【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第23回:苦節24戦目、ついにアラフォーオッサンが優勝しました!!

24戦目にして初優勝

筆者が関わるすべての人に感謝の気持ちでいっぱいだった今回のレース。まずは身近で支えてくれた家族に感謝なのです

 のっけからいきなりですが、苦節24戦目、ついに、ようやく、奇跡的に(?)優勝することができました!!! ただのメタボで腰痛持ちのアラフォーオッサンにご協力いただきましたすべての皆さま、本当に、本当にありがとうございました!

 それにしてもここに到達するまでの道のりは遠かった。頭金5万円、84回払いの無謀なローンを組んだのが4年前の2月のことである。GAZOO Racing 86/BRZレースが開幕すると聞き、居ても立ってもいられなかったあのころ。まずはクルマを手に入れなければ始まらないとディーラーで即決したアノ勢いは、いま思い返してもすべてが無茶だった。参戦するための計画もロクに立てず、ナンバー付きなら何とかなるだろうと見切り発車をしたことは、30歳代最後の悪あがきだった。まだこのままで終わりたくない。死ぬ前にもうひと花咲かせたい。そんな思いがどこかにあったのだ。

 それからの3年間は本連載でお伝えしてきた通り、よい時もあればわるい時もある、ジェットコースター的な戦績。それを如実に表しているのが前回のもてぎでの事件である。3番手を走行中、ラスト半周でガス欠症状が出てリタイアしたアノ悪夢といっていい出来事だ。3年に渡って全開走行を続けてきた我が86は、遂に燃料ポンプが悲鳴を上げ、今までは吸えていたはずのガソリンを最後まで得られることなくストップしてしまった。後日、燃料タンクをクルマから降ろし、燃料ポンプとフロートを交換することで始まった今回のレース前メンテ。燃料タンクの品番が変わっているという噂もあったが、実は改められたタンクがすでに付けられていたということで、最小限の交換で事なきを得た。これでガス欠症状は治まるだろうか?

 トラブルはそれだけでは終わらなかった。実はエキゾーストマニホールドにもクラックが入り、妙な音を立てていたのだ。これはガレージでメカニックがエンジンをかけた際に発見したものだったが、後日レースを撮影していたカメラマンに聞いてみると、もてぎ戦決勝中から走行中に妙な音がしていたとの知らせもあった。エキゾーストマニホールドを外せば、写真のようにかなり長いクラックが入っている。いつからこんな状況だったのかは定かではないが、86のトラブルとしては割とメジャーなものらしい。中には8000km走行で割れた事例もあるほど。愛機は3万5000km以上も耐えたのだから、褒めてやるべきかもしれない。

 さらにはリア左側のドライブシャフトから異音と振動が発生! 加速体勢に入った瞬間からゴロゴロとした音と振動があり、これまた新品交換を迫られることに。一体どこまでガタがきているのか。前振りだけで1000文字を超すこと自体、なかなか尋常じゃない壊れっぷりである(笑)。ドライバー同様、クルマもまた身体の曲がり角に差し掛かっているのは言うまでもない。まさに満身創痍。いま考えてみれば棺桶に片足を突っ込みかけた愛機もまた、最後にひと花咲かせたいと悲鳴を一気に上げたのかもしれない。

エキゾーストマニホールドにクラックが入っているのを発見。86では割とメジャーなトラブルという

棚からぼたもちだった予選

 まさにどん底からよみがえって岡山入りした愛機は元気がみなぎっていた。エンジンはキレイに吹け上がるし、燃料が少ない状態でも何ら変わらぬ性能を発揮! 異音も振動もなく、すべてが当たり前のように動いてくれているのだ。出発直前までアレコレやってくれたメカニックに感謝。これなら戦えそうだ。ちなみに今回は自走でサーキット入りすることなく、実は陸送してもらった。たまたま知り合いのトラックに空きがあり、「安くやってあげるから」という勧めに乗っかったのだ。自走しなかったことも、クルマにとってはよい休息だったのかもしれない。

プロクラスに出場中の“師匠”佐々木雅弘選手からアドバイスをいただいた

 ただ、久々の岡山はなかなか難しかった。もてぎと同様のセッティングではどうも乗りにくく、リアのプリロードをわずかに変更する必要に迫られた。いつもアドバイスをくれるプロクラスに出場中の佐々木雅弘選手は、「そんなことせずドライビングで合わせなきゃ!」と言うが、オッサンそんな器用じゃないのよね。クルマに頼ることも必要だと、今回はあえて師匠の教えを破ることに。たまには自己流もいいよね?

 こうしてレース前の準備を終えて迎えた予選は、これまた一筋縄ではいかず……。アタックを開始すれば、一発で仕留めることができずにいた。前を走る車両に引っ掛かったり、さらには自分でうまくまとめられなかったりとダラダラと走ること20分。結果的には最終ラップでトップよりコンマ3秒ほど速いタイムでセクター1を通過! 「これならイケる?」と思ったところで、ふたたび前を走るクルマに引っ掛かりTHE END。結果表を見れば、トップよりも0.214秒も遅い2番手という残念な結果で終了した。

 しかし、けれども! トップの車両が走路外走行をしていたとしてペナルティが与えられ、一番時計が抹消されるという裁定が下されたのだ。結果、棚ぼた的にポールポジションを獲得してしまったのだ。一番速くないのにポールという結果がチト残念。心底喜べる感じではなかったのが正直なところだ。

第2戦岡山での練習走行のようす

ここまでプレッシャーのかかったレースは未経験

 とはいえ決勝は前に誰もいない最前列。こんなことはこのレースで初めてだから興奮せずにはいられない。実は決勝前夜はミーティングという名のダベリをメカニックと続け、その後は車載カメラで得たインカービデオを何十回と見る始末。寝たのは午前2時である。翌日を考えればきちんと寝てコンディションを整えるべきなのだろうが、そんなことをできる状態ではなかった。ハッキリ言ってここまでプレッシャーのかかったレースはない。

 周囲からは「練習走行だと思って走れ!」とか「ミスなく走れば勝てるから」といったアドバイスをいただいた。昨年の十勝戦ではトップを走りながらも後ろからのプレッシャーで走りが消極的になり、さらにミスも連発。結果としてスルリとかわされてしまった苦い経験が蘇る。あの時のようにはしたくない。相手はあの時と同じ小野田選手なのだからなおさらだ。

 しかし、レースはコースインからポールポジション童貞丸出し(笑)。ガンガン走ってダミーグリッドについたら、そこは本来の場所からかけ離れたところでオフィシャルさん達に押し戻される始末。フォーメーションラップでは後続をがっつり引き離してしまい、グリッドでポツンとしばらく待つ羽目に。ピットではザワついていたというからお恥ずかしい。

これが“ポールポジション童貞”の決定的写真! ポッツーンとしています(笑)

 だが本人は至って冷静だった。レッドシグナルが点灯し、スタートの準備を淡々とこなして走り出せば、何のミスもなくソコソコの蹴り出し感。1コーナーをトップで入ってからは後ろを気にすることもなく、ただただ集中して走ることにした。まるで指さし確認をするかのように1つひとつの操作を行ない、速く走ろうというのではなく、ミスなく確実に走ろうと心に決めて。途中、後続が少し離れたところで「ここに到達するまで長かったなぁ」とか、「協力してくれたみんな、ありがとう!」なんて思い始めたが、そこでやはり軽いシフトミス……。他のことを考えてしまうあたりが、我ながら甘いと自覚した。集中集中!

 あとはクルマとの対話を続けるのみ。ライバルよりも多く予選で使ってしまったブリヂストン「POTENZA RE-71R」は最後まで持つのか? エンドレスのブレーキはタレてこないのか? もちろんともに周回を重ねれば少しずつ性能がダウンしてくるものなのだが、タレてきたなりのコーナーリングスピードや、ブレーキングポイントを少し手前にするなどのマネージメントが重要。どんなに頑張ってもクルマのポテンシャル以上を引き出すことはできないし、やったとしても破綻して大幅なタイムダウンになってしまうのは言うまでもない。クルマなりに、そしてその時の最善を目指して淡々と作業を続けた。

 メカニックが持つボードからは残り周回数がカウントダウン方式で掲げられるのだが、それを見るたびにゴールが遠いと感じる。まだそんなにあるのか……。毎ラップのようにそんなことを考えていた。トップを走っていてもラクではない。そんなことがよい経験になった。

ゴールが遠いと感じつつ、最善を目指して淡々と作業を続けた

 結果として前述したシフトミス以外はミスらしいミスもなく、後続に1.4秒の差をつけてチェッカーフラッグを受けることに。ようやく初優勝だ! 重ねがさね皆さん本当にありがとう。これまで読んでくれた読者の皆さま、スポンサーの皆さま、そしてメカニックや支えてくれた友人や家族にもまた感謝である。41歳後厄の遠かった春。こんな年齢になって涙しそうになっている自分がちょっとウケる(笑)。今さらだけれど、これもまた青春の1ページ。老後の楽しみが増えそうだ。

 無謀な挑戦、そして無茶なローンで続けてきたこれまでのレースだったが、やっぱりやってきて本当によかった。優勝を手にしてこれまでのすべての辛い状況が報われたといっても過言じゃない。ハッキリ言って、ここままレースを辞めてもいいかなと思えるほどである。だが、人間とは欲深いもので、レース翌日には「次はチャンピオン!」とすでに頭が切り替わっているから我ながら恐ろしい。次戦もこの調子で、そして全力で戦って行きたいと思いますので、今後とも応援よろしくお願いします!

23戦目でのうれしい初優勝。なのでオッサンの写真多めに掲載することをお許しください
賞金10万円を手にすることに成功したが、実はレース前のメンテナンスでそれ以上に使ってしまった。結果として支払いはいつも通り。メンテして10万円を得るか、それともメンテせずに10万円を逃すかはアナタ次第!?(笑)
余談ですが、5月1日オンエアのピストン西沢さんがナビゲーターを務めるJ-WAVE「BRIDGESTONE DRIVE TO THE FUTURE」に、ワタクシ橋本洋平が出演することになりました。お時間のある方はぜひ聞いてみてください。優勝の感想もここで聞けるかも!?

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。