【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第7回:タイヤ戦争が本格化!? 新兵器を投入した第4戦富士

新兵器「ポテンザ RE-11A 4.0」を導入

 今シーズンの「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は異常なまでの過熱ぶりだ。それはエントリー台数が多かったとか、人気レーシングドライバーが数多くいるという話だけじゃない。一番のトピックは“タイヤ戦争”が本格化してきたことである。2シーズン目に突入したこのレースに対するタイヤメーカーの力の入れようはハンパなものじゃない。

 レースに参加しているタイヤメーカーは4社。昨シーズンは我が84号車も装着しているブリヂストンの独壇場で、装着率8割を超すまでに至り、表彰台を独占してきた。その勢いを確固たるものにしようと、ブリヂストンは昨年版の「ポテンザ RE-11A 2.0」の改良型である「ポテンザ RE-11A 3.0」を開幕戦前に発表した。

 だが、ライバルも昨年のように黙ってはいなかった。トレッドパターンや内部構造、そしてコンパウンドなどを見直し、まるでサーキット用のSタイヤかと思えるようなものが登場。ツインリンクもてぎで行われた開幕戦では、「さすがにアレには勝てない」と落胆したことを思い出す。

 こんなスタートを切った今シーズンは、タイヤメーカー各社の開発部隊を本気にさせ、レースごとに違うスペックを持ち込むメーカーもあった。もはやナンバー付きレースとは思えぬ熱の入れようなのだ。そのせいか、パドックでの会話も怪しさを極める。

 某社の開発担当は「ウチはもう開発できませんよ……」なんていっておきながら、次戦ではちゃっかり新製品を投入。三味線を弾くことだって忘れない。また常勝メーカーの広報マンは、真っ白な歯を光らせながら“わざわざ”僕のピットに立ち寄り、勝利の歓びを語って去って行く。許せん!(笑)

 そんな中、沈黙を守っていたブリヂストンが遂に動き出した。前作からわずか3カ月という短期間で、「ポテンザ RE-11A 4.0」が投入されたのだ。2.0を1シーズン使い続けた昨年とはまるで違う開発ペースである。このタイヤは市場に出まわっているRE-11のトレッドパターンに別れを告げ、サーキット用タイヤといってもおかしくないほどの面構えとなって登場した。

 とはいえ、これでもしっかりとレギュレーションをクリアしており、誰でもレースで使えるよう主催者に申請されているタイヤ。ライバルの状況を見て、一般的なスポーツラジアルと同じパターンでは勝ち目なしという結論が出されたのだろう。写真を見れば一目瞭然だが、ハッキリいえばドライ志向の強いタイヤだ。

新兵器「ポテンザ RE-11A 4.0」を第4戦から投入。ドライ志向の強いハイグリップタイヤだ

 だが、そのタイヤが持ち込まれた第4戦・富士スピードウェイは梅雨真っ只中……。果たしてこの状況を乗り切れるのか?

 試しにザブザブのウエット路面をド新品タイヤで走り出すと、やはりハイドロプレーニングに陥ることがしばしば。これは乗り方にも問題アリ。そしてタイヤの皮むきをしておけばなおよしだったかもしれない。路面に水が浮いていない状況ならコンパウンドの力で走れるが、タイヤの排水性が求められるような雨量になると履きこなすのは難しい。4.0が登場しても併売される排水性に優れる2.0や3.0を選択するのもアリな状況だ。

 翌日の予選日は、最後までどのタイヤを履くか迷いに迷った。理由は朝から雨がパラつき、今後の天候が読みにくかったからだ。「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は、予選、決勝を4本のタイヤで戦うレギュレーションとなっており、例え決勝日に晴れたからといってタイヤ銘柄を変更することはできない。ウエットを見越して2.0または3.0に履き替えるか否か? それとも決勝はドライと踏んで4.0でウエットの予選を乗り切るのか? ブリヂストン装着車のライバルは新作である4.0の装着を諦め、2.0や3.0を履く人もいる。

 けれども僕は4.0での予選アタックを決意した。決勝はドライの可能性もありそうだから、この判断だってわるくはないはず。せっかくの新製品登場なんだから、可能性を追ってみたかったという本音もある。

第4戦富士の前に行ったフリー走行の様子。今回のベストタイムがこちらの動画
フリー走行時にうっかりスピン! つい独り言が出てしまいます(笑)

地獄から天国へと這い上がった予選

 予選は参加台数が84台にもなったため、2グループに分けられる。決勝Aレース(いわゆる本戦)に進めるのは上位45台(各グループの上位22台または23台)。ちなみに決勝Bレースは旧コンソレーションレースで、昨年は周回数が少なかったが、今シーズンは決勝Aレースと同じ周回数となっている。

 予選1組目になった僕のアタックといえば、残念ながら雨が残る状況が続いていた。もう少ししたら晴れそうだったのに……。だが、この中でどこまでいけるのか? やってみるしかない。できるだけ周回数を多く走り、タイヤを暖めてグリップさせたいところ。前日に一般公道でタイヤの皮むきも行ったし、なんとかなるでしょ!

 ……と思ったが、そうは問屋が卸さない。ウエットコンディションは続き、戦況はかなりわるい。ヘアピンを通り過ぎる時にタワーを確認したところ20位前後っぽい。決勝Aレースに進むギリギリの線をさまよっていることは即座に理解できた。時間ギリギリ一杯まで走り切ってどうか? 最後の最後まで諦めることはできない。タイヤが暖まるラストラップに期待をかけ、ただひたすら周回を重ねて行く。だが、最終ラップ時にグングンとタイムアップしていた僕は、前走車両にやや引っ掛かってしまった。チトもったいなかった感覚は確かにあったから、1秒近く損しているかもしれない。結果は予選1組の23位。崖っぷちである。

 そんな状況だったため、予選2組目が走っている時には場内放送で「ゼッケン84番、橋本洋平」を連呼されることに。2組目の23位と競り合っていたからだ。なお、2組目の予選時間はなんとドライ。こりゃ勝てっこない。レースアナウンサーは最後に「橋本選手、残念でした」と告げた。予選落ち、というか、初の決勝Bレース出場である。そのポールポジションなら、気分的にはわるくないかもしれないが……。

 しかし後に正式結果が出てみると、決勝Aレースに進めると記録されていた。よくよくレギュレーションを確認すれば、各組のポールポジションと23位のタイム差を比べ、タイム差の少ないほうが決勝Aレースへ進めるということらしい。場内放送のレースアナウンサーが誤った情報を流したことは確定したわけだが、いってみれば地獄から天国へ這い上がったようなものだったからそれも許す! なんてね(笑)。

最後尾スタートとなった決勝

運よく決勝Aレースに残れたものの、決勝は最後尾スタートとなった

 晴れて(?)最後尾スタートとなった決勝はほぼドライコンディションとなったが、1コーナー付近のみウエットコンディションという難しい状況だ。どこまで追い上げられるのか? そして新作タイヤの実力はいかに?

 ドライ路面での4.0の実力はかなりのものだった。前走車両を次々に抜くことを可能にし、ラップごとに数台を抜けるくらいの感覚。ドライ路面によりタイヤも発熱したため、ウエット区間の感触もわるくない。3.0に比べて明らかにグリップが高まり、コーナーリングスピードが高まったことも好印象。特にこれまで曲がらずに苦しんでいたヘアピンで、スッと曲がってラインへと乗せていける感覚がある。脱出スピードは明らかに高い。これはイケそうだ。

これまで曲がらずに苦しんでいたヘアピンでの脱出スピードはこれまでよりも明らかに高く、「ポテンザ RE-11A 4.0」のポテンシャルに確かな手ごたえを感じた

 こうして10周のレースを最後まで諦めずガンガン攻めた結果、最終順位は28位となった。この結果は今回のレースで一番順位が上がったということらしく、レース後にはジャンプアップ賞なるものを頂戴してしまった。

 ちなみにドライで行われた予選2組にいた4.0装着車は、8位からスタートした久保凛太郎選手(F3-Nクラスでトップ争い中)が3位表彰台をゲット! 新作タイヤの可能性が見えた決勝Aレースだった。

 今回はブリヂストンからRE-11A 4.0が発売されたことをきっかけに、タイヤ戦争についてクローズアップしてみた。この過熱ぶりが少しでも伝われば幸いだ。中にはやり過ぎだとか、タイヤのワンメイク化を望む声があるのも事実。だが、その一方で各社が威信をかけて開発を進めているこの状況も面白い。こう思うのは僕だけだろうか?

 誰もが参加できるようなナンバー付きのレースながら、本格レースさながらのタイヤ戦争があることを、僕はいま嬉しく思っている。こんな渦中に巻き込まれることは、一時は厄介だと思うこともあった。だが、アマチュアレーサーの言葉を聞き入れ、少しでもタイヤの開発に活かそうと動いてくれるタイヤメーカーがいるなんて、そうそうあるものじゃない。

 だからもう楽しいだけじゃ終わらせない。少しでも上へ、そしていつしか表彰台のテッペンへ! これまで以上に真剣にレースへ取り組もうと誓ったのでありました。

最終順位は28位だったが、今回のレースで一番順位が上がったということでブリヂストンのグループ・グローバルマーケティング戦略・モータースポーツ担当フェローである牛窪寿夫氏からジャンプアップ賞(賞品としてエアゲージとゴルフボール)をいただきました。これでタイヤの空気圧をマメにチェックせねば。次戦に向けモチベーションが高まっています!

 ※編集部注:次戦(第5戦)の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」は、6月29日に北海道 十勝スピードウェイで開催されます。橋本選手は現在北海道に向けフェリーで移動中。ますますヒートアップする「GAZOO Racing 86/BRZ Race」の次戦リポートをお楽しみに!

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。