもトップ2台とは10秒以上も引き離されてのゴールであり、完全に敗北した気分でいっぱいだ。これによりシリーズランキングは3位へと後退。いよいよシリーズチャンピオン争いへ向けて黄色信号の点灯だ。もはや崖っぷち。続く十勝のレースで何としてもトップを取れるように、努力を惜しまずに全力で取り組んでいこうと思う。

3位で表彰台獲得とはいえ、トップ2台に大きく差を開けられての展開に悔しさがにじむ結果となった第4戦。7月29日~30日に開催される第5戦十勝ラウンドでは、何としても優勝できるよう頑張りたい

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学