【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第33回:前期型と後期型で走り方が違う? 大盛況だった第3戦富士レポート

前期型と後期型での富士の攻略法は違う?

 参加台数90台という盛況ぶりを見せたGAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマンクラスの第3戦・富士スピードウェイ。台数が多い理由は首都圏から近いからなのか、それとも富士スピードウェイが人気だからなのかは定かじゃないが、とにかく富士のパドックは86とBRZだらけ。そこにプロフェッショナルクラスの35台も加わるのだから異様な雰囲気である。

 実はそんな事態になることは、事前のテストを行なった段階である程度予想していた。なんとしても勝ちたいと、2週間ほど前に富士に訪れたのだが、パドックにはこのレースのエントラントが多くいた。そこで何人かに話を聞けば、「別の日にはあのクルマが何秒出していたよ」などという噂話が飛び交っている。中には前期型と後期型を並べてどちらがよいか、なんていうことをテストしていたチームもいたらしい。ファイナルギヤの違いからか、前期型の方が富士にマッチしているなんていう話もあるから不安が募るが、悩んだところでコチラには後期型しかないのだから仕方ない。いま目の前にある愛機をどう仕立て、どう走るかが最善なのかを模索する。

大変遅くなってしまいましたが、今季の愛機のカラーリングをご覧ください! 基本デザインは昨年と同じですが、足下は新しいPOTENZAブランドのものに変更。タイヤは引き続きブリヂストン「POTENZA RE-71R」で、ホワイトレターが新たに入りました

 そこで厄介だったのは、セクター3の走り方が以前とまったく異なることだった。主に悩んだのはプリウスコーナーと最終コーナーのライン取りとギヤの選択だった。ある人は「プリウスも最終コーナーも3速で行くのがベスト」といい、またある人は「プリウスは2速で最終コーナーは3速」だという。しかも最終コーナーを3速で行くには、ワイドなラインを通る必要があるとかないとか……。前期型のように、タイトなラインで進入して一瞬でクルマの向きを変え、2速で真っ直ぐ立ち上がるようなことはもうできない。コーナーリングスピードを稼いで3速で曲がる難しさが出てきたのだ。振り返るだけで頭の中が混乱してくるが、平たく言ってしまえばこれまでの経験はまったく活きてこなかったというわけ。同じ86でも前期と後期でこれほど違ってくるとは夢にも思わなかった。事前に走っておいて本当によかった。これでレースウイークも何とかなりそうだ。

 とはいえ、予選は大混乱になること間違いナシ。予選は90台が2組に分けられて45台ずつの出走となるが、それでも45台である。クラブマンクラスの参加者は与えられた時間を目一杯コース上で走り切る車両が多く、渋滞ができることもチラホラ。前回のオートポリスでは渋滞に引っ掛かり満足な予選を行なえなかったこともあるから心配だ。

 しかも、今回の予選時間は15分といつもより5分も短い。プロフェッショナルクラスは20分なのにである。台数が多くて、しかもずっと走るクルマが多いクラスなのに、時間が短いとはこれいかに!? 聞くところによれば他のレースがいつもより多く、スケジュールのシワよせがクラブマンクラスの予選時間短縮に繋がったとのこと。富士スピードウェイ様、参加台数の多さは富士のファンが多い証でもあると思うので、次回からは何とかなりませんでしょうか? ぜひとも改善をお願いしたいところだ。

 結果として案の定、予選は大波乱だった。1組目の予選では練習日に絶好調だった選手が沈み、トップは前回のオートポリスで優勝した全日本ジムカーナチャンプ・菱井選手(ブリヂストンユーザー)が獲得。後に何人かに予選の状況を聞けば、誰もが満足の行くラップを重ねられなかったという。僕が走る2組目も同様だ。いくらクリアラップを狙ったところで、前回同様に引っ掛かり、タイヤのオイシイところを逃してしまう始末。チェッカーギリギリで刻んだ3アタック目が最速という体たらくぶりである。

 結果は2番手だったが、トップタイムを刻んだ選手が走路外走行のペナルティを受けて繰り上がり、2組のポールを獲得。だが、タイムは菱井選手に及ばずだったため、決勝は2番グリッドからの出走となった。

結果はわるくない、が……

 決勝が行なわれた翌日は快晴。お昼過ぎからの出走となり、路面温度もかなり高まっている。いかにタイヤをタレさせずに最後まで走り切るか否か。そこが勝負の分かれ目となりそうだ。スタートを慎重にキメて1コーナーへ。そこまではポールポジションの菱井選手と位置関係は何ら変わらずだった。ほぼ等間隔で僕以降も続いている。こうなれば菱井選手との無駄な争いはやめて後続をできるだけ引き離しておきたいところだ。3ラップ目あたりまでは沈黙したまま菱井選手の後ろについて行くと、少しだけ後続が離れたように見えた。このまま引き離して後半勝負か?

スタートから3ラップ目あたりまで菱井選手の後ろについて様子を見て、後続が離れてから勝負をかける作戦

 だが、ラップを重ねて行くと1台がもの凄いペースで迫ってきたのだ。3位争いを制した庄司選手である。14歳から免許を取るまでカートレースで鍛え、4輪レースの経験はほとんどないというが、カートで鍛えたウデは確かなようで、まさに猛追してくるのだ。レース終盤、ブレーキング合戦で負けてあっさりと前に出られてしまった。その後は菱井選手のシフトミスをきっかけに庄司選手がトップへ浮上。後に「最終コーナーに合わせてセッティングをしてきたんです」と語っていたが、その甲斐あってかストレートの伸びはとにかく速く、ハッキリ言って完敗だった。同じブリヂストン「POTENZA RE-71R」を装着しているのに、これほどまでにパフォーマンスが違うとは……。オッサン出直しである。

後続から猛追してきた庄司雄磨選手(126号車)にまくられてしまう

 しかし、今回はそれで終わらず最後まで諦めなかったおかげで、菱井選手を最終コーナー進入時にパスすることに成功! タイヤを最後までタレさせることなく走れたことが結果に繋がったのだと思う。予選2位で決勝2位という結果に終わったのだが、一度は3位に落ちたところからの復活劇だったのだから、内容としてはわるくない。けれども、戦い方を考えれば勝てたレースであったようにも思えてくる。前半戦でもっと仕掛けるべきだったのでは? というのが今回の反省点。バトル下手が露呈したといっていい。

 こうして富士でのレースを終えた時点で、シリーズランキングは4位から2位へと浮上。だが、まだ勝ち星がないところが周囲よりも劣っているところ。なんとか今シーズン初の勝利を目指して、続く岡山も全力で挑もうと思う。

2位というわるくない結果で終わった第3戦富士だが、そろそろシーズン初勝利がほしいというのが本音。第4戦岡山(7月1日~2日)は1つの山場として、気合を入れつつ以前に座禅で学んだ“心を落ち着ける方法”で勝利を目指します!

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学